サンジ君、お誕生日おめでとう!

サンジおめでとう!

ナミさんが、ウソップが、チョッパーが、そして我らが船長ルフィが俺に祝いの言葉をかけてくれるのへ

「おう、皆サンキュー!」と満面の笑顔で応える。

「「かんぱ〜い!!」」

高らかに挙げたグラスを賑やかにぶつけ合って今宵の宴が開幕する。

毎回ゴーイングメリー号での宴は賑やかに繰り広げられ、飲み食いのあとの惨状を呈して、そして終わる。

「・・・・・」

一人、甲板でデッキに凭れた格好でサンジは煙草の煙を燻らせて口の端を歪める。

『俺にとっちゃ、祝いたくない日なんだけどな・・・』

シニカルな笑みを遠くの沖合いへと向けて目を伏せる。

「・・・今日ばっかりは酔えねえよ、俺」

他のメンバーの誕生日であれば料理を作り、運びつつ、明るく場を盛り上げて皆と盛大に飲んで酔い潰れる。

それが自分の誕生日にだけは、どうしても心のどこかが冷めてしまっていて酔うこともできない。

嬉しい表情を作って愉しいフリをして時間を過ごす―――祝ってくれる皆に申し訳ない、そんな気持ちが

追い討ちをかけて宴会の後でなおさら気分が滅入る。

ふ〜

煙草と一緒に思いっきり溜息を吐くと、とんっ、と身体の向きを変える。

デッキの手摺りに背中を預けて空を見上げて深く吸い込んだ煙草の煙を中空に撒き散らす。


そろそろ後片付けを始めるか


そんなことを考えて腰を上げようとしたところへコツコツと足音が近づいてきた。

「あ?」

なんだってヤツが来るんだよ?

麦わら海賊団の剣士は少し怒ったような表情を携えてサンジの傍らまでやってきた。

「おう、どした?酒、足りなかったか?」

この剣士には、それ以外、自分に他の用はないだろうと思っていた。

だから。

しょうがねえなぁ、そう呟いて身体を引き起こそうとして

「おまえ、嬉しくないならそう言え」

吐かれた言葉にギクリと身体が軋む。

「・・・な、に?」

「あんな猿芝居で気がつかないと思ったのか」

凍り付く まさにそんな言葉がピッタリ合う。ゾロの言葉にサンジは身動き1つできなかった。

『バレてた・・・・・・?こんな鈍いヤツにってことはナミさんたちにも・・・か?』

嫌な冷や汗が背中を伝たう。


「おいっ!」

腕を掴まれてビクリと身体が強張る。

「・・・あ・・・なに?」

「何?じゃねえだろうが!」

上から目を覗き込まれて更に威圧される。

「なにをヘラヘラ愛想笑い浮かべて、おべんちゃら言ってやがんだ?嫌なら嫌と断わりゃいいじゃねえか!

 遠慮しないで気乗りがしないって言えよ」

「な・・・にを言ってる・・」

「シラ切ってんじゃねえよ!んな見え透いた態度かまされてちゃシラケるってもんだ。ったく、酔えねえだろうがよ!」

「!」

一気に捲くし立てるように言われて息を呑んだ。

すっかりバレバレだと言われて内心大慌ての大パニック。でも。

「なぁに吼えたててんだよ、おまえ。誰が喜んでないってぇ?人の気持ち勝手に決めてくれるなよな、この寝腐れ剣豪が!

寝すぎて、とうとう頭まで腐れちまいやがったのかよ!」

憎まれ口を叩いて煙に巻こうとするのに

「っんなら眉間にしっかり縦皺立てたままでいんじゃねえ!」

瞬間、思わず手が額を押さえるのへゾロが ふふんと鼻を鳴らした。

「ほうら、見ろ。おまえは自覚なかったんだろうがな!」

図らずも図星を指された格好になり、サンジの頬にサッと赤みが差した。

「細かいトコ見てんじゃねえ!!」

「うるせえっ!」

怒声に怒号が返る。

「おまえ、それが人の好意を踏み躙ることだって解んねえのかよ?」

「・・・・・」

言われて我に返り、気まずさに頭を垂れる。ギリッと唇を噛み締める。

「・・・っんなことはおまえに言われなくったって解ってる。・・・け・・ど・・・」

声が掠れて語尾に至っては震えた。悔しいがゾロの言うことは正論だったから。

「だったらヘタに芝居せずに言やあよかったじゃねえか」

いっそ清々しく言われ、腹にグッとくる。

「できるもんならやってるさ!」

それが自分にはできない、人に向けられる好意を無下にしたくない。

そんな優柔不断な自分が情けなくて上げた顔を再度、俯ける。

『なんか俺、泣きそう・・・やばいかも』


「おめえがカッコつけの激しいヤツだってのは知ってる。だけどな。――おまえにとって俺たちは本音をぶつかり合える仲間じゃねえのかよ?」


ややあって紡がれた言葉に目を見開いてサンジはその相手を仰ぎ見た。

大きく大きく見開いた目がその驚愕さを如実に物語っていてゾロは失笑を1つこぼす。

「ちげえか?」

静かな口調で問うてくるゾロの穏やかな双眸に驚きが増す。

ツイー 大きく見開いた目から零れ落ちた涙が一筋、頬を伝う。

「なっ!なんで泣くんだ!」

ゾロが慌てる。サンジが泣くとは思ってもみなかったから。


ゾロが見てる。けれど涙がとまらない。やばい・・・と思うのに

「うっ、ひっく・・・」嗚咽まで漏れてしまう。

「おいっ、アホコック、な、泣くことかよ?!」

まずい、きつく言い過ぎたか?あのアホがガキみてえに泣いちまった・・・

「・・・んっ、わ・・りい・・・」

けど、とまんねー

顔を背けて、なんとか落ち着いて涙をとめようとするのに上手くいかずサンジは自分の拳で口元を押さえた。

そんな仕草にゾロはサンジを抱きしめようと手を伸ばそうとして


「あーっ!!ゾロがサンジ泣かせてるー!」

無遠慮な大声がゾロの後頭部へ突き刺さった。ゾロが振り返る頃にはチョッパーの叫びを聞きつけて麦わらのクルー全員が

ドタバタと駆けつけてくる姿がトナカイの後方に見えた。

あ・・・


『なんで全員・・・もう眠ってたんじゃないのかよ・・・・・』

サンジは尚も溢れてとまらない涙を流しつつ、揃い踏みしたメンバーを碧い双眸で見つめた。


「サンジ、どこか痛いのか?ゾロになんかされたのか?」

チョコチョコチョコッと駆け寄った船医が「心配」を顔中に貼り付けて訊いてくる。

「あ、いや・・・なんでもねえよ。ゾロはなんにもしてねえし」

「でも泣いてるじゃないか!サンジは何もなくて泣いたりしないだろ!」

誤魔化そうとして失敗した。船医は純粋だ。見たままを問うてくる。


「そうね、サンジ君が泣くなんてずいぶんと大事よね。」

で、何があったの?とは言外にゾロへと視線を移すのはナミ。


「い、いやだなぁ、ナミさんまで〜 俺になんかあるわけないじゃないですか〜」

「サンジ君には訊いてない」

ナミにきっぱりと断言されて凹む。

「で、あんたはサンジ君に何の用だったわけ?」

「俺は嫌なもんは嫌だと言えばいいだろうと言っただけだ」

「そんなくらいでサンジ君が泣くわけないじゃない!あんた他にも言ったんでしょ?!」

「俺たちは仲間なんだから本音をぶつけろ、っつたら泣き出しやがった・・・」

憮然と呟くゾロの言葉を聞いて全員がサンジを見遣った。


『ち・・・気まずい・・・』

全員に見つめられサンジは居心地が更に悪くなるのを感じた。


「・・・そうね、私も同じ想いよ、サンジ君」

「俺もだぞ」

「俺もだ。皆、同じ気持ちだぞ」

「そうだったか?」

「「「あんたは黙ってろ!」」」

声を揃えて無頓着なルフィに怒鳴る。


「ね、サンジ君。嫌だと思ったら断っていいのよ?私たちに遠慮なんてしないで。なんでもかんでも一人で抱え込んでないで

 私たちにそう言ってほしいの」

「ぃや・・・俺べつに・・・」

言い淀むサンジにナミが辛そうな顔を向ける。

「サンジ君は優しいから・・・いつだって我慢してるじゃない!私たち、そんなに心許せない?」

「そ、そんな・・・我慢なんてしてないよっ!」

「うそ!今日だって本当は喜んでなかったじゃない!」

「!!!」

ナミの言葉に衝撃を受けてサンジの端正な顔が歪む。

「・・・俺、そんなつもりじゃ・・・」

「じゃあ言ってよ。あなたが真実で望んでいることを―――」

ナミの燃える瞳で見つめられて垂れた前髪をぐしゃりと握り締める。

「サンジ・・・お、俺もおまえの本音を聞きたいぞ」

ウソップまでもが嘆願の声を上げる。

「サンジィ・・・」

小さなトナカイが両目に涙を湛えて自分を見つめている。

ルフィとゾロは静かに真っ直ぐにサンジを見つめていた。

サンジは降参したようにガックリと頭を垂れて項垂れた。



「・・・3月2日ってえのは・・・俺が捨てられた記念日なんだ・・・」


「「「「「え・・・」」」」」

サンジの静かな、そして予想もしていなかった告白にその場の全員が息を飲んで絶句した。



「・・・だから・・・祝えるような日じゃないんだよ・・・だから・・・ごめん・・・」

自分が両親に捨てられた記念日、それが3月2日という日。

「な・・んで!?」

「・・・俺の育った国では誕生日の判らない捨て子は、その拾われた日を誕生日として戸籍に登録されるんだよ。

名ま・・・」

「クソコック、おまえ馬鹿だな」

ゾロの静かな声がサンジを遮る。サンジの声を遮って憮然とそう言い切る。

「な、なんだよゾロ。サンジに馬鹿って・・・おいっ!」

「馬鹿を馬鹿と呼んでどこが悪りいんだよ?俺は間違ってねえ!」

ふんぞり返って胸を張るゾロにウソップが慌てて おい、よせよ といなそうとするのに。

「そ〜だな、サンジは大馬鹿だ」

ルフィまでもがゾロに同意を口にする。

「ルフィあんたまで何言ってるのよ!」


「馬鹿じゃなきゃ、なんていうんだ?」

真剣に困惑した表情で振り返るルフィにナミは立ち尽くすばかり。


「おいコック、おまえ今まで今日を捨てられた記念日です〜とか自分を哀れんでいやがったのかよ?」

「なんだと?」

怒りの発火点が異常に低いサンジがゾロの言葉に怒りを浮かべる。

「ふんっ、乙女ちっくな思考回路のヤツはこれだから始末に負えない」

明らかに小馬鹿にした口調にカッとなっているけれど。


「おまえは生まれながらにして2回目の誕生日をもらっただけだろうが?」

「えっ?!」

その場の全員がゾロのほうを見遣る。

「おまえの両親の事情までは知らねえが、ようはお前は拾われた日に新しい人生を贈られたってことだ、違うか?

そうして今現在のおまえがココに在る、そういうこったろ?」

瞬きもできないくらいゾロを見つめ続けて、そうして新たな涙を双眸に浮かべる。

「捨てられた日なんて縁起の悪りいこと言ってんじゃねえっ。新しい誕生日を盛大に祝ってやってどこが悪いんだ?

そんなくだらないことでウジウジしてるコックは大馬鹿以外のなにものでもねえだろうが!ああっ?」

碧い双眸から、とめどなく涙が溢れて頬を伝って顎から甲板に滴ってもサンジは涙を拭うこともできなかった。

ずっと心の中にシコリになっていた《昔》の暗い色をゾロが鮮やかな暖かいぬくもりを湛えた原色に塗り替えていく、

そんな錯覚を味わった。


普段、無口なゾロが珍しくたくさんの言葉を羅列していることが、まず珍事。

反対にサンジの口が、こんなにも言葉を紡がないのも珍しいことだった。

「あんた、たまには良いこと言うわね」

ナミが素直に賛辞の言葉をゾロに投げると剣呑な目つきで睨まれた。


「さ、サンジ君、そんなとこで座ってないで」

言いながらナミがサンジにハンカチを差し出すのを受け取りながら

「・・・皆ごめん・・・」

小さく、小さく詫びる。


「んじゃあ、サンジの誕生日の祝いなおしするぞぉ〜っ!!」

船長の大きな声が甲板に響き渡る。

「「「「おおーっ!!!」」」」

それより大きな皆の返事が大きな夜空に投げられ―――――

サンジの誕生日の真実の意味でのお祝いの宴が満天の星の下、賑やかに愉しそうに続けられていった。












「となりいい?」

「もちろんです、ナミさん!」

賑やかな騒ぎを外れてサンジの女神が傍らに腰を降ろす。

「何か飲み物でも取ってきま・・・」

「いいのよ、座ってて」

何も話さずナミはサンジの横にただ黙って座ってルフィたちを見ている。

サンジとナミの間に静かな時が流れていく。

どのくらい、そうしていたのか

「ね、サンジ君・・・」

先に口を開いたのはナミのほうだった。

「なんだい?」

「さっき捨てられたって言ってたでしょ」

「ん?ああ、そうだよ」

「私はね、戦災孤児なの」

知ってると思うけど

ナミは笑ってサンジを見る。返される眼差しも微笑んでいて言葉の先を繋げる。

「だからね、私も本当の誕生日を知らないのよ」

「!!」

ああ、そうだった。彼女は孤児だったとココヤシ村でノジコから聞いたではなかったか。

サンジは先ほどまでの己を恥じた。

「でも私は今の誕生日を誇りに思ってる」

鮮やかな笑顔でサンジを振り仰ぐナミを眩しげに見つめてしまう。

「だって心から祝ってくれる人たちが――仲間がいるんだもの!

だから本当の生まれた日を知らなくても私は私を不幸だなんて思わないわ」

サンジは少女の眩いばかりの笑顔に大きく頷いた。

「そうだね、祝ってもらえる喜びはなにものにも換えがたい贈り物だね」

俺も今は心からそう思えるよ、ナミさん

人は誰しも何がしかの過去を背負っているものだから。

こうして自由の、夢を探す旅に出られた自分が不幸であるはずがないから

もう後ろは振り向かずに真っ直ぐに前を向いて未来へ向かって生きていこう。


「・・・サンジ君、誕生日おめでと」

「ありがとう」

心から、そう言えた。








『やっぱりコックはアホだ・・・』

自分の誕生日だってのに不気味なくらい静かで、いつものようにはしゃいだところがない、それでゾロは理解した。

普段だったら相手をもてなすことに心血を注いでいるといっても過言でない男の眉間に皺が寄っていた。

『それにしたってあの乙女チック回路、どうにかなんねえのかよ』

サンジが知らないだけで船のクルーは皆、サンジのめまぐるしく変わる表情をしっかり見極めている。

皆、サンジのことが大好きだから。

どれだけ口汚くても足癖が悪くても、隠しきれない心優しい奴だって知っているから。

だからサンジの誕生日を祝える今日という日をずいぶん前から皆、愉しみに待っていた。

そして―――ゾロも。

『ほんとアホなヤツだなぁ・・・あんだけジイサンたちに愛されて育って尚、んなクダラナイことを延々と考え続けられるってのは1つの才能かもなぁ。

・・・天然?あ、そういうことか』

ゾロはっ一人、合点がいて「く、くくく・・・」と笑っていた。

どういう人生を生きてきたか、ではなく生まれ持った天性の≪ボケ≫、そう理解するとくだんのコックが可愛く思えて更に

機嫌が良くなって酒の入った杯を一気に呷った。


「おい、マリモ」

気づくとサンジが酒瓶片手に近づいてきていた。

にやり。

「どうやら機嫌直ったみてえだな」

ゾロの意地の悪い言い方にサンジの頬が染まる。

「・・・わるかったな」

それでも喧嘩腰ではなく、あっけないほど素直に言葉が紡がれる。

「・・・さっき、おめえに言われた言葉・・・結構ガツンときた」

「あ?」

俯き加減で唇を湿らせて

「2個めの誕生日なんつー考え方、俺にはできなかったからよ・・・目からウロコっての?・・・・・嬉しかった」

だからありがとう、と。酒瓶をかざして言外に伝える。

素直な心地よさが二人の間に生まれてゾロも皮肉をまとわずに対峙する。


「この世の中、親が子を捨てるなんて日常茶飯事だが何事にも理由ってもんがあるさ。だが情けある親なら子のいく先を案じる。

おまえの親はきっとお前の持つ運の強さにかけた。誰かに拾い上げられて助かるおまえの持つ強運に賭けて見事、勝ったんだ。

だからおまえは遭難しても死ななかったし、ジイサンとあのレストランにいても自分の夢を掴むための出会いをした。

どの道も全ては俺たちの出会いのために進むしかなかった、つまりは必定ってこった。

なら、捨てられた日っていうのは、その全ての始まりの日ってこったろ?人が生まれて生き始めるのが誕生日だってんなら、

この3月2日もまごうことなく誕生日だってことだ。その日を祝うのは間違ってねえ」

雄弁に語るゾロの目は真剣にサンジを見ていた。

「・・・おまえ、今日はやけに口数多くね?」

笑いを深くしながらサンジはゾロに酌をする。

「おまえの言い方は妙に説得力があって、いけねえ・・・でも嬉しいぜ」

ちがうな・・・

普段は必要なこと以外、ほとんど口に出さないゾロが自分を気にかけていることが嬉しくてしかたがない。

しかも喧嘩以外、まともに対話も成り立たないはずだったから、こんなにも仲間として認められているのだと

解かって心がくすぐったくて。


ほんわり、と艶やかに微笑んだサンジの目の前でゾロが絶句する。

「?」

『し、心臓に悪りい・・・』

普段は自分を睨むガラの悪い顔つきと目しか見慣れていないから。

そんな花が咲き誇ったように笑われたら心臓が跳ねて動悸が逸るではないか・・・と珍しくドギマギしてしまう。

サンジの微笑みがあまりに綺麗でゾロは我知らずのうちに、その頬に手をかけていた。

「・・・手折りたくなるな・・・」

小さく口の中で言葉を転がして、自分のその不埒な言葉の意味合いにゾロはギョッとした。

「おまえ、一人でなに百面相してんだ?」

天然ボケなコックはゾロの心中など推し量れるはずもなく、キョトンとした表情で。

「ま、呑め」

酒瓶を差し出しつつ、またしても、ほわ〜んと微笑む。

『!!こいつ酔ってやがる・・・』

酔いに任せてご機嫌なままのサンジは花のように微笑んでゾロに酌を重ねる。重ねつつ、身体が徐々にゾロに凭れかかって

きているのは、やはり酔いが深くなりつつあるせいだろう。もともとサンジは酒に強くはないのだし今日はいつも以上に

呑んでいるわけだし。

そんなサンジの常ならざるたおやかな態度と笑みを見ているとドキドキ、ドキドキっとクるものがある。

特に下半身辺りには直下型の直撃で。ドクドクと一点集中で血が下がる。

やばい 非常にヤバイと思うのにゾロはその場を動くことができなかった。酒に酔い、艶やかに笑うサンジの零れるような

笑顔を見ていたいと自らの心が引き止めてしまうから。

『っんなツラ、普段は滅多に拝めねえからなぁ・・・』

なんだかんだと事ある毎に喧嘩しつつもゾロはサンジのことが好きだったから。既に相当、以前から好きだという自覚があるから。

サンジとこういう状況でいるのは嬉しくないわけがなかった。

「・・・あ?ツマミが切れたか?待ってろ、今持ってきてやるから」

そう言って立ち上がろうとするサンジの右手首を、咄嗟に出た左手で押さえる。

「ツマミよりも、こっちが喰いたい」

言うが早いか、サンジの唇をベロンとひと舐めして「にやり」と嗤う。そしてサンジが我に返るより早く彼の形の良い丸っこい

後頭部に手を添えて顔を引き寄せると唇を奪った。

『・な・・に・・・?』

いきなりの展開に思考がついていかないサンジは返すべき反応が遅れた。その間にもゾロは器用にサンジの唇を玩んで

徐々に深く合わせていく。






「いやなら力尽くで抗え。でなければ合意とみなす」

唇を離して目から射すくめられる。一言だけ不遜にそう言われ、ゾロは行為を再開する。

「・・・あ、待・・・て・・・・・んっ!」

唇を舐められながら回らない頭で、そう返すものの、それが精一杯で。

ゾロの舌を自らの唇で感じて妙に甘ったるい声が出る。

『あ・・・ぉ俺・・・どうしちまったん・・・だ・・・』

ゾロと、よりによって男同士でのキスに感じている自分に素直に驚きを覚えつつ

『嫌じゃねえ・・・俺、ゾロとシてんのに嫌じゃねえ・・・』

それどころか胸に甘い疼きまで感じて、内心密かに狼狽える。その狼狽えが指の先に震えの形で現われる。

それをゾロは見逃さず、サンジの震える指先に大きな手の平を重ねて握りこむ。

「怖えか?」

「・・・ちが・・・」

小さく被りを振ったサンジに、ふっ と笑いかけると再度、その唇を塞いでいった。















「・・・・・・よもや、こんな誕生日プレゼントを貰っちまうとは想像もしなかったな」

ゾロに。

貰ったというか、美味しくいただかれたというか。

捧げてしまったというか?――そう。捧げてしまったものは自らの≪お初≫。

困ったことに後悔は全くもってないし。

自分でも気が付かなかった抱えていたであろう自らの気持ち。それに気付けて。

昨夜の行為は今、自分の胸の中で気持ちを穏やかに包んでくれている。

傍らでがーがーと鼾をかいて気持ち良さそうに爆睡を貪る緑頭に目を向けて、くすっと笑みを溢す。

事の最中に耳元に囁かれた甘い睦言が胸にふわりと甦ってくる。

「     」

「忘れたとか言わせねーかんな・・・お前のほうこそ覚悟しやがれ」

もう、まもなく今日の朝陽が昇ってくるだろう。

新しい一日の始まりに明けてこようとする水平線へ目を凝らしつつ、サンジは不敵に笑った。



       END







 めぐみさんの処女(作)を、いただいてしまいました!!
 うわわわ〜っ(><) ありがとうございます。
 光栄です。感激してます!
 一人でまたくるくると考えちゃうサンジに、ずばっと踏み込むゾロv
 まさに理想、大好物の二人です〜v
 あああ、美味しくいただいてしまいました。ご馳走様でございます。
 すっぱりHシーンが省略されているのがまた心憎い;
 いつかじっくりねっとり、描いてくださいますわよねえv
 今後とも末永く、よろしくお願いいたします(ぺこり)


Welcome

−誕生の唄−