Miracle birthday
-1-


分厚い雲の切れ間からひと筋差し込んだ光が、暗くはためくジョリーロジャーを照らし出した時、口笛を吹くものは誰もいなかった。
なんでも歓迎お宝に還元の麦藁海賊団にしては珍しく、迎え撃つ表情が硬い。
サンジが臨月に入ってより、皆ぴりぴりしているのだ。

ゾロはもとより、いつもは楽天的なルフィも今回ばかりはやけに慎重だ。
赤ん坊という未知なる要素に加えてあり得ない奇蹟の賜物であることが、人生経験の豊富でない
クルー達に思慮深さを与えている。





「敵襲だーーっ」
見張りの声より早く戦闘態勢に入るクルーをよそに、ナミは素早くサンジの背中を押して船室に
身を隠した。
サンジ自身は参戦できないことが大いに不満なのだが、以前お腹の目立ち始めたサンジを目にして、血塗れて昂ぶった海賊が奇声を上げて突進して来たことがあり、以来ナミ達は特に用心していた。
海賊稼業に身を落とした荒くれ共は、何をするかわからない部分も多い。
なるべくサンジの姿は人目に晒さない方がいいと判断してのことだ。

「ったく、あっちでやれって言ってんのに」
ドカンバコンと破壊音が響く度に、船内が派手に揺れる。
「仕方ねえよ。今日のはやたら人数が多かった。少しは押されるさ」
防御より攻撃を主として敵船を戦場にしたいが、いかんせん数の多さは適わない。
それでも、自分一人が多めにいれば吹き飛ばせる敵の数も10倍くらい増えるのだから、やはりなんとももどかしかった。

「貧乏揺すりしないでよ。いつまでたっても大人しく隠れてられないのね」
くすりと鼻で笑われて、流石にバツが悪くてサンジは胡坐をかいたまま腕組みをした。
気を紛らわせるためにタバコも吸えないし、どうにもこうにも落ち着かなくて手足を一とこにまとめて動きを止めるしかないのだ。
相変わらず船外ではドンパチ派手な音が響いている。
激しい戦闘の中にあって、音や衝撃をこれほど意識したことがなかったのは、やはり戦いに身を投じていたからだろう。
なにもできずただ身を潜めている今になって初めて、ただの音がこれほど大きく身の内にまで響くものだと知った。



「心配しないで。あいつら強いわ」
「・・・心配なんて、してねえよ」
ただ、もどかしいだけだ。
自由に動く手足を投げ出していたってどうしようもないから、組んだままで目を閉じる。
ゾロがよく腕組みしながら転寝をするのは、気を張り詰めたまま眠るためなのかなと、そんなことをふと思った。

不意に音が止む。
きな臭い硝煙の臭いが漂い、丸窓の外で火花が散った。
ぎくりと強張るナミの肩越しに、ウソップの歓声が響いた。
無意識にほっとして、二人で顔を見合わせる。

「やれやれようやく片が付いたみたいね」
「んじゃ、俺飯の支度するわ」
思い切り戦った後の皆の食欲は半端じゃない。
とても清々しいとは言えない戦闘後にあって人並み以上に食欲が増すことは、海賊として生きるには成長と呼べるだろう。

外に出れば、暗い水平線の向こうに傾いた船体が不自然に揺れながら姿を消していくところだった。
お宝はGETし損ねたのかと、ナミはあからさまに舌打ちをする、が。
「医者〜〜〜っ!!」
お決まりの叫びに「医者はあんたでしょ」と言い返しそうになって、その声がウソップのものだと気付いた。
「医者!ナミっ、チョッパーが怪我をしたっ!」
「なんですってえ?」
見れば、小さなチョッパーがゾロの腕の中で身体を丸めている。
身を抱えるように組んだ両腕が血塗れだ。

「大変!早く中に運んで!」
「コックさん、お湯をたくさん沸かしてちょうだい!」
ナミより先にロビンがラウンジに駆け込んで、あちこちに腕を生やしてテーブルクロスやタオルを集めた。
「水は俺が汲む。お前火い点けろ」
怪我したチョッパーを放り出すようにウソップに押し付けて、ゾロが血相変えて飛び込んできた。
ほぼ条件反射的にロビンの台詞に反応したようだが、サンジにはそれに辟易している暇もなかった。

「大丈夫か、チョッパー」
「大丈夫だ。悪いけど、ロビン手伝って・・・」
顔を顰めながらも、チョッパーは震える両腕を伸ばしてゆっくりと曲げる。
血に塗れて毛玉になった頬を、サンジは濡らしたタオルで拭ってやった。

「神経は大丈夫?」
「ああ、なんとか・・・けど、ちょっと・・・」
いつもどうやって治療してるのかわからない器用な蹄を、他人のものでも眺めるようにチョッパーは念入りに観察した。
「とにかく出血が酷いわ。もしもの場合に輸血の準備も・・・」
言いかけて、はっと口を噤む。
トナカイに人間の血は輸血できないだろう。
「大丈夫、それほどじゃないと思う。俺、今の身体は小さいからちょっとの出血でもヤバイんだけど・・・
 どうも大きくなれる要素のせいかその点は大丈夫みたいだ」
「この辺の血を拭ってくれるかな。それから周りの毛を剃ってくれ」
怪我を負いながらもテキパキと指示を出すチョッパーの姿に、サンジは唇を噛んだ。
何もしてやれない自分が歯がゆい。
「ルフィ、あんた見張り台で見張ってて!別の奴らや、さっきのに今戻って来られたら困るわ!」
「わかった!」
びゅんと飛び出すゴムの脇を、湯の沸いた大鍋を抱えたゾロがすり抜ける。
サンジは大騒ぎになっている治療の輪の外で、黙々と片付けを続けていた。





「よかった。落ち着いたみたいね」
海賊と戦ったより体力を消耗して、クルー達はラウンジに輪になったままその場にへたりこんでいた。
気がつけば、もう深夜だ。
サンジが用意してくれた夕食が、テーブルに並べられている。
「順番にシャワーを浴びて、それから飯を食べてくれ。ちょっと冷めちまうかもしれねえけど・・・」
「ごめんねサンジ君」
なにもできないと申し訳なく思いながら準備した夕食なのに、冷めることをまた詫びられてサンジは首を竦めた。
「とんでもねえ。飯どころじゃねえだろうに、大変だったな」
「なんとか大事に至らなくてよかったわ。でもチョッパー絶対安静よ」
絶対安静の診断を下したのもチョッパー自身だから、麻酔が効いてうとうととしかけたまま大人しく頷き返す。

「チョッパー、寝ちまう前にちょっと喰っとくか?」
「ううん・・・もう、麻酔・・・効いてく、るから・・・このま・・・ま、で・・・」
折りたたまれた毛布の上で、チョッパーの角がこてんと床を打った。
そのままくうくうと小さな寝息を立てる。

「・・・可哀相に、こんな小さな身体で大怪我負って・・・」
「怪我したときはでかチョッパーだったんだがな」
苦笑しながらも、ウソップも眉を下げてチョッパーの毛並みを撫でた。
「俺たちが怪我しても、チョッパーがいるからってどこか安心してたんだよなあ。それが肝心のドクターに怪我されたら、もうどうしたらいいかわかんなくなっちまった」
「パニクったわよねえ」
思い出すと滑稽なのか、ナミがくすくす笑う。
「珍しくロビンも血相変えてたし」
「だって、船医さんが死んでしまうかと思ったんですもの」
心持ち頬を赤らめて言い返すロビンに、その場は和やかな笑いに包まれた。

「腹〜〜〜減った〜〜〜」
「ぎゃーーーーーっ!!」
いきなり逆さまにぶらんぶらん降りてきた生首に、ウソップが飛び上がる。
「サンジ〜〜〜飯〜〜〜・・・」
「あああ、あんたたち先に手だけよく洗って食べなさいよ。とにかくロビン、一緒にシャワー行きましょ!」
「そうね」
いきなり落ちてきた生首に食事を与え、女性陣の分を確保すべくサンジは慌しく立ち働いた。





どんよりと垂れ込めた雲は朝になっても晴れず、疲れたクルー達は普段より遅い朝食を迎えた。
チョッパーは相変わらずラウンジの隅で眠り続けている。

「大丈夫かしらチョッパー。麻酔の量とか、間違えてない?」
「自分の体重は熟知しているから間違いないと思うけど、やはり身体が小さいから体力の消耗は大きいと思うわ」
昨夜は食事が遅かったからと、軽めの朝食を終えてナミはテーブルの上に海図を広げた。

「どうも風の向きが悪くて、まだこの辺りみたいなのよ。いい潮流を見つけてみるわ」
「そうね、やっぱり少しでも早く上陸できた方がいいでしょう」
ひそひそと会話を交わす二人に、ウソップは不安げに振り向いた。
「そんなにひでえのか?チョッパーの怪我」
「いいえ」
即座にロビンが首を振る。
「骨には異常はないし、致命的な傷もないわ。けれどちょっと神経を傷つけてしまっているの。とにかく
 一週間は絶対に手を使ってはダメだわ。この先、使い物にならなくなってしまうかもしれない」
「そんな・・・」
「チョッパーはじっと眠ってればいいから問題はないわ。ただ――――」
ちらりと視線を送って、キッチンの主がいないのに気付く。
「あら?サンジ君は?」
「サンジなら、さっきちょっと昼寝してくるっつって部屋に下りて行ったぞ」
まだ食事を続けているルフィが、口いっぱいに頬張りながらパンを持った右手で指差す。
「そうね、サンジ君も疲れてるでしょうし」
言いながらキョロキョロと辺りを見回した。

「んで、ゴク潰しの宿六は?」
「ひでー言い様だな、船尾で錘振ってるぜ」
ナミは無言で立ち上がると大股でラウンジを出て行った。

「ゾロ、サンジ君が部屋で昼寝してるみたいなの」
「ああ?寝かしといてやれよ」
すでに汗まみれになっている背中は振り向きもせず、規則的な筋肉の動きを見せている。
「バカね、だったらわざわざ頼みに来ないわよ。あんた、今こそちゃんとサンジ君のこと見ててよね」
「ああ?」
ようやく錘を置いてゾロは振り向いた。
「サンジ君、いつ生まれるかわからない状態なのよ。なのにチョッパーがあんなことになって、今陣痛が
 きたらタイミング最悪だわ。せめて早く対処できるように、あんた様子を見ててあげて」
ナミの言葉に急に顔を引き締めて、ゾロは手早くタオルを手に取った。





ぎしりと梯子を鳴らしながら、静かに男部屋に下りていく。
サンジのための簡易ベッドの上に、長い影が横たわっていた。
きっちりと胸元まで毛布を掛け、横を向いた姿勢で片足を微妙に曲げている。
なんでもこれが一番楽なポーズらしい。
そりゃあこんだけ腹が出っ張ったら、仰向けにもうつ伏せにも眠れねえだろうなと、ゾロは上から見下ろす形で
サンジの寝顔を見つめた。

目を閉じて規則正しく呼吸している。
少し蒼褪めて見えるのは、光の具合だろうか。
まだ昼間だと言うのに薄暗く、かといって嵐が来る風でもない、嫌な天気だ。


ゾロはしばしサンジの寝顔を見つめてから、側に腰を下ろそうとした。
が、その額に光るものを見咎めて、動きを止める。
もう一度注意深く見つめれば、額の辺り、金色の生え際がうっすらと濡れていた。
顔を近付け、無遠慮に覗き込めば金の睫がふるふると揺れながら持ち上がった。

「・・・人が寝てんだ、起こすな」
いつもと変わらぬ、不機嫌な声。
だが――――

「どうした?」
「そりゃあ、こっちの台詞だろうが」
サンジの茶々も構わず、ゾロは睨みつけたまま白い頬に触れた。

「・・・よせよ、俺あ眠いんだ」
声が掠れている。
そうしている間にも、こめかみにじんわりと浮き出たのは脂汗だ。
「お前――――」
今度こそはっきり気付いて、ゾロはサンジの首筋に手を差し入れた。
「具合悪いのか?」
「別に・・・」
淡々とサンジは言葉を返す。
静かに肩が揺れているのは呼吸のせいだと思っていたが、間近で見て違うと気付いた。
サンジは息を止めている。

「おい、てめえなんで息殺してんだ」
「は、なんのことだ?」
笑い声と一緒に息を吐き出した。
じわりと、額の汗が滲み出し流れる。

「あ、なんか暑いな・・・」
「バカ野郎、誤魔化すな!」
吼えるように怒鳴って肩を抱え上げた。
途端に低く呻き、サンジはゾロの手を力いっぱい叩く。
「よせって、触んな」
「痛えのか?」
「なんとも、ねえ」
「嘘つくなっつってんだろ!」
本気で怒鳴られて、サンジは毛布に顔を埋めた。
忙しなく上下する背中が、堪えきれない何かを物語っている。


「・・・いつからだ」
「・・・」
「いつから、腹が痛えんだっ」
「・・・」
白く節が浮くまで毛布を握りこんでいた指が、そっと外れた。
ゆるゆると顔を上げ、サンジが振り向く。
その顔に苦痛はない。

「だから、なんてこたねーって。ほら、俺平気だろ」
先ほどまでの苦悶が嘘のような穏やかな表情。
「なんか暑ちーんだよな、悪いけど水汲んできて」
言われて、それもそうかと立ち上がる。
が、足を止めた。

じっと見据えて動かないゾロに焦れたのか、サンジは険しい顔つきで睨み返した。
「ぼうっと突っ立ってねえで、さっさと行けよ!」
苛々と首を振り、毛布を被ってまた身を横たえた。
俯いた襟足がじっとりと濡れている。
そのまま動きを止めたサンジに、ゾロは再び覆い被さった。
何か怒鳴られるかと思ったが、サンジは振り向きもしない。
表情を変えない横顔のまま、また息を止めている。

「・・・おい」
まただ。
また息を殺して――――
我慢しているのか。

「・・・」
声を漏らさないように歯を噛み締めて、サンジは俯いて目を閉じている。
「息を殺すな。呼吸をしろ。ヒ、ヒ、フーだろうがっ」
ゾロの声に片目だけ開けて、慌てて浅く息をした。
「そうだ。息止めんな馬鹿。腹の子が息できねえ」
はっはっはと犬のように短く吐いて、肩を大きく上下させた。
ふうと表情が軽くなる。

「・・・大丈夫だ。なんてことねえ」
「何が大丈夫だ。いつから腹が痛えのか言え」
これ以上ないくらい低い声で、ゾロは唸った。
はっきり言って横っ面を殴りつけたいほど腹立たしい。

「てめえがいくら大丈夫だろうが、ガキは待たねえんだ。産まれるときは、出るぞ」
サンジは今更のようにぎょっとした顔をして、それから眉毛をへにゃんと下げた。

「最初になんか、腹痛えな〜と思ったのが・・・」
「思ったのが?」
「・・・昨夜」
「あんだとおおっ!!」
ぐわっと目を剥くゾロに首を竦め、サンジはまたそのまま動けなくなった。
だらだらと汗が光る。
また息を止めそうになって慌てて口を開けているが、正常な呼吸が追いつかないようだ。

「って、ちょっと待て!あんまりにも間隔が狭えじゃねえか!マジやばいんじゃねえのか?」
ゾロは血相変えて、男部屋を飛び出した。



途中、廊下でウソップに行き当たった。
「おい、ナミが嵐が来そうだって・・・」
「クソコックが産気づいた!」
「なにいいいいっ!!」

ウソップは即座に回れ右して駆け出しそうになりながらも、踏み止まって振り返った。
「どんな間隔だ?」
「もう、2分と間がねえ」
「なんだってえ?」
さすが、ゾロのみならずウソップもルフィも一緒にみっちり『パパさん教室』を受けただけはある。
予備知識はバッチリだ。

「あの馬鹿、昨夜から痛かったの黙ってやがった」
「それじゃあ、今朝からもう来てたのか・・・」
そう思って見ると、少し顔色が悪かったかもしれない。
だがどちらにしても、我慢強い男だ。
自分の痛みなんておくびにも出さないで、いつも通り振舞っていたんだろう。

「ともかく、俺はチョッパーを起こしてくっから、てめえはサンジの側についてろ!」
「あ、ああ」
「いいか、波が来てる時は指で肛門部分を押してやれ。楽になるはずだ」
「わかった」

とそこに、ナミのヒールの音が高く響いた。
「ちょっと!嵐が来るのよっ!」
「サンジが産気づいた!」
「・・・なんですってえええっ」
ウソップ同様その場に立ち尽くし蒼白になる。


「〜〜〜最悪だわ。けどまあ、どっちにしても来るもんわ来るわね。ウソップ、ルフィと一緒に甲板に出て。
 私はチョッパーとロビンに行って貰ってから指示するわ。ゾロはサンジ君についてて!」
言った先に、すでにゾロの姿はなかった。
ふんと鼻で笑ってナミは踵を返す。
「やったろうじゃないの。嵐も出産もドンと来いよ」
金絡み以外で、ナミが燃えに燃えている。





ゾロが男部屋に戻ったとき、サンジの口からは苦しげな声が漏れていた。
「大丈夫か、立てるか?」
「・・・う〜〜〜」
震える手で毛布を掴み、なんとか身体を起こそうと肘を突っぱねた。
「なんてこと、ね〜・・・次に治まったら・・・」
言う間もなくほっと息をつき、けろりと表情を変えた。
「うし、今の内だ」
そう言って立ち上がりかけて、またうっと蹲る。

「まずいな、移動もできねえか?」
ゾロは横倒しになったサンジの腰に腕を差し込むと、手際よくぺろんとパジャマのズボンを下げる。
「なっ、何すんだっ」
さすがに痛みどころではなく跳ね起きそうになるサンジの後頭部を押さえ付けて、ゾロは柔らかな
尻たぶを指で押した。

「変わりねえな・・・」
薄赤い窄まりは呼吸の度に僅かに息づいて見えるが、ほぼいつものごとく慎ましく閉じられている。
「こんだけ間隔が狭まってんなら、もう3cmくらい開いててもいいはずだよなあ」
「離せ変態!」
不自然な体勢ながらも強烈なコンカッセを受けて、ゾロはふらつきながらも手早くパジャマを直した。

「アホか、チョッパーの代わりに確認しただけだろうが」
「う・・・うう〜〜」
怒りと羞恥からか顔を真っ赤にしながらも、またしてもサンジが呻く。
もう、声を堪えるのも難しくなって来たらしい。

「悪いことあしねえから、ちょっと力抜け」
悪人台詞を吐いて、ゾロは拳をぐっとサンジの尻に当てた。
抵抗し掛けて振り上げた腕をぱたりと落とす。
「あれ?なんか・・・楽・・・」
「んだろ?もうちょい気張れ」




「サンジ!大丈夫か?」
上から声が降って来て、見上げればロビンに抱かれたチョッパーが降りて来るところだ。
「チョッパー大丈夫なのか?」
「俺はいい。それよりサンジだ。ゾロ・・・サンジの陰部は?」
「さっき見た。いつもどおり可愛い蕾だったぜ」
「アホかい!」
陣痛の波が治まったタイミングで再び蹴られて床に沈むゾロの横で、サンジが「あ」と声を上げた。

「やべ、なんか漏れた」
「漏れたあ?」
慌てて太股に手を当てると、少し濡れている。
「破水したかな」
「どっから?!」
額に汗を掻いたまま、チョッパーは注意深くサンジの様子を診た。

「仕方がない。ここで帝王切開するしかないよ」
思わず両手を伸ばしかけたチョッパーをロビンが制する。
「だめよ船医さん。腕を使ってはダメ」
言われて慌てて手を引いて、う〜んと唸った。
「サンジを産室に移動させるのも無理みたいだな。ここで手術するしかないのか」

だがしかし―――
悩んでいる間にも、サンジの呻き声は段々高くなっていく。
既に限界なのだ。
胎児は産まれるべく子宮(?)を収縮させ、けれど産道は開かない。
チョッパーはもどかしげに首を振り、ロビンを見上げた。

「ロビン、メスを握ってくれるか?」
ロビンは少し蒼褪めて、何故かゾロを見た。
「勿論、私にできることはするわ。けれど・・・」

その時ぐらりと船室自体が斜めに傾いだ。
「・・・?!」
「嵐だ」
さっきまで曇天だったとはいえ風は凪いでいた。
ナミの読みがあたったのだろう。

「しかも嵐か、厄介だな」
ゾロはそう呟き、サンジを抱く手に力を込めた。


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