-人魚の涙と呪われた怪物のおはなし 7 -

サンジと向かい合う形で腰を沈めたゾロは、しとどに濡れた雄をその窪みにぐりぐりと押し付けてきた。
だがいかんせん、容量が大きすぎてそのままするりと入る訳がない。
先端を擦り付けるだけで気持ちが昂るのか、ゾロはフーフー荒い鼻息をサンジの額にぶつけ、汗を流し呻いている。
「はい、る…?いれ、る?」
サンジはサンジで、ギチギチと押し入ってくる塊を受け入れるのに必死だ。
もうちょっと、せめて先端だけでも小さくて細くければまだなんとかなるものを、濡れて丸っとした先っぽからしてそれなりの大きさだから
物量が半端ない。
入れるというより押してくる感じで、圧迫感しかなかった。
――――無理かも?
そんな思いがチラリと頭を掠めたが、いやいやと首を振った。
やってやれないことはないはずだ。
一応サンジは、知識としては知っている。
なんせ耳年増なのだからして。

やればできる!と気合を入れたら、無意識に腹に力が入ってゾロのそれを押し戻してしまった。
これではいかんと思うのに、力の抜きどころがわからない。
「…も、とっとと突っ込めよ!」
「バカ言えっ」
額を突き合わせ、二人して喧嘩腰で怒鳴り合った。
ゾロはふうと息を吐き、腰を引いてサンジから離れる。
「あ、てめ、諦めんな」
「いや待て、悪ぃ、頭に血ぃ上って忘れてた」
ゾロは拳で自分の頭をゴツゴツ叩いて、焦った動作で脱ぎ捨てられた腹巻を手繰り寄せる。
中から取り出したのは、塗り薬のようなチューブだ。
「暗黒女にもらってた」
「暗黒…ロビンちゃんか?なんてこと言いやがる!」
見当違いな方向で憤るサンジを、ゾロは改めてコロンとひっくり返した。
そうしながら豪快に中身を絞り出し、掌全体で馴染ませて塗りつける。
「ひゃっ・・・」
「なんか使わねえと、無理なんだ」
「や、そ、うだろうけど、ど…」
ぬちゅぐちゅと湿った水音を立てながら、ゾロの指がサンジの中へと入っていく。
何度か出し入れを繰り返すうちに、明らかにその辺りが柔らかくなっていった。
縁を指でぐるりとなぞり、更に本数を増やして内部に押し入って来るのに、最初の一本ほどの異物感はない。
「―――あ・・・」
「指だけでも、きちぃな」
ゾロの言葉に、無意識に締め付けていたかと慌てて力を抜いてみる。
そうするとより深く指が入り込んできて、反射的にきゅっと締めてしまった。
「あ、やば…」
「いや、最初よりいい感じだ。すげえ柔らけぇ」
ゾロの感嘆したような声に勇気付けられ、サンジは自分で膝頭を抑えたままぎゅっと目を閉じた。
非常に恥ずかしい恰好だと思うから、とてもじゃないが目は開けられない。
「んあっ・・・」
中に入った指が複雑な動きを見せて、奥の方でなにかを掠める。
その度、腹の底の方でドクリとなにかが脈打って、その得体の知れなさに腰が引けた。
「あ、やべ、そこ…やっ…」
「ここか?」
「うあっ、ダメっ」
ゾロが、曲げた指先でカシカシと引っ掻いてくる。
勘のいい男だから、サンジが「ダメだ」と思っている部分を的確に突いて来た。
「んあっ、やべっ・・・や―――」
「うし、わかった」
ぬるりと、静かな動きで滑らかに指が引き抜かれた。
中の異物感が無くなったことにほっとしながらも、一抹の寂しささえ感じてサンジはそっと目を開ける。
開いた足の間に、ゾロが真剣な眼差しを注いでいるところだった。
宛がった雄は先ほどよりなお一層色濃く膨張していて、もはや別個の凶悪な生き物にしか見えない。
だがそれがゾロ本体だと思い直したら、怖さも半減した。
いや、本体じゃないんだけれど。
サンジも相当、混乱している。

「挿れ、ぞ」
「おう」
今度こそどんと来い!と身構えて目を瞑る。
先ほどまで暴れていた指よりも、熱くて太い塊が押し入ってきた。
が、サンジも跳ね返すほど頑なではない。
むしろ、徐々にではあるが蕾を開いて受け入れていくさまが、感触だけで見て取れた。
自分の身体の一部なのに、なぜか別個のもののように客観的に捉えてしまう。
これだって、サンジ本体だと思えば頑張り甲斐があるというもの。
いや、本体じゃないんだけど。

「――――あ・あ・あ…」
先ほどとは打って変わって、柔らかに押し戻しつつも確実に内部に減り込んできた。
内壁が軋む感触もない。
非常に滑らかで、異物感は半端ないが切れるような痛みは伴わない。
押し広げた状態でゾロが動きを止めたら、サンジは仰向いたまま戦慄くように大きく息を吐いた。
「と、まんな・・・くるし…」
「おう」
ゾロもきついのだろう。
額に脂汗を滲ませ、苦痛に耐えるように眉間に皺を寄せて再び押し入ってくる。
くぷりと、引っ掛かりが取れたかのように進みが滑らかになった。
熱く滾る内側は未知の場所に巨物を受け入れることで、恐れ戦きながら収縮している。
けれどその動きでさえ、ゾロを包み込むようで温かい。
「…はいっ…た」
「あ、お、ぅ」
サンジは仰向いたまま、はっはと浅く息を継いだ。
腹の中はもういっぱいいっぱいだが、ゾロをすべて納めた事実に感動して涙が出そうだ。
これでやっと、一つになれた。
「ゾロぉ…」
自分でも甘えた音だと気恥ずかしくなるようなこえで呼んだら、ゾロは伸び上がってサンジの唇を啄んできた。
ちょっとした動作でも腹の奥に響いて、切ない気持ちになる。
苦しくてきついけれど、耐えられなくはない。
しばらく黙って濃密なキスを交わし、お互いの体温が馴染むまでじっと繋がっていた。
サンジの中で、ゾロが脈打つのが伝わって来る。
そのままでも達してしまいそうだと薄く笑うゾロに、サンジは泣きそうな顔で笑い返した。
「情けねえこと言ってんじゃねえ、動けよ」
「ゆっくり、な」
「…ああ、ゆっくり―――」
最初の激情が嘘のように、繋がってからは優しく穏やかな情交になった。
お互いを気遣い、悦楽を素直に表現して確かめ合う。
どこに触れられても気持ちいいとしか感じ取れないほど蕩けきったサンジは、ゾロと共に何度も快楽の境地に達した。



指一本動かすのも億劫なほど疲弊して、ベッドに横倒しになったのは明け方近くだ。
真っ暗な海の底でも、珊瑚や夜光虫の光が穏やかな明るさを届けてくれている。
眠らない魚達が窓の外を行きかうのを眺め、サンジは仰向いたまま煙草を咥え火を点けた。
深く吸い込んでから紫煙を吐き出し、ほうと声に出して呻いた。
「大丈夫か?」
「…誰に言ってんだボケ」
言い返す声が、掠れている。

最初はこんなん無理だろと思った結合も、一度繋がってしまってからはそれまでの奮闘が嘘のようにスムーズに事が運んだ。
というか、思い返すのも恥ずかしいくらい派手に乱れた。
誰の目もない、深海の小部屋というシチュエーションで無かったら自害してしまいたいくらいだ。
思いだいて一人で呻くサンジの隣で、ゾロは満足しきった獣みたいな表情で寝転んでいる。
手慰みに、汗で濡れて頬に張り付いたサンジの髪を弄った。
「…しかし、よかったな」
「そんなにヨかったか」
「ばか、そっちじゃねえよ」
いや、そっちもヨかったんだが…と言い直そうとして、いやいやと考えを改める。
「てめえがよ、その、普通の人間でよかったって。や、普通じゃねえけど、身体は人間じゃねえか」
サンジの言わんとするところがわからず、ゾロは手枕をしたまま「?」と怪訝そうな顔をしている。
「あの、ほら。聖獣王様だからさ、アレも超越しててむちゃくちゃデカいとか。や、これも充分デカくて死ぬ目に遭ったけど、規格外と
 かじゃなくてさ。それとかものすごい長いとか、棘ついてたりとか返しがあったりとか一本じゃなかったりとか。そう言うのじゃなくて
よかったなーって」
わたわたしながら言い添えたサンジは、そのどれもが全然フォローできてないことに気付いた。
今さら言い繕うこともできなくて、ははははーと乾いた笑い声を立てる。
ゾロは呆れたような目で見ていてが、同じようにははっと喉の奥で笑った。
「お望みなら、もうちょっと趣向を凝らせるが」
「え?いやマジ?いやいやいやいや、全然お望みじゃないから!むしろほっとしてるから!お前、人間でよかったってマジでそう
 思ってるから!」
慌てるサンジの肩を抑えて、よいしょとばかりに圧し掛かった。
途端、本気で毛を逆立ててサンジがぎゃーと叫ぶ。
「マジ、マジ無理!もう俺壊れる勘弁っ」
「冗談だ」
半泣きになったサンジの目尻にちゅっちゅとキスを落とし、ゾロは笑いながらぎゅっと抱きしめた。
そうしながら、愛しげに頬擦りする。
「てめえが恐れんのも、無理はねえ。こんな俺でも、よく受け入れてくれた」
「…ゾロ」
「得体のしれねえモンだろ」

聖獣王≠ニ呼ばれたところで、人間にとっては所詮獣か畜生だ。
それだけで毛嫌いする気持ちも、心のどこかにあるだろう。
ゾロはそのことも承知していて、敢えて人間であることを貫き通そうとはしなかった。
人間でもあり獣でもある、中途半端で、けれどすべてを超越した存在である自分を、サンジが愛し受け入れてくれたことが何より嬉しいのだ。
「――――・・・」
言葉を操る聖獣王でありながら肝心なことを言い表せない不器用さに、サンジは溜め息を一つ吐いて自分に懐いてくる芝生頭を撫でた。

「あのよ、お前が生まれたってことはご先祖様に人間がいるんだよな」
「ああ」
「んで、お前の親父さんは龍で、お袋さんは鳳凰で、そのご先祖さんもそのまたご先祖さんも。そりゃあありとあらゆる種族がいたんだろうな」
「ああ」
サンジが何を言わんとしているのか、計りかねてゾロはじっと見つめている。
「いくつもの世代で愛を交わして、そうしてお前が生まれた。人種も種族も、時に性別も越えて愛し合った証がお前らだ。そして俺もまた、
 聖獣の血族だからという理由ではなく、お前と言う一人の男ロロノア・ゾロ≠ノ惚れた」
「――――・・・」
「俺もこうして、愛の記憶の中に刻み込まれるんだな」

長い時を経て、脈々と受け継がれた聖獣王の系譜。
二人の間に、次はどんな聖獣が生まれ出るのかは誰にもわからない。
けれど、例えそれがどんな獣≠ナあろうとも、二人の愛の証であることに変わりはない。
だからサンジは、ゾロが人間だろうが聖獣だろうが、人外のモノを産み落とすことに抵抗はないのだ。
「お前に惚れて愛されて、お前との間に子を成せることがとても嬉しいよ、ゾロ」
強がりでもなく、ただ純粋に素直にそう囁いて、サンジはぎゅっとゾロの頭を抱きしめた。
扁平な胸に顔を押し付けて、ゾロはじっとサンジの身体を抱き返している。
小刻みな振動と共に、くぐもった声が響いた。


「―――――ありがとう」

後は言葉もなく、ただしっとりと抱き合っていた。