どうも腑に落ちない。

サンジは仰向いて、抜けるような空に煙を吹きかけた。
白い雲に紛れて風に溶ける。

しっくりこねえ。
身体がなまる。
気が晴れねえ。
苛々する。
物足りねえ。

サンジはぎりと煙草を噛んだ。
むかつくぜ畜生。




原因はわかっている。
ここ数日、ゾロに蹴りを入れていないのだ。
正確に言うならば、喧嘩をしていない。
もっと正確に言うならば、ろくに口もきいていない。

なぜだ。

サンジに思い当たる節はない。
ゾロの様子がおかしいのはここ数日のことだ。
この狭い船の中で寝食を共にしていて言葉を交わさないなど、不自然であり得ない。
つまりそれって・・・

サンジは大きく息を吐いた。

俺が避けられてるってこと。
腹立ち紛れに投げ捨てられた吸殻が、弧を描いて海に落ちた。





ゾロは食事時に必ずキッチンへ来るようになった。
これだけなら凄い進歩だ。
わざわざ呼びに出向くこともない。
横腹や脳天に蹴りを入れて起してやる手間も省けた。
本来なら喜ばしいことだが、そのお陰で唯一とも言える二人の接点が、途切れている。
ルフィたちと同じように水汲みをして掃除もして、嵐の時は起きて働き、鍛錬をして眠っている。
自主的に動くゾロに、サンジが口を挟む隙はない。
客観的に見ればいい傾向なんだろうが。
やはりサンジは腑に落ちない。
ゾロが自分を見ないことを。







「あんたたち、喧嘩してんの?」
夕食の場で唐突にナミさんが爆弾を落としてくれた。
俺にとってはいいチャンスだ。
自分から何故シカトすんだと問い詰めるのは癪に障るが、一緒に旅を続ける以上妙なしこりは早めに取り除くに限る。
俺はじろりとゾロをねめつけた。


ゾロは表情を変えず、それでもサンジとは目を合わさずに「別に」と答えた。
「別に、ねえ」
ああ、ナミさんが女神に見える。
「私の気のせいでなければ、あんた達最近ロクに会話してないし、罵り合わないし、船も壊さないし。どう見てもおかしいのよね」
「それを喧嘩してないって言うんじゃねえのか」
思わぬゾロの突っ込みに、ナミさんはうっと詰まった。
「もともと仲良しって訳じゃねえから、うるさくねえだけマシだろ。気にすんな」
くいとグラスを呷って、早々に席を立つ。
ナミさんもそれ以上追及しない。
ただ怒ったような顔で、俺に振り向く。
「サンジ君は、わからないわよねえ」
ただ曖昧に頷くしかなかった。
ゾロが俺を避けてる。
わかったことは、さっきの会話でそれが決定的になったこと。







サンジは何度目かの溜息をついた。
一人キッチンに残って仕込みをしていると、毎日のように奴は酒を取りにきた。
そのままどこかへ消えることもあれば、テーブルに座って一人でちびちびやることもある。
そん時俺は簡単なつまみを作って、黙って奴の前に置いてやったりもしたもんだ。

悪い雰囲気じゃなかったよなあ。
何でこんなことになったんだろう。
何よりショックなのは、自分が今落ち込んでるという事実だ。
ゾロごときの言動に動揺している自分が信じられない。

「らしくねえな、畜生」
つい声に出して悪態をついた。
今夜の不寝番はゾロだ。
トレイには暖かな夜食が準備されている。
見張りが誰に限らず、夜食の差し入れはいつもの習慣だ。
今日ゾロに差し入れたって不自然じゃねえ。
っていうか今日だけ持って行かなかったらそっちの方が絶対おかしい。
サンジは自分に言い訳するように心の中で繰り返した。

ただの差し入れだ。
いつものことだ。
もう一度深く息を吐いて、サンジはキッチンの扉を開けた。



春島が近いのに、風はまだ冷たい。
上がるほどきつくなる風に、サンジは何度か煽られる。
「よお、起きてるな」
努めて軽く、何気なく声を掛けた。
蹲る人影は、うんともすんとも返さない。

「シカトすんな、おら、食えよ」
手すり越しにトレイを差し出した。
ゾロは身じろぎもせず、顔を上げないまま信じられない言葉を吐いた。
「いらねえ」
カッと頭に血が上る。
「何がいらねえだてめえコラ!俺様のこの世のものとは思えねえうまい夜食をいらねえたあ、どの口が言いやがるんだ、ええ!!」
激昂して掴みかかるサンジの手を避けて、ゾロはトレイを引ったくった。
相反する行動にサンジの気が削がれる。

「失せろ」
発せられた声は低く冷たい。
久しぶりに正面で捕らえたゾロの瞳は潜められ、サンジを拒絶している。
「てめえには金輪際、夜食なんか作ってやらねえ!」
子供じみた言葉で言い返し、サンジは逃げるように降りた。
マストを掴む指が強張ってうまく動かない。
なぜだかひどく惨めな気持ちで、見張り台を振り仰ぐことも出来なかった。
ただ訳もなく哀しい。
受け入れてもらえなかったこと。
喜んでもらえなかったこと。
ゾロに、拒絶されたこと。

「知るかよ畜生!!」
改めて声に出した呟きは、月もない闇に溶けた。









翌朝、静まり返った早朝のキッチンにちょこんと置いてあった、綺麗に平らげた皿とトレイ。
野郎、とことん俺を避ける気だな。
そっちがその気なら、俺は別にかまやしねえ。
俺はやや乱暴に片付け始める。
気づかなければどうってことないことでも、気づいてしまえば余計なことまで気になるモノだ。
朝食の席でもゾロは知らん顔でもくもくと食べている。
時折ウソップの話に相槌を打ち、ルフィをどつく。
いつもと変わらない風景。
俺が一人でガンつけてる以外は。

ナミさんの心配そうな視線を感じた。
綺麗な眉がひそめられている。
心なしかロビンちゃんの視線も感じる。
麗しいレディに心配を掛けるわけには行かない。
花のような顔を曇らせるわけには行かない。
俺は表情を緩めて、食事に専念した。
何が気に入らねえのかしらねえが、今に見てろよゾロ。
船の上でコックを怒らせたらどうなるか、思い知らせてやる。





風が冷たくても陽射しは暖かい。
雲ひとつない空の下で、昼間は汗ばむほどの陽気になった。
パラソルを翳して読書に励むレディ達にアイスティーを差し入れする。
「ありがと。コックさん」
極上の笑みを頂いて、自然足取りも軽くなる。
釣り糸を垂れるウソップとチョッパー、それにお気に入りの船首に跨ったルフィ。
音が出そうなほど力任せに錘を振っている腹巻を無視して、俺はキッチンに帰った。
てめえに茶などくれてやらねえ。
喉が渇いたなら、自分でキッチンに出向いて水でも飲みやがれ。
自分でも少々大人気ないと思うが、嫌われている相手にまでへこへこ差し入れするほど、俺はお人よしではない。

なのに―――
「わあん、サンジ〜」
チョッパーが泣きべそをかきながらキッチンに飛び込んできた。
「なんだ、どうした」
「ゾロが、俺のアイスティー飲んだあ」
はい?
何考えてんだ、あのクソ剣豪。
「サンジー」
気が付けばウソップも立っている。
「ゾロに飲まれた」
手には空のグラス。
「何やってんだお前ら!」
つい、声が荒くなる。


「お前らがうまくやってくんねえと、とばっちりがこっちに来んだよ」
「俺のせいじゃねえよ。ばーか」
新しく作り直したアイスティーをチョッパーと二人すすりながら、ウソップがこぼす。
「今回マジで俺は何にもしてねえぞ。あの寝腐れ腹巻、何が気にくわねえんだかさっぱりわからねえ」
珍しく本音で話しちまう。
乱暴に氷をかき混ぜると、浮かせたミントがくるくる回った。
「俺たちの前では普通だよなあ」
「さっきも笑ってたぞ」
だから余計腹立つんじゃないか。
「お前が言いにくいんなら、俺からも言ってやるよ。狭い船ん中だ。これからずっと旅するんだし、ギクシャクしてんのは、
 お前も嫌だろ」
いつも調子のいいウソップ顔が、やけに頼もしく見える。
俺は目をぱちぱちしてから、おう、と答えた。




結局、今日も一日、何も話さずに済んじまった。
エプロンを外して明かりを消す。
昼間と同じようによく晴れた空から、月明かりが差し込んでテープルを照らす。
うざってえ。
緑ハゲごとき、会話があろうがなかろうが気にしなければ良いのに、なんでまたこうも気になるのか。
そこんとこが忌々しくて、ムカツク。
うざってえなあ、俺。

男部屋で眠る気にもなれず、グラスを取り出した。
取り置きしておいたワインを開ける。
今朝点検したら料理酒がなくなっていた。
一言、言ってくれりゃあ、教えてやるのによ。
少し速いペースでつまみもなしに飲んだ。
ゾロがキッチンで飲むときは、簡単なつまみを出したもんだ。
何を話すでもなく俺の後ろで一人グラスを傾けていたのが、随分昔のことのように感じる。



聞き慣れた靴音が近づいてきた。
思わず息を潜める。
静かに開いたドアから、長い影が滑り込んだ。
暗闇に俺の姿を認めて、ぎくりと歩を止める。
さすがにすぐ飛び出すのは気が引けるのか、突っ立ったまま動かない。

「グラス持って来いよ。いい酒あんぜ」
瓶を振って見せる。
ゾロは立ち竦んだまま動かない。
俺が嫌いでも酒には弱いんだな。
やべえ、笑いそうだ。

意を決したように大股で近づいたかと思うと、いきなり瓶を引っ手繰ろうとしやがった。
あきれて物も言えねえ。
意地でも手を放すもんか。
「てめえ、いい加減にしろよ!」
ダンっと乱暴に置かれた瓶は赤い液体を溢れさせながらテーブルを転がった。
「何が気に入らねえのか、言ってみろ!」
このままじゃ、生殺しだ。
俺の剣幕に押されてか、ゾロは視線を落としてためらうそぶりを見せた。
―――らしくねえ

「―――が・・・」
「あん、なんだって?」
「面が・・・気にくわねえ」

はあ?

「面・・・かよ。そりゃあ仕方ねえ。直しようがねえ。こりゃあ生まれつきだ」
っは・・・とんでもねえ言いがかりだ。
俺はゾロの襟元を掴んで引き寄せた。
「しょうがねえから見慣れろてめえ。どんな面でも見てりゃ慣れるぜ」
鼻がくっつくほど顔を近づけてやる。
ゾロの顔が一瞬こわばって、目がぎらつく。
刹那、強い衝撃を受けた俺は壁に突き飛ばされた。
後頭部を打って、一瞬目がくらむ。
「むかつくんだよ!」
ゾロの罵声だけが遠くで聞こえる。
「てめえの面、見るだけで・・・むかつくんだ!」

「くそ・・・」
起き上がれない俺を置いて、ゾロは逃げるようにキッチンを出て行った。














ゾロは蜜柑の木の下で、何度目かの寝返りを打った。

眠れねえ―――――

普段なら、目蓋を閉じて秒速2秒で眠りに落ちる万年寝太郎が、まんじりともできずにいる。
奴のせいか。
目を閉じれば、浮かんでくるのはどこか怯えた目をしたコック。



一目置ける仲間に囲まれて、恵まれた環境の中で鍛錬を積みながら世界一の剣豪を目指す。

快適な生活の中で、なぜかコックの声だけが耳障りに響く。
ナミやロビンに猫撫で声で話し掛けるのを耳にするだけで虫酸が走る。
ウソップと馬鹿みたいに大口開けて笑って話したり、ルフィに抱き付かれている姿に腹が立ってチョッパーの毛並みを撫でる手を
見ただけで張り倒したくなった。

訳もなく苛つき、胸がざわめく。
慢性的な動悸、息切れ、不眠―――

どこか具合でも悪いのだろうか。
これはチョッパーの領域か。
だがこの症状が現れるのには、一定の条件がある。
目の前にコックがいる。
ただそれだけ・・・。



コックのよく動く白い手を見ていたら、まだルフィたちと出会って間もない頃、ナミの短いスカートからはみ出した太腿を見た時と
同じような感覚に襲われた。
だが、あいつは女だ。
今ではとうに見慣れて、女としても意識できなくなっているが。

男であるコックに対して、そんな感情が生まれる筈がない。
あのいけ好かない面とか、生意気な口調とかすべてが癇に障る。
ここまで人を嫌いになれるものなのか。
自分の度量の小ささに、愕然とする。

思い切り、突き飛ばした。
かなり強く頭を打ってたが――――
・・・痛かったろうな。
毛嫌いしている相手に、何を気遣っているのか。
ゾロは自嘲気味に笑った。

だがあのままでは、自分はコックに噛み付いていた。
噛み付く?
なんで?

コックを見ていると、時折暴力的な衝動に駆られる。
それは女を抱く時に似て―――
いや、女を抱くときはそれなりに気を使う。
暴力的なのは、暴くと言うこと。
組み敷いて曝して、穿つということ――――



ゾロはがばりと身を起した。
目を閉じて考え事をしていただけなのに、嫌な夢でも見たように額に脂汗が浮いている。
どうかしている、俺は―――――
バンダナで顔を拭い、ゾロは雑念を払うべく座禅を始めた。





ロロノア・ゾロ 19歳

たわわに実った蜜柑の下で悟るには、あまりに無自覚な遅すぎる初恋だった。















「予定通り、お昼過ぎには島に着けるわよ」
ひゃっほうとはしゃぐ船長と共に、サンジも踊りたくなった。
久しぶりの上陸は、今の自分にとって地獄に仏だ。
街に繰り出して麗しいレディとひと時を過ごせば、ここの所ずっと頭を占めている緑腹巻のことなど払拭できるだろう。
一気に上昇した気分を打ち砕くように、ナミの無情な声が届いた。
「あ、今夜の船番はサンジ君だから」
「えええ!!」
思わず抗議の声を上げてしまった。
「あらだって、前の島で一巡したでしょ。だから今日はサンジ君の番」
ああ、そう言えば・・・。
「で、明日はゾロで明後日は私が早めに戻るわ。ログが溜まるのは3日。それでいいでしょ」
てきぱき采配するナミに、依存はない。
一気にトーンダウンする気持ちを抱えたまま、サンジはへらりと笑った。







誰もいないキッチンで、ただぼうっと煙草をふかす。
静か過ぎて波の音がやけに響く。

誰かがいれば、気が晴れるのに。
誰かの為に何かが出来れば、それだけでいいのに――――


俺、もしかして鬱か・・・

サンジは一人、口を歪めて笑った。
人に無視されるのが、こんなに堪えるものとは知らなかった。
腹が立つというより、今自分の中を占めている感情は哀しみに似てて・・・

ゾロだけが、俺の料理を美味いとは言わない。
ゾロだけが、俺の名を呼ばない――――

どうやら俺にとって、ゾロは特別らしい。
多分、悪い意味での特別。

己を馬鹿と自覚して憚らない超がつくほど大馬鹿なのに、他人に馬鹿とは呼ばせない。
真っ直ぐに前を向いた、揺ぎ無い剣士。
向けられた綺麗な背中は、安心して任せられた証と自負していたのに・・・
今、向けれられている背は、拒絶以外の何物でもなくて――――

だから、腹が立つより哀しいのだ。



思考が沈みかけた頃、ぐらりと船が揺れた。







慌てて甲板に飛び出すと、直ぐ隣に巨大な船が着岸していた。
「なんつー・・・でけえ船だ」
煙草を咥えたまま振り仰ぐ。

旗印はない。
海賊ではなさそうだ。
海軍でもねえ。

甲板に多くの人影が現れた。
とりあえず、身構える。
ピンクのエプロン姿じゃ、少々間抜けかなあ。

だが現れた男達は、GM号には目もくれず、一目散に陸に降り始めた。
どうやら、害はないらしい。
―――けど、完全無視もなんかむかつくぜ
ポケットに手を突っ込んで煙草をふかすと、頭上からよく通る声が響いた。

「悪いなあ、揺らしたか」
一際高い位置にある船縁から、でかい男が見下ろしている。
サンジは目を見開いた。
陽光に透けるその短髪の色は、緑。
「へえ、いるもんだな」
「ああ、なんだ」
男が身を乗り出す。
「なんでもねえ。昼寝には丁度いい揺れだ」
サンジの答えに、男はにかりと笑ったようだ。
逆光の中で白い歯が浮いて見える。

遅れて出てきた男達が陽気に騒ぎながらこっちを覗き込んだ。
「おう、随分可愛い海賊船だな」
そりゃ、手前らから見れば海軍でも可愛いだろうよ。
「そこのピンクの別嬪サン。一緒に降りねえか」
かなり酔っているのだろう。
鼻の赤い男が声を掛けてくる。
「舐めてんじゃねえ。オロスぞ、おら」
口元に笑みを貼り付けたまま、目だけで威嚇した。
赤鼻はおっかねえ、と肩をすくめて笑っている。
「てめえら、先客さんにちょっかい出してんじゃねえ、とっとと降りろ!」
さっきのいかついおっさんが一声吠えて、船員達は慌てたように行儀良く降りていった。
「さすが、マリモの一声は聞くなあ」
軽く呟いたのに、今度はちゃんと聞こえたらしい。
「マリモたあ、うまいこと言うな」
男は豪快に笑って手を広げた。
「俺達は商人だ。見たところあんたは海賊らしいから、せいぜい用心させてもらうぜ」
「ああ、寝首をかかれねえように、気をつけるんだな」
合図のように吸殻を海に投げ捨てて、サンジはキッチンに戻った。







戸棚とシンク裏の掃除を済ませて、自分の為だけの夕食に取り掛かる。
誰かの為ではない料理は酷く味気なくて、サンジは小さく溜息をついた。
多分自炊でもしたら、俺ロクなもん、喰わねえんだろうな。
それでもキッチン一杯にいい匂いが立ち込める頃、誰かが帰ってきた足音が響いた。

「ただいまーサンジ」
現れたのは、ウソップ。

「なんだ、どうして・・・」
驚くサンジの前で、抱えてきた大荷物を降ろす。
「なんだよ隣の船。やけにでけえな。大丈夫かあれ」
「ああ、あれは商船らしい。無害だぜ」
ならいいけどよ、と椅子に腰掛けた。
「張り切って買い物したら買いすぎてな。すぐに改良したいから持って帰ってきた。
 俺これからここで組み立てるから、サンジは街に行っていいぜ」
落ち込んでいるサンジに対して、ウソップなりの気遣いなのだろう。
サンジは思わず息を止めて、それから口を歪めてみせた。
「何、言ってんだ。別にいいよ、俺あ―――」
「俺は別に、てめえと交代してやるってんじゃないぜ。今夜ここに泊まるから、お前がいる必要はねえって言ってるだけだ」
がさごそとせわしなく手を動かして、あちこち部品をばら撒き始めた。
サンジは心の中で、ウソップの心遣いに感謝する。

「なら、夕飯一緒に食おうぜ」
「おう、それだけは当てにしてたんだ」
調子のいいウソップの声に、サンジは急いでメニューを増やす。

さっきとはうって変わって軽やかな包丁の音が響いた。














錯誤の夜 -1-