Alone -3-


「これはまた・・・なんの冗談だよ」

自分の顔が引き攣っていると、サンジは自覚していた。
だがここで動揺を悟られてはいけない。
ゾロはあくまで、ふざけているのだから。
大の大人が、こんな脅しでオタオタしてちゃみっともない。

「冗談ね。まあ遊びではあるよな」
ゾロは開けっ放しの抽斗から、細身のカッターを取り出した。
チキチキと音を立てて刃先が顔を覗かせる。

「サバイバルナイフとかさ、そういうベタなもん持ってねえの。切れ味良さそうに見え過ぎるのって、却って怖くねーんだよな」
「・・・ゾロ?」
「でもこのカッターもちゃちくてイマイチ。ほんとはボッロボロに錆びて刃毀れしてんのが一番いいだろ?」
ゾロは目の前に細い刃を翳すと口端を歪めた。
「切れにくそうなのでさ、傷付けられると痛そうじゃん」
「ゾロ、よせよ・・・」
サンジはごくりと唾を飲み込んだ。
今でも、この状態が現実のものとは思えない。
あのゾロが。
大人びているのに、ふとガキ臭い表情を見せる、素直で可愛いゾロが、男を椅子に縛り付けて脅したりなんか・・・しない、絶対。

「俺、男相手は初めてなんだ。勃つかな」
耳にした台詞すら、信じられない。
今こいつなんて言った?
ゾロが、一体何を言った?

「正直、ここんとこ遊んでねーし。溜まってっし。カテキョが野郎なんて、最初はがっかりしたんだけど・・・」
ゾロの手がサンジのベルトを外し始めた。
「ま、先生の見てくれ悪くないし。つか、結構いいよな。間抜けっぽいとこがそそる」
「ゾロ、止めろよ」
サンジは自由な方の足で、反射的に蹴りつけようとした。

ゾロは片手で器用にベルトを外しながら、もう片方の手で逆手にカッターを握った。
「あのさ。もし抵抗したら俺遠慮なく太腿刺すし。痛えけど傷は小さいから後で誤魔化せるしさ。なんだったら、目立たない場所に色んな傷も付けられるぜ」
口だけの脅しだと思った。
だが、ゾロの瞳に虚勢の色はない。
ただ淡々と喋る、段取りを説明するかのような事務的な口調。
「悪いな。最初に俺についたカテキョがドMだったんだよ。先生より色々知ってて、尚且つ経験も豊富だから」
―――だから、何?

「だから、センセも俺を楽しませてくれよな」
ゾロは薄ら笑いを浮かべながら、サンジの腰からズボンを下着ごとずり下げた。











「よせって、やめろっ・・・」
ゾロが本気だと知って、サンジは身体を強張らせた。
シャレや冗談で、男の下半身を丸出しになんかしたりしないだろう。
膝の辺りでズボンを引っ掛けて、間抜けな格好を曝したまま椅子から離れられない現実が信じられない。

ゾロは軽く口笛を吹いた。
「先生、色白いな〜。しかもパツ金ホンモノ」
ためらいいもなく繁みを撫で、縮こまった自身に触れてきた。
「綺麗なピンクだな。まだ未使用?」
サンジは羞恥と憤怒と驚愕がない交ぜになって、声を出すこともできない。
「ンナ訳ないか」

自由な方の足を曲げさせて、内側の柔らかな部分にカッターの刃を当てる。
皮膚に押し付けたままチキチキと更に刃を出す音がして、背中を冷たい汗が流れる。
痛みは感じないが、冷やりとした感触があった。
「切れ味悪いけど、動いたら傷付くよ。肌が白いから血も似合いそうだ」
カッターを凭れさせるようにして、ゾロはまた腕を伸ばし抽斗からチューブを取り出した。

「センセ、ここ使うの初めて?」
「・・・・・・」
応えないサンジを、ゾロは足の間からきっとねめつけた。
先ほどまでの口調とは打って変わって、険しい表情だ。
「俺の言うことには答えろよ」
ずぶりと、初めての衝撃にサンジの身体が跳ねる。
反射的に声が漏れて、サンジは両腕を引き上げられたまま俯いて呻いた。

一体何をされたのかわからなかった。
自分でも滅多に触れることのない場所に、ゾロの指が突きたてられている。
「ちゃんと答えろ、でないとこのまま突っ込んじまうぜ」
単なる脅しではない、容赦ない動きがサンジをパニックに陥らせた。
「うああ、止めろっ!止めろそんなことっ」
引き攣れるような痛みに、サンジは足を閉じようとして太腿に更なる痛みを感じた。
カッターがつっかえ棒のように、内股に刺さっている。
「じゃあもう一度聞くな。センセ、ここ使うの初めて?」
「・・・くっ」
「言えって」
ぐりぐりと、直に指が入る。
サンジは喘ぎながら顔を背けた。
「は、初めてだっ」
「あ、そう。なら優しくしなきゃな」
ゾロはあっさりと指を引き抜き、改めてチューブのキャップを外した。

「初めてじゃこっちも辛いな。先生、いい筋肉してるし」
ヒヤッと冷たい感触がして、サンジは背を撓らせたまま身震いした。
自分の足の間で、ゾロが局部に薬を塗りこめている様なんて正視できない。
「やっぱ狭えな、力抜けよ」
「そんなこと、できるかっ」
勝手な物言いに、沸々と怒りが湧いてきた。
「いい加減にしろよ。今なら、今ならまだ冗談で済ませてやっからっ・・・」
声が上擦らないように、精一杯の虚勢でもってサンジは声を張り上げた。

「冗談だってセンセ。俺も冗談」
ゾロは鼻歌でも歌いそうなほど上機嫌で、再び指を突き入れてきた。
先ほどのような軋む痛みはないが、それでも異物感と圧迫感が物凄い。
「止めろ、止めろっ」
「それしか言えねーの?」
内部をぐりぐりと掻き混ぜるようにして、またあっさり指を引き抜く。
「このままじゃ埒が明かねーな。時間の無駄」
夜食に添えていたお絞りで手を拭いて、ゾロは引き出しの3段目を開けた。
取り出されたものを見て、サンジは再び我が目を疑う。

「充電OK」
ゾロはそれにも潤滑剤を塗りたくると、なんの前触れもなしにサンジの中に突っ込んだ。
「うあっあああああっ」
「センセ、締めっと先生が辛いんだぜ」
ぺちぺちと太腿を宥めるように叩くが、サンジはそれどころではない。
「止めろ、入れんな、入れ・・・」
「もう入っちまったぜ。細いから、そんだけきつくねーだろ」
そう言いながら、ゾロは端を持って軽く円を描くように回した。
「ああ、嫌だっ嫌だ!」
「そんだけ騒ぐなよ。広げねえと入んねーだろ」
ぐりぐりと横に広げたり縦に回したり、軽く抜き差しを繰り返したりして後孔を解そうとする。
「ヨくねーの?男だってこの奥で感じるとか言うじゃん」
「くそ、この、クソ野郎っ」
「ったく、これだからヴァージンは面倒なんだ」
ゾロは舌打ちをして、バイブのスイッチを入れた。

「うああああああああ」
予期しなかった振動に、サンジは飛び跳ねるように背中を仰け反らせて悲鳴を上げた。
拍子にカッターが床に落ち、乾いた音を立ててくるりと転がる。
「あーあ、結構血が出てんね」
太腿の内側から、幾筋もの傷を付けて血が滲んでいる。
ゾロは椅子に座ったまま手を伸ばすとカッターを拾い、満足そうに目を細めた。
「結構いい眺めだぜ。男でも割りとイけるじゃん」
ヴヴヴヴヴ、とかすかな音を立ててサンジの内部でバイブが暴れる。
最初の衝撃から感覚が薄れることもなく、サンジは目を見開いてひたすらに天井を睨みながら喘いでいた。



何もかもが信じられない。
視界の先で安っぽく光る手錠も。
ここ数日で見慣れた天井も、自由にならない手足も、下半身だけ剥き出しにされてバイブで犯されている自分自身も。
そんな痴態にまったく興味を示さず、机に向き直りただ黙々と勉強を再開させた、ゾロのことも―――
何もかもが、信じられない。




「クソ、くそうっ」
目尻が濡れて、サンジは振り絞るように声を出した。
こんなこと、許されない。
こんな風にいいようにされて、しかもこのまま放置されて。

相変わらずサンジの内部でバイブは震え続け、痛みと屈辱と羞恥と、未知の刺激で身体は燃えるように熱いのに、しでかした当の本人は勉強に没頭している。
それがフリでないのは明白なのだ。
ゾロはさっきから参考書を捲る手を止めず、物凄いスピードでノートを書いている。
勉強している。
紛れもなく、数式を解いて次の問題に頭を働かせている。
サンジを、こんな状態にさせたまま。

「いい加減にしやがれ、この野郎!!」
サンジ自身が吃驚するほど、野太い銅鑼声が出た。
さすがのゾロも、目を丸くして振り返る。
「あれ、先生何やってんの」
ふざけてんのかと憤死しそうになったが、ゾロの表情は演技っぽくなかった。
「あ、悪い悪い。忘れてた」
「・・・な、なっ・・・」
まったく悪びれもせず、ゾロはシャーペンを置くと椅子から立ち上がった。
「そろそろ解れたのかな」
まだ震えるバイブを掴んで、ぐりぐりと押し付けてくる。
もう感覚が麻痺してしまったようで、それほどの衝撃を感じなくなっていた。
「もういいみたいだね」
そう言いながらスイッチを止め、ゆっくりと引き抜く。
ぬちゃりと卑猥な水音がして、足の間から糸を引きながら長いものが引き出された。

「そ、そんな・・・」
最初を目にしていなかったから、そんなものが中に入っているだなんてわからなかった。
いろんな意味で打ちのめされて、サンジはただ肩で息をしながら驚愕に目を見開いている。
「どう?先生はこんなの使ったこと、あんの?」
鼻先に突き出されて、思わず顔を背ける。
すると脇腹に強い衝撃があった。
「答えろっつってんだろ!」
ゾロが蹴りつけたのだ。
勢いで椅子ごと転がりそうになるが、手錠の戒めがそれを許さない。

「がはっ、つ・・・使ったことなんてねえよっ」
「そう。んじゃ珍しいでしょ」
けろりと態度を変えて、ゾロはバイブを軽く振った。
その仕種は、まるで珍しい玩具を見せびらかせている子どものようだ。
なんの予告もなしにいきなり見せる獣のような暴力性。
かと思えば、稚拙なほどに子ども染みた表情で馴れ馴れしい態度を示したりする。
訳が、わからない。





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