常し方

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「食堂」までは、離れから飛び石を辿って庭を散策しながらの道程だった。
所々に生け垣が設けられ、巧妙な目隠しが施されている。
食堂自体も完全個室で、入り口はそれぞれにあるらしい。
フロントでチェックインして以降、他の客とは一度も出くわしていない。
「なんか、すごいとこだな」
質素に見せ掛けてその実意匠を凝らした調度品に囲まれ、サンジは畏まって掘り炬燵に足を下ろした。
二人で丁度いい広さだ。
遠くで賑やかな声も洩れ聞こえるから、大部屋もあるのかもしれない。
「完全にプライベート、守られるんじゃね?これ」
「昔から“お忍び宿”として使われてたらしい」
「へえ…」
サンジには馴染みのない単語だが、なんとなく意味はわかる。
男同士で温泉泊の身の上としては、実にありがたい環境だ。


夕食込みのプランらしく、すぐに食事が運ばれて来た。酒は飲み放題とのこと。
それでは宿に気の毒ではないかとサンジが心配したら、ゾロは何かを思い出して笑った。
「ここは姉貴が贔屓にしてるからな。弟だと言ったら、大変申し訳ありませんがと1時間制限にされたぞ」
「ええ?」
それはつまり、ゾロのお姉さんですでにこの宿は大打撃を受けていると、そういうことか。

話している間にもどんどん料理が運ばれて来た。
頃合いを見て少しずつ運ぶのではなく、先にすべてを運び終えてしまった。
この後は必要最小限の出入りしかしないらしい。
プライベートの邪魔をしないことに徹底している。
「ご用がありましたら、お電話でお知らせください」
仲居さんがきっちりと挨拶して帰った後、それじゃあまずは一杯とゾロが徳利を持った。
自分は最初からコップ酒だ。


「乾杯」
「…ゾロ」
さっさと杯を交わして口元にグラスを当てたまま、ゾロはん?と目線だけ上げる。
「誕生日おめでとう」
まだ少し早いけど、と呟くと破顔した。
「そういや、そうだったな」
「せっかく温泉来たし、一緒にお祝いできたらって…」
ケーキはないけど。
そう言って徳利を傾ける。
ゾロはぐいっとコップを空けてサンジの酌を受けた。
このペースでは例え1時間制限でも宿には痛かろう。

「思い出すな、去年の誕生日」
「バラティエに行ったんだよ」
「突然来てさあ、めちゃくちゃ驚いた」
雨の中、いるはずのない人の姿を見付けて。
「お前のこと考え過ぎて、幻見たのかと思った」
ゾロは徳利を傾ける手を止めて、まじまじとサンジの顔を見た。
最初の一口で酔いが回ったのか、桜色に染まっている。
「俺のこと、考えてた?」
「おう」
「いつから?」
「さあ、いつからだろうなあ」
とぼけた返事をしながら、あ、これ美味いと皿を突ついて食事を楽しんでいる。
ゾロ自身、いつからサンジのことを想い出したのか遡って考えてもよくわからなかった。
どこかできっかけがあったような、初めて会った時からのような…

「あったかいものは温かく、冷たいものはそのままでって、それなりに工夫してるのな」
サンジはもう料理に夢中で、独り言を呟いては舌鼓を打っている。
「料理もなかなかのもんだ。お姉様、すごいとこ知ってらっしゃるんだな。もしかしてお前んちって、金持ち?」
ストレートに聞かれて、苦笑しながらいやあと首を振る。
「会社勤めん時に偉いさんの愛人してたんだとよ。そいでこんなとことか、色々勉強させてもらったらしい。三年程で
 関係解消して、後で公務員の旦那捕まえて今は奥さんで収まってる」
しれっと答えて、サンジの猪口にトクトクと熱燗を注いだ。
「ふ、う〜ん…」
何もコメントできなくて、ただ杯を煽る。
辛口の酒が喉に染み入るようだ。





いい感じに酔っ払ったサンジを抱え、部屋に戻った。
酔いがすぐに足に来るのか、ぐなんぐなんだ。
ゾロの肩に掴まって「お姉様最強〜」と呟いている。
「ほら、水でも飲め」
冷蔵庫に清涼飲料水があったがこの状態では危険なため、とにかく水を飲ませた。
窓を開けて夜風を通すと、すぐに室温か下がり清かな空気に満たされる。
「あ〜…きれーなつきー」
留守の間に敷かれた布団の上にひっくり返って、サンジは逆さまの窓から月を見上げた。
「針みてえに尖って細いのに、すげえ光」
「明るいな」
煌々と照る月の下は真の闇。
乾いて色付いた葉のざわめきと、露天から立ち上る湯煙が重なる。

「ふろ〜いきて〜」
「もうちょい休んでからな」
あやすように抱き上げて、半纏の上から軽く背中を叩いてやる。
ゾロの胸に熱く火照った頬を押し付け、サンジはふうと深く息を吐いた。
「贅沢だなあ」
「そうだな」
ゾロの懐に抱かれて眠ると、このまま溶けてしまいたくなる。
ぐずぐずと溶けて染みて一つになれたら、どれだけ幸せなことだろう。

「そうだ」
急に思い出した。
というか、これが第一の目的だったのに忘れるとは何事か。
「お前に、プレゼントがあるんだ」
サンジはぴょこりと頭を上げ、ゾロに腰を抱かれたまま身体を捻って手を伸ばし鞄の中を探った。
大事そうに袋に包まれた中から、小箱を取り出す。
「誕生日プレゼント」
はい、と手渡したのは赤いリボンが掛けられた、手のひらサイズの箱だった。
「俺に、か?」
「他に誰がいる」
驚きに目を丸くしているゾロの表情が可愛らしい。
次なるリアクションを楽しみにして、サンジはニコニコしながら催促した。
「開けてみろよ」
「ああ…ありがとう」
誕生日プレゼントなんて、何年ぶりだろう。
カフスボタンか、ネックレスか?
時計にしては重さが足らないし、ネクタイにしては小さ過ぎる。
そもそも現場仕事に装飾品もオフィスグッズも向かないだろうが…と、やや不安に思いながら包みを解いて―――
固まった。

「なんだ?」
出てきたのは薄いピンク色のチューブ。
ひっくり返して見れば医薬部外品。
「おま・・・これ・・・」
これって?
更に大きく目を見開いて、間抜けとしか形容しえない顔で振り返ったゾロに噴き出した。
「俺からのプレゼント、使ってくれないかなあ」
赤く火照った顔に、いたずらが成功した子どもみたいな笑みを浮かべてサンジが抱き付いて来た。
「いい、のか?」
「プレゼント、受け取っておいて今さら何言ってんだ」
それはもう、もっともだ。
だがしかし、一体どうやってこんなもの手に入れたのか。
そもそもこんな知恵いつ付けたんだ。
確かちょっと前までは小学生以下の知識しかなかったはずなのに・・・

色々と問い詰めたくなったが、サンジからの熱烈なキスを受けてそれ以上考えるのは止めにした。





酒は催淫作用があるのか、サンジは酔うと大胆になる。
ゾロの首根っこに噛り付き、夢中で唇を吸いながら片足をゾロの太股に擦り付けた。
割れた裾の間から真っ白な太股がにょきりとはみ出て扇情的だ。
これは抑えが効かんと唸りながら、拙くも激しい口付けに答える。
半纏の上から背中をまさぐり、浴衣の襟元を肌蹴させた。
ちらりと覗く乳首を指で捏ね、首元にキスを落としていく。
片肌を脱いだサンジはゾロの頭を抱えるようにして小さく喘いだ。
「ん・・・も・・・」
二人縺れるように布団の上に倒れ込むと、手だの足だのを絡めながらお互いを撫で合う。
サンジの乳首に吸い付いてあちこちに歯を立てながら、滑らかな肌の感触を楽しんだ。
ゾロを足の間に挟み、サンジの手がごそごそとゾロの腹の下辺りを探る。
「―――ん?」
見咎めてゾロは身体を浮かした。
サンジはゾロに乳首を弄られてる間に、自分の両手で己を慰めようとしている。
「こら」
「ふへ?」
慌てて手首を掴めば、サンジはきょとんと目を丸くして首だけ擡げた。
「なに?」
「ダメだ」
ここまで来て、自分でして果ててもらっては堪らない。
ゾロは断固として許さず、両手を戒めるように布団に押さえ付ける。
「今夜は俺がとことん弄るんだ、自分ですんな」
「えええ?!」
当然のごとく沸いた抗議はすぐに唇で塞がれた。
「・・・んやだっ、やっ・・・」
サンジの両手を押さえ付けたまま、ゾロは股間に顔を埋めてすでにいきり勃った可愛いものを口で丹念に愛撫している。
先ほどからこぷこぷと愛液を溢しているそこは、すでに限界に近かった。
そうでなくても覚えたての自慰に溺れるほど快楽に弱いのだ。
こんな風にゾロの口であれこれされては、サンジの忍耐はさほどもたない。

「や・・・いく、もう、いく・・・」
「まだダメだ」
放っておくと、ゾロが舐めるだけで本当にイってしまうだろう。
それを恐れ渋々顔を離して、咎めるように半泣きのサンジの頬に噛み付いた。
「もうちょっと、辛抱しろ」
「・・・む、り」
その間にも、こぷっと露が溢れている。
平らな腹がヘコヘコして、何もしなくてもイってしまいそうだ。
「いっぺん、イっとくか」
さすがに気の毒になって手を伸ばした。
その腕を掴み、サンジはふるふると首を振った。
「いい、俺いいから―――」
俯いたまま、伸び上がるようにしてゾロの腹の方へと頭を下げた。
「俺も、する・・・」
震える両手で浴衣の裾を掴み、何かが突っ張っている部分をぐいと開いた。
端から見ても、下着の形が変わってしまっている。
サンジはごくりと唾を飲み込んで、慎重な手つきでトランクスをずらした。

「う、わ・・・」
絶句してまじまじと見られては、ゾロとてなんだか居心地が悪い。
とは言え、息子は立派に臨戦態勢だ。
今まで散々お預けを食らってきたものを、とうとう出番かと思うと気が逸るより先に勃つ。
サンジはそんなゾロ(の息子)をじーっと見つめ、ぽつりと呟いた。
「・・・やっぱり・・・」
なにが?!
動転するゾロに構わず、意を決したようにがしっとそれを掴んだ。
多少力が篭もり過ぎているとは言え、ゾロにしたら愛しいサンジの手の熱さだ。
むしろ強いくらいがちょうどいいほどに気持ちがよくて、電流でも流れたかのようにビビっと来た。
「お、お?」
期待に胸を膨らませる中、サンジはピンク色の舌をおずおずと伸ばして先っぽをちろりと舐めた。
一瞬顔を顰めてから、大きく息を吸い込んでそのままはむっと口に咥える。
「おおおおお!」
ゾロは腹筋に力を込め、迂闊に暴走しないよう踏ん張った。
まさかよもや、こんな日が来ようとは。
サンジが、あのサンジが自分のモノを咥えている。

着崩れた浴衣をまとい、肩を肌蹴て太股も露わに扇情的な姿のまま四つん這いでフェラチオしている。
夢にまで見た光景。
これで後1年はおかずに困らない!
あまりの感動に咽び泣きそうになりながら、ゾロはいやいやと己を叱咤した。
これからはおかずなんかいらないんだ。
頭の中のおかずだけじゃなくて、このままそっくりいただいてしまってもいいのだ。
なんせ、誕生日プレゼントなのだからして。

「ん、ぐ・・・」
サンジがゾロの下で呻いた。
口の中のモノがぐんと質量を増して、圧迫してきたからだ。
すまないと思いつつ、もうゾロは止まれなかった。