Albireo

−3−

「わあ・・・」

初めて気付いた。
空にこんなに星があるなんて。

「・・・すげーな。なんて綺麗なんだ」
ルフィも見上げて、だろ、と笑う。
「なんだ、サンジは星見たことないのか?」
「いや、あるけどこんなにたくさんは見えない。夜景の方がきついから・・・」
地上からこんなにたくさんの星が見えるなんて、ほんとに知らなかったんだ。
手を伸ばせば届きそうなほど――――

ふと伸ばした手の先に見覚えのある星座を見つけて、サンジは小さく声をあげた。
「あれ?白鳥座かな・・・」
「ん?」
「あの、でかい星が5つあって・・・ちょうど十字架みたいに・・・」
「ふーん、どれも同じに見えるなあ」
ルフィは興味がなさそうだ。
でも夏の夜空に目立つ、白鳥座らしき星座が見える。
「北極星とか、カシオペアとかないかな」
探してみるが、なんせ見える星の数が圧倒的で眩暈さえ覚えるくらいだ。

もう一度白鳥座らしき星座に目を凝らすと、頭の部分に並んで輝く星が見える。
「え、肉眼で見えるのか?」
随分はっきりと二つ星が確認できる。サンジはルフィの肩を叩いた。
「な、あそこにな、二つ並んでる星。何色に見える?」
「んあ、どれだ」
「この指の先・・・いや、この角度からだとマストの先で・・・青とオレンジの・・・」
「あー、でかい方がオレンジ色のだな」
「そう、それそれ、やっぱそうか」
サンジはなんだか嬉しくなった。
向こうで見てる星と同じものが見えるなんて、やっぱりどこかで繋がってるんじゃないだろうか。

ゾロは意外なことに星が好きで、一緒にプラネタリウムに付き合ったりもしたものだ。
これほどじゃないけれど、ドーム一杯に広がった星空の下で、アナウンスの声を邪魔しないように
小声で薀蓄を傾けていた。
サンジはそこから情報を貰って、後で女の子とデートする時にネタに使っちゃおうとか思ってたっけ。




「『アルビレオ』って、天空の宝石とも呼ばれる美しいふたつ星だぜ」
顔に似合わずロマンティックなことを言うから、つい顔が笑ってしまいそうになるのをこらえるのが大変だった。
そんなサンジの苦労も知らず、ゾロは続けてとんでもないことを呟いた。
「トパーズとサファイアだってよ。俺らみたいだな」
思わず口にしたストローを吹き飛ばしそうになる。
いきなり、何言い出すんだこいつ。
「だってよ、お前の目、宝石より綺麗な青じゃねえか」
よく、宝石みたいに綺麗な青とは表現されるが、宝石より綺麗な青と来たか。
そんな台詞は女の子に向かって言うもんだぞと、サンジは心中でたしなめた。
口に出して言うのは憚られる。
「まあ、お前の目もトパーズっちゃあトパーズだな」
鳶色がかってるんだけど、光の当たり具合によって琥珀色に輝いて見える。
俺みたいにすかんとした色よりずっと複雑で魅惑的だ。
男二人並んで星を見ながら、そんなこと囁き合ってるって寒すぎるだろ。
そう思って、それきり話を続けなかった。

でもなんとなく、サンジはそのことを覚えていたのだ。
そんなことを、しみじみと思い出してしまった。
ついこの間のことなのに、随分と前のことのような気がする。



―――――会いてえな
ゾロに・・・

いや、違うだろ。
普通家族とかに会いたいだろ。
母さんも父さんも杏奈も元気かな・・・

あやうくホームシックに罹りそうになって、慌てて首を振った。
ルフィはまだ空を眺めている。



「んじゃ、邪魔したな。降りるわ」
「おう、ごちそうさまでした!」
空のトレイを持って、またするするとマストを降りる。
大きく手を振って見下ろすルフィの肩越しに、あの星が光って見えた。
















少し嬉しい気分になってラウンジの扉を開けたら、ゾロがいた。
いや、こいつはゾロじゃない。
ゾロもどきの三刀流。
開きっぱなしだったノートを覗いて、酒を飲んでいる。

「寝なくて、いいのか」
昨夜は見張りだったはずだ。
それに今日は闘って疲れてるだろう。
ああでも、片付けてからずっと甲板で寝てたっけかな。
ゾロは「うー」と返事だか唸り声だかわからない音を出して酒瓶に口をつけた。
ラッパのみかよ。

噛み付かれないように気をつけて手を伸ばし、ノートを奪い返す。
じろりと見上げる目つきは睨んでるんだか、ただ見てるだけなんだか判別つかない。
「凄く丁寧に、書いてあるんだ」
サンジは大切そうに両手でノートを抱いた。
「書いてある文字も読めるし、これ読んだら俺もなんとかできそうだ」
そう言って、ノートを引き出しの中に仕舞うと、冷蔵庫からつまみを取り出した。
「これ、俺が作ってみたんだけど。一応レシピどおりだから、食えると思う」
ゾロの前に置いてやれば、ゾロは目を見開いたまま固まっている。
ちゃんと冷やしてって書いてあったから、いいんだろうな、これで。
サンジはゾロの向かいに座って、そっと様子をうかがった。

一旦動きを止めたゾロはテーブルの上に瓶を置いて、箸に手を伸ばす。
いただきますと口の中で呟いてぱくんと食った。
小魚を薄くスライスして酢でしめてあったもの。
いつから漬け込まれてあったのかわからないけど、大丈夫みたいだな。
俺的にはかなり酸味がきつくなってると思ったんだけど。

サンジの心配を他所にゾロの箸は止まることがなくて、あっという間に空にしてしまった。
「あれ、足らなかったかな」
「いや、これくらいでちょうどいい」
ぶっきらぼうに言い捨てて、それでも口の中でご馳走様と唱えている。
自分が作ったものでもきちんと食べてくれる。
そのことが単純に嬉しかった。

「ここのサンジがどんなんだったか知らないけど、随分几帳面な性格だったんだな」
皿を下げて軽く濯いだ。
ゾロはまだ座って飲んでいるようだ。
「ノートもほんとにこと細かく書いてあって、誰が読んでもわかるようにしてある。モノの配置とか
 収納場所とか・・・まるで――――」
ふと、そこで言葉を切った。
思い当たってしまったから。

「まるで、いつ自分がいなくなっても大丈夫なように・・・」

口に出してからそうだと思った。
これは自分の為じゃない、後に残された者のためのノートだ。
サンジはいつかここからいなくなるつもりだったんだろうか。
それとも、明日をも知れない海賊暮らしだから何があってもいいように、前もって準備してあったんだろうか。

「オールプルーを見つけたら、降りるつもりだったのかな」
思ったままを口にして、サンジは布巾を干すとゾロに向かって、振り返る。
ゾロは酒瓶を握り締めてテーブルを睨みつけていた。





口元が斜めに歪んで、喉の奥からくく、と笑いが漏れる。

「じゃあ、お前も充分代わりが勤まるんだ」
馬鹿にしたような声音だから、サンジも思わずむっとする。
「んなこと言ってねえよ。そりゃあプロのコックにゃかなわないけど、俺はできるだけのことはするさ」
「へえ」

ゾロは静かに椅子を引いて立ち上がった。










手を伸ばしたかと思うと、急に腕を掴まれて、咄嗟に身体が引く。
「な、なんだよ」
「てめえにできることはしてくれんだろ。代わりによ」

酔っているのか。
目の色が常とは違う。
サンジは本能的に恐怖を感じた。

「離せよ」
「嫌だね」
腕が痺れるほど強い力で引っ張られた。
視界が反転して、ぶつかると目を瞑れば後頭部をでかい手が支えたのがわかった。
頭を打たないように仰向けに倒されて、気付けばゾロが上から圧し掛かっていた。

「なんだ、何を…」
「代わり、してくれんだろ」
嫌な笑い方だ。
ゾロらしくない顔つきで見下している。
これは、ゾロじゃないのに。

ゾロは笑いながらサンジのシャツをたくし上げ、ベルトを外し始めた。
慌ててその手を止めようとする。
「なに、なにすんだっ」
「うっせえな。大人しくしてろ」
ブチっと音がして、信じられないことにベルトが引き千切られた。
ファスナーも下ろす間もなく引き裂かれてしまう。

「え、ええっ」
下着ごとずり下ろされて、ひやりとした空気が性器に直に感じられた。
パニックに陥りながらも、サンジはゾロの手を必死で押し留めようとする。
「なにすんだっ、変態!」
「いつもやってることじゃねえか。代わり、するんだろ」

嘘だ嘘だ嘘だ。
ダンっ、と肩を掴まれて床に押さえつけられた。
「それとも大声上げて助け求めるか、またナミにでも助けてもらうか」
そうせせら笑い、足に引っ掛かったスラックスをすべて取り払うと、萎えたそれを握り込んだ。
「うああっ」
漏れた悲鳴を抑えるために、両手で口を塞ぐ。
その間にも、ためらいのないゾロの手は片足の太ももを鷲掴んで無理やりに上げさせ、大きく股を開かせた。

「うわ、なんてこと…なんてこと、すんだ!」
床に押し付けられた方の足にはゾロが膝で乗り上げているからびくとも動かない。
痛い、そんなに体重をかけたらひどく痛いのに、益々押さえつけてくる。
「馬鹿、見んな。なにするっ」
なんとか起き上がってゾロの手を振り解きたいのに、乱暴に扱かれて痛みに仰け反った。
「痛えって、畜生っ」
足の裏でがつんとゾロの頭を蹴ると、サンジの身体を不自然に折り曲げた体勢のまま、ゾロは鳩尾に拳を入れた。
ぐえ、とカエルの潰れたような声が漏れて、サンジは身を折って呻いた。
床に散らばった髪を掴んで顔を引き上げると、その頬に平手を入れる。
一瞬頭がブレて、意識が飛んだ。

ぐったりとしたサンジから一旦手を離し、ゾロはシンク裏の扉を開ける。
「う…」
低く呻いてゆるゆると首を振るサンジの身体をうつ伏せにして、腰だけ膝の上に抱え上げた。
「…え、あ?」
サンジは呆けた目で床を眺めていたが、ぬるりとした感触に我に返った。
「あ、やだっ…どこ触ってっ」
ゾロの指が双丘を割って奥に触れて来た。
強引に捩じ込まれる感覚に鳥肌が立つ。
「わあああっ、やめろっ」
何を、何をするのか。
逃げを打つ身体を力で押さえ込んで、ゾロは指を突き入れた。

「…!」
驚いて声も出ない。
背を撓らせて床を引っかくのに、押さえつけられた身体はびくともしなくて、なお深くまで指で探られた。
「…や、そんなとこっ…」
なにか塗られたのだろうか、あまりに容易く内部を擦られる。
今まで経験したこともない感触に総毛立ちながら、サンジはまだ何をされているのか理解できなかった。

「あ、あ、あ…やだっ」
ぐちぐち、と音が立つ。
何度か出し入れされて奥まで埋め込まれ、くるりと指を返される。
未知の感覚に身体の芯が震えた。
びくりと小さく痙攣して、それから信じられない思いで目を見開く。

――――これは、なんだ?
俺は一体、なにをされてる?

身体の反応に頭がついていかない。
ゾロは容赦なくサンジの内部を蹂躙し、サンジの身体は強烈な異物感を伴いながらもその行為を受け入れていた。
「あ、あ、…なんで、なにこれ…」
床に這い蹲ったまま硬直したサンジの腰に腕を入れて、強引に膝を立たせた。
尻を突き出す格好にさせられ、またとろりとした何かを塗りたくられた。
「…ひっ」
自分の身に起こったことが理解できなくて、神経のすべてがゾロに弄くられる部分に集中してしまった。
気持ち悪い、気持ち悪いのに…
痺れるようなこの感覚は、なんだ?

「あ、あ…」
声が抑えられない。
どうしていいか分からないのに、逃げることもできなくてただ身を捩る。
ゾロの指がそこを掠る度に背筋をビンビンと知らない刺激が駆け上る。
「いいんだろ、ここ」
ゾロの言葉も何を言ってるのかわからなかった。
なんだ、これはなんだ?

「あああっ」
直接擦られて声が裏返った。
ダメだ、そこはダメだ。
「嫌だ、触ん…なっ」
「嫌なのか?ここが」
ゾロが執拗に同じところを攻めてくる。
サンジは口を閉じることもできなくて、ただ喉の奥から叫びともうめき声ともつかない音を漏らすしかできなかった。
「嫌じゃねえだろ。イイんだよ。てめえはここが好きだからな」
ぐり、と押されて漏れた声が鼻から抜けた。
自分でもわかる、艶を帯びた音。

「ウソだ、こんな…」
「嘘なもんかよ。こんなにダラダラ垂らしてやがって」
ゾロに指摘されてはじめて、自分が勃起していることに気付いた。
先端から滲み出た汁が床を汚している。
「…うそ…」
「言ってろ」
圧迫感が増した。
何をどうされているのかわからないが、痛みや異物感だけでない感覚が脳天を突き抜ける。

「…あ…ああっ」
こんなこと、知らない。
何かがせりあがってくる。
ゾロの手が信じられない部分を弄くっているのに、それを払い除けることすらできないなんて。
「ああっ…いやっ…」
「まだだぜ」
唐突に引き抜かれた。
小さく悲鳴を上げて、床に倒れ伏す。
内股がびくびくと細かく痙攣して身体を支えていられない。
自分の身体がどうなっているのかも、サンジにはわかっていなかった。
ただひどく苦しくて辛い。
どうにかして欲しいのに、どうしていいかすらわからなかった。

「気持ち、いいだろ」
すぐ耳元でゾロが囁く。
「あ…なんで…」
シャツの裾から差し込まれた手がサンジの薄い胸に触れた。
小さな突起を探り当て、指先で捏ねるように弄る。
「あ、なんて、なんてとこ…」
「てめえ好きだろが。ここ、弄られんの」
弄る手を止めたくてゾロの腕に手をかけても、強く抓まれて動きが止まってしまう。
もう片方の手が、起立して痛いくらい張り詰めたサンジ自身を包みこんだ。
それだけで達してしまいそうで、サンジは小さく悲鳴を上げる。
「まだ、イくんじゃねえぞ」
ゾロの声が笑いを帯びている。
改めて自分が今されていることを理解して、サンジは羞恥に顔を歪めた。

背後から熱い塊が押し付けられる。
この期に及んでサンジはまだゾロが何をしようとしているのかわかっていなかった。

「ゾロ?」
ずぶりと、めり込む感触に今度こそ声を上げそうになった。
大きく開いた口を、ゾロが手で塞ぐ。
強張った身体に舌打ちして、ゾロは強引に腰を進めた。

「…ん、ん―――――」
悲鳴が呼吸とともに吸い込まれる。
一気に根本まで埋め込んだゾロは、容赦なく抽挿をはじめた。
「ひ、ひ…」
床に爪を立てて、サンジはただ喘ぐしかできない。
ゾロが律動する度に粘着質な音が立って、視界が揺れた。
「んな、締め付けんな」
ゾロの言葉に、身体のどこかがまた熱くなった。
「ああっ、イく…イく…」
無意識に声が漏れた。
なぜイくのか。
イくって…射精すんのか、俺
――――なんで?

目の前がちかちかする。
何度も出し入れされる部分が熱くてたまらない。
身体の芯からなにかがせりあがって、ゾロが突き上げるたびに波のように快感が押し寄せてくる。
快感―――――
そうか、気持ちいいんだ。




「あああっ…」

目を閉じて、床に顔をこすり付けて、サンジは大きく痙攣した。
ぶるぶると震えながら射精する。
そうすることで後ろで繋がった部分が余計に敏感に感じ取られて、サンジはまた声を漏らした。

「…く」
ゾロの呻く声が聞こえる。
尻に指を食い込ませて、ゾロは容赦なく腰を打ちつけた。
イったばかりで放心する暇もなく打ち付けられて、サンジはただ口を開けたまま床を掻き毟った。
なにがどうなっているのかわからない。
ただ熱い。
ゾロの熱を叩きつけられて、なお赦されない。

「まだだぜ」
うつぶせた身体を無理矢理起こされてゾロの上に跨がされる。
繋がったまま腰を掴んで上下に揺さぶられた。
身体に纏わりついたシャツを口に噛まされて悲鳴さえ殺される。
「ぐ、ぐ…」
乳首を抓られ、鎖骨を噛まれた。
萎えた筈のペニスがまた勃ち上がってくるのをどこか他人事みたいに感じている。

目の前に、ゾロの顔があった。
サンジをいいように揺さぶりながら笑っている。
鳶色の目が嘲りを含んで眇められた。
犬歯を除かせて、口元が歪む。

「気持ちいいだろ」
違う。
「なあ、思い出したか」
違う。
「身体は覚えてるみてえだな。こんなに悦びやがって」
違う、これはゾロじゃない。
ゾロはこんなことしない。
ゾロは、ゾロは――――――

「イイのか、おら。なんとか言えよ」
嘘だ。
違う、ゾロじゃない。
こんなこと―――――

「おら、イけ」

「――――――!」










嘘だ















「サンジ、おい?」

触れられた肩から我に却って、飛び起きた。
正確には目を開けただけで、身体はぴくりとも起きなかったけれど。

薄汚れたソファの布地が目に入って、それから部屋の中が明るいことに気付く。
サンジは目だけ巡らした。
心配そうに見下ろすウソップがいる。
肩に添えられた手は、彼のものだ。

「大丈夫か?」
じっとりと、首筋の辺りに汗をかいているのに暑いんだか寒いんだかわからない。
サンジは「いや」と返事を返してみて、殆ど声にならないことに気付いた。
喉が掠れている。
黙って身体を起こすと下半身に痛みが残っていた。



―――夢じゃ、なかった

それでもいつも寝巻き代わりに着ているシャツを身に着けて、ソファに寝ている。
髪も顔も汚れたままではなかった。
掛けられた毛布の下で手を動かすと裸の足に触れる。
下は何も身に付けていないようだ。
それでもべたついた感触はない。
綺麗に、されてる?
それが何を意味しているかよくわからないけど、かっと顔に血が昇った。



「やっぱ具合悪いのか?お前が寝過ごすなんて初めてのことだし、熱でもあんのか」
そう言って伸ばされたウソップの手から弾けるように身を仰け反らせて、サンジは毛布を手繰り寄せた。
「・・・や、悪い。ちょっと、寝すぎただけだ」
なんとか声を絞り出し平静を装う。
「あ、もう朝?朝飯・・・準備しねえと・・・」
「ああもう、俺らで作ったから。先に食ってるからお前はゆっくりしてろよ」
両手を翳してそう宥めて。
でもウソップはサンジに触れようとはしない。
視線も微妙にずらして目を合わせないまま後退りして部屋を出て行った。

――――感づかれた?

それとも、ウソップは知ってるんだろうか。
二人がこんな関係だってことを。
こんな―――

サンジは無意識に毛布を握り締めていた。
自分の身に起こったことが今でも信じられない。
男に・・・しかも、ゾロに――−

ぶん、と首を振った。
あれはゾロじゃない。
ゾロなんかじゃない。

シャツの袖から覗く手首には、くっきりと赤い指の跡が残っている。
指の先まで痺れるくらい強く掴まれた。
痛いと泣いても容赦しなかった。

あんな――――
あんな酷いことを―――――

思い出すと余計に身体が強張って、サンジは身を縮こませた。



あんなことを、していたんだろうか。
ゾロは代わりをしろといった。
いつもこうだと。
身体が覚えていると――――

ずくん、と身の内が疼いて、それがまたサンジを戸惑わせる。
自分の身体があんな風になるなんて、信じられない。
でも思い出せば今でもずくずくと感触が蘇る。

「くそっ」
サンジは声に出してうめいた。
なにもかもが受け入れ難い。
こっちのサンジはああしてゾロにいいように扱われていたのだろうか。
狭い船の中で、女の代わりをさせられていたのだろうか。
無理矢理に?
もしかして、自ら進んで?
そう疑わざるをえないほどこの身体は慣れている。
ゾロが言うように、悦んで受け入れていたんだろうか。
ゾロを相手に。

サンジは両手で顔を覆った。
犯されて泣くなんて女の子みたいなことはしたくないけど、もうどうしていいかわからない。


「・・・もう、嫌だ」
助けてくれよ。
助けてよ。

「――――ゾロ」

今はここにいない、ゾロの名を呼んだ。















「あら、サンジ君は?」
そう顔を上げたナミにウソップは曖昧な笑顔で応えた。
「ああ〜、やっぱなんか具合悪そうだ。多分、もうすぐ出てくっけど」
「そう、困ったわね」
首を傾けながらロビンを見る。
「やっぱり島でお医者さんに見てもらった方がいいかしら」
「・・・それで治るならいいけど、どんな風に具合が悪いの、長鼻君」
「う、んああ。ちょっと熱っぽかったな。まあ、奴にしたら色々ありすぎて智恵熱ってやつじゃあ、ねえの」
言いながらちらりとゾロの顔を盗み見る。
ゾロはそ知らぬ顔でパンを齧るだけだ。
「医者云々より、今は島の偵察のが先だろ。俺はひとっ走り行って様子を見てくるわ」
ウソップは立ったままパンを口に放り込みコーヒーを啜ると慌しくラウンジを出ていった。





身支度を整えボートを下ろす準備をする。
ブーツの靴音が聞こえても無視を決め込んで振り向きもしなかった。

「おい」
ゾロから声を掛けてくる。
なんだと応える代わりに睨みつけた。
「・・・」
少し意外そうな顔で自分を見ているゾロに、ウソップは顔を顰めて見せる。

「・・・お前、何考えてんだ」
ゾロからの応えはない。
「お前が、お前らがそういう関係ってのは、俺だって薄々感づいてたよ。けどなあ、今のサンジは違うだろ」
ウソップは強い口調で詰る。
だがゾロは何も言わない。

「可哀想に、血の気の引いた顔して、目だけ真っ赤だった。あれはサンジじゃねえんだぞ。それくらい、わかんねえのかっ」
「わかってる」
「わかっててやったのか。てめえやれりゃ誰でもいいのか。サンジの身体なら、それでいいのか?」
口に出して責める内に、ウソップの方が情けなくなってきた。
どうにも腹立たしくて押さえが利かない。
それなのに、ゾロは口元に薄ら笑いさえ浮かべている。
「身体?そうだな。身体だけは間違いねえあのクソコックのままだったぜ。反応もな」
かっと来て、ウソップは渾身の力を込めてゾロの胸に拳を叩き込んだ。
硬い筋肉に跳ね返されて、手の方が痛い。
「って・・・」
殴られたゾロは、僅かに唇を歪めただけだ。

「お前は、最低だぞ」
もう顔も見たくないと、そう吐き捨ててウソップはゾロに背を向けた。