ラウンジの丸窓から光が差し込む位置に、ちょこんと小さな鉢植えが置いてある。
前の島でサンジが衝動買いしたミニサボテンだ。

小さいくせにモリモリと盛り上がった肉厚の緑に、産毛のように薄い針がびっしりと生え揃っている。
その一本一本がピンと立って元気に伸びて、なぜだかサンジは一目見て気に入り買ってしまった。
以来、ラウンジの片隅で飼うペットのように密かに大切に育てている。

よりによってなんでサボテンなんだか・・・
買ってしまってから気がついてちょっと後悔してしまった。
サボテンと言えば天敵のクソ頭の代名詞だった。
緑髪をふさふさと立たせて日光浴する姿はサボテンのそれに重なって、からかったりもしていたのに、
そのミニチュア版を購入して可愛がってしまう俺ってどうよ。
後から気付いて気恥ずかしくなった。
これじゃあまるで、ゾロのミニチュアに語りかけて癒されてるみたいだ。

そう思ってよくよく見れば、サボテンの丸い頭(頭か?)のラインもよく似ているし、
色具合もそっくりだ。
ますます被って見えて、昼間は殆ど放置状態でサボテンを邪険に扱っている(つもりだ)
けれど、夜ラウンジで一人になると、水分は足りてるか、栄養素は何がいいのかなんて調べたり
話しかけたりしてサボテンをこよなく愛してしまっている。
だってほんとに、一目見て気に入ってしまったもんだから。




そんな可愛いサボテンは、なぜか最近元気がない。
なんとなく色褪せて、ピンと立っていた棘もくたんと曲がっている。
折角枝分かれしてきた腕(腕か?)が伸びるのを止めてしまって、全体に萎れた雰囲気だ。

「どうしたんだよ、お前」
サンジは一人のラウンジで、そっとサボテンに話しかけた。
「お日様足らないのか?水、やりすぎたのかな」
勿論サボテンは応えない。
けれどサンジは話しかけずにはいられなかった。
クソ緑にそっくりなサボテンがしゅんと萎れて元気がないなんて、なんだか見ていられない。
いっそ憎々しいほどに旺盛に繁って、青々と大きくなってくれないとなぜだか悔しいのだ。

「別に、あいつとお前を比べてる訳じゃねえけどさ・・・」
口に出して呟いてから、サンジは丸まった眉毛をふにゃんと下げて溜め息をついた。
そう、まるでこのサボテンに呼応するかのように元気がないのだ。
あの腹巻マンも。






気合の入りきらない鉄串が、鉄板みたいな両手をすっぽ抜けて海に落ちてしまったのは一昨日だったか。
慌てて拾いに潜っていたけど、随分ヤツらしからぬ失態だった。
そいでもってアンカーロープに蹴躓いて自分が海に落ちたのは昨日。
「・・・なにやってんだ、あいつ」
その様を思い出してサンジは笑うより呆れてしまった。
世界一の剣豪を目指そうなんて奴が足元も覚束ないでどうするよ。
気のせいかここ2、3日食も細くなっている気がする。

「お前だけでも、元気でいろよ」
サンジは指先でちょんと白い産毛を突いてもう一度小さくため息をついた。
と、そこに足音を殺すような静かな気配が近寄ってきたのに気付いて、慌てて席を立つ。
イスに寄っかかってサボテンに話しかけてただなんて、気付かれてはまずい。
外しかけたエプロンの紐をもう一度結び直し、いそいそとキッチンに立った。

扉の手前で急に大きくなった足音は、やや間が空いた足取りで立ち止まりわざと音を立ててドアが開く。
「夜中だぞ、静かにしやがれクソ野郎」
振り向かず毒づくサンジの背後に予想通りゾロが突っ立っていた。
「てめえこそ、うっせーよ。とっとと寝ろ、へな眉」
口先だけ悪態をついて、ゾロはずかずか大股で近付くとサンジの横を通り過ぎ、手を伸ばしてワインラックから
1本抜き取ろうとする。
サンジは冷蔵庫の扉を開けて、中から皿を取り出した。
「待てっての。空きっ腹に酒ばっか飲んでんじゃねーよ」
言いながらテーブルに置かれた料理に、ゾロは目を丸くした。

「・・・」
「食えよ」
ゾロはしばらくまじまじとサンジとテーブルの上の料理を見比べていたが、渋々といった感じでイスに腰を下ろした。
「ちゃんとグラス使って飲めよ。んでもってオレにも飲ませろ」
サンジが用意したグラスに均等に酒を注ぐと、口の中で小さくいただきますと唱えて食べ始める。


「てめえ、最近ろくに食ってねえだろうが。いくら水生生物でも光合成だけで筋肉は作れねえぞ。
 頭悪いにもほどがあるぜ」
照れ隠しに毒舌を並べるサンジを、ゾロはほんの少し眉を上げて意外そうな目で見つめた。
「な、なななんだよっ、オレあ自分が作ったスペシャルディナーが、どれもこれもルフィの胃袋に収まるのは
 我慢なんねえっつってんだ。てめえの飯はてめえで処理しろってんだ、馬鹿野郎」
処理なんて言葉を自分で使って哀しくなった。
素直に「ちゃんと食えよ」と言えばいいだけなのに、ゾロを前にすると余計なことまで口にしてしまって、
自分で嫌な気分になってる。
そそくさとエプロンを外すサンジに、ゾロはぼそっと言葉を返した。

「さっき話し声が聞こえたような気がしたんだが・・・」
ぎくっ・・・
動揺を隠してサンジはさらりと前髪を掻き上げた。
「ああん?腹減って幻聴まで聞こえるようになったか?オレあ生憎一人だぜ」
「いや、独り言みたいな声だったな」
こいつ耳までいいのかよ!
わかってて言うなと蹴り倒したい気分でサンジはしらを切った。

「ああん?独り言言いたいのはてめえの方じゃねえのか?なんならそのサボテンが聞いてやるってよ。同類だしな」
自分から振ってどうするよとセルフ突っ込みしつつ、萎れたサボテンを指差した。
ゾロがむうっと口を閉じる。

「おい・・・」
「あんだよ」
行き過ぎるサンジを引き止めるみたいに声をかけてくるから、サンジはなんだか手持ち無沙汰だ。
皆がいる場所ではゾロとナチュラルにケンカできるのに、二人きりだとなんでこうぎくしゃくしてしまうんだろう。

「サボテンは、人の言葉がわかるんだってな」
「え、ああ?」
意外な台詞をゾロの口から聞いて、素で驚いた。
「なんだ藪から棒に・・・」
それからああ、と一人で納得する。
「てめえ、ウソップから聞いたな。そういうネタがてめえの知識の中にあるはずねえからな」
ゾロはどこかぼうっとした視線のまま頷いた。
「そんでそいつ萎れてんのかな、悪いことしたな・・・」
ゾロのその呟きをサンジは聞き逃さなかった。
「なんだと?てめえこいつになんか喋ってんのかっ!」
驚いて声を上げ過ぎて慌てて口を閉じる。
サボテンに向かって独り言を呟く剣士・・・寒すぎる。

「しかもててめえ、こいつが萎れるような台詞吐いてんのか?」
もしかして、鷹の目に会いてえとか俺は世界一の剣豪になるんだとか、とり憑かれた様にブツブツ
呟いてんじゃねえだろうな。

「いや、思ったことを口に出してるだけだが・・・」
そうまで言って、ゾロはふと表情を緩ませた。
「話して返事が返ってくるってのはいいもんだ」

サンジはひやりと背中に水を打たれた気分になった。
この傍若無人で横柄かつ傲慢な能無し筋肉ダルマが、どこか人恋しそうに目を細めるなんて・・・
胸に哀れみのようなものが沸き起こって、日頃の憎まれ口がナリを顰める。

「なんてこった、いくら同類でも相槌も打たねえサボテン相手に愚痴ってねえで、俺にも聞かせろクソ野郎。
 俺だってそれなりに・・・聞いて聞かねえフリくらいはできるんだ」
サンジはそう言ってイスを引き、ゾロの前に腰掛けた。
いつも粗暴で生意気な腹巻男が、夜中に一人でサボテンに語ってるだなんて、憐れすぎて涙が出そうだ。
元来面倒見が良く世話好きなサンジの血が騒ぐ。

「まあてめえにとっちゃ、俺になんか本音を吐きたくねえだろうが。サボテンがちょっとでっかくなったって
 思えばいいさ。何聞いたって俺あ忘れるよ」
「・・・そうか」
思いのほか素直なリアクションで、ゾロがこくりと酒を飲んだ。
その仕種さえどこか大人しめで、サンジはますます心配になる。

やっぱバカはずーっとバカじゃねえと心配なもんだな。
ちょっとしおらしい顔されただけで、気味悪いの通り越してハラハラすっぜ。





明かりを落としたラウンジで、グラスの揺らめきに視線を落とすゾロの顔は、昼間の自信に満ち溢れた表情とは
打って変わりどこか影を含んで見える。
まあタメ年ではあるし、ちょっとは甘やかしてやってもいいかななんて優越感を感じながら、サンジもグラスを
用意して一緒に酒を飲むつもりで頬杖をついた。

「最近どうも、調子が悪くてな」
驚いた。
ゾロの口から弱音のようなものが飛び出して、サンジはどきりと胸を鳴らしながら、危うく茶化しかけた
言葉を飲み込んだ。

「鍛錬した後でもそう変わらねえ脈拍が、そいつを見るだけで全力疾走で走ったみてえに高くなるんだ。
 しかも耳元でだかだか鳴り響いたり、口から心臓が飛び出そうな勢いで鳴ったりする」
「ええっ!」
うっかり声に出して叫んでしまった。
今、ゾロは「そいつ」と言ったか。相手が、いるのか?

「その・・・あれだ。なんだてめえ、その子を見るとそうなんのか?」
「ああ、よくわかったな」
おいおいおい。
「もしかして、気がついたらじーっと見てたり、話し声に耳を欹てたり、してんのか?」
恐る恐る問いかけられるのに、ゾロはしばし首を傾け、ああそうかと声に出して呟いた。
「そういやそうだ。お前よくわかったな」
うわあ〜〜〜
サンジは心の中で声を上げた。
上げたがそれは、ビンゴの喜びってワケでもない。
どちらかと言うと嘆きのニュアンスがある。

なんてこった。
このクソ魔獣野郎、人並みに年頃になっちまったのかよ。



サンジは常々ゾロのことを螺子がどっか1本外れた野暮天の唐変木だと思っていた。
綺麗なレディを見ても嬉しそうでもない、ナミやロビンと言う美女に囲まれていても生活態度をまったく
変えないあの尊大さは、男として異常だと思っていた。
これも一種の病気だろうと憐れみながらそんなゾロにほんの少し安堵もしていたのだが・・・
そのゾロがどうやら、異性に関心を持ち出したとは。

なんとなくがっかりした気分を押し隠しつつ、サンジはタバコに火をつけて、余裕を見せながら煙を吐いた。
「そうかそうか、いやーいい進歩だな。や、俺はそれはいいことだと思うぜ」
「そうか?」
対してサンジの顔を真っ直ぐ見つめながらまた少し首を傾げたゾロは、夜目にもどこかあどけない。
「勿論だ。闘争心だけで生きてきたお前がよ、漸く他人に関心を持つようになったんじゃねえか。
 喜ばしいぜ、そうだ。明日赤飯炊いてやろうか?」
弾んだ声とは裏腹に、サンジの眉毛はへにゃんと眉尻が下がってきていた。
魔獣が人間の一歩近付くのがなんとも寂しい。
そんな感じだろうか。

「そうか、てめえも嬉しいのか」
ゾロはどこかはにかんだように、にやんと笑った。
それがなんともガキ臭くて、サンジの胸が勝手にきゅきゅ〜と締まる。
どうしたこったい、これは。
なんか目の前の苔緑が妙に可愛く写るたあ・・・

「あああ、だがな。てめえ勢いでみだりなことはしちゃなんねえぞ」
「あん?」
なにをだと、訝しげに聞き返す。
「その・・・あれだ。心臓バクバクするついでに、その・・・下半身も、ズキズキこねえか?」
ゾロがあんぐりと口を開けた。
ああこいつ、歯並びが綺麗だななんて場違いなことを考えながら、サンジはしたり顔で頷く。
「どうだビンゴだろう。てめえは普通より神経回路が単純っぽいから、ときめき=性欲って直結する恐れがある。
 いいか、まずは行動より言葉だ。コミュニケーションを充分とった後に行動に移れ!」
びしっと指差して告げれば、ゾロは口を開けたまま軽く頷いた。
「言葉・・・か・・・」
「そうだ、サボテンとだってコミュニケーションのとれるてめえだ。その気になりゃあちゃんと口説くコトだって
 できるはずだ。ただし!恐れ多くもナミさんやロビンちゃん相手にアクション取ろうってんなら、
 まず俺が相手になってやるがな」
「ああん?」
呆けていたゾロが一瞬にして険悪な顔つきになる。
「なんでそこで魔女どもが出てくんだ」
「へ?違う、のか?」
代わりにマヌケな表情になったサンジの前で、ゾロは勢いよくグラスを空にした。

「まあいい、てめえがそんなら話は早い。じっくり聞いて貰おうじゃねえか」
口端をぺろりと舌で舐めて、ゾロはおもむろにテーブルに置いたサンジの手に自分の掌を重ねた。










「んあっ?」
反射的に引こうとするのを手首からがっちり掴む。

「どういう訳か、てめえを見てるとこの辺がむかつく」
ゾロは空いた方の手で自分の胸の辺りを指し、額がくっ付くほどに顔を寄せて苦しげに囁いた。
対してサンジは目を白黒させている。

「てめえがルフィに笑いかけたりチョッパーにかまったりしてりゃあむかつくし、女どもにおべんちゃら
 並べてるのみりゃ、なんか痛え。甲板でウソップと仲良さそうに話してるの見ると、あの長っ鼻を海に
 沈めたくなる」

おいおいおいおい
いつのまにか、自分の手の甲を包むゾロの熱がじんわりと伝わって、汗ばんできた。

「てめえは何かってえと俺にケンカ吹っかけちゃあ突っかかってくるが、それさえ俺あ悪くねえと思って
 たんだぜ」
「・・・」
喉に、何か引っかかったようでうまく言葉にならない。
サンジは唾を飲み下して、真正面から見つめてくる熱い眼差しをなんとか見つめ返した。
こんな時、人はどうコメントを返せばいいんだろうか。

「てめえのことを考えりゃあ夜も眠れなねえ。なら昼寝っつってもてめえの姿がチョロチョロしたり声が
 聞こえたりして、おちおち寝てもいられねえんだ。当然、飯なんて喉を通らね。」
ゾロの声に熱が篭もってきた。
心なしかどんどん顔が近付いて、吐き出される息だって、頬にかかるほどに熱い。
サンジは斜め30度くらいに視線を外したまま、額から汗を流しながら考えていた。
どどどどうする?
俺は一体、どうすればいいんだ。
どうリアクションっつうか・・・
この、状況を―――

ぎゅうっと汗でも絞れそうな勢いでゾロがサンジの手を握り締めた。
うわあああと喉の奥から情けない声が漏れる。
「あ、あのなっ、からかうなよ」
なんとか視界の端にゾロの顔を引っ掛けて声を張り上げた。
ちょっと上擦ってるのは誤魔化せただろうか。
「からかってなんか、ねえ」
対してゾロはひどく穏やかで落ち着いている。
細められた目がなんだか優しい光を帯びて見えて、サンジはさらに動揺した。

「こうしててめえが言葉にしろってんなら、俺あいくらでも白状してやる。寝ても覚めてもてめえばかりの、
 この俺の滾る思いを・・・」
いつの間にか真横にまでにじり寄って来て、ぐいと腰を押し付けられた。
いやお前、違うとこ滾ってんじゃねーか!!

「ま、ままま待てっ!俺はそっちの趣味はっ・・・」
「てめえの趣味はこの際関係ねえ」
ゾロは熱っぽい眼差しのままサンジの背中を抱き、さらに身体を密着させた。
発火してるんじゃないかってくらい、体温が上がっている。
熱が乗り移ったせいだと誤魔化したいくらい自分の頬も火照っているのがわかって、サンジは不自然な体勢で
固まったまま、ひたすらに身体を仰け反らせていた。

「いやあのな・・・俺はただサボテンに・・・」
「だから、サボテンに聞かせるくらいなら当人のてめえに言った方が、確かに建設的だよなあ」
「と、ととと当人って・・・」
握りこんだ手をついと上げられて、ゾロがその甲に唇を押し当てた。
くああああっ!と全身の血が一気に駆け上る。

ゾロがっ、
ゾロが、俺の手に・・・
キスっ・・・っ

呼吸さえ忘れて口を開けたままアップアップすれば、ゾロは唇の端に手を押し当てたままにやりと笑った。
「どうしたてめえ、俺の熱が移ったか」
移った、かもしれない。
ともかくどこもかしこも火が出そうに熱くて恥ずかしい。

「あんまり触れちゃ火傷するかも知れねえな。この俺の、恋の炎でさ」
ぶちっとどこかで何かが切れる音がして、サンジの意識は一瞬途切れた。












なにがどうしてこうなったんだかわからないが、サンジは今ラウンジの床に押し倒されて熱い口付けを受けている。
熱心に唇を食み舐め噛み吸い付く男は、まごうことなくこの船の剣士だ。
いつもはぐる眉だのダーツだのと悪態ばかりついて鼻で笑うけったクソ悪い天敵なのに、何ゆえこんなにも
情熱的かつ大胆なレイプ魔と化したのか?
サンジはさっぱり状況を掴めないまま、とにかく必死にゾロの舌に応えていた。

まだこうしてキスしている間はいい。
この唇が離れると、ゾロの口から信じられないこっ恥ずかしくも臭くて寒い台詞が、怒涛のように流れ出すのだ。
それがともかく堪らなくて、サンジは必死でゾロの肩にしがみ付いて舌を差し出し唾液を絡めた。
それに呼応するかのように、重ねた下半身はダイレクトにどくどくと脈打って凶暴なまでに熱の塊を押し付けてくる。
それが非常にやばくて恐ろしい。
隙を狙って蹴り飛ばし逃げようとするのだが、圧し掛かるゾロの重みがそれを許さなかった。

「・・・はあ・・・」
苦しさのあまりつい唇を離して息をつく。
と間を置かず熱い囁きがサンジの耳を犯した。
「そんなに目を潤ませんじゃねえ・・・食いつきたくなるだろうが」
ひいいいっ・・・
「どこもかしこも甘えてめえは、まるで俺の舌で熔けちまうほどに頼りねえな」
くあああああっ・・・
「てめえの全部を俺にくれねえか?俺はとっくにてめえのもんさ」
「があああっ!」
サンジは思い切り首が動く範囲で振りかぶって頭突きをくらわした。
目の前に星が散る。
やっぱダメージは自分のがでかい。

「痛ってえなあ、どうした。ちゃんと口で言え」
額を赤くしただけのゾロに諭されて、サンジは一人歯噛みする。
「うっせバカ!脳に虫が湧き過ぎだ。なに臭いことばかりベラベラベラベラ喋るんだ!」
「てめえがちゃんと口に出せっつったんじゃねーか」
「だからって、こんな・・・こんな・・・」
ゾロはサンジの両肩を押さえつけて、下半身を摺り寄せたまま見下ろしている。
さっきからキスはすれどもこの体勢から動かないのだ。
こうして延々と恥ずかしい台詞を聞かされて、サンジは抵抗する気力すら削がれて撃沈している。
こんなことならいっそ強引にコトを進めてもらった方がまだマシだ。
だがそんなこと、とても口になんてできない。
ゾロに押さえ付けられて、顔を真っ赤に染めながらもじもじと膝を擦り合わせているサンジに、
ゾロは容赦なく言葉責めを続ける。

「てめえのその指が器用に動いて飯を作っている間もよ、俺あその動きから目が離せねえ」
「どうしてそんなに白くてエロいんだ、その指はよ」
「食ってみたら甘えかな、それともヤニ臭えかな・・・」
にたりと笑ってこれ見よがしに舌を差し出し指を舐める。
その仕種の方がやたらとエロくて、サンジは顔から火を噴きそうになった。

「もーお、いい加減にしろてめえっ!恥ずかしいにもほどがあるぞっ!!」
「言わなきゃてめえはわかんねんだろうが」
「わかった!もう充分わかった!!」
殆ど涙目で言い返せば、ゾロの表情が微妙に変化する。
「わかったって、何がわかったんだ?」
素で聞かれてサンジは頼りなく視線を漂わせた。
「何って、てめえは俺を・・・」
「・・・」

ゾロが言葉を待っている。
なのに、サンジはどうしてもそれ以上続けることができない。
「てめえは、その・・・」
「ああ?」
「・・・」
鼻から息が漏れて、身体の力がくにゃくにゃと抜けた。

「なんだ、やっぱりわかってねえんじゃねえか」
意地悪な囁きに睨み返すこともできず、サンジはぎゅっと目を閉じて叫んだ。
「うっせー、四の五の言わずにとっととやれ!」
待ってましたとばかりに、食いつくゾロにサンジはああ〜と諦めの息をついて床に腕を投げ出した。










片足を抱え上げられて、息が掛かるほど間近で見つめられながら、誰にも見せたことのないところを
じっくりと解されている。

言葉で散々嬲られた反動か、前に触れられただけでサンジはあっさり達してしまった。
はしたなく撒き散らした白濁の液をこってり塗りつけられて、無遠慮に減り込む指の感触に耐えながらも、
サンジは直接的な身体の刺激に助けられていた。

先ほどまでの居たたまれない言葉責めに比べたら、こっちの方がよほどマシだ。
この状態でベラベラと実況中継でもされた日には舌を噛んで死にたくなるだろうが、幸いゾロは人が
変わったように無口に寡黙に励んでいる。
これはこれで相当不気味だが、最初に地獄を見たサンジにしてみればなんだって容易い。
たとえ半裸に剥かれて足を広げられて熱心に尻穴を解されていようとも、これはこれで致し方ない結果だと
納得してしまっている。

ふとゾロが顔を上げてサンジを見た。
何か口にするかとぎょっとするのに、宥めるように笑顔を返す。

「挿れっぞ・・・」
ほっとして思わず笑顔を返してしまった。
うっかりそれに気付いて顔を強張らせた時には、ずんと激しい圧迫感でそれどころではなくなっていた。

「ん、あああ・・・」
かくかくと顎が震え視界がぼやけた。
痛いってもんじゃない。
絶対無理ですそこはっ、と声を大にして主張しても通るくらい無理な場所に、通常あり得ないものが
押し入ろうとしている。

「ま、ま・・・ちょ・・・」
ゾロを押し退けるつもりで肩に手を掛けて、そのまま爪を立てた。
ゾロはサンジの腰を抱いて、ほとんど強引に減り込ませてくる。
ほんの少し濡れて解れたからといって、そう易々と入る場所ではないのに・・・

「うああっ・・・」
怖い―――
サンジは思わず目を瞑ってゾロの首に齧り付いた。
うっかり失念していたが、こんなところは普段モノを入れる場所じゃあない筈だ。
出すのだってこんなぶっといもの出したことがないのに、それよりもっと堅くて太くて熱いモノを逆に
押し込まれるなんて・・・
こんな、こんなに柔らかで人目に曝さない内緒で秘密な弱い部分を・・・

「や―――」
声に泣きが入った。
ゾロの先端が腹の中ほどまで到達してしまった気がする。
腸とか内臓とかあるはずなのに、一体オレの腹ん中はどうなっちまうんだろう。
内部から侵食される恐怖で、サンジは竦み上がって悲鳴を上げる。

「大丈夫だ」
掠れた声が、熱い吐息と共にサンジの耳を掠めた。
なにが大丈夫なもんかと、言い返す余裕すらない。
「傷付いちゃいねえ、大丈夫だ。てめえがオレを包んでくれてる」
馬鹿野郎と怒鳴りつけたくてなんとか片目だけ開けてみれば、頬がくっ付きそうなほど間近までゾロが
顔を寄せていた。
背中に腕を回し、がっちりと抱き締められている。

「こうしててめえと、抱き合いたかった」
抱き、合い?
サンジは呆けた顔をして、霞が掛かったような鈍い頭で考える。
抱き合うって・・・
できればもっと、普通に抱擁とかむぎゅっとかハグっとか、その程度から始めて貰えるとありがてえんだが・・・

「ずっとこう、したかった」
ゾロは目を閉じてサンジの汗ばんだ額に口付け、抱き締める腕に力をこめる。
そんなに掴んじゃ痛えよコラとか、それより何より、てめえの凶器が一番痛えとか色々言いたいことはあったが、
ゾロが触れる肌の部分から融けるように力が抜けていくのがわかった。

ああもう、しょうがねえ――――
強さだけひたすら求めて傍若無人に生きてきた唐変木が、サボテン相手に睦言を囁いてたんだ。
どう見たって寒い構図で、それでも言わずにはいられないほど、こんなにも求めてきたんだ。

ずくんと、脈打ちながらゾロのモノがさらに質量を増す。
全部入れる前にでかくしてんじゃねえと内心毒づきながらも、サンジは息を吐いて下半身のこわばりが
とけるように努力してみた。
もうぜってー、オレの骨盤骨格なんて、変形しちまっただろうな。
そう思うくらい痛くて軋んでいる。
ゾロはゆっくり静かに動きながらも、腰を進めることは止めなかった。

「はっ・・・あ・・・」
息を吐く度に口端から唾液が垂れる。
それを掬うように舐め取りながら、ゾロはとうとう根元までサンジの中に埋め込んでしまった。
ざり、と堅い毛の感触を内股に感じて、サンジは観念する。

「入っち・・・まった・・・」
「ああ、すげえ・・・」
引き締まった尻たぶを掴んで、円を描くようにゾロの腰が揺れる。
その動きがとんでもなくエロいと羞恥に震えながら、サンジは内部を掻き混ぜられる違和感に必死に耐えた。
なんたって、もう中に入っちまってるのだ。
やめろっつったって止めねえし、きっとイくまで許しちゃくれない。
ぐぬりと、ゾロ自身が感触を確かめるようにじっくり突いてくる。
限界まで広げられた部分は麻痺しているのに、無遠慮に押し入ったゾロの砲身はその存在を誇張するかのように
中から圧迫していた。

なんかもぅ、腹で感じるってどういうこった。
ゾロのその、でかさやら熱さやら形状やら、脈打つような動きやら・・・

「んあああっ・・・」
恥ずかしさに耐え切れず、サンジは声を上げてゾロにしがみつく。
それを合図にしたかのように、ゾロはおもむろに腰を打ちつけ両手でサンジの身体を揺さぶり始めた。
「うあっ、あっ、あああ・・・」
痛いんだか苦しいんだかわからない。
ただ下から突き上げられて腹の中をかき乱される。
目の前が白く光って、こめかみから血を吹きそうなほど血が昇った。

「うあだっ、やだあああ・・・」
鳴く声に煽られて、その動きは激しさを増した。
狭い場所を何度も突かれ、擦られて、痺れた下半身から水音がたつ。
「・・・ふ、あ・・・」
気持ちよくなんかないのに、なぜだか半端に立ち上がったペニスが腹の前で揺れていて、先端から露が
流れ落ちていた。
それ以上に、腹の中でぐちょぐちょと音がする。
どんどん滑りの良くなる動きに翻弄されて、サンジはただゾロにしがみ付くだけで精一杯だ。

気持ち良くなんか、ないのに―――
こんなに痛くて苦しくてぐちゃぐちゃなのに―――
身体が震えて腹が締まる。
脊髄を甘い痺れが駆け登るようで、ゾロが突く度に漏れる声が抑えられない。

「や、は・・・」
ホロホロと涙を零しながら目を開ければ、額から汗を滴らせたゾロと目が合った。
白い歯を覗かせて、にかりと笑う。
「すげえなてめえ、こんなに・・・」
その口をキスで塞ぎたかったが、もうサンジは首を傾ける力さえない。

「狭くてきつい、極上の穴持ちやがって。俺の全部搾り取る気かこの野郎・・・」
「んな、わ・・・け・・・」
「んの面がまた堪んね、俺の・・・エロ天使・・・」


う、があああああっ!!




爆発したかと思うほど心臓が跳ねて、何かが弾けた。
目の前が白く濁り、下の方からぐずぐずと身体が蕩ける気がする。
ぜいぜいと整わぬ息をそのままに身体を傾ければ、ゾロと自分の腹の間に白い液が飛び散っていた。

イ・・・ちまった・・・
こんなこんな
こんなわけもわからぬまま突っ込まれて揺すられて、あんな思い出したくもない恥ずかしい台詞で
イかされるなんて・・・

目を見開いたまま愕然と項垂れるサンジの背を、ゾロは優しく撫で擦った。
「ああくそ、最高だぜてめえ・・・」
突っ張ったまま強張っていた膝を動かせば、結合部からぐちゃりと音が鳴った。
圧迫感が少し和らいでいる。
こいつも、イっちまったのか。

「こんなに早くイったのあ、俺あ初めてだ」
ああ、イったのか。
良かった。

「そうか・・・てめえも、イったか・・・」
安堵したらへなへなと力が抜けた。
自然ゾロの肩に凭れるようにして、顎をかける。

「もう、な・・・こんな―――」
「ああ、まだだ・・・」
「へ?」
ずくずくと、また何かが脈打ち出す。
燻ぶるように熱を保って甦るさまが、ありありと感じられた。
「っと待て、てててめえ・・・」
「うし復活」
「嫌だああァあっ・・・」
喚くサンジを引き倒して内股を手で押さえつけると、ゾロは上から乗り上げるようにして抽迭を再開させた。


さっきの探るような丁寧な動きではない、明らかに犯し、陵辱する荒々しい律動に、サンジは両手で顔を
覆って悲鳴を噛み殺す。
「いやっだ・・・もう・・・」
「ああ、たまらねえ・・・てめえのケツん中あ、熱くて蕩けるみてえにぐちょぐちょなのに、奥の方からきゅうきゅう
 締め付けやがって・・・こんなに××が綺麗なピンクなら××の奥まで××で、先の方から××××が・・・」
「やめろ馬鹿ァ!!」
ゾロの声が耳に届かないように、結局サンジは終わるまで大声で喚き散らした。













喉がカラカラだ。
張り裂けんばかりの悲鳴から啜り泣きへと変わって、今は息を吐くのさえ億劫だ。
差し出されたコップを引っ手繰って、サンジは無言で冷たい水に口をつけた。

なんかもう、ぐしゃぐしゃだ。
身体も気分も。

ゾロが何か言おうと口を開きかけるたびに、目力で押さえつけた。
もう、何も言うな。頼むから言わないでくれ。
ゾロは仕方なく、言葉にする代わりに無骨な手でサンジの肩や背中を擦っては、髪を撫でて唇を押し付ける。
その仕種は愛情に満ちていて、ここまで無体に扱われた後でもサンジの心がささくれ立つことはなかった。

なんかもう、仕方ねえ。
拗ねた顔で突き出していた下唇を舌で湿らせると、サンジはそれでも仏頂面のままゾロの唇に押し付けた。
ぱちくりと、幼い仕種でゾロが瞬きをする。
サンジは目を合わせないまま口の端だけ上げて笑って見せた。
ゾロが深く息を吐いて、感極まったように抱き締める。
これで全部が伝わったかと安堵するサンジの耳に、心地よい低音が響いた。

「俺ァてめえに・・・てめえのすべてに、ぞっこんだ」
もう充分わかったと、応える代わりにサンジは手を伸ばしてゾロの脳天に酒瓶を叩き落した。














SEXを前提に愛あるお付き合いをしようと、きちんと言葉で話し合ったゾロとサンジは、
以来仲良く過ごしている。
大騒ぎをおこした初夜以外は上手にその関係を隠しているようなので、他のクルー達も見て見ぬ振りだ。


多分、誰よりもホッとしたのは、夜毎ゾロから届かぬ思いを延々聞かせ続けられていた、あのサボテンだろう。

日当たりのいいラウンジの窓の下
今は床に置かれた鉢植えからは、青々とした肉葉を漲らせたメキシコ柱サボテンが生えている。





            END



 敬愛する玉撫子薫さんに、愛を込めてv






サボテンのため息