Alone -10-


翌日、サンジは大学でバイト期間が終了することを積極的に話して回った。
短期間で割のいい仕事だったから懐は充分潤ったし、今までの分を取り戻す勢いで遊ぶつもりだ。

ロロノア家は常識外れで不謹慎な職場ではあったけれど、恐らくは希薄な人間関係そのままに、一旦縁が切れれば二度と交わることの無い世界だと思う。
思い出せば甘い疼きにも似た痛みを伴うあの悪夢でさえ、非日常の産物として記憶の彼方に押しやることも可能な気がした。
女性ではないからキズモノになった負い目はない。
完璧に消滅したとは言い難い画像も、気がかりではあるが、万一流出したところでどうにもならないことだと腹を括った。

「新しい家政婦さんが来るなら、明日引継ぎじゃねえの?」
友人の素朴な問いかけに、サンジははっとしてから曖昧に頷いた。
「いや〜聞いてねえ・・・つか、俺ってほんと場繋ぎのその場凌ぎだったから・・・」
自分で言って自分の言葉でちょっぴり傷付いてしまった。
そうなのだ。
所詮自分は、ロロノア家でその程度の存在だった。
いくらゾロに美味い飯を食わせようとも、ゾロの暴力にも屈せず逃げ出したりしなかったとしても、そんなことは雇い主に評価されることはない。
ゾロに至っては「よくある過去の出来事」と、すべて同列なのだろう。
特別なことでないから、サンジも忘れられる。
それはお互いに、「特別ではなかった」ということ。
それを寂しいと、感じたりなどするものか。


とは言え、サンジの性格上、乗りかかった船から中途半端に下りるのは良しとしない。
授業中に真新しいノートを広げ、ゾロの好物のレシピや傾向などをつらつらと書いていた。
これを新しい家政婦さんが見てくれるかどうかはわからない。
けど、少しでも“ゾロのこと”が伝わるといい。
ゾロは自分から好みを言い出したりしないのだから。
最初から奴はすべてを諦めて、それでも手に入るモノだけ確実に手に入れる術を身に着けて大きくなってきたのだから。




ロロノア家に帰ると、サンジは食卓の引き出しにノートをそっと仕舞い、夕食の支度を始めた。
奥様は、またお出かけになったらしい。
時刻通りゾロが帰ってきて、いつもと変わらぬ素振りで挨拶をし、部屋へと上がった。

一緒にとる夕食は最後だからと、サンジは鍋を用意した。
二人でつつくためのものだ。
案の定、ゾロは目を丸くした。

「俺、鍋なんて始めてっすよ」
「そうか?ああ、合宿とか夏だもんな」
「すげー、CMみたいにいろんなもんが入ってる」
ゾロは鍋の具を珍しがった。
そんな反応に気をよくして、サンジは甲斐甲斐しく小皿にとってはゾロに手渡し、自分も遠慮なしに食べた。
肉ばかり食うなとか、牡蠣はもうちょい火を通せとか、二人なのに随分と賑やかな食卓になっていた。
「この出汁を使って、夜はおじや作ってやる」
「へえ、美味そうだな。いや、先生の作るモンはなんでも美味いや」
「そうだろ?」
まるで、初めて会った頃のように、サンジはなんの屈託もなくゾロに笑いかけた。
ゾロはそれを受けて一瞬硬い表情を見せたが、すぐにふわんとガキ臭い笑みで返す。
―――誤魔化しやがった
なんとなくしてやったりの気分で、気をよくしてご飯を大盛りにしてやった。






いよいよこれが最後の夜かと、豪奢なベッドに大の字に横たわってハイソ気分を満喫してみる。
高い天井広い部屋。
凝った調度品にふかふかのベッド。
今日はハウスキーパーが来たから隅々まで掃除されて、シーツも真新しくて気持ちがいい。
こんなにも満ち足りて恵まれた生活なのだから、孤独を感じるのは贅沢な悩みなのだろう。

どうしたって求めるものを得られないことがある。
大切なものを失うこともある。
ただ見ているだけしかできない、己の無力さに歯噛みすることがある。

お金がないだけで辛い思いをすることがたくさんあるのだから、ゾロの孤独や喪失感はやはり“我が儘”の部類に入ると思う。
それが、あんな暴力を他人に振るう理由になどなりはしない。
それでも、まあいいかと許してしまう自分がいた。
レディ達にあのような無体を働いてきたことは許し難いが、もしも同意であるならそれは他人が怒りを抱くことではない。
そして、自分自身に降りかかった理不尽な暴力に関しては、諦めた。
ゾロを訴えるつもりも、あの夜の屈辱を、その後も続いた思い出すのも厭わしい行為を思い出すことも、自分なら
耐えられると思う。
怒りよりも強く、サンジの胸を満たしているのは憐憫だ。
ゾロはとても、可哀想だ。

せめて、自分が“孤独”であることに、いつか気付いてくれたらいいと思う。
孤独を知らない人間は、きっと痛みもわからない。
自分が傷付き血を流していても、わからないのだ。
自分の痛みがわからない人間が、人の痛みなど推し量れるわけもない。



サンジはごろんと寝返りを打った。
夜食を下げに行ってもいいが、どうせなら明日の朝全部片付けてしまってもいいとか思う。
こうして部屋に転がっていても、ゾロがやってくる気配はない。
もしかしたら、今夜が最後だから・・・
もしかしたら―――
なんてことを、万が一にも想定していたりなんかしないのだ絶対。

自分の中で生まれた奇妙な葛藤を持て余して、サンジはがばりと身体を起こした。
昨日もやってない。
違う、昨日やってないだけだ。
その前もその前も、ゾロに襲われた日から頻繁にされてただけで、昨日も今日もやってないことは極めて普通の
ことなのだ。
―――何考えてんだ俺

なぜか心臓がバクバクして来た。
ゾロの訪れを待っているだなんて、認めがたい。
だがしかし、妙に最初の夜のコトなんかが思い出されて、胸が騒ぐのが怒りのせいばかりでないことはわかっていた。
ゾロの部屋で、あんなことをされて・・・
それから、この部屋で。
気が付いたら入れられていて、その日はさらに台所でも―――

思い出し始めたらどんどんと記憶が蘇ってくる。
あの広いダイニングで、いつも食事する椅子にしがみ付いて啼いたのだ。
大理石の床が冷たくて、ゾロの塊が熱すぎて気が狂いそうだった。
後の掃除が楽だったよなとか、いらぬことまで思い出して一人髪を掻き毟り悶える。
どうしたってんだ俺!
すっかり下半身に熱を持ってしまった。
自らこうなったのは久しぶりだが、考えてみたらゾロに襲われるまでは毎晩だってオナニーをしていたのだ。
やっぱりここは一発すっきり、抜いておくべきだろう。

サンジはバッグを引き寄せて持参したエロ本を取り出すと、折り癖のついたページを開いた。
―――久しぶりだな
前はぼうっと眺めていたけど、今日はなんだかやる気満々だぜ。
なんて思いながらシコシコと励む。
・・・が、思うように盛り上がらない。
「あれ?」
写真の中で可愛いあの子が魅惑的な笑みを浮かべて、爆乳を惜しげもなく曝してくれているというのに。
さらには妖艶なお姉さんが際どいポーズで挑発して見せて、白衣の天使が白いガーターを破いてくれたりなんかしてるっていうのに。

―――どうした俺!
サンジは俄かにパニックに陥った。
あれほどもぞもぞとやる気だったそこが、力なくうな垂れている。
だが腹の底には今も熱が燻っているようで、どうにも落ち着かず気持ち悪い。

サンジはムキになって両手で扱いた。
あれこれと角度を変えたり撫で方を工夫したりとするが、なぜか息子は言うことを聞いてくれない。
「ちっ」
舌打ちして顔を上げた。
ベッドの正面にはドア。
不意に、そこからゾロが入ってきたらどうしようと思い立った。
こんな場面を見られたら、なにをされるかわからない。
一瞬冷やりとした想像が、俄かにサンジの中に火を点けた。

ゾロが、あの扉を開けて
俺の姿を目にしたら―――

にやりと、あの悪党面で笑いながら、臆することなく入ってきて後ろ手に扉を閉めるだろう。
先生、何してんの?とか言って。
鼻で笑うような、明らかに馬鹿にした声で近付くのだ。
触れてくるだろうか。
いや、きっと最後までやってみせろとか言って・・・
なんなら道具貸してやろうかとか言って、あのバイブを取りに行ったりして―――

「うわわわわわ」
そこまで想像してサンジは恥ずかしさのあまり頬に手を当てた。
恐ろしいことに、想像だけで息子は完勃ちになった。
ガンガン張り詰めて痛いくらいだ。
「くっそう」
こうなったらとっととイってやる、と無闇に扱く。
だが、イかない。
あと少しの刺激が足りない。

―――刺激って、なんだよ
空恐ろしい予感に、サンジは今度は青褪めた。
なんかムズムズするんですけど。
ムズつくのは、前じゃなく後ろですか?

「ひいいいいい」
か細い悲鳴を上げて、サンジは今度こそベッドに突っ伏した。
恐ろしい、認めたくない。
だが明らかに、サンジの身体は別の刺激を求めている。
・・・もしかして、バイブいる?
自分の突っ込みに自分で身悶えて、嘘だ嘘だとうわ言のように呟いた。

「イけっだろ、しっかりしろ俺」
いかに叱咤激励しようと、うまくいかないものはイかないのだ。
恐る恐る自分で指を伸ばしてみたが、怖くて触れるのを躊躇った。
こんなことまで自分でするようになったら、もう後戻りできない気がする。
つうか、もしかして後遺症?!

もはやパニックだ。
どうでもいいからゾロ早く来いとか、扉に向かって念じてみる。

昨日だってやってないんだから。
やりたい盛りの高校生だろうが。
一発やったらスッキリするぞ。
勉強も捗るぞ。
だから来い。
今すぐ来い。
ゾロ、来いよ。
来てくれよう。

胡坐をかいて必死に己を扱きながら、サンジは泣きそうな顔で願っていた。
そんなことを願う自分が情けなくて信じられない。
けれど、そうでもしなければイけそうにないのだ。
このままじゃ、もうどうしようもないくらいに・・・

「うっがああああ!」
もともと気の長い方でないサンジは、とうとう切れた。
これは我ながら理不尽だと思うが、こうなったのはあの色ガキのおかしな癖のせいなのだ。
もう勘弁ならん。
自分がしたことを、思い知らせてやる!


サンジは興奮に息を荒くして、手早くズボンを引き上げると前屈みで部屋を出た。
奥様は今夜もお戻りにならないだろう。
つか、戻ってくるな。






ダンダンと乱暴に部屋をノックし、応えを待たずに部屋に入った。
さすがに、ゾロは吃驚したような顔で振り返っている。
「どうしたんすか、先生」
相変わらずの勉強集中モード。
この野郎、人の気も知らないで。

余計ムカついて、サンジはふうふう息を切らしながらゾロのベッドへと歩き、ごろんと横になった。
「先生?」
「うっせ、気分転換しねえか?」
酷い誘い方だと思うが、はっきり言って切羽詰っている。
ゾロはまじまじとサンジの様子を見つめ、それから「ああ」と間抜けた声を出した。
「もしかして溜まってんの先生。これ貸そうか?」
抽斗を開けようとする手を、がばりと飛び上がって止めた。
「この馬鹿!なんてこと言いやがる」
「え?違うの?」
いや違わない。
違わないがな。
「ゾロ、俺はこのままじゃ腹の虫が治まらねえ」
「・・・は?」
そうだ、すべてこいつが悪い。

ついさっきまでの、ゾロのすべてを許しましょう。感じるのはただ、哀れみのみ・・・なんて殊勝な考えはぶっ飛んでしまった。
やっぱりこいつには、きちっとお灸を据えてやった方がいいのだ。
「四の五の言ってないで、今日くらい俺に付き合え。どうせ最後だろうが」
最後の言葉が聞いたのか、それとも興味があったのか。
ゾロは頷くと眼鏡を外した。
「まあ、いいですよ」
「えらそうに言ってんじゃねえ」
ゾロの襟首を掴むようにして引き寄せ、唇をつけた。
途端、強い勢いで横を向きゾロが抗う。
「止してください」
頬に唇を引っ付けて、サンジが凶悪に顔を歪める。
「あんだと?」
「口つけるなんて、気色悪い」

・・・ぶちっ
元から決して長くはない堪忍袋の緒が切れた。
「ざけんなコラああああっ」
そのまま引き倒し、馬乗りになって噛み付く。
キスが気色悪いなら、それ以上のことをされた俺はなんだってんだ!

むがむがと、ほとんど嫌がらせのように吸い付いて舌を入れてやった。
げ、とかむ、とか、おかしな息を吐きながらゾロが目を白黒させている。
今更ながら、ざまあみろと爽快感が沸いて出て、サンジは調子に乗って首を傾け、さらに深く舌で探った。
ゾロの舌がびくりと触れて離れ、また触れてくる。
軟体動物の動きに似て、確かに気色悪いっちゃあ気色悪かろう。
ほれほれどーだ。
嫌なことをされるってのがどんなことか、思い知れ馬鹿たれめ。

舌を捉えてちょっと吸ってやったら、吃驚したように頬を引き攣らせている。
サンジは気を良くして、舌を伸ばしたまま唇を少し離した。

「どうだ、お子ちゃまにキスは刺激が強すぎたか?」
どちらのものとも知れぬ、熱い吐息が鼻を擽る。
ゾロの目が眇められ、剣呑な光を帯びた。
サンジの項に手を掛けて、乱暴に引き寄せると今度はゾロから唇を押し付け舌を絡めてきた。
―――お、生意気に反撃か
ゾロの舌を受け止めて、サンジは余裕の笑みを浮かべた。
この時点で、まだ余裕はあったのだ。

ゾロの舌はサンジの口内を縦横無尽に貪り始め、息をするのも辛いほどに覆い尽くしてくる。
舌が痛くなるほど吸われ、歯をなぞられた。
息が上がってきて、ふぐっと間抜けに鼻が鳴ってしまう。

「ぞ・・・まっ・・・」
自分から圧し掛かっているくせに、起き上がろうにもゾロががっつり捕まえて離さない。
その内、ゾロの手がサンジの尻を撫でて背中からズボンの中へと差し込まれた。
双丘を探られて、押し付けた下腹部がビビンとたちどころに硬くなるのを如実に顕してしまう。

「なに、先生すっげえやる気?」
唇の端から、ゾロの呟きが聞こえる。
おうそうだ、悪かったなと開き直って、サンジはゾロの髪を掴んだ。

「ゾロ、服脱げ」
「え?」
何故だか面倒臭そうな顔をする。
「いいから脱げ。この横着モノ」
サンジ自らシャツを脱ぐと、ゾロもしぶしぶスウェットを脱いだ。
「全部だぞ。パンツも脱げ」
羞恥心が追いつく前にと手早く衣類を脱ぎ捨てたサンジは、ベッドにちょこんと座り直して顔を上げた。
目の前のゾロを見て、俄かに心臓が跳ねる。

ゾロは、本当にいい身体をしていた。
着やせするタイプなのか、服の上からではこれほどまで見事な筋肉に覆われているとは気付かなかったが、
なるほどこれなら男の駅弁も、できないことはないだろう。
太い二の腕にそっと手を掛けて、確かめるように撫でる。

「お前・・・いい身体してんなあ」
「先生もな」
それは嫌味か、それとも別の意味でか。

鼻白んだサンジの顔に、ぶつかるようにして口付けてきた。
それを受け止めて、また深くキスを交わす。
「なに、気に入ったのか」
「ああ」
短く応えて、言葉を交わすのも惜しいほどに口付けを深めた。
柔らかな粘膜から、息を吸い吐く場所から、声を震わせる器官から、食物を摂取する入り口から、ゾロのすべてが入り込んでくる気がした。
下半身で繋がるよりも深く、温かい。

サンジはゾロの背中に腕を回し、きつく抱き締めながらもどかしく首を振る。
ゾロの唇は、サンジの唇からずれて頬を伝った。
サンジの背中に回された手が、何かを確かめるように何度も何度も背筋を撫でる。

「・・・皮膚が、違う」
頬を舐め、耳元を探り、顎から首元へと下りて鎖骨をなぞる。
「ここ、柔らけえ」
静脈を辿るように舌を這わせて、吸い付いた。
「痛・・・」
サンジは顔を顰め、宥めるようにゾロの髪を撫でた。
「痛えよ。きつく吸うな」
「あ・・・」
ゾロの唇が離れて、皮膚に温かな息が当たる。
「跡が着いた」
「だろ?」
だから止めろと言い掛けたのに、ゾロはまるで匂いを嗅ぎまわる犬のように、クンクンと鼻面をくっつけては片っ端から
吸い付いてくる。
「ば、止めろって、跡が、跡が・・・」
「すげー面白え」
「面白がるなっ」
柔らかな部分を探しては、ゾロはあちこちに吸い付いてキスマークをつけていく。
サンジが嫌がれば嫌がるほど執拗に、何度でもそれを繰り返し、徐々に範囲を広げていった。
「や、だ・・・」
その行為は愛撫に似ていて、サンジの興奮をより高まらせる。
膝を立てた足の内側にまで吸い付かれ、自分が淫らな娼婦にでもなったかのように錯覚し、サンジはしどけなくベッドに横たわった。

「ゾロ・・・」
「先生、すげえ」
ゾロが指摘するのは、興奮に勃ち上がり先端から蜜を溢れさせる色付いたペニスのことだろう。
それを見せ付けるように足を開き、ゾロの視線を感じながら仰向いて息を整える。
「ゾロ、触れよ」
サンジに促されて、ゾロの手がそれに触れる。
途端、硬度を増したのが自分でもわかって気恥ずかしい。

サンジの如実な反応が面白いのか、ゾロはすぐにサンジを高めるためにそれを擦り始めた。
「先生、気持ちいい?」
「あ、うん。うん・・・」
目を瞑ればゾロの手の感触ばかりが感じられて恥ずかしいし、目を開ければ間近で自分の顔を覗き込んでいる。
どちらにしても恥ずかしくていた堪れず、けれど身体は抑えようがないほどに興奮して震えが来るほど感じていた。

「先生、色が変わってる・・・」
ゾロの指が、サンジの乳首に触れた。
ビビっと電流が走ったような刺激を覚えて、サンジはかすかに声を上げた。
「や、それ・・・」
「なんか、硬えよ」
確かめるように指で押し潰し、捏ねて引っ張る。
「よせ、ゾロ・・・」
「男でも、乳首勃つんだ」
感心したように呟いて、ゾロはそこに吸い付いた。
純粋に、赤ん坊が乳を食むようにちゅうちゅうと吸いながら、もう片方の手は残された乳首を弄ぶ。
「あ、あ、や・・・」
明らかに感じてしまって、サンジは手で抗うようにゾロの肩を押しながら胸を張ってしまった。
もっと、弄って欲しい。
痛いほどに、吸って、噛んで。

「ああ・・・」
「センセ、気持ちいい?」
乳首に軽く歯を立てながら、ゾロは息を漏らすように聞いてきた。
舌がちろりと、ささやかな乳輪を舐める。
優しくてもどかしくて、堪らない。

「ゾロ、もう・・・」
「まだだ、先生」
あちこちにキスして指で探って、サンジが本当に欲しい箇所には触れないで。
まるで焦らされているようで、またしてもサンジの方から泣きを入れた。

「てめえ、しつこい」
「まだ」
ゾロはサンジの肩を抑えると、上に乗り上げてじっと見下ろした。
「もっと、先生を見ていたい」
最初に犯した男の顔とは違う、どこか真摯で切なげな表情。
「すげえ綺麗なピンク色だ。先生、こんな身体してたんだ。・・・なんで、気付かなかったんだろう」
「それは、てめえもだ」
サンジも苦笑して、ゾロを見上げた。
「お前、いい身体してんじゃねえか。良く引き締まって、男らしくて、逞しい」
「勿体無かったな」
「そうだな、勿体無え」
お互いに笑い合って、鼻先をくっ付けた。

また口付けを繰り返し、腕を絡め、胸を合わせて腰を沈める。
なにもかもが、ぴたりと符合するかのようだった。
人間の身体が、こんなにも密接に重なり合うなんて知らなかった。
男と女ではないのに。
交じり合うべき性ではないのに、どうしてこんなにも気持ちいいのだろう。

ゾロが深く息を吐いた。
切なげに眉を顰め、濡れた舌でサンジの目元を拭う。
「先生、俺、先生の中で、溶けたい」
「―――ああ」
いいぜ。
俺も、ゾロと溶けたい。

ゆっくりと、時間を掛けて交じり合った。
ゾロのすべてが愛しいと思ったし、ゾロにも快楽を与えたいと心から望んだ。
ゾロもまた、同じ思いだったのか。
サンジをただの穴としては扱わず、その髪を肌を、唇を指を、すべてを惜しむように愛撫し、漏れ出る声に耳を傾けた。
ゴムは使わず、生身のままで抱き合って、隅々までゾロに満たされた。

幸福だった。
こんな形の幸福があるなんて、サンジ自身知らなかった。





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