ちゅっ、ちゅっ、と軽い音を立てて唇を重ねる。
啄むように、何度も繰り返す。
そのうちにお前の腕はオレの腰を引き寄せて、軽く抱きしめる。
「……ン。」
「オイ、…ン、もっと唇を…開けよ」
言われて、オレはグッと拳を握りしめる。
この両腕が、コイツの背中を抱きしめて引き寄せて仕舞わないように。
それは、まだ、早い。
躊躇しながらゆっくりと唇を開くと、するりと熱くて器用な舌が忍び込んでくる。
絡まって、深く吸い上げられる。
「……ふ。」
舌先に集まってゆく熱情に引き込まれないように、オレは何か他のことを考えようとした。
…あ、だめだ。巧すぎるんだよ、マリモのくせに。
夢中で口腔の中を探りながら他のことを考えるのは料理をするより難しい。
滑らかな口内、僅かにざらつく器用な舌、ゾロの味を感じ取る味蕾。
そして微かな違和感。
ああゾロ、お前ちょっと…修行しすぎだろ?
それともオレが夕べ口の中、勢い余って噛み切ったのか?
探るうちに気付いた小さな傷跡を舐めると、痛かったのか腰に回された腕に力が入る。
目を開けた気配がした。
多分、睨んでいるんだろうな。
オレのことを見ている、気配がする。
これだけ近くにゾロを感じているから…なんとなく目が開いたの、分かるんだよな。
でも、オレは目を開けない。
開けてゾロの琥珀色の瞳を見たら、最後だから。
何も考えられなくなってしまう…今より、もっと。
引くと、追ってきて。
掴まると逃げられない。
まるでオレ達の関係のような深い深いキス。
空気に溶けて熱だけの存在になってしまいそうなオレは必死に、耳元で聞こえるゾロのピアスの音に集中しようとしていた。
意識を保たないとオレじゃ居られない。
とろとろに蕩けて、ゾロに染み込んでしまいそう。
それでも良いかと思う。
ゾロの一部になれるのなら。
ゾロと交わって、ゾロと共にいたい。
するすると感情の糸が解けてゾロに絡みつく。
オレの全身も糸のようにほどけてしまいそう。
ただキスしてるだけなのに。
んん、…本当にとけそう。
お互いの境界線さえ既に曖昧な舌の先には、甘い味が微かにだけ残っている。
そういえば、さっき何か珍しい酒を飲んでた気がした。
甘い酒は苦手なはずなのに…。
もしかして…キス、してくれる気だったのか。ぼんやりと思う。
同時に何か笑えてしまう。
必死になって恋愛をしようとしている自分の考えに苦笑が漏れる。
本当は、こんな、甘い関係じゃないのに。
どろどろで、濃厚な…知ってしまったこの蜜の味は、麻薬よりも質が悪いものに違いない。
だってオレは、ゾロ相手にこんな風になって…。
今までこんなに夢中になった相手なんて一人も居なかった。
思い知らされる。
これまで“レンアイ”だと思っていたものが、そんな関係がいかに薄くて表面的なものだったか。
最初から、ゾロだけなら良かった、などとまで時々思ってしまう自分を蹴り倒したい衝動に駆られる。
それでも、一緒にいることをやめられない。
キスも止まらない。
諦めて、身を投げてしまった方が楽だろうか。
この底なしの恋に思い切って飛び込んでも、受け止めてくれるだろうか?
目を閉じて、祈りの言葉の代わりにお前の名前を呼んで。
いや…もう手遅れか。
キスを繰り返すだけで、恐ろしいほどの時間が流れていることが、たまにある。
すっかりあがってしまった呼吸のまま、外を見ると日の出が近くて、二人でぎくりとすることも。
その後で、周りを見渡して顔を見合わせて苦笑することも…
島に着いた時、出発時間がとっくに過ぎていて、ナミさんに何度お叱りを受けたことか。
今日は誰も船にはいない。
最初から、誰に気を使うこともない。
…なあ。
このまま、堕ちるところまで堕ちてしまうのもいいかな。
二人でどこまでも。
我慢できなくなって、堪らなくてオレは、遂に腕を伸ばして、ゾロの背中に腕を回した。
大好きな背中を抱き寄せて、もっと深いキスをねだる。
なあ、いつもオレが先に蕩けてしまうから、今日はお前が先に立って、オレを誘って。
ついていくから。
どこまででも。
底の見えない、夢みたいなどろどろの恋の果てまでも。
…だから。
溢れ出すくらい、オレの中をゾロで満たしてくれよ。
時間を忘れて、どこまでも繋がろうぜ。
END