Cherry blossom
書きかけの書類から視線を上げ、普段はボトムに突っ込んでいる懐中時計で時間を確認する。
「もうそろそろか」
家庭教師に行っている家の近くは喫茶店が多く、時間を潰すには打ってつけだった。
その中でもお気に入りなのが紅茶を上手く淹れてくれる店で、目下のサンジの安息の地だ。
大学と実家でのバイトを兼ねた手伝い。
それとは別に今は家庭教師のバイトを1つ。バイトの一環ではあるけれどサンジの目指す職種とは畑が違う。
何故そんなバイトをすることになったのかと問われれば話は簡単、友だちのバイトのピンチヒッターで行った先で
肝心のガキとその家族に気にいられてしまったのだ。
バイト代も破格の扱いでその時、付き合っていた女性に貢いで金欠気味だったサンジはクソガキの麗しい
ご母堂様の困惑顔を前に生来の女好きがアダとなってカテキョを引き受けることを快諾してしまったのだった。
最初は、ただそれだけだったのだけれど。

あとで友だちにはバイトを盗ったと散々文句を言われたし、当のカテキョの相手は可愛げのカケラもない
クソガキだしで結構凹んだ時期もあった。
これがせめて女の子、レディ予備軍だったら良かったのに・・・と思ったのはそのクソガキのデキの悪さを
つくづくと思い知らされた時だった。

クソガキの名前はロロノア・ゾロという。

『どう考えてもこれは、小学生の勉強からやり直さなければ無理だ・・・』
サンジが作った基本の基本たる小テストを白紙のまま「解からねえ」と突っ返してきたふてぶてしいガキに
怒りの鉄拳を篩いかけるのを自粛するのに精一杯だった記憶さえ、まだ昨日のことのように思い出されるの
だから自分の執念深さに呆れもするけれど。
「何が解からねえ?」と訊くサンジに「俺そんなもん習った覚えがねえ」と返されたのだ。
話を聞けば、ずっと剣道に夢中で稽古に明け暮れて過ごし、授業中はほとんど爆睡してやがったという。
その生活態度もどうかと眉が寄ったがゾロから話を聞くうちに教師たちも教師たちだとサンジは思った。
小・中を通じてゾロが授業中に寝ていても誰も叱りつけたりしなかったのだというのだ。
どうやら全国大会やらなんやらの大きな大会で学校の名前を揚げた名手として讃えられてさえいたと聞くに
至ってサンジは現在の教育現場のズサンさを垣間見た気がして背筋を凍らせた。
誰も。教育現場の指導すべき大人たちの誰一人として、この子の将来を考えてやらなかったことになるでは
ないかとサンジは憤った。


故にサンジは中学3年生のクソガキ相手に小学校からの勉強を教えるハメに陥ったのだった。
中学3年生なんて高校受験までの、たった1年弱と限られた期限の中で小学校からの勉強を詰め込まなければ
ならない状況を打破するためにサンジはスパルタ指導に徹していた。
クソガキは「鬼っ!」とも「悪魔っ!」とも呼ぶがサンジは敢えてそれを無視して授業を続けた。
ことあるごとに悪態ばかり吐くから「文句があんなら俺を見返してからにしろ」と罵り返し、時には必殺の蹴りを
見舞ったことも数え切れないくらいある。その都度、結構、本気の蹴りを見舞っていたから親御さんから苦情が
出なかったのは救いだった。
4月に始まったゾロとのマンツーマンのバトルで11月も終盤を迎えつつある頃にやっと中学3年生の問題にまで
漕ぎつけた自分の努力を褒めてやりたいとサンジは自画自賛に酔った。
「この際、クソガキの努力は眼中から削除だ、削除」とさえ思っている。なんせ自業自得なのだ。
まあ確かに素材は良かった。教えれば何でも直ぐに吸収して自分のモノにしていくのだから教え甲斐もあった。
サンジが教え始めてゾロの成績も格段に良くなり、両親を始め家族全員から感謝の意を表され、訪問を歓迎された。
その温かな歓待ぶりに気分がいいことも手伝ってか、最近ではカテキョに赴くことを、さほど面倒には思わなく
なっていたのだ。そう、つい最近までは。





それが変化したのはまだ一週間も経たない、ほんの数日前のことだった。





「そろそろ受験用の勉強に取りかからないとな」
告げるサンジの向こうで机に向かっていたクソガキが椅子ごと振り返った。
「ん、なんだよ?」
じっと見つめてくる視線にサンジは意味を掴み損ねて問うた。
「受験」
「おう、年が明けたら本番まで直ぐだしな」
母親の話では既に志望校は決まっているらしかった。
サンジはこの辺が地元というわけではないから学校のレベルのことなどはよく判らないけれど母親の様子からは
ゾロの志望校に関しては文句のつけようがないらしかった。
実際、志望校の話をした時には「ゾロがあの学校を志望できるくらいに成績が上がったのは先生のおかげです
から!」とまで言ってもらった。そしてボーナスだと金一封をいただいたのだ。
そんなことを思い返しているサンジにゾロが手を差し出した。
「合格したら祝いくれ」
相変わらず不遜な態度のゾロにサンジは苦笑いを浮かべた。
「それが人にモノを強請る態度かよ」
むっと口がへの字に曲がるのは容易に希望が通らない時の、こいつの癖みたいなものだとサンジは知っている。
「で、何かほしいもんでもあるのか?」
高価すぎたら手に負えないけれど自分の賄える範囲でなら祝い事だし、初めて教えた子でもあるから希望を
聞いてやりたいと思った。だから、そう問うた。のに。
「てめえ」
たった一言そう返されてサンジは「へ?」と唇に煙草を貼りつけたままマヌケ面を曝してしまった。
目の前でゾロが俊敏な動作で椅子から立ち上がり、サンジに猛進してきたと思った時には腕の中に抱きとめられて
唇を塞がれていた。
取り上げられた煙草がゾロの手の中でグシャリと折れ曲がるのを、いっそ他人事みたいに不思議そうに見ていた。
「・・・ぅ、んっ」
きつく吸われ、喉から喘ぐような声が出た。
尚、深く重なろうとする唇と、抉じ開けようとする舌先を感じてサンジは我に返って暴れだした。
あっさり離れた躯の温もりを淋しく感じたのは何故だろう。
けれど現実には、そんなことには構っていられなかった。
「クソガキが何しやがるっ!!」
はあはあと忙しなく息を吸って新鮮な空気を肺に送りながらサンジは怒鳴った。
涙目になっている自覚はあったけれどガンを飛ばして睨みつけた。
けれど問題行動の当の主は口の端に笑みを浮かべて平然としていた。
「今のは味見。3月には丸ごといただく」
「はあああああああああああああ?」
(クソガキの言っている言葉の意味が解からない。真剣に理解できないっ)
煙草の吸いすぎで脳細胞が死滅しちまったんだろうか?とまで困惑した。
サンジは脳内が「?」マークで埋まっていくのを止められなかった。
(味見って何のだ?こいつは何の味見をしたっていうんだ?)
あまりの困惑のために独特の眉尻が更にトグロを巻いた気がする。
「・・・いただくって何をだ?」
想像するだに恐ろしい気もするが確認のために訊いた。
「てめえを丸っと喰わせてもらう」
堂々と胸を張られてサンジは愕然とした。
(てめえって俺のことだよな、たぶん。・・・俺って名前の食材なんてあったっけか?)
暫し空想の花畑の中でいろんな食材を思い浮かべて現実から逃避する。
(ああ、世の中には未だ俺の見たこともない知らない食材がたくさんあるんだなぁ・・・)
もう少しで天国のドアまで辿り着けそうだと思ったところを「おいっ、」という無粋な男の低い声に邪魔されて現実へと
突き戻された。
「・・・んだ、お前かよ」
再び空想世界へ飛び立とうとするサンジを強い力で引く腕に「え・・・?」と思った時にはベッドの上に押し倒されていた。
ゾロの顔が間近に迫っていて花畑も天国のドアも瞬時に霧散した。
「な、にっ・・・」
「そんな無防備なツラしてんじゃねえよ。キスだけでやめておくつもりだったのに止めらんねえだろ」
「え、え、え・・・」
中学生で身長だって、まだサンジの肩を超えたくらいなのにゾロの力は強かった。
上から圧し掛かってきてサンジの首筋に顔を埋め、そこを強く吸われた。
「いっ・・・」
痛みに声が出た。
「肌が白いと簡単につくな」
ニッと笑われて、それがキスマークのことだと気づいて顔が火照る。
「離せよっ」
「悪いようにはしねえって」
抗議にさえ、クソったれなマセガキは余裕で返してサンジのシャツの釦を案外器用に肌蹴ていった。
デカい掌が白くて薄い胸に触れる。手指が何かを探す素振りにゾクリとしてしまう。
小さな突起を探し当てた手指がそれを摘まむから自然、躯が反応する。
「つっ・・・ぁ・・・」
「コレ感じんだ?」
嬉しそうな声が落ちてきてサンジは羞恥に頬を染めた。
次いでその尖りを温かい舌で舐められてビクリと躯が強張った。
「ひゃっ、あっ・・・あ、やめっっ」
「聞けねえな。てめえが諦めろ」
左右の乳首を手指と舌で弄ばれ、サンジはやめてくれと声を振り絞ったが無視された。
散々嬲られて喘ぎ声を噛み殺せなくなってきた頃、いきなり股間を鷲し攫まれて仰け反った。
「くっあああっ」
「へえ、ココこんなになってんじゃん」
本当は気持ちいいんだろ?と嬉しそうに囁かれサンジは羞恥のあまり消えてなくなりたかった。
生徒に押し倒されて兆してきている自らの股間の不甲斐なさにクラリと眩暈を覚えた。
(カテキョ先の教え子にこんなことされて、おっ勃ててる俺って・・・)
道徳心と貞操観念の鬩ぎあい、葛藤する中で強張るサンジの痩身を宥めるかのように優しい手が頬に触れた。
「・・・ま、あんまイジメても後々困っから今日は気持ちイイことだけシてやるよ」
「へ?」
またしてもゾロの言葉の意味を理解できず茫然と視線を上げたサンジは次の瞬間、小さな悲鳴を上げた。
「ひあああああああっ」
一瞬、己が股間にマリモが咲いたかと見間違えたが違った。
クソガキもといゾロが、こともあろうにサンジの可愛い愚息を咥えていた。
「やめっ・・・離せっ!」
抗議の声を上げつつ、緑色の頭を鷲攫んで引き離そうとしたら「暴れたらコレ、噛み千切んぞ」などと恐ろしい
物言いで嚇された。
こいつならやる。噛み千切れないまでも、きっと大事なモノにキズがつくことは想像に難くなかった。
下手をするとこの先一生、使いものにならなくなってしまうかもしれない・・・
レディとイイことができなくなるなんて絶対に嫌だったサンジは言葉を飲み込んだ。
お大事なモノを人質に捕られては安易に反論もできやしない。
「・・・つっ」
「それにあんまり暴れたら不審がって母さんたち来ちまうぜ。いいのかよ」
悪辣そうな嗤いを浮かべたクソガキの強気な視線を受けてサンジは、もはや何も言い返せなかった。



そのあとはゾロの好き放題、し放題だった。
しかも、このクソガキは咥えながら器用に喋るのだから堪らなかった。
「すげえ溢れてきてんぞ。いいのかよ」とか「そろそろイキてえんじゃねえのか」とか、とか。
一々、確認をとるように羞恥を誘発する言葉を吐くものだからサンジは恥ずかしいのと気持ちいいのと、我慢を
強いられているのとで頭の中が沸騰しそうだった。
これで脳みそがボイルドソーセージになったらどうしてくれる?と腐れた思考の海で方向違いにも罵った。
(こんなんでもクソガキは俺の生徒だ)
今にもイキそうになるのを最後の矜持で持ち堪えていた。
そんな必死に堪えているサンジに焦れたのか、ゾロの追い上げが激しくなった。
棹を輪っかにした指で擦りながら鈴口に舌を突き立てて抉るように抉じ開けるから必死に噛み殺していた声が
自らを裏切って「ひうっ」と短い悲鳴と成って漏れてしまった。
ニヤリと嗤う気配がした。
舌先で更に激しく鈴口を弄くりまわされて「あっ・・・やあぁっ、ふ、うあんっ」と大きく喘がされた。
最後の最後に強く吸われて、とうとうサンジの防波堤は決壊した。
「やあああああああああーっ」
嬌声を上げ、浅ましく白濁を放出するサンジの先端をゾロは最後の一滴までを搾りとる勢いで吸い上げた。
「あああああああああああっ・・・・・」
射精の余韻を引きずりながら尚、与えられる快楽に嬌声が止まらなかった。
全てを飲み干したゾロが顔を上げ、ニヤリと嗤ったのをサンジは直視できずに顔を背けた。
脱力しきった躯をベッドに横たえて肩で息をしている現状で尚、口惜しそうな貌で唇を噛みしめている姿にこそ
ゾロがそそられているなど、お気楽な金色のアヒルには理解できていないのだろう。
『ほんとにこいつは美味そうでいかん』
早く自分のモノにしてしまわなければ誰かに盗られてしまうと気持ちが切迫してしかたがなかった。
だから追い詰める。どこにも逃がさないためにサンジの逃げ場を一つ一つ塞いでいくのだ。


「俺のフェラよかっただろセンセ」
こんな時に急に先生呼ばわりされてサンジはカッとなった。
しかも「フェラ」ときた。中学生がなんちゅう言葉を吐くんだ!とサンジはむかっ腹が立った。
「アホッ、ガキは真面目に勉強に励みやがれっ!」
「ちゃんとしてんだろ。学校のもナニのも。どっちのベンキョも大事だしよ」
「なっ・・・」
絶句するとは正にこの状態を指すのだろう。
反省の色の一端さえ垣間見えないゾロに開いた口が塞がらなかった。
「・・・そういや・・・てめえなんで、そんなに慣れてんだ?」
恐る恐る訊くとゾロが「ふふん」と鼻で嗤ったのが見えて腹の底が不快に燻ぶった。
「そりゃあな、ピロートークってえの?寝物語にいろいろ聞かしてもらったからなぁ」
「って、お前・・・」
誰に何を聞いてきたのやら。サンジは青ざめた。
「今まで寝た女たちは皆しゃべり好きだったから後学のためにって、いろんなこと教えてくれたぜ」
「・・・・・・お前、初体験いつだ?」
「ん?ああ。えーっと13かな。中学入ってすぐだった」
それだと正確にはまだ12歳だろう。ゾロの誕生日は秋 ― 11月だ。
(なんだとおぅ?そんなに早くかよっ!けど、それって今の世の中では淫行って言うんじゃ・・・)
犯罪なのでは?などと要らぬ心配までしてしまう自らの生真面目な性分を頭を振って追い払う。
驚愕に目を見開いたままのサンジの眉間に次いで深い皺が刻まれる。
「てめえ、まさか男とも・・・」
この歳でとんでもないと思った。
頭より躯が先に大人になってしまったことを今しがた身をもって思い知らされたばかりだ。次にゾロの口から
何が飛び出してくるか解かったものじゃあなかった。
「いや。男はてめえが初めてだ。ってぇか俺ホモじゃねえし」
あっけらかんと言い放つゾロにサンジの顎がガゴーンと落ちた。
(ホモじゃねえ?今こいつ自分のこと、ホモじゃねえって言ったか?言ったのか?言ったよなっ?
ンじゃあなにか、ホモじゃねえのに俺のナニを咥えたってえのか?!何のためにーっ!??)
一瞬にして様々な疑問がサンジの秀いでて優秀とは言い難い脳みそを埋め尽くした。
それならこれはクソガキの報復的嫌がらせかと思った。途端、考えていることが如実に顔に出たのだろう。
「嫌がらせじゃねえぞ」
ゾロが真っ正面でふて腐れた顔でサンジを睨んでいた。
「・・・んじゃあ、なんだよ?ホモでもねえてめえが何で俺のをく、咥えたりすんだよっ!?」
それこそ、真っ赤になってまでとる確認なのかとゾロは呆れた。
目の前のアヒルが、またぞろ美味そうな頃合になってきてゾロの若い下半身が痛みを増していた。
(俺は我慢してやってんのに、こいつはっ)などと不条理な怒りが胸に渦巻くから言葉も酷くなる。
「咥えられて散々善がってやがった奴が文句を言うな」
「言うわ!!俺には言う権利も訊く権利もあるわいっ!!」
大体なんで合格の祝いが俺なんだ?とサンジは肩を落として上目遣いにゾロを見遣った。
「そりゃあ、てめえを俺のモンにしてえからだ」
「・・・・・・・・は?」
細い首を直角かと思うほど傾げて疑問を表わすサンジに、ゾロは苦笑を漏らした。
「てめえが誰か、俺以外のモンになるのが嫌なんだ」
「なんだ、そりゃ・・・」
更に困惑に眉が顰められ、ゾロは自分の考えが伝わらないジレンマに苛立ちを覚えた。
「だから!てめえが俺から離れるなんて許せねえっ!!」
「ぉ、おい?」
「てめえと、ずっと一緒にいてえ・・・てめえのこと考えるとチンコがガチンガチンになっちまう・・・こんなこと今まで
誰にも感じたことがねえ。俺はどうしていいか解んねえ・・・」
(・・・・・・それって・・・なあ・・・)
胸の内を吐露して苦しそうな顔をするゾロを、サンジは理解してしまった。
なまじ幼い頃から剣の道で才覚を現わして目立ち、生まれ持っての整った顔の造作でモテてたがゆえに情緒の
発育よりも先に年上のレディたちによって躯を開墾され、快楽を得る術は覚えたのだろうが、そこに愛情だの
何だのの入り込む余地は今まで一切なかったらしいと知れた。
(つまり、こいつは・・・)
遅まきながら芽生えた自分の内なる感情に今まさに翻弄されているといったところかと思い至る。
「なあ、なんか言えよ」
拗ねた目つきで見つめられてサンジは先ほどとは違う居心地の悪さを感じて居ずまいを正した。
剥き出しにされていた胸やら股間をなんとか元どおりに直してゾロに向き直るとコホンと咳払いをして口を開いた。
「そうだな・・・てめえにその気持ちの意味が理解できたら俺を・・・喰わせてやってもいい」
既に絆されて、絆されきっていた。
10ヶ月近くを高校受験に向けて一緒に戦っていたのだ。絆されてなきゃ、付き合えていないだろう試練だった。
(こんな初々しいこと言われちまったら無下に拒絶なんてできねえよ俺・・・)
だから内心で自らの人の良さを嘆くより他なかった。
「本当か!」
一方の当事者たるゾロに嬉々とした顔を向けられてサンジは重々しく頷いた。
「ただし」
「え、まだなんかあんのか?」
「それまではお触りもなんもかんも一切なしだ」
「なんだよ、ソレッ!!」
冗談じゃないと鼻に皺を寄せて不満をたれる小生意気なガキにサンジは目上の余裕を見せつける。
「おうクソガキ、よく聞けよ。俺はお安くはねえんだ。意味も解からず手ぇ出されちゃ困んだよ」
「くっ・・・」
口惜しそうな顔をするゾロに先ほどの意趣返しを完了させて満足げに微笑むと言葉を継いだ。
「ちゃんと理由を持ってこい。てめえの中で解答が出たら・・・そん時は、てめえもきっと、もっと幸せを噛みしめ
 られっから」
だから頑張ってみやがれ と唇に直接、言葉を贈ってやった。
驚いた顔のゾロが反射的に捕まえようとする太い腕を器用に逃れてベッドから降りる。
「ま、そんな約束云々の前に、まずは高校に合格することが先だよなぁ」
サンジは自分のカバンからテキストを取り出すと丸めてゾロの頭へと力一杯、振り下ろした。
「いってええっ!!」
「ほれ、エロいこと考えてサカってばっかいねえで机に戻りやがれ!今日のノルマやるぞ」
「・・・ちくしょー、覚えてろよ」
「へえへえ。てめえが合格できりゃあな」
口でイカされたことなど速攻、忘れたふりで頭から追い出す。でなければ、やってられなかった。
気持ちを切り換えてカテキョの先生としての務めを果たすべく予定どおりの勉強の指導に戻る。
(いっそ全てこいつの勘違いってことで片付いてくれりゃあ俺的には助かるんだがなぁ・・・)
なんてことを思ったのは大人の事情としてポーカーフェイスの下に隠しておいた。







数日前のカテキョ先の教え子との一件を思い出してサンジは一人、赤面して俯いた。
誰もサンジのことなど気に留めて見てはいないだろうけれど恥ずかしくて何気ないふりを装ってテーブルの上に
出していた書類をカバンに戻しながら平静になろうと努めていたら耳に背後のテーブルに集った人たちの会話が
飛び込んできた。
「だからお友だちとかと家の中で遊ぶことが増えましたでしょ?」
(ああ、この辺のPTAかなんかの人たちかな)
最近、この付近で小学生が不審者に襲われて怪我をする事件があって集団登校だなんだと物々しいことになって
いるのだとゾロのご母堂から話には聞いていた。
「でも、個室を与えてしまうと部屋の中で何をしているかまでは判らなくて、それも困りますわね」
「ぶっ・・・ぐっふ、ごほっ・・・」
サンジは口に含んだ最後の紅茶を思いっきり噴いて激しく噎せた。
よほど凄い噎せ方だったらしく、背後のテーブルのご夫人たちから「あの・・・大丈夫ですか?」と普通のティッシュ
やらウェットティッシュまでもをそれぞれの手より差し出されていた。
「ぁ・・・すみませ・・・ぐっ・・・だ、大丈夫ですから・・・ごほっ・・・・・」
振り向くと綺麗なマダムたちが気の毒そうにサンジを見ていて泣きたくなった。
(こんなお綺麗なマダムたちに失態を見られるなんて・・・)
何度も頭を下げて詫びを言い、手早くテーブルの上の残りの荷物をカバンに突っ込むとサンジは顔馴染みに
なったマスターにもテーブルを汚したことを謝罪して勘定を払って足早に店を出た。


店が見えなくなる辺りまで、もの凄い早足で来てやっと歩調を落とす。
「当分、あの店には行けねえや」
ガックリと肩まで落ちた。
しかし世の母親たちの観察眼は鋭いものだとサンジは先ほどのマダムたちの会話を思い出して今更ながらに
背筋を凍らせた。
(部屋の中で何をしているか判らねえか・・・あああああああ、あのクソガキにも言えるんだよなぁ・・・)
今から赴くご家庭の超問題児に思いを馳せて重い溜め息を零した。
既に真面目に勉強をしているだけの頃には戻れそうにないのだ。
あの一件があってからまだ数回だけれど、あの日以来ゾロの目つきは剣呑というか、隙あらばと虎視眈々と
サンジを狙うケダモノのそれになってきている。
(とにかく、だ。せっかく、ここまでやってきたんだ。奴が高校に合格するまでは見届けてやりてえし・・・)
どうしたものかと思いあぐねて通りの真ん中だというのも忘れて歩みを止めた。



「うしっ!」
妙案が浮かんだようにポンと手を打ち、納得したように首を縦に振る。
(手ぇ出してきたら辞めるって脅してやる)
安直な策だが言いようによっては効果はあるだろう。
そう言い置いて尚、手を出してくるようならゾロとの関係もそれでお終いってことだ。
少し淋しい気もしたがサンジがそう言って尚、行為を強要しようとするのであれば致しかたがない。
躯だけ求められてもサンジは嬉しくはないのだ。
喰われるなら全部。丸ごと喰われてやりたい。そうして奴からも全部を与えられたいと思うのだ。
だって一生、縁などないと思っていた男の子のヴァージンを捧げることになるのだ。
しかも自分より3つも ― 春になったら4つ違いになる ― 年下の男に。
だから絶対に何一つ妥協なんてしてやらない。
納得がいかなければ何一つもくれてなんかやらない。
(あいつには少しぐらい我慢することを覚えさせないといけねえ)
今まで自分本位に生きてきたであろう男を思う。
善しにつけ悪しきにつけ我が道を往く奴である。凛と前を見据える揺るがない双眸は好い。
けれど。
躾けなければ自分のほうが保ちそうにないことは先日の一件で薄っすらと解かってしまった。
(若いって怖えよな・・・)
ゾロが「てめえを雇ってて俺の成績が悪いままじゃ直ぐに切られっから、そうならねえよう必死だった」と、
これまでの頑張りにもウラがあったことを露呈してくれたのだ。
つまりは一目惚れで。
サンジとの縁を繋ぎとめておきたいがための必死の策だったのだと。
春になって高校進学が決まればサンジとの付き合いも今度こそ自然消滅すると焦った末に思いついたのが
合格⇒祝い⇒関係を結ぶ という三段論法だったのだとゾロは告白した。
聞かされた時はガキの浅知恵と思いつつも、それだけ自分に執心してくれていることにちょっとホロリときてしまった。
けれど、あのケダモノな目つきはいただけないと思っている。
なんせ相手は猛獣系なのだ。絆されて流されたら、とんでもないことになることは想像に難くない。
ゾロのこれまでの猪突猛進ぶりを思い起こしてサンジはブルッと躯を震わせた。
「とりあえず人並みに我慢することを教えとかねえとな」
我が身可愛さも多分に加味されてはいるがゾロにとっても悪いことではない。



それでも。
桜の花が咲く頃には一緒に笑っていられたらいいと祈るような気持ちは隠さない。
今はまだ寒々とした冬空を見上げて暮れかかる宵の空に一番星を探す。
しんと冷えた冬の空は澄みきっていて星が綺麗に見える。
それへ向けて一度瞑目し、サンジは固い決心を胸にゾロの家への道を急いだ。






I hope their relationship will in blossom out into something permanent.








END















「悪いようにはしねえ」と笑う中学3年生!!!
萌え〜〜〜〜〜〜っvvv
さすが、さすがゾロ!中3でも俺様だああvv(喜々)
しかもマリモが股間に、股間に・・・咲っ・・・←ツボに入ったらしい。
がしかし、これは続きですね(言い切った)
とぅーびーこんてぃにゅーですね、晴れてご褒美&お付き合いスタートとかあるんですよね!
続きは「EAST OCEAN CO.」様で楽しませていただけるかとvvお待ち申し上げておりますm(_ _)m
すばらしいです、ありがとうございます(><)
オンリーでテンパったまま厚かましくも「お祝いくださいv」なんて
オネダリしてしまったけれど、してよかった〜〜〜〜vvv
ありがとうございます!(はぐっ)