処暑



一雨降った後の晴れ間は、むっとするほどの湿気が立ち昇っている。
そこに秋を思わせる爽やかな風が吹き抜け、蒸し暑いような涼しいような季節のごちゃまぜ感が滲む八月の終わり。
そろそろ飯にするかと、サンジは昼用の重箱を抱えて表に出た。
ちょっと外に出る時も、長袖に割烹着、長靴は欠かせない。
湿度が高い夏場は足元になにがいるか、わからないからだ。

隣接する畑の畝で、ゾロは手にしていた鍬を置いて汗を拭っていた。
このクソ暑いのに、黄ばんだシャツの上から毛糸の腹巻。
適当に川で濯いで炎天に干したシャツはバリバリに乾いて、肩口の辺りが洗濯ばさみで挟んだ形のままピンと尖ってしまっている。
極めつけは、ズボンの裾を靴下の中に仕舞いこんだスタイルだ。
クソダサい。
クソダサいのに、なんか決まっててカッコいい。

そもそもゾロは体格が良いし、姿勢も良いから遠目に眺めてパッと目を引く存在感がある。
その上、顔が良い。
精悍で端正で、汗にまみれていようと頬に泥が付いていようとゾロを引き立てるオプションでしかない。
つまり、どんな格好をしていようがどんな状況にあろうが、クソ格好いいとしか言えない。
しかもそんな超絶男前が!性格までいいとか、もう反則だろって思う。
真剣な眼差しで土に向かう横顔とか、上手く巻かなかったキャベツを大切そうに両手で収穫する丁寧さとか、曲がり切ったきゅうりを愛しげに見つめ、これなんとかならねえか?と訴えてくる子犬のような眼差しとか。
そりゃもう、俺がなんとかしてやるとしか言えねえだろうが。
そりゃ作るよもういくらでも、冷や汁満杯作っていくらでも食わせるよ俺は。

キュンキュンと高鳴る鼓動をそのままに、サンジは重箱を掲げて声をかけた。
「お疲れ~、昼飯だぞ」


   * * *


「昼飯」の声に顔を上げ、サンジの姿を認めて目を眇める。
炎天下、真昼間に見るこいつはなんて、眩しいんだろうか。
日差しを受けて金色の髪は蜂蜜みたいに艶めいて輝いているし、少し日に焼けた頬に更に赤みが差している。
鼻の頭もちょこんと赤いのが、なんとも可愛らしい。
大きな重箱を両手で大事そうに抱え、隣のおばちゃんがくれた真っ白な割烹着が良く似合っている。
贈答品やらなにやらで、お隣さんの蔵には貰い物の割烹着や茶碗のセットなどがまだまだ溜まっているらしい。
なにかと理由を付けては譲ってくれるが、嫌がらずに貰い受けてしかも使用するサンジの、なんと細やかで優しい心遣いだろう。
見た目が良いのに性格までいいとか、反則過ぎるその存在がすでに奇跡だとも思える。
すらりとしたスタイルに長い脚、無骨な長靴姿ですら粋な着こなしに見えた。
どこに出しても恥ずかしくない三国一の、いや、誰にも見せずどこにも行かせずひっそりとたった一人でひたすらに愛でてたい、そんな倒錯した欲望すら生み出す罪な天使。
天使が、ここにいる。
もう絶対、嫁にする!

ゾロは大股で近付くと、真剣なまなざしで真正面からサンジを見つめ、重箱を抱く手に己の手を重ねた。
「結婚しよう!」

ほぼ毎日繰り返される唐突なプロポーズにいつまでたっても慣れなくて、サンジは日に焼けて赤くなった頬をさらに赤らめながら照れ隠しに蹴り飛ばすしかできなかった。





素敵なゾロサン漫画を 駄犬様 にいただきました!
ありがとうございます。