実はオレは優しかったりするから、
この最終宣告だけは、したくなかった。
だがこのままでは──間違いなく生命の危機。
サンジは眩暈すらしてきた視界に叱咤つつ、意を決して唇を開いた───
***
それはもう運命の悪戯というより、不運な一人相撲だったとしか、言い様がない。
昼間、いつも以上に寝まくったゾロは、夜ギンギンに目が覚めてしまった。
それでも寝ようと思えば寝られる、年中冬眠クマのような彼だが、折角なので鍛錬しようと、甲板にのっそり上がってきた。
黒い波間を、優しい夜風に任せて進むメリー号。
月は無く、その代わり星がこぼれそうな程浮いていた。
倉庫から鉄団子を持ちだし、後はお決まりの千単位コース。
甲板に汗が点々と散り、両腕の筋肉がパンパンに張った所で、ようやく止めた。
汗を拭い、ふーっと息をついたあと、夜のせいか水ではなく、酒が飲みたくなった。
だが現在出航して、20日目のこの船は食糧難で、当然嗜好品すらままならない。
僅かな酒は、女部屋に隠されていた。
金髪のあんにゃろが、半眼で言った事を思い出す。
『どうしても飲みてェ時には、オレに言え』
──エラそうに…何様だ?
と聞けば、『コック様だ!!』とアホ丸出しで答えそうだ。
ゾロはラウンジに向った。
丸窓から明かりはなく、覗いてみるがやはり誰もいない。
──そう言えば、昨日の見張りはウソップだったから…次はコックの番だ。
ゾロは縄はしごを登り始めた。
だいぶガタがきているメインマストは、上がる度に危うい音を立てる。
あの黄色い頭が、すぐ気付くかと思ったが──出て来ない。
おかしいなと思いつつ、見張り台へと手をかけ、覗きこむと…
「…おいおい」
コックが、膝を抱えて寝ていた。
深く寝入っているらしく、口は半端に開き、涎が垂れている。
──てめェこそ、見張り失格じゃねェか・・・
だが眠り病のゾロとは違い、彼がこういった職務を疎かにする奴では無いのに気付く。
そう言えば最近のコックは、毎夜現れる盗み食い船長を撃退する為に、ラウンジで見張りをしていた。
しかも食糧難を自らカバーしようと、食べる量が明らかに少ない。
ろくに休まず、食わず。
そりゃ、疲れも出るはずだ。
「・・・・・」
ゾロは見張り台に入り、座ったまま眠る男の隣に座った。
そして、夜目にも金色に光る頭を引き寄せ──そのまま倒して、自分の膝に置いた。
喧嘩以外で、奴の顔をじっくり見たのは初めてだ。
しかも、こんなあどけない寝顔を──
眉毛、巻き過ぎだ。
意外と睫毛が長い。
鼻筋細ェな。
唇…柔らかそうだ。
ふいに、妙な感覚が走った。
──なんだ?
唇を見た辺りから…何だか、身体がムズムズする。
「う…ん…」
起きたか──とうかがえば、コックの眉根が寄った。
「…ゾ…ロ…」
剣士のゴツイ肩が揺れた。
今──俺の名前…呼んだよな。
コロ、とかじゃねェよな。
「ゾロ…」
再びサンジは、仲の悪いクルーの名を呼ぶ。
──どうする。
寝言いってる人間に応えたら、疲労するってウソップあたりが言ってたような…あ、ならウソか?
ここは…応えるべきか?
白い顔は、切なく歪んだ。
それが何だか…妙に、エロい。
「ゾロ…す…」
す!?
剣士の心臓はフル稼働し始めた。
──す…てェと、その後は…まさか…いやまさか…いやいやマサカズ…って誰だよ!!
その夜、ゾロは一晩中コックの寝顔を凝視していたが、続きの言葉は聞けなかった。
やがて朝日が水平線に現れた頃、そっと彼を元に戻し、煮え切らない気持ち満載で、マストを降りたのだった…
***
普通の時はいいのだ。普通の時は。
まだ我慢できる。
だが問題は──アホのように日課になっている、鍛錬の後。
剣士は、狂っている方向感覚と違い、体内時計はクソ正確だったりする。
どんなに鍛錬に熱中してようが、熟睡してようが、三度の飯とおやつの時間には、キチンと現れる。
来なかったら即船長に食べられるから、まァ生命を維持する為の獣の本能というか何と言うか。
今日などは、なんとルフィよりも先に来やがった。
「おい」
「・・・・なんだ」
ドアを開けた男に顔をしかめるのは、何もそれが剣士だったから──だけではない。
ゾロは気にもせず、汗で濡れたシャツの胸元をハタハタさせて、空気を入れていた。
「お、もう昼飯かよ。丁度よかった。おい水くれ」
「・・・・」
ブーツの音が近づく度に、サンジは無言を通す事にした。
──口で呼吸すれば…なんとか…
素早くコップに水を汲み、テーブルにダン!と置いて瞬時に背を向ける。
「…んだよ。愛想ねェな」
──うるせェボケマリモ。
ああヤベ、この状態だと皆を呼べねェ。
ラウンジを出るしかない。
彼は意を決し、大股でゾロを避けて、ドアまで───
「待て」
「え?」が「ゲッ!?」に代わり、肩を掴まれ硬直する。
頬を強張らせて、ギギギと振り返ると…
額にまだ汗を垂らし、への字口な緑髪。
「なぜ避ける」
「───」
言えねェ。
実はオレは優しかったりするから、この最終宣告だけは…
「こっちを見ろ」
ぐるりと180°動かされた。
鋭い両眼が間近にある。
ヤバイ。口呼吸でもコレは…
息を止め、止めねば!
「答えろ、コック」
焦れたゾロが肩を引き寄せる。
「〜〜〜〜」
いえと言うのか。
言ってもいいのか。
眩暈がする。
苦しい、苦しい!
先立つ不幸をお許し下さい…ジジィ…!!
「おいっ!!」
ガクンと肩を揺らされた。
拍子に、息を飲む。
鼻にも当然───
凄まじいを奇声を聞き付け、甲板でまったりしていたクルーたちは、
「ど、どうした!?」
「なに?虫でも出た!?」
バタバタ駆け付けた。
彼らが見たのは、床に尻餅を付き、口を押さえて蒼白のコックと、それを呆然と見下ろす、剣士の姿だった──
「おっ、飯の準備できてるじゃねェか!!いただき──」
「待ちなさい」
空気読まないルフィの頬を、ナミはビヨ−ンと掴み、
「喧嘩…じゃなさそうね。どうしたの?」
時が止まっている二人に聞いた。
ロロノア・ゾロは、そりゃ魔獣とかマリモとか人外扱いだけども、人としてのハートは、一応残っているつもりだ。
毛はもっさり生えてるけども。
あの夜の、コックの「す」発言に、
気になって気になって、ずっと目で追ってるうちに、
特別な感情が芽生えてしまった相手に、
まさか、まさか───
「ってんめェ臭いんだよおおおおお!!!!!」
なんて言われちまうとは。
サンジは涙目で鼻を押さえ、尻でずりずりしながら退出してしまった。
ナミは、ドルドルの実で蝋燭にされかけた時より、固まっている剣士に、まさか…と眉をひそめた。
「ついにサンジ君に、臭いって言われたの?」
ついに?
疑念を恐い顔に乗せると、
「あら、やっぱり自覚なかったの?」
大げさに肩をすくめた。
「ゾロ、気にする事ないぞっ」
小さな船医が間に入り、両手をバタバタさせて言う。
「腋臭なんて、珍しいもんじゃないからなっ!よく洗えばしばらくは大丈夫…」
───ワキガ。
何だその字面からして臭そうな名前は。
それが、俺だってのか。
「サンジはホラ、コックで味覚の関係上、嗅覚が発達してるから…」
──ちょっと待て、一番発達してるのはお前だろ?チョッパー
どす黒い疑念を送れば、
「お、おれは、獣の臭いは平気なんだ」
小動物は、ロビンの後ろに逃げ隠れた。
───つまり、
俺の 体臭は 獣並に 臭い と
ウソップを見る。
「お、おれは気にならねェよ!普段はそんな臭わねェし…」
ナミを見る。
「ああ、私は魚人族の生臭さに、慣れちゃってるから」
ロビンを見る。
「私は、クロコダイルの加齢臭に耐えてたから」
ルフィは──パス。
ちょと待て。
あの夜にプレイバック。
見張り台で、コックが言った寝言…
『ゾロ…す…』
それはまさか…まさか…
『ゾロ、すげェ臭い』
だったのか────
その後、四つん這いでズーンと「生まれてきてすいません」状態のゾロを放置し、
コック不在の食事が、しめやかに始まった。
半端な同情はしないのが、クルー暗黙の掟である。
「二度と敗けねェ」と誓った男は、色んなものがへし折れて、二度と戻ってこれそうに無かった…
ついに、言ってしまった。
ばっちり、言っちゃった。
午後の太陽に照らされた、船尾の甲板には、
手摺りに腕を預けて、人間煙突になっている黒スーツの姿。
昼食はもうとっくに終ってるだろう。
お子様組が遊ぶ声が聞こえてくる。
ラウンジに戻って片付けを…でも、まだあのマリモが沈んでいたら、どうしよう。
マリモって、浮き沈みしないと死んじまうのかな…
ってか、あれ生き物か植物かどっちなんだ…
ぐるぐる思考がズレてきたのにも気付かず、最後の一本を咥えた。
火を点けようとして…止まる。
──そもそもオレは、何で我慢してたんだ?
クソマリモ!!アホ眉毛!!と悪口雑言を掛け合う犬猿の仲である。
皆だって気付いていたみたいだし、「お前臭い」ぐらい、もっと早く言ってやれば──
いや、そりゃ人として不味いか?…だってオレってスーパーグレート名コックだし…
「ええい、もういいっ」
ライターを擦り、煙草に火を移す。
きっともう、あいつは近づいて来ないだろう。
あの耐えがたい、獣と男臭さが混ざった悪臭嗅がなくて済む。万万歳だ。
なのに一抹のわだかまり。
それの正体がどうしても解らず…煙草のカラを、ぐちゃりと潰した時、
「…おい」
渋い声が背中に当たった。
貴重な最後の一本が、煙を引いて海に落ちる。
「なん…だよ」
少し鼻声で答えたら、
「大丈夫だから、こっち向け。コック」
恐る恐る振り返る。
剣士が仏頂面で、階段の所に立っていた。
「…お前、風呂入ったのか?」
首にはタオルがあり、緑の短髪からは水滴が落ちている。
「ああ。マシだろ」
マシもなにも、流石に風呂直後は臭わないだろう。
「・・・・」
「・・・・」
見詰め合ったまま、微妙な空気と距離感。
業を煮やしたのは、コック。
「…こいよ」
「あ?」
「なんか話あるんだろ。遠いだろ、そこじゃ」
「…ああ」
裸足の足で近付くと、サンジは顔を伏せた。
後からの風になぶられた金髪がサラサラ散らばり、思わず目を奪われる。
「…すまねェ」
「は?」
今──幻聴か?
「身体的な欠点を、はっきり言うのは悪い事だった。すまねェ」
早口だが、喉から搾り出すような謝罪。
──あのコックが。
ゾロは当然落ち付かなくなる。
「まァ…臭かったのは事実だし…仕方ねェ」
再び、沈黙。
お子様達が騒ぐ声と、波の音だけが、風に乗って聞こえる。
「…コック」
「…なんだよ」
ゾロは腕組みをして、顔を上げない金髪男を凝視した。
「お前、何でもっと早く言わなかった?」
ギクリと、スーツの肩が跳ねる。
──クソマリモめ…
サンジは唇を噛む。
この剣士は、稀な船長とは違い、的確に核心を突く。
「いや…別に。我慢は得意だしな…」
「お、肩にゲジゲジついてるぞ?」
「ええ!?ぎゃああああああ!!と、取ってぐれ〜!!!!」
ゾロはニヤニヤしながら、飛び付いていたサンジを抱き止めた。
「…どこが我慢強いんだ?」
「ひいいいい!!い、いいから取れ!取れってばぁ〜!!」
「ウソだ」
耳元で囁く。
3秒後に、わき腹を狙った膝を、ガッと手の平で止める。
「…てんめェ…そのウソは万死に値すると思え…」
胸倉を掴まれ、怒りで燃え上がった片目を見返し、
「すきだ」
ゾロは告げた。
半目がまん丸になった。
やけに幼い顔だ。
ぶちゃけカワイイ。
これは──チャンスか?
滑るようにに顔を近付け、唇に──
即行“もも肉・シュート”でもかましてやれたハズだ。
なのに──動けない。
背まで回った強い両腕に捕らえられ、ゾロの熱い唇がより深く…
「ん…」
変な息が鼻から抜けて、耳まで赤くなるのを感じる。
──どうしたオレ!何流されてるオレ!早くこの不埒なマリモを…!!
だが、やはり動けない。
病気だ。重病だ。
めっちゃ身体が熱い。
きっと42℃はある。
だから──仕方ねェんだ。
出し抜けに舌が進入し、それに自ら絡めた。
くちゅぐちゅと、恥ずかしい音が耳を侵し始める。
それでも止められない。離れたくない。
──ん?離れたく…?
うっすら目を開けると、いつの間にか自分の手は緑の頭を挟んでいて…琥珀の瞳とぶつかった。
胸がいっそう高鳴る。
そうか。
──言わなかったのは、遠ざけたくなかったから。
本当はもっと、こうして──近付きたかった。
畜生。両想いかよ。
ちょっぴり、泣きたくなった。
股間が熱くなってるのにも。
悔しいので、腰を押し付けてみる。
げげ。
鉄が仕込んであるのかと思った。
「んんっ…!!」
流石に唇をずらして外せば、
「!?」
腰を掴まれ、グリリ!と鉄塊が半立ちのを押した。
驚きに見開く蒼い瞳に、ゾロは濡れた唇を細く開く。
「ヤりてェ…」
低い掠れ声に、ゾクリと総毛だった。
そして──
横抱きにされたサンジは、格納庫へ強制連行。
キスだけで酒が回ったような身体を、ゾロは堪らずに押し倒した。
首筋を嗅ぐと、海の匂いと…どこか甘い匂い。
染まる頬で何か言われても、そそる以上に意味を持たない。
力なく暴れる身体から服を剥いで、鎖骨も乳首もヘソもわき腹も舐めまくった。
ベルトを外し、ピョンと飛び出た可愛い奴を舐めようとしたら、
「ま、待てバカッ!!」
と余裕の無い声で頭を掴まれた。
「オレにも…させろっ…!」
白い手が器用に剣士のチャックを開けると、恐ろしいブツが出てきた。
掴んでも指が回らない。
それでもサンジはゾロの膝の上に乗り、自分のペニスと擦り合わせた。
「んくっ…」
「うっ…」
白い手の間から、ピンクと赤黒いモノが上り詰めていく。
透明な液が混ざり合い、ヤラしい音が大きくなる。
「あ、あ・・・ゾロ・・・もう、」
「クソッ・・・俺もだ・・・」
乱れた息で、唇を合わせた。
と同時に。
漏らした声は、お互いの口内で消えた。
サンジの白い手に、もっと白い粘液が滴り落ちる。
もちろん、若い身体がそれだけで済むワケもなく。
二人はそれから3回、アレコレして抜き合った。
たっぷりイッた後のサンジときたら、ふにゃりと蕩けた表情で、それはそれは愛らしかったので…
ゾロは堪らず、ぎゅっと抱きしめた。
「う…」
裸の胸で身じろぎするコックの、赤い耳に唇を寄せ…
「愛してるぜ…サンジ」
とびっきり、イイ声で囁いた。
「うう・・・」
力を緩めると、ガバッと上がった顔は真っ赤だ。
しかも半泣きでぐちゃぐちゃ…
照れやがって…カワイイ奴めと悦に入る剣士に、サンジは───
「やっぱり…臭ェええええええ!!!」
「────」
ズボンだけ履き、猛烈な勢いで出て行った。
──汗、かいたもんな。はは…あははは…は…
一人残された剣士は、再び床と親友になったのだった…
***
それから3日後。
ようやく島に上陸したメリー号。
船医は染物が盛んなその島で、結ばれた直後に冷え切ってしまった野郎二人に、画期的なモノを見つけた。
「アルム石っていう、ミョウバンの結晶だ!!ワキガに効くんだぞ」
それを付けるようになってから、悪臭剣士の匂いは、だいぶなくなったという。
でもやっぱり、汗をかくような事をすれば、多少は匂うワケで…
──…嘆かわしい事、この上ねェが…
いつの間にか、受け入れる側になっちゃったサンジ。
「う…あ…ああ…」
ガンガン揺さぶられ、堪らず太い首にしがみつく。
濃密になる剣士の体臭に、
──…クソ興奮しちまう。
首筋に鼻っ面を押し付けて、ちょっぴり深呼吸してみたのだった──
おわり
とうとう、新たなパターンが登場してしまいました!
・・・悪(臭)ゾロ・・・
こっちで来たか!こっちで来たか〜〜〜〜〜orz
素直に笑わせていただきました。
そうか、ゾロ臭いんだ。サンジ我慢してたんだ。
ロビンはクロコダイルの加齢臭に耐えてたんだ(大爆笑)
いろんな意味で突っ込みどころ満載の【悪】ゾロ。
範囲の幅が広がって嬉しい(真顔)
んでも、鼻はすぐ慣れるからね。
結果的にゾロのフェロモンで欲情するくらいにまでなるんだから、慣れって怖いよね(にっこり)
すっかり楽しませていただきました、ありがとうございました〜v
