「明日迎えに来るからな、勝手に船降りるなよ。船番頑張って、アナタ。」

ふいを突かれて、戸惑う俺に、恥じらいの下から色気のある笑みを思い切り投げつけて、コックはくるりと
背中を向けて船を降りた。







アナタと呼ぶ条件







プロポーズの言葉と共に、コックに指輪を贈ったのは昨日のこと。
猛烈なテレに襲われるとは思っていたが、まさかこんな鮮やかに逆襲されるとは思っても見なかった。
“なみすわ〜ん。ロビンちゅわ〜ん。まって〜”とコックが船を降りるまで、不覚にも身動き一つ出来なかった。
気のきいたセリフどころか、あいつへの言葉も何一つ出てこない。
救いと言えば、呆然としている俺をほとんど見ずに、コックが姿を消したことくらいだ。
俺がテレてるがわかった上での、あいつなりの配慮なんだろう。
そう思うと心が暖かくなり、自然と顔が緩む。

ずっとあいつの気持ちを知りながら、なかなか最後の一歩を踏み出せずにいた。
大剣豪になるまで色恋には興味がないと冷たい態度をとりながらも、辛そうにしているあいつを見ることで、
自分が「惚れられている」ことを確認しては内心ホッとしていたのだと思う。
歪んだ形でしか、愛情を確認できない俺の不器用さも、あいつはわかっていたってことか・・・。
それで、柄にもなく、プロポーズまでして、あげくのはてにコレかよ・・・。
本当に、たいしたコックだよ。



今すぐにでも追いかけたい衝動を抑えながら、コックが迎えにくるのを待った。













次の日、コックと一緒に交代のウソップが船に来た。
楽しそうに戻ってきたコックを抱きしめる。
突然のことに驚き赤くなった耳を確認し俺は勝利感に酔った。
その後、青くなりながら目を隠し震えているウソップに気付いたコックに蹴り飛ばされた。
「いきなり、なにしやがる?!このエロマリモ!」
「お前が悪いんだろう!昨日俺をあそこまで煽っておいて、タダですむと思ってんのか?」
「煽ってなんかっ」
「いや、煽った。もう手遅れだ」
コックを押し倒そうとした俺は再びコックに蹴り飛ばされた。
「じゃ、ウソップ船番頼むな。」
ウソップに声をかけ倒れている俺を無視して船を降りる。
慌ててコックを追いかける。


船を降りた俺はコックを捕まえ近くのホテルに入った。
コックは暴れていたがそんなことは関係ない。
“手遅れだ”って言ってあるしな。
部屋に入るとコックの唇を奪い、肩を押してベッドに押し込める。
ドサンと倒れこんだコックが逃げようとするのを押さえ込み、俺はにやりと笑った。
「何…するんだ…?」
「決まってるだろ。アレするんだよ」
ニヤニヤと笑う俺をキッとにらみ返すコックにまたがり、暴れるコック押さえつける。
「お前、昨日、俺のことなんて呼んだ?」
「!!…知らねぇ」
「そうか?俺の錯覚か?確か、アナ・・・」
「だっ黙れ!錯覚だ!てめぇの耳が腐ってたんだよ」
「いーや、確かに聞いた。俺との結婚を認めた発言だったよなぁ?」
「っ・・・」

真っ赤に染まった耳元で、俺はささやいた。
「今までの“関係”から新しい“関係”になったんだ。もう俺の事、拒んだりできないんだぜ?夜であろうと朝であろうと
 関係ないからな」
そう優しく言って聞かせると、コックがギッと睨み返した。

「できるものならやってみろ。寝腐れてるお前とは違って俺は忙しいんだよ」
「・・・」
ちょっと考えるフリをしてみせる。

「忙しくなければいいんだろ?それにお前をその気にさせれば問題ないよな?」
「っ・・・」
こにくたらしい唇をふさぐ。
こいつを黙らせるには、コレが一番だ。



探るように口付け、抗議の言葉を全部口の中に飲み込む。
往生際が悪いのはすぐには変わらないか。
舌を十分からめて、長い長い口付けを交わす。
新婚(?)のキスにしては濃厚すぎる気もするが、煽り立てたお前が悪い。
ようやくおとなしくなったサンジのしなやかな首筋に唇を落としていく。

“何度味わっても満たされない。”
白い胸を開く。
最初にこいつを抱いたときも、この白さと色気のある身体に驚いたな。
あまりに綺麗で。
軽く先端を吸い上げると、サンジが白い喉を仰け反らせた。
「んっ・・・あぁっ・・・」
しつこく舌でねぶると、身体がくねくねとよじれた。
突起をいたぶりながら、手を下に伸ばしたとき、違和感のある電子音が俺の腹部から響いた。



携帯が鳴ってる。
誰だ。イイとこなのに・・・。
誰がでるか。

無視してカンジンな部分を探ろうとしたら、コックの白い手が伸び、腹巻きに入っている子電伝虫をあっというまに
取り上げた。
「でっ、電話だ!」
ご丁寧に着信させて、俺の耳元に突きつける。
聞きなれた魔女の声が響いてくる。

「もしもし。ゾロ」
ナミだ・・・。
うるせえな。
切ろうとした電話をもぎとり、コックが目で出ろと催促する。
「ゾロ?ちょっと、聞いてるの!」
俺は仕方なく手を休め、コックにまたがったままで子電伝虫を取り上げた。
「ああ??何の用だ?」
「何の用じゃないわよ!!大会よ、た・い・か・い」」
大会・・・?ああ、そういえば・・・。
「悪ぃ、無理だ」
無愛想極まりない声で、返答する。
「何言ってんのよ!!酒飲み大会で優勝すれば何百万ベリー貰えると思ってるのよ!!」
「今は無理だ。お前が出ればいいだろ?」
「はぁ?あんたの名前で申し込んだのよ!!」
チッと舌打ちしたのが聞こえたらしい。
ナミの声が凶暴性を増す。

「いいから、今直ぐ広場に来なさい!!こなかったらタダじゃおかないわよ」
「今は酒なんか飲んでる場合じゃねえんだよ。切るぞ」
本当は昨日船を降りてサンジを抱きたかったんだ。
もうこれ以上待てるかよ。
「ちょっとゾロ!!お酒以上に大切な用事って何?まさかこんな時間からサンジ君を#$%&?!」
俺は子電伝虫の通話をきった。
ツーツーと切断音が漏れてきっちりと電源まで切り、俺は子電伝虫を部屋の隅に放り投げた。
邪魔者は始末した。さて。
コックの顔を見下ろす。 と、コックが真っ赤になっている。

全部聞こえたの、か、まさか?
ナミへの態度に怒ってるのか…?

「ナミさんからだったよな?」
「う・・・」
「広場に行かねえのか?」
「・・・い・・・や」
「大好きな酒より、俺を優先するのか?」

図星・・・。
どんなに旨い酒を死ぬほど飲める時間よりこいつと過ごせるこの一瞬がほしい。




コックの顔がゆっくり微笑みに変わる。
口元を押さえるコックの指に、きらりと光る指輪に、俺はおもわず見惚れた。

こいつをつなぎとめておけるなら、どんな事でも我慢出来る、そう思った。
俺はサンジの手をつかみ上げた。
指輪が光る白い指を口の中に含む。
硬い、冷たい金属が、俺の口の中で温度を上げていく。
ねっとりと、指輪ごと指をしゃぶると、サンジの指が誘うように俺の舌を捉えた。
舌の腹を、指先がくすぐる。
おもわずうっとりとその感覚を味わった俺を、サンジの細い指先がさらに誘う。
細い指を丹念に味わい、唾液を絡めて吸い取ると、サンジの指先がフルフルと震えた。
解放した指をつかみ、サンジの口元に近づける。

「間接キス、しろよ」
「・・・」

無言で唇を尖らせ、指輪にキスを落とした。
ちゅっ、という軽い音に満足できず、指をサンジの口の中に押し込める。

「しゃぶれ」
「んっ・・・」

自分の白い指をねぶるサンジの舌の動きを見て、俺は急速に高ぶった。
まるで自分自身が舐められているような錯覚に陥る。
片手でバックルを無理矢理外し、パンツも一緒に剥ぎ取った。
我慢できずに、局所に俺自身をぐいっと押し付ける。
サンジが指を口中に含んだまま、ちらりと俺を見上げた。

ク・レ・ヨ・・・。
指をくわえたまま、唇がそう動く。
ナ・カ・ニ・・・、アナタ・・・。

「声に出して言えよ」
指でサンジ自身を刺激しながら、俺は催促した。

聞きたい。あの言葉。
お前が、俺に繋がれたというシルシ。
永遠、という、俺たちが誓うにはふさわしくないその言葉を、せめて今だけでも・・・。

イ・ヤ・ダ・・・。
サンジの唇が反抗する。
言ってくれよ、俺の心を震わせた、その言葉を。
「言わなきゃ、これで終わりだぞ?」
くちゅん、と俺とサンジの接点が音を立てる。
「すっげぇ挿れてぇ・・・、早く言えよ」
イ・ヤ・・・。
サンジが顔をしかめて首を振る。
「頑固だな、俺のサンジは・・・」
指でサンジのペニスを再び擦る。
ペニスを擦りながらアナルにもう片方の指を入れ内壁を擦ると、サンジは身体を反らせた。
「これまで何度もお前を抱いてきたけ。結婚したんだ最初くらい、素直になれよ」

挿れて、ほしいんだろ?
抱きたい、お前を。
俺だけに溺れてるところを、見せてくれ。

グチュ、グチュ
指の本数を増やし刺激を繰り返す。
ペニスから溢れ出す汁に誘われ、指を抜き俺自身で奥まで貫きそうになるのをどうにか堪える。
ペニスを少し激しく擦り、主張する乳首に歯を立てる。
必死で衝動を堪えながらの戦略に、ようやくサンジが陥落する。
「んっ・・・挿れ・・・て・・・」
「ダメだ」
「ゾロ・・・」
「違う」
恨みがましく睨み上げ、しばらく息を弾ませていたコックが、ついに恥ずかしげに目を伏せた。
吐息の合間で、ようやく求めていた言葉を、甘く囁いた。

「挿れて・・・アナタ・・・」

全身に痺れが走る。
指を抜きじわりと突き立てると、サンジがくぅっとうめいた。
ゆっくりと差し込む。と、サンジが腰を擦り付けた。
「イイ・・・ゾロ・・・。もっと・・・」
普段のサンジとは全く違う、魔性の表情・・・。
奥まで達したはずの先を、もっと奥まで擦り付ける。
繋がっても、繋がってもぬぐえない不安は、指輪という手錠で解消される、と思っていた自分自身の浅はかさに
呆れながら、俺は夢中でサンジを往復した。

そんな簡単なヤツじゃなかった。
こいつを完全に手に入れるためには、後どれくらい、繋がればいいのか・・・。
乳首をころがし、首筋を味わい、ペニスを激しく刺激する。
腰を深く絡めて、細い肩を抱きしめる。
あちこちに朱色の刻印を落としながら、俺はサンジを激しく揺らし始めた。

「ああっゾ・・・、アナタ・・・」

「ゾロ」、と呼ぶたび、動きを止め、「アナタ」と呼びなおさせて、再開する。
抗議のまなざしが、哀願に変わり、そして、陶酔に揺れる。
サンジの指先が、爪先が、ペニスが細かく震え始め、絶頂が近いことを知った俺は、ダメ押しにささやいた。
「イクときも、ちゃんとアナタって叫べよ?」
「はぁっ・・・ああっ!!」
俺の胸にすがりついていた手が、背中に回る。きゅっと力がこもり、夢中で何度も頷いたサンジに満足して、俺は激しくペニスを擦り腰を突き上げた。
「あっ・・・も、う・・・イクっ!」
「くっ・・・」
ぎゅっと中が狭くなる。
いつもより激しい締め付けに負けないよう、俺は奥歯を噛み締めて、強くサンジを突き上げた。
「い、イクッ・・・!! んっ・・・ぁあああっ!!」
サンジは白い液体を勢いよく放った。
「サン・・・ジッ!」
悲鳴の合間の、アナ・・・タ・・・、という消え入りそうな声を確かめてから、俺はすべてをサンジの中に注ぎ込んだ。







脱力した後も、長いまつげが小刻みにいつまでも震えている。
そのまぶたに唇を落とすと、ようやくゆっくりと大きな瞳が開いた。
しばらくぼんやりと快感の余韻に浸っていた瞳が、徐々に色を取り戻す。
ふっと、心をとかすような笑顔で笑いかけられ、俺は夢中で、まぶたに、唇に、頬に、キスの雨を降らせた。
「なあ・・・」
ひっきりなしのキスの合間に、ささやく。

「これからもヤルときは、アナタって呼んでくれないか?」
「んん・・・はぁ・・・ム、リ・・・だ・・・」
「どうしてだ。すっげぇ可愛かった」
「イヤ・・・ダ・・・」

呼びにくいんだよ。ゾロって呼ぶのがいちばん落ち着く。
とぎれとぎれの甘い反抗を、唇で阻止する。

「じゃ、イクときだけでいいから・・・」
「・・・・・・」
んー・・・と、迷うように言葉を濁したサンジが、急にフフッと笑って俺を見上げた。
小悪魔的な笑顔。
嫌な予感がした。

「オールブルーでヤル時なら呼んでもいいぜ」
「なぁっ?!」
そ、そんなこと言ったら、いったい何年に1回とかになるんだ!
「あの場所ならゾロが誰かに狙われる事も、決闘になることもないだろうし。自然にアナタって呼びたくなるかも
 しれないしな」
「・・・・・・」
絶句する俺の首に腕を回し、サンジがチュッと軽く口付けた。
「ナミさんの説得がんばってね、ア・ナ・タ」
呆然としている俺を尻目に、笑いが止まらなくなったらしいサンジが、クククと身体を震わせた。
笑うたびに、注意信号のように、指の上でキラキラと光が反射する。



縛ったつもりが、どうやら、最強の武器を与えてしまったらしい。
仏頂面の俺をあざ笑うように、プラチナの冷たい光が、まだ揺れ続けている・・・。

ナミのやつすぐにオールブルーに行ってくれるかな・・・。





END