合コンクラッシャー
「う〜ん。どうもイマイチ、男連中の集まりが悪いわね〜」






学食の、テーブルで。
シャープペンの後ろで ガリガリ額を掻くナミに、同席していた女子一同が、一斉に顔を上げる。






「こうなったら…仕方ない。サンジくんを呼びましょうか」
「えええ!」






女の子たちの、抗議の声に。
傍に座っていたゾロが、驚いて、コーヒー牛乳を口から噴き出しそうになる。







「サンジくん!?ダメよ!ダメダメ!」
「そうよ、ナミさん!サンジくんなんて呼んじゃったら、太刀打ち出来ないじゃない!」
「あの気配りに、適うコがいる?勝てっこないわよ!」
「そうよ!ムリムリ!」
「絶妙にツンデレだし、しかも可愛いし!男連中、みんなサンジくんに食いついて終わりよ!」
「大体、あんなに上手に 西野カナを歌って、イヤミにならないコなんて サンジくんより他にいないんだから!」
「そうよぉ〜!」
「おだまり!」






ぴし!と、ナミの声が響いて。
女子たちが、ぴた、と静まり返る。






「大事な、クリスマス前。聖夜をひとりで過ごしたくないというアンタたちの必死な思いは、私にもわかってるわ。
でもね。合コンは、参加費を取れる男が集まってこそナンボ。私は、慈善事業で合コンを企画してるわけじゃないの。
おわかりかしら?」
「…ハイ」
「ほら、予鈴が鳴ったわよ。とっとと授業に行ってらっしゃいな」
「……ハァ〜イ」







ナミの声に促され、女子たちが 渋々と席を立っていく。
ひとり、テーブルに残って。
尚も う〜ん、と首を捻るナミに、何気なくゾロが声を掛ける。







「なあ、ナミ」
「なに?」
「サンジ、って。…オンナだったか?」
「はあ?何言ってんのアンタ」
「あ、いや。今、オンナたちが、男連中はみんなソイツに食いつく、とか言ってたから」
「…ああ。サンジくんは男よ、アンタも知っての通り」
「……だよなあ」
「でもね。あのコたちの言ってたことも、本当。サンジくんて、女子の間じゃ、何て呼ばれてるか知ってる?」
「…、いや」
「“合コンクラッシャー”」
「“合コンくらっしゃあ”??」
「…、そうだ。ねえ、アンタ。今度の合コン、参加してみない?」
「あ?なんでオレが」
「“合コンクラッシャー”、見てみたいでしょう?」
「別に、さして興味はねェけど」
「いいじゃない。参加費、千円引きにしてあげるわよ?」
「ええっ!?値引きなんてすんのか!?テメエが!?」
「…、なによ。嫌なら、ムリにとは言わないわよ」
「いや待て。テメエのセッティングは、いつも なかなかのモンだからな。千円引きでいくつだ」
「よっつ」
「食いもんは?」
「着席式のオーダー制食べ放題」
「飲み放題か?」
「当然」
「ポン酒あり?」
「勿論」
「のった!」
「毎度!」







ナミと、ゾロの手が伸びて。
テーブル越しに、ガシッ、と 固い握手が交わされた。








********







「まさか、アンタが合コンに参加するなんてなあ〜」
「意外だな。あんまり、そういう印象なかったよ」
「そうか?」







複雑な表情を浮かべながら 話しかけてくる、よくも知らない男たちを 適当にあしらいながら。
『座席くじ』を手に、ゾロがキョロキョロと 自分の席を探す。







「『6』番、つうと…此処か」
「え、ロロノアくん『6』番?おい、おまえは?」
「『2』番だ。おまえは?」
「オレは『4』番だ。あとは、『1』か『3』か、『5』、『7』…」
「オレ、『3』だ」
「オレは『5』だぞ」
「ええ!じゃあ、両端のどっちかか!」
「…なにが?」







まだ、女子も揃ってねェうちから何なんだ、と、訝しげな顔をするゾロの耳に。
どよっ、とどよめく、男たちの声。







「よっ、こんちは!ちょっと、遅くなっちまった」
「…来た!」







キラキラと、無駄に綺麗な金髪を煌めかせて。
噂の『合コンクラッシャー』が 姿を見せる。
白いVネックのニットにジーンズ、黒いショート丈のダウンジャケット。
現れただけで、パッ、と場が華やぐ何かを。
確かに、この男は 持ち合わせている。







「…サンジだ!ホントに来た!」
「よしっ、さすがナミさん!」
「ちっ、ギンも一緒かよ。いっつも 引っ付いてやがって」







ギン、というのは、サンジの裏手にぴたりと張り付いている、陰気な顔をした男のことだろう。
浮き足立った、男たちの様子を 気にする素振りもなく。
サンジの ビー玉のような蒼い瞳が、くるり、とその場を見渡す。







「なあなあ、テメエら もう、席順くじ引いた?オレ、7番だったんだけど」





サンジの声に、男たちから、口々に『ぐお!』とか『ぐあ!』とかいう悲鳴が起きる。
一番大きな悲鳴は、どうやら『1』番だったギンのものであったが、サンジは 気にとめる様子もない。







「おお、オレ、端っこ?隣、だれ?」
「…オレ」
「お!有名人じゃん!ハジメマシテ、マリモ剣士くん!」
「誰がマリモだコラ!」
「ハハッ、まあまあ。今日は よろしくな?サンジだ」
「……おう。ロロノア・ゾロだ」








にっこりと、綺麗な顔に笑いかけられて。
ゾロは こっくりと頷きながら。
前もって、ナミから渡されていた 座席くじを手に。
男たちの羨望の眼差しを一身に集めながら、サンジの隣へと腰掛けたのだった。








******








――…なるほど。
なるほど、コイツは…――
“合コンクラッシャー”、だ。







「やだなぁ、エリナちゃ〜ん。オレのハートは、キミだけのモノなのにィ〜」






どうやら、メチャメチャ女好きで、根っからのフェミニスト。
そんなサンジは、今だって。
どう見ても、目の前に座る『エリナちゃん』のことしか、眼中にないように見えるのに。







「あ」







ゾロが苦戦していた、ほっけの塩焼き。
ひょい、と手に取ったサンジが、エリナちゃんとの会話を続けながら、あっという間に 綺麗にほぐして、
ゾロの前へと さり気なく皿を戻してくる。
コレは美味いな、と、ゾロが気に入って食べていた、青柳のぬたも。
皿が空になる頃、お待たせしました、と おかわりが運ばれてくる。







「オレ、頼んでねェぞ?」
「ああ、オレ、間違って頼んじまったんだ。良かったら、食って?」







――…絶対、に。
ゾロのために、頼んでおいてくれたに違いない。







「エリナちゃん、グラス空きそうだよ。何か飲む?」
「えっとォ…じゃ、モスコミュールを」
「すいませ〜ん!モスコミュールと、あとジントニックひとつ。ロロノアは、どうする?」
「あ、え?オレ?」
「とっくり、そろそろ空だろ?もう1本つけてもらうか?」
「あ、ああ…おう」
「じゃあ、熱燗をもう1本お願い」
「かしこまりました〜!」






なんだろう、なんだろう。
何か、ものすごく 世話を焼いてもらってる。
なのに、全然、押しつけがましくない。
女子が、『私って気が利くでしょ?』アピールも盛大に、見え見えに手や口を出してくるのとは 訳が違う。
ものすごく、嬉しい。
そして、気分がいい。
この気持ちは、…そう。
――…優越感、ってヤツだ。








「ありがとな」








そう、口にしてみれば。
蒼い瞳が、驚いたように丸くなった後。
白い頬が、ほんのりと赤らんで。
紅い唇に、ふんわりと 柔らかな笑みが浮かぶ。








「どう致しまして」







(ぐお!!)








恐るべし、“合コンクラッシャー”は。
その瞬間、ゾロのハートをも 粉々に打ち砕いたのだ。








*******









「なあ。メルアドの交換しねェか?」
「テメエと?なんで?」
「また、合コンがあったら、おまえにも声を掛けてやる。オレぁ結構、レベルの高い合コンに、呼ばれたりすっからよ」
「マジか!やっぱり、全国区の剣士ともなると違うよなあ〜!仕方ねェ、呼ばれてやるから携帯貸せ!」
「おう」
「赤外線ドコ?これ」
「ココだ」
「あ、ホントだ」







顔を近づけ、至近距離でやり取りし始めたふたりの姿に、男たちはヤキモキ顔だ。
特に、今にも泣きそうな表情をして、一番遠い席から 尻を浮かしかけているギンは、
席を立とうとするたび 強引にナミから話を振られ、立つにも立てず、ナミにも逆らえず、
完全に 半泣き状態に陥っている。







「…うし。これでOKだ」
「よ〜し。じゃあ、連絡 期待してるぞ?」
「とりあえず、クリスマスの予定は?」
「うん?クリスマスは、実家でバイトだな」
「なんだよ、色気ねェなァ」
「悪かったな、オレんちはレストランなんだよ。クリスマスが、一年で一番混むんだ」
「そうか。じゃあ、オレもクリスマスは、おまえんとこに メシ食いに行こうかなあ」
「えっ」







びっくり、と蒼い瞳を丸くして。
サンジが きょとん、とゾロの顔を見る。








「テメエこそ、クリスマスの予定ねェの?彼女は?」
「いねェ、そんなの」
「何だそれ。どっちが色気ねェんだ」
「だからよ。クリスマスの夜、レストランが閉店したら、ふたりで合コンしねェか?」
「え?」







更に 大きくなった蒼い瞳が、ニヤリと笑って。
サンジの白い指先が、ゾロの額をピン、と弾く。






「マリモちゃん。“合コン”の意味、知ってんのか?」
「ん〜、“強引に、今晩どう?”の略?」
「ぶはは!アホか!」








縺れるように、笑い転げるふたりの姿を見つめながら。
男連中は、涙を呑み。
その内 約1名は、嗚咽を堪えながら、涙を流し。
女子たちは、どうやらこれで、“合コンクラッシャー”も落ち着いてくれるかも、と 淡い期待を抱き。


そして、ナミは。
思惑通りにコトが運んだことに、してやったりな表情を浮かべながら。
ゾロから、いったい いくら仲介料をふんだくってやろうかしら、と。
内心 にんやりと笑いながら、アタマの中で、パチパチと算盤を弾き始めたのであった。








end


(2011/12/11)








にあ様宅から強奪してきました!
もう、このサンジもゾロも大好き。
にあちゃんちの二人はどれも大好きだ-!!!