気候が春になった。
近くに春島があり、桜があるという航海士の言葉にいつものように唐突なルフィの一声で、
俺等は春島に上陸することになった。
ルフィの一言は、以下のとおり。
「桜が見てぇ!ついでに桜の下で花見がしてぇ!」
ついでの方が本音だろう、と誰もが突っ込みを入れたが、反対するクルーはいなかった。
ルフィの一言に誰もが賛成し船内は一気にお祭りムードに変わった。
ルフィとフランキーは宴会だと騒ぎ、チョッパーは本物の桜が見れると喜びその横でウソップが
桜の思い出話をしている。
ナミはロビンに話しかけロビンは喜ぶ仲間を楽しそうに見ている。
コックは花見弁当を作る為にキッチンに駆け込んだ。
俺は聞こえてきた花見という言葉を懐かしく感じていた。

島には夕刻過ぎに到着した。
春島は大きく、ロビンの調べによると海軍も常駐せず治安も良さそうだ。
サニー号も港に入ることが出来、見張りも必要なさそうだ。
「花見だ―――!!」
速攻で飛び出していくルフィ達。
「ゾロ、どうせ寝るんなら桜の木の下で寝れば?荷物持ちお願いね?。」
そう言って船を降りるナミとロビン。
残されたのは俺とまだキッチンにいるコック。
「ナミすわ?ん♪準備できましたよ?。」
メロリンしながら弁当を持ってキッチンから出てきたコックの弁当を奪い船を降りる。
「何でてめぇだけ居やがるんだ。このマリモが。ナミさんは?ロビンちゃんは?!」
船の上からワーワー言っているコックを無視し歩き出す。
「待ちやがれ」
そういって船から飛び降りたコックを見ると煙草を吹かしながら「こっちだ」と歩き出した。
そのままコックに着いていくと、大きな桜の木にたどり着いた。
木のある丘ではルフィ達が遊んでいた。
弁当を見つけたルフィの「肉―――!!」の言葉から花見(宴会)が始まった。
口に頬ばりながら肉を奪うルフィ、場を盛り上げるウソップとフランキー。
桜じっと見つめるチョッパー、ナミとロビンに料理を取り分けるコック。
その中で俺は酒を飲みながら桜を見上げた。
思えば花見なんてものは、ここ数年縁がなかった。
そんな風流なことが出来る道を選ばなかったから当たり前だ。
それでも、満開の桜の下、その美しい風景に目を奪われ、心癒される。なんとも不思議なものだ。
花見弁当を堪能し、酒を飲んだルフィ達が動けなくなる前に宴会はナミの一声で終了し、ナミが
用意したホテルに向かった。









その、夜──。ゾロは夢を見た。
美しい夢だった。
満開の桜の大木、散る花吹雪。
その下にコックが佇んでいる。
珍しいことに着物を着て彼は微笑んで桜を眺めている。
それをゾロは少し距離を置いて見ている。
普段見れない風景をもう少し目で楽しみたくもあり、近寄りがたい、そんな雰囲気でもあった。
不意に強く風が吹いた。
思わず目を瞑り、顔を背けたゾロが、コックは大丈夫だったかと、顔を上げたとき。
桜の幹を背後に、コックの目の前に、一人の美しい女が立っていた。
女は薄紅の着物を着ていた。
現在着るようなものではなく、ゾロの故郷で昔着られていたと聞いたことのある裾の長い、足の
見えない着物で重ねも多い。
髪形は“おすべらかし”のような結いかたをして、髪は真っ黒で、顔や首の肌の色は驚くほど白く、
唇は血のように紅い。

美しい女は、嫣然と微笑みながら、手を伸ばしてコックに触れた。
その頬に愛しげに手を這わせ、うっとりとその身体に寄り添う。
「あぁ…。」
何故かはっきりと女の囁くような声がゾロの耳に届いた。
ゾロは一気に不愉快になった。
コックに他の女が近寄るどころか、触れて抱きついてうっとりとしているのだ。

「おい、コック!」
ゾロはサンジに呼びかけた。
だがサンジの反応はない。
それどころか、女を抱き寄せたのだ。
ゾロは目を疑った。
女好きではあるが、実は奥手すぎるほど奥手なコックが自ら女を抱き寄せるなど、あるだろうか?
だがサンジは女を抱き寄せ、更に女に向けてこの上なく優しく微笑んでみせたのだ。
女は嬉しげに笑み、サンジの胸に顔をすり寄せる。
着物姿の美しい男女が桜の木の下で抱き合うさまは、まるで一枚の絵のようだ。

だがゾロは苛立ちを募らせていた。
「おい、クソコック!」
足音も荒々しく、二人に近づこうとした瞬間だった。
女が、ゾロを見た。
いや、正確にはにらみつけた。
その鋭い眼光。
その勝ち誇ったような微笑み。

思わず足を止めた、ゾロの胸が騒ぐ。
女は再びサンジに向かって嫣然と微笑み、そしてふわりと浮かび上がった。
ゾロは驚き、そして今更ながら気づく。
この女は人間ではない。

シュルリ音がして背後の桜の枝の何本かが、その花をつけたままサンジに向かって伸びてきた。
サンジは動かない。
うっとりと女と桜を見つめている。

ひどく、いやな予感がした。
“サンジが連れて行かれる”そう直感した。
ゾロはサンジに向かって走り出す。
だが、少しも近くならない。
桜の枝は、サンジに向かって、その鋭く尖った先端を向ける。

「サンジ!」
ゾロが叫んだ、その時。
“ザシュッ”
桜の枝はその細い身体を貫いていた。
うっとりとしたまま、目を閉じ倒れるサンジ。
枝に貫かれたままのサンジを、女は微笑みながら抱き寄せる。

「サンジ!!…てめぇ!」
鬼鉄を抜いたゾロを女は嘲笑った。
この人は、妾のもの…。
そのまま、女とサンジは桜の幹に絡めとられる。
サンジの血で女の薄紅の着物は紅く染まって行き、
サンジの血を枝から吸ったのか、桜の花びらも紅く染まっていく。

「サンジ!!」
ゾロは叫んだ。
叫んで走った。
サンジをこの手に取り戻そうと走った。
だが、サンジはどんどん遠くなっていく。
紅い花びらが舞う中で、ゾロは遂に二人を見失う。
「サンジ!!」
叫ぶゾロを、ただ紅い花びらが埋め尽くしていく──。

はっと目を開ける。部屋の中はまだ暗い。
(夢か…)
汗をぬぐってゾロは上体を起こした。
(嫌な夢を見たな…。)
夢だと分かっていても、なんとなく気になる。
ゾロは隣で寝ているサンジの様子をそっと見た。
だが、隣には─、
(いない?)
サンジの姿はなかったのだ。








サンジの姿を探して外へと出たゾロは、昨夜花見をした桜の下でサンジを見つけた。
桜が散る。
夢と同じように佇む彼のもとに、その美しい薄紅色の花弁が散る。
一瞬、花びらの色が紅く見えて、ゾロは、無言でサンジを抱きしめた。
「ゾロ!?」
焦るサンジに、問答無用で口づけた。
桜に、あの夢の女に、こいつは自分のものなのだと、見せつけるように、深く激しく。

「……んッ…ゾ、ロッ……は、ぁっ…」
 何度も、何度も。

部屋に戻った二人は、もつれ込むようにベッドに入った。
ゾロは、終始無言で、サンジの服を剥ぎ、身体中に口付け、痕をつけた。
耐え切れずにサンジが身を捩ると、また違う場所を攻めた。
今夜のゾロは執拗だった。
いつものサンジを気遣う余裕あるセックスではなく、ただ自分をサンジに刻み付けた。

胸の突起を吸われて悲鳴を上げると、もっと声を出せといわんばかりに愛撫は激しくなった。
余裕のないゾロに引き摺られてサンジも理性が飛ぶ。
足の付け根もきつく何度も吸われた。
紅い痕が幾つもついたが、それでも足りないとばかりに舌でその痕を辿られた。
中心をその口と舌で愛撫されたときは、衝撃に反射的に逃げが入った。
浮き上がる腰を押さえつけられて、なおも激しく舌は動いた。
そればかりか、蕾にまで舌が及んだときには、なけなしの羞恥が飛んで、サンジは我を忘れ嬌声を上げた。

ゾロ自身が入ってきたときには、ホッとしてしまった。
前戯のあまりの激しさにどうにかなってしまいそうだったのが、これでやっと落ち着くのだと思った。

だが、この日のゾロは違った。
何度も深くサンジを穿ち、奥の弱いところを激しく突いた。
舌での愛撫など比べ物にならないほどの快楽がサンジを襲い、サンジは何度もゾロの手の中に達した。
ゾロ自身も何度もサンジの中で達した。
熱い液体を感じながら、しかしゾロの動きは止まらなかった。
体勢を変えて、更に深く抉るようにサンジを突いた。
そこに理性はなかった。今夜のゾロにそんなものは必要なかった。

互いの体液にまみれながら、くたくたになるまで抱き合い、ようやく眠りについた。
シャワーなど浴びる力も残ってない。
後始末をしなければならないのは分かっていたが、そんなことを考えるのも億劫だった。
意識が沈む間際、ゾロがポツリと呟いた。
「何処にも行くな…」

その一言は、サンジの胸に重く響いた。
馬鹿なことを言うな、とサンジは笑った。

「ここにいる…」
沈む意識の端でそう返して、サンジはゾロの胸に顔を埋めた。
ゾロの抱き締める腕の感触に酔いながら。







END




さくら舞う夜に