実際、喫茶店のマスターは実に気のいい男だった。
顔中髭だらけのクマの如き風貌ながら、大きな図体を丸めるように動いて汗をかきながら話す。
「いや・・・カールが来てくれてから、お客さん、増えちゃってねえ。ほら・・・彼の料理美味いから」
どうやら軽食メニューはカールに任されているらしい。
片手ながらも段取りよく注文に応じている。

ルイジは裏方として働くことにした。
ウェイターとして立ち回るには経験が浅いし、愛想がなさ過ぎる。
言われたことだけしかできないが、確かに飯時など小さな店にしては大変な混雑になる時、何かと
役には立っているようだ。

「うん・・・ルイジが来てくれて助かるよ。給料少なくて悪いねえ」
カールもその日暮らし程度の給金らしい。
自分ももし必要なら、その辺でカツアゲでもしてくればいいから、たいした問題ではなかった。





裏口からビールケースを3段まとめて運び入れる。
からんとドアの開く音がして、多くの人の気配がした。

「いやがったなあ、やっぱここによ」
耳障りなダミ声が届いた。
その姿は抱えたケースでよく見えない。
がしゃんと置いて顔を上げれば、戸口にガラの悪そうな若者達が10数人立っていた。

「おい、丁寧に置けよ。ビン割れるだろうが」
異様な雰囲気なのに、カールはテーブルに腰掛けて呑気に煙草を吸っている。
「そいであんたら誰?こいつのお客さん?」
くいくい、っと軽く手で示す。
さあ?とルイジは首を傾げた。
「とぼけんじゃねえ!この死に損ないがっ。よくもやってくれたなあ」

思うに、隣町のチンピラかもしれない。
「顔なんざ、全然覚えてねえけどよ」
「言ったなコラ、ここでのうのうと働いてやがると情報得たんだよ。てめえに殴られて仲間がまだ病院だ。
 落とし前つけてやる」
狭い店の中が、あっという間に殺気に包まれる。
カールは足を組んだまま、あーあと溜息をついた。

「いいけど、やるんなら表でやれ。店を壊すな」
「てめえ、さっきからごちゃごちゃうるせえぞ!!」
側にいた男が手にした棒でカールの頭を殴りつけようとした、が。
するりとかわして大きく空振りをする。
「・・・!」
ルイジは反射的に駆け出そうとして、たたらを踏んだ。
カールが無事なのを見て、あからさまにほっとした顔をする。
その後ろでは、汗かきのクマが右往左往していた。

「言ったろ。表に出てやれクソガキ共。表なら思う存分遊べばいいからよ」
煙草をくわえたまま薄く笑って、両手をポケットに突っ込んでいる。
「この野郎、馬鹿にしやがって!!」
胸元からナイフを取り出し、棒を持った男と二人で襲い掛かる。
だが一瞬で、その手から武器は落ちた。
のみならず、周りで見ていた数人の手からも武器だけが弾き飛ばされている。

思わぬ展開に乱入した若者達もルイジも、固まってしまった。
――――あれか。
唐突に思い至る。
自分が意識を失うほどの衝撃は、蹴られたのか。

「き、君達。表に出たほうがいいよ・・・この人、こんな見かけだけど・・・つ、強いんだから」
クマは大量の汗をかいている。
「ほら・・・そこの壁、そこだけ新しいでしょ。前に海賊が来たとき、その人その壁ぶち抜いて暴れたんだから・・・」
冗談だろ、と誰もが思った。
クマの言うことは大袈裟だろうが、当の本人は周りを囲まれてそ知らぬ顔で煙草を吸っている。

「次に来た奴あ、脳天砕くぜ」
にい・・・と笑ったその目はただ事でない光を湛えて、チンピラたちを震撼させた。
細い身体の、稀有な金髪を持った男に気圧されてリーダーらしき男はちっと舌打ちした。
「しょうがねえ、表へ出ろ。来い、てめえ!」
促されてルイジも店を出る。
カールはその姿をにっこり笑って見送った。





―――――数分後
頭から血を流し、数箇所打撲を負ったルイジがつまらなそうに入って来る。
表のチンピラたちは、何人か逃げ仰せ、残りは突っ伏してうめいているようだ。
マスターが濡らしたタオルを手渡すと、乱暴に額の血を拭った。
「・・・お前、戦い方を知らねえのか」
窓際に座った金髪が、心底呆れたように言う。
「あれじゃあ刺されるわな。リーチが長いのをいいことに盲滅法振り回すだけで、手元ガラ空きじゃねえか」
「ぶっとばしゃあ、いいんだよ」
憮然とした表情で、ルイジは乱暴に水を飲む。
「自己流にしても危なかしい喧嘩だ。なんか習うといいんだよなあ。獲物持つのもいいしよ。剣とか――――」
そこまで言って、ひくりとカールの身体を揺れた。
何か恐ろしい物でも見たかのように凍りついた瞳で、固まっている。
しかしそれは数秒で、ゆるく動かした右手が煙草の灰を落とした。
―――――?
時折、カールは意味深な反応を見せる。
ルイジにはそれがなんなのかわからないが、気に掛かることは確かだ。

「あんたの蹴り、教えてくんねえ」
物思いに耽った顔がはっと上げられた。
「蹴り―――あんたすげーじゃん」
ルイジの顔をまじまじと見て、カールが表情を緩める。
「まあな、気が向いたらな」
表に転がっていたチンピラも、仲間が連れて行ったらしい。
静かになった大通りから客がやってくる。
仕事だぞ、とカールは立ち上がった。







ルイジが来てから、やたらと昔のことを思い出すようになった。
その声だったり、ふと見せる仕草だったり、醸し出す雰囲気だったり―――――
何かにつけその姿が奴を思い起こさせて、胸がざわめく。

手元に置いたのは、失敗だったか。
元はといえば、放って置けなかったのはあいつの目が死んでいたからだ。
夢も希望もないような腐った目で、同じ顔で俺を見るから、我慢できなかった。

ずっとずっと若いのによ。
もっと世界に目を向けて、何でも出来る可能性があるのによ。
同じ姿をして、揺ぎ無い奴の背中とは全然違う覇気のない表情。
なんだか、たまんねんだよ。



からりと、サンジは氷だけ残ったカラのグラスを置いた。
ルイジは隣のソファでもう眠っただろう。
誰に似たのか、本当に寝つきのいい奴だ。

奴に、剣を―――― そう思いついた自分に吐き気がする。
剣を持たせてどうする気だ。
奴の代わりを作る気か。
同じ顔で、同じ声で俺だけの剣士を作る気か。
くく・・・と喉の奥で笑いを漏らす。
片手で栓を開けて、酒を注いだ。





19の頃に出会って、抱き合うようになったのはいつからだったか・・・
ただの仲間としては実にいけ好かない奴だったが、セックスの相性はばっちりだった。
切っ掛けは酒だったかも知れない。
長い航海で島にも着けず、溜まっていたのかもしれない。
それでも最初は馴れ合いのように始まった関係が、ずるずると4年も続いていた。
最初は奪い合うように、時には暖めあうように、あとは惰性で?
性欲処理だと割り切りながら、上陸してレディがわんさかいる街でも二人で宿にしけこんだりしたっけな。

あれは、なんだったんだろう。
どういうつもりで、俺達は抱き合っていたんだろう。
4年も一緒にいたのに。
4年も抱き合っていたのに、俺達は何一つそのことに答えなんか求めなかった。
サンジは片手で顔を覆った。

思い出すのは熱い掌。
齧り付いた幅広の肩。
斜めに走る傷に舌を這わせて、太い首を抱きしめた。
生真面目な剣士はセックスにも真摯で、いつだって真剣勝負みたいだった。
口の端で軽く笑う、アノ表情が好きだった。

ことりと、グラスを置いた。
顔を覆ったまま、左手を自分の中心に伸ばす。
思い出だけで、そこは熱を持って勃ち上がっている。

いい年こいて、何やってんだ俺は・・・
自嘲するのは何度目だろう。
ひなびた街で、夢を失ってただ生きる俺。
奴は俺のことなんかとうに忘れて、海原を駆けてるんだろう。
鷹の目は倒せたのだろうか。
ルフィはワンピースを見つけただろうか。

ずっと思い起こさないようにしていたことが、次々と胸に溢れる。
ルフィ・・・ナミさん・・・ウソップ・・・チョッパー・・・ロビンちゃん・・・
懐かしい仲間の顔が、走馬灯のように現れては消える。
そして――――
その声が、近くにあるような気がして、サンジは目を閉じた。

―――――ゾロ

その名を、心の中で呼ぶ。
果てを行く仲間のことを思い出したくなくて、ただ己を擦った。
すべてを忘れたい。
ただ、ゾロだけを思い浮かべてサンジは暗闇の中で息を殺した。










眠れねえ―――

まんじりともできず、何度目かの寝返りを打つ。
余程寝過ぎたのか。
どうにも目が冴えて、これ以上横になっている気もなくなってきた。
ゆっくりと身体を起す。
傷口はとうに塞がって、奥に鈍い痛みが残るだけだ。
ルイジは隣の部屋と繋ぐ扉から、かすかな灯りが洩れているのに気が付いた。
カールはまだ起きているらしい。
酒でも呑んでんのか。
ぺろりと舌を出して、おこぼれに預かろうとベッドを降りる。
気配を消すつもりはなかったが、なんとなく静かな足取りでそっとドアを押した。




スタンドライトだけを灯して、カールが深くソファに腰掛けている。
俯いた瞳は硬く閉じられ、手元を探る度に小刻みに身体が揺れている。
―――カいてんのか
寛げた前で、左手を盛んに上下させている。
顰められた眉は苦しげで、半開きの口元からちろりと舌が覗いていた。

ずくんとルイジの下半身に疼きが走る。
男が一人でマスかいているだけだ。
わかっているのに、吸い寄せられたように目が離せない。

静まり返った部屋の中に、甘い鼻息だけがかすかに響いている。
目を閉じたまま上を向いて、力ない右手でボタンを外し、隙間から手を差し入れた。
弄る手つきがあまりに淫らで、ルイジは思わず部屋の中に飛び込んでいた。




――――!!!

カールがびっくりしたまま固まっている。
ずんずん近づくと、火がついたように喚きだした。
「てててててめえ、なに考えてやがるんだ!このクソガキ!こういう時は見て見ぬ振りだろうがっ
 普通はよ!ここここのガキがガキがガキが・・・、人がマスかいてる時に乱入すんじゃねー!!!」

構わず目の前まで迫ると、中途半端にずらしたズボンを片膝で抑えて乗り上げる。
近づいちまえば足蹴りなど怖くもねえ。
まだ握ったままの左手首を掴んで、ルイジはにやりと笑った。
「手伝ってやるぜ」
驚愕で目を見開いたまのカールの手を取って、乱暴に上下させる。
「うあ・・・ば・・・」
自分で扱く形になって、カールは混乱したようだ。
慌てて手を離した左手をそのままソファに押し当てて、ルイジの手が代わりに握り込む。
「やめろ、クソ・・・」
逃げを打つ腰を抑えつけて、勃ったままのそれをゆっくりと扱く。
晒された乳首が目に入って、舌でぺろりと舐めた。
びくんと体が反応して揺れる。
もう硬くなっているそれを口に含み、ゆっくりと甘噛みした。

「あんた、女みたいに乳首感じんの?」
耳元で囁けば、手の中のそれがどくりと脈打つ。
こいつ、感じてやがる。
「なあ・・・あんた―――」
「・・・うあ・・・もう・・・」
ひくひくっと身体を震わせて、白い液がルイジの手の中で飛んだ。
目尻に涙を浮かべたまま、頬を紅潮させて軽く震えている。

「早っ・・・」
搾るように扱き出せば、ふうふうと荒い息がルイジの耳を打った。
「この・・・クソやろ・・・」
左手は戒められたままで、自由な右手でルイジの髪を掻き毟っているつもりだろうが、実際は髪を
梳かす柔らかな感触でしかなかった。

掌に受けた精液を指に塗り込めて、ルイジがその奥へと手を這わす。
カールの身体が大きく跳ねて、ズボンがもつれたままの両足がばたばたと暴れた。
「アホ!なにするってーか、男!てめー、男だぞ、知ってんのか!!」
声をひっくり返して喚くカールとは対象に、ルイジはひどく落ち着いて抑える手を緩めようとはしない。
「知らね−けど、大方女と一緒だろ」
どこか切羽詰った掠れた声に、カールの背筋に甘い痺れが走った。

その声で、言うんじゃねえ。

中途半端に開いたシャツの前を引きちぎって、露になった鎖骨から舌を這わせる。
夜目にも白い肌はほのかに染まり、強く吸うと面白いほど跡が残った。
こりこりと立ち上がった乳首を指で押し潰しながら、もう片方に強く吸い付く。
目だけで見上げれば、硬く歯を食いしばって、カールは漏れる声を押し殺している。
「ただのマスかきじゃねえだろ」
舌を絡めたままの、くぐもったルイジの声がカールに届く。
「あんたすげえ、物欲しそうな顔してた・・・」

うわああああああ―――

身動きできない状態でカールは悶絶した。
羞恥で死ぬなら、もう死んでる。
よりによってこんなガキに・・・
その声で――――
その顔で――――





くちゅりと指が埋め込まれた。
声にならない悲鳴が噛み締めた歯の間から漏れる。
「あんた、こっちもいじってたのか」
言うな・・・
その声で言うな―――

快感で目が眩みそうだ。
忘れていた筈の感触がまざまざと蘇り、甘い陶酔が脳味噌を支配する。
「すげー・・・熱い・・・」
ルイジの息が荒い。
耳元でささやかれて、その舌が頬を舐めた。
硬く閉じた唇を舐め上げ、覆い被さるように口付ける。
指を深く差し込まれて、思わず開いた口元から熱い舌が滑り込んだ。

―――こいつ、ガキの癖に、
べろちゅ−
・・・ガキがガキがガキがガキが・・・
呪いのように唱え続ける。
でないと、間違えてしまいそうだ。

息苦しくなって喘ぐと、舌が更に追いかけて深く探る。
飲み込みきれない唾液が顎を伝い落ち、目の焦点がぼやけてきた。
「・・・すげーエロい面」
ルイジの声が届く度、身体の心がずくずくと疼く。
耐え切れなくて、カールはずるずるとソファをずり落ちた。
大きく開かれて、突き出された足の間をルイジの指が押し広げていく。
強く掴まれ過ぎて痺れたのか、酔いが回ったのか、自由な筈の左手もいうことを聞かない。
力の抜けたカールの腰を抱えて、ルイジは己のモノを取り出した。
あてがわれる感覚に、身震いがする。

「ル、ルイジ!」
カールは必死な声で叫んだ。
「ルイジ、俺の名を呼べ!カールって呼べ!」
ずぶりと、熱い塊が押し開いていく。
「それ・・・、あんたのほんとの名前じゃねえだろ。」
ルイジもきつそうだ。
「うっせえ、いいから呼べ!カールって言えよっ」

「カール・・・」
「うあ・・・」
カールはルイジの肩に縋りついた。
「カ−ル・・・カール・・・」
憑かれたようにルイジがその名を繰り返す。
「ああ・・・ん・・・ルイ・・・ジ」
みちみちと、はちきれそうに怒張したそれを受け入れながら、カールは息を吐いて受け入れていく。
「・・・カール」
ルイジの声が耳を打つ。

そうだ。
もっと呼べ。
その名を呼んでくれ。


そうすれば、俺は


  間違えたりしないから―――――







なんてこった。
サンジは天を仰いで嘆息した。

空が白み始めカーテンの隙間からほのかに白い光が揺れている。
ソファに身を投げ出したまま、傍らには巨大な猫・・・ならぬ男が一人、張り付いて首筋を舐めている。


なんてこったなんてこったなんてこった。

起こってしまった事実が、頭の中をただぐるぐると駆け巡る。
やっちまった。
こんなガキと。





この島で暮らし始めて、女性とは何度かベッドを共にはしたが、男を引き入れたことなどない。
なのに、すっかり犯される快感に溺れてしまった。
俺は男日照りの年増かよ。
がしがしと髪を掻き毟っても、取り返しがつくものでもない。
一人で唸る痩躯をひしと抱きしめて、ルイジは鎖骨に歯を立てた。
サンジがぶちっとキレる。
「てめえも大概にしやがれ、しつこいぞクソガキ!もうお天道様も昇ってんだ、朝日を受けて目ん玉
 開いてよく見やがれ、俺は男だぞ。男絡めて何やってんだてめえ!!」
耳を劈く怒号と言いたいところだが、実際には喉が掠れてろくな声など出ていない。

「別に女と思って抱いてねえよ、俺は」
ちゅっと音を立てて、その唇を奪う。
「あんたすっげえいいな。女なんか目じゃねえや」
ルイジは挿れてすぐイってしまった、にもかかわらず、そのまま抜かないで3発も続けてしまった。
ああ、若いって素晴らしい。


「くそ重てえんだよ、どけ。シャワー浴びっからよ」
押し退けて身を起すのに、腰が痺れてうまく動けない。
ソファもバリバリだ。
ナイロン張りでよかったよ。
なんて考えていたら、ルイジにひょいと抱え上げられた。

「って、うわあ何すんだコラ!」
じたばた足掻く身体をものともしないで、ルイジは浴室の扉を足で開けてサンジを運び入れる。
「どうせ腰立たねえんだろ。洗ってやっからよ。俺も洗ってくれ」
「なにっを・・・何を・・・」
抱きしめられた腹に、硬いものが当たる。
こいつ、こいつ―――
若すぎる!!
サンジの青褪めた顔をそのままに、浴室の扉が閉まった。













「おい」
「・・・」
「おいってばよ」
「・・・」
無言で蒼い瞳が睨み返した。

「・・・俺は『おい』って名前じゃあねえ」
お玉をかき混ぜながら凄んで見せるが、ルイジは馬鹿にしたように片眉を上げて見せるだけだ。
その仕草が、まずいんだってよ。

「カールっつったって、てめえの名前じゃねえじゃねえかよ。」
「つまんねーことに拘るんじゃねえよ。カールって呼ばなきゃ、振り向かねえぞ」
くるりと背を向けてコンロの火を止めるとルイジの腕が腰を抱いた。
「拘ってんのはどっちだよ。呼ばねえと、やらせてくれねんだろ」
耳朶に口付けて「カール」と囁く。
「わかってんじゃねえか」
静かに蓋を閉めて、ルイジに向き直るとその首に手を廻した。




あの夜からすっかり爛れた関係になってしまった。
ルイジは若くてヤリたい盛りだから仕方がないとして(っていうか、男を知るにはちと早え)
タガが外れた自分はどうよ、とサンジは自己嫌悪に苛まされる。

実際ゾロと抱き合った日々より、離れた時間の方がずっと長い。
はなからホモと言う訳じゃないから、好きで男と寝たりなんかしない筈なのに。
ルイジが来てから、変っちまった。
こうして目が覚めると当たり前のように身体が包まれていたり、キッチンに向かう背中越しに
抱きしめられたり、帰りが遅いと怒られたり・・・
もしもゾロと出会ったのが海の上でなくて、海賊でもなくて、仲間でもなかったら、或いはこんな
日々が送れただろうかと腐った想像が頭を過ぎる。
そんな訳ある筈がない。
ゾロとああなったのは、女性との接点がない海の上での極限状態から端を発したもので、そうで
なければ、自分もゾロも男とヤルなんて想像もしなかっただろう。
言うなれば都合のいいセックスフレンド。
そしてルイジとのままごとみたいなこの関係も、それ以上の何モノでもない筈だ。



かぷりと、下唇を噛まれた。
間近い顔に焦点を当てると、まだ少年のルイジの額に深い縦皺が刻まれている。
胸の奥がきりきりと痛え。
暫くがじがじと歯を立てられてから、ようやく解放された。

「あにすんだ、アホ」
強く吸われてぶくりと充血した下唇を抑えて、サンジが軽く脛を蹴る。
「てめーがほかのこと考えてやがるからだ」
ぐるると唸って、ルイジはその痩躯をひょいと抱え上げた。
乱暴にベッドに投げ落とす。
こいつ、ガキの癖に勘が良すぎ。
内心舌打ちしつつ、サンジはあ〜れ〜と裏返った声を上げた。
「たーすけてーv犯される〜」
「言ってろ」
再びサンジの口に噛み付きながら、手早く1枚まとったきりのシャツを引き剥がす。
最近のサンジはボタン付けにも忙しい。
袖口が手首に絡まったまま腕が引っ張られて、痛えと短く叫んだ。
ルイジは舌を絡めたまま不自然な体勢の右腕に目をやる。
身体を起して、丁寧にシャツを脱がした。

サンジの右腕は肩から肘に掛けて捩れたような傷が幾筋も残って、痛々しい。
白い肌の上でそこだけ濃いピンクの引き攣れをルイジは丁寧に舐め始めた。
くすぐってえとサンジの身体が揺れる。
「舐めても、消えねえぞ」
醜い跡だと、自分で見ても思うそれを、ルイジは舐めれば治るかのように何度も舌を這わす。
母犬が子犬の毛づくろいをする様に似て、ただ見つめているしかなかった。




遠い昔、ゾロと二人で崖崩れに巻き込まれたこともあったっけな。
雨ばかり降る陰気な島で、行方不明になったルフィを探して山を登った。
崩れた木と一緒に落ちて傷ついた肩を、あいつもこうして舐めていたっけ。
痛えとかしみるとかぎゃぎゃあ喚いてやったのに、舐めりゃ治るとばかりに、血と泥で汚れた
傷をひたすらに舐めてやがった。

鼻先がツンとして、じわりと熱いものが沸いてくる。
そんなサンジの表情を見下ろすルイジの額の皺は益々深くなり、つまらなそうに痩せた肩を
抱き寄せた。
「んな面、すんな」
一体、俺は今どんな情けねえ面、晒してんだろうな。
サンジは自嘲気味に笑って、ルイジの首に顔を埋めた。









「あの空の上に、でっけえ島が浮かんでんだぜ」
指差した手の先から、煙草の灰がはらりと落ちる。
「嘘じゃねえって、背中に羽の生えた、頭に触角みたいなのが生えてる人間がいたんだ。
 雲の上でよ。そりゃあふかふかした足元で、気持ちイイんだv」

カールは寝物語に、よく冒険談を語る。
ある時は巨人族の話だったり、ある時は巨大な鯨の腹の中の話だったり。
そこまでガキじゃねえんだからよ、と半分呆れながら、ルイジは耳を傾ける。
「確かにここは平和でいい島だが、てめえみたいなのがいつまでも燻ってるところじゃないぜ。
 なあルイジ。世界へ出ろ。てめえも家出て流離う身だろ。なんもしがらみなんかねえんだろ。
 でっかい夢見て前へ進めよ。俺らがてめえくらいの年の頃は、幻みてえに一杯夢見ていたぜ」
話して聞かせるカールの顔つきの方が、余程ガキ臭い。
こんな時、カールの蒼い瞳は一層輝いて、色が透けて見える。
そんなカールの顔がルイジは好きだった。


「海は広い、空は果てがない。ルイジ、外へ出ろ。行っててめえの夢掴め」
軽く煙草を銜えて、きょろりとルイジに目を向ける。
「そんな眉間に縦皺つけてじじ臭い面、してんじゃねえよ。ガキはガキらしくしろよな」
「ガキはてめえだ。」
ルイジは軽く息を吐いてカールの煙草を奪うと、半開きの唇に口付けた。
強い煙草の匂いが鼻を擽る。
「俺よりよっぽどガキ臭え顔して、夢を見てんのはあんただろ。ずっと醒めねえ夢をよ」
ルイジの言葉が胸に痛い。
いい年をして叶わない夢を追って、田舎で燻ってんのは俺自身だ。
「あんたはよく、俺らって言うよな。あんたの側にはいつも誰が居るんだ?」
奪われた煙草を取り戻そうと手を伸ばし、逆に絡め取られた。
ルイジの熱い手がカールの冷えた掌を握り込む。
「あんたは俺の中に、一体誰を見てるんだ」

多分それが、最近ルイジに刻まれる眉間の皺の原因だろう。
ガキに気を廻らせるたあ、俺も耄碌したもんだ。
「ルイジ、てめえは若え」
握り締められた拳に、キスを落とす。
「いい身体を持ってる。飲み込みが早い。蹴りもうまくなった。いつまでもこんなところで
 ちんたらしてるような奴じゃねえんだよ、てめえは」
それきりカールは俯いて、ルイジが何を言っても耳を貸そうとはしなかった。








気のいいマスターが通常の倍以上汗をかきながら、サンジに婚約の報告をした。
どうやら隣のルミちゃんと一途な愛を育んでいたらしい。
「そりゃ凄えやマスター、おめでとう!」
サンジは人の祝いごとが大好きだ。
どこかでハッピーな情報を聞くと手放しで喜んで精一杯祝福する。
「披露パーティはいつやんだ。畜生、ルミちゃんかよ。わかんなかったな―おい。すんげー
 美女と野獣だよな」
けらけら笑うテンションの高い二人を放っておいてルイジはカラの酒樽を担いで裏口を出て行った。

「ウェディングケーキをカールに作って欲しいんだけど」
「お安い御用だぜ、すんげーの作ってやるよ」
笑顔全開のサンジの顔を眩しそう見つめて、マスターはふっと目を伏せた。

「・・・カールは、ルイジ君とは、どうなの」
遠慮がちな声に、サンジのステップがぴたりと止まる。
ぼうっとした熊のフリして、見ているところは見ているらしい。
サンジはぽりぽりと鼻の頭を掻いて、煙草を銜え直した。
「あー・・・そだなあ、そろそろ手切れ金でも渡して追ん出そうとは、思ってるよ」
マスターはなんとも言えない複雑な顔をしている。
「大丈夫、俺だって弁えてるって。15やそこらのガキに道踏み外させる訳にはいかねーしな」
「15・・・だったの」
マスターの細い細い目が、少し見開いた。
「でも彼、変ったよ。カールと出逢って、印象ってか雰囲気が随分変った。良い方にね」
そんなのは俺のせいだけじゃねえ。
多分マスターやクソヤブや、いろんな人との関わりで変化したモノだ。
そうやって力を貰って前を向くことができる。
昔の俺のように―――

「だから、手を離すタイミングを見誤っちゃあいけねえんだ。そろそろ潮時・・・」
バン!と乱暴に戸が開いた。
悪鬼の如き形相でルイジが立っている。
眉間の皺は恐ろしく深い。

「ル、ルルルイジ君っ」
慌てるマスターを他所に、サンジは余裕でそっぽを向いて煙で輪っかを作って見せた。
「今更俺を追い出そうなんて、都合のいいことできると思うなよ」
顰めた声が低い。
あーほんとにいい声だ。
吠えるルイジにふふんと鼻先で笑って見せた。
「俺がその気になったらてめえ一人叩き出すのは簡単だぜ」
ルイジは睨みつけるだけで動かない。
闇雲につっかからずに、相手を見る力量だけは身についたかと、サンジは密かに安心した。
ぎりぎりと音が立ちそうなほどきつい目で睨み続けてから、ルイジはふいと目を逸らした。




それっきり口を聞かない。









「もういい加減、機嫌直せよな〜」
あれから、ルイジはまじめに店を手伝いはしたものの、ずっとハンストを続けていた。
賄いは食べないし、夕食にも手をつけようとしない。
「ガキだガキだと思っちゃいたが、ほんとにガキだなお前は」
サンジの挑発にも乗ってこない。
ゾロに似てるとは思ってたけど、こういうとこは似てねえな。
なんつーか、ストレートにガキっての。
こっちもついつい、甘やかしちまうしよ。

サンジにとってハンストされるのは実は一番堪える。
作った料理は食べて貰いたいし、腹が減っている人間を前に食わせてやれないのはとてつもなく辛い。
「食えよ。食うだけ食ったら又拗ねていいから」
じろりと、瞬きも忘れたような三白眼がサンジを捕らえた。
「なんか言うこと聞いてやるよ。何でもじゃねえぞ。なんか、だぞ」
すいと、ルイジの口が開いた。

「なら、名前教えろ」
がくりとサンジの首が落ちる。
「まだ何拘ってんだよ。どうでもいいだろうがそんなこと」
ぶつぶつと文句を言うサンジの前髪を、ルイジはぐいと持ち上げた。



「あんたが俺に名前を教えないのは・・・」
息を吸って、覚悟したように真顔になる。
「あんたの名前を俺が呼ぶと、誰かと間違えるからじゃないのか」
髪を掴まれたまま、サンジは息を止めてしまった。
落ち着きなく視線を漂わせてから、ぱちぱちと瞬きをする。
「何、言ってんの」
それは違う。
そんな訳じゃない。
「なら、名前教えろよ」
ルイジはしつこい。
まるで誰かのように。
「関係ねっつってんだろ。第一――――」
少し、言い淀んだ。
「あいつは、俺の名なんか、呼んだことねえよ」

途端、ルイジの二の腕の筋肉がぴきっと盛り上がった。
「あんた、名前も呼ばねえ男に抱かれてたのか!」
掴んだまま引き倒される。
ルイジの憤りがモロにぶつかって、サンジは抵抗する間もなかった。






思い切り裂かれたシャツを腕に絡めたまま、ベッドの柵に括りつけられた。
両手を戒められて中途半端にズボンもずらされる。
「・・・てめっやめろ!」
思わぬ形で拘束されて、サンジは真っ赤になって怒鳴るしかない。
「これ外せ、嫌だっての。・・・もう金輪際させてやんねーっ・・・」
「今更何言ってやがる」
肩に噛みつかれて、不自然に身体が跳ねた。
ルイジは本気で歯を立てる。
血が滲むほど。
「いてえ・・・クソっ・・・まじ嫌だってん・・・」
萎えているモノを無理矢理扱かれて、足を開かされる。
「嫌だっつってもぜってえ、ここは悦ぶんだろ」
まだ固く閉じた部分に指を捻じ込まれて、サンジの喉から悲鳴が漏れた。
「ル・・・ルイジ、目え覚ませ!」
必死で、必死で叫ぶ。
この声が届くように。

「冷静になって考えろ。てめえと・・・俺じゃ、13も・・・離れてんだ。お前・・・から見たらもう、おっさんだ・・・・ろ、が―――」
「うっせえ」
ぐいと2本の指を突っ込まれて押し広げられた。
半端じゃない痛みに身体が強張る。
「ガキくさい面して、女よりイイ身体しやがって・・・今更年上ぶんな」
ルイジは手を伸ばしてテーブルの上にあったワインを取った。
指を抜いて、その口を宛がう。

冷たい感触と染み透る熱さにサンジは目を見開いた。
「こ、このクソアホ!!!・・・なんてことしやがるっ・・・アル中になったら、どーして・・・」
こぽんとビンを抜いて、濡れたそこを馴染ませるように何度も擦る。
急激に廻るアルコールに、サンジの視界がくらりと揺れる。
息が荒くなり、全身がピンクに染まってきた。

何度も指を出し入れされる部分が熱を帯び、蕩けていく。
いつの間にか固さを増したサンジ自身が、ルイジの手の中ではちきれそうになっている。
先端に滲み出た汁を塗り込めるように指ですると、ぶるぶると震えが走り、切なげな吐息が漏れる。
熱に浮かされたように焦点の合わない目で、もうイきそうだと口を開けた。

くいと、ルイジがその根元を押さえつける。
訪れる筈の射精感を塞き止められて、サンジは不自由なまま身体を九の字に折り曲げた。
「ばか・・・イかせ・・・」
「だめだ」
容赦なく押さえつけて、奥を探る指を更に増やす。
「・・・ああぁ・・・い、やだ・・・」
サンジは目に涙を浮かべて、狂ったように何度も頭を振った。
イきたいのに、イけない。
苦しすぎる快感に耐え切れなくて、身を捩る。
「・・・ココ、いいんだろ」
感じすぎる部分を擦られて思わず腰を浮かした。
ルイジは浮かした腰に膝を入れて、高く曝した部分を更に責める。

「な、言ってみろよ。俺の名前、呼んでみろ」
「・・・ひう、ん・・・あ―――」
もう、なにもかもよくわからない。
ただイかせて欲しい。
この苦しみから解放して、気の狂うような快楽を与えて欲しい。

「な、呼べよ。俺の名前――――」
耳の穴に舌を這わせて、声が聞こえる。
サンジが好きな、大好きな声。

散々嬲った指が抜かれて、名残惜しげにきゅうと閉まるそこに、熱い塊が押し当てられた。
悦びに、身体が震える。
一気に推し進めながら、根元を抑える手は緩めない。

「・・・うん、・・・く・・・入る・・・」
ひきぃと、食いしばった歯の間から息が漏れた。
「・・・やだ・・・クる、・・・イく―――」
がたがたと細かい痙攣を繰り返して、サンジの背中が仰け反る。
塞き止められた快感が脳髄を遡るようだ。

熱く纏わりつく内壁を抉るように、ルイジは何度も深く抽挿する。
酒に濡れたそこはぐちぐちと音を立て、ルイジを追い立てるように締め付けた。
「もう・・・もう・・・ろ――――」
噛み合わない口元から涎が落ちる。
仰け反る胸元の飾りを、ルイジが力いっぱい抓った。
「んあっ・・・ゾロっ・・・」
一層深く抉って圧迫を解く。

「・・・あ、ああああ・・・ゾロ!ゾロ・・・」
びくびくっと痙攣して、サンジは覆い被さったルイジの腹に、白濁をぶちまけた。
ひゅうひゅうと喉を鳴らしながら、何度も吐精する。
繰り返される収縮に、ルイジもまたその最奥に精を放った。







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