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ログが溜まるまで結構な時間を要するこの島は、元の住人の十倍くらいが逗留者だ。
見知らぬ同士がすれ違うのは当たり前、隣の家で何をしてようと隣の部屋で何をしてようと、誰も気にしない。
どうせ行過ぎる旅人ばかりだ。
部屋に入ったはずの男が二度と出てこなくても、二人分の宿賃を前払いされているなら家主はなにも詮索しない。
突然旅人が消えたって、気にする奴はどこにもいない。
そんな街が、俺らには似合いだろう。
紙袋に焼きたてのパンを入れて、りんごを片手に通いなれた階段を登る。
突き当たり、一番奥の部屋が俺たちの巣だ。
西日が当たって昼間でも薄暗いが、居心地は最高さ。
この扉の奥に、愛しい人が待っている。
「ただいま、サンジさん」
リビングの奥、寝室の衝立の向こうで鎖が鳴る音がした。
おかえりと言ってくれているのだ。
俺はテーブルの上に荷物を置くのももどかしく、寝室へと入り衝立をどけた。
もしも誰かが入り込んで、大切な宝物が見つかっては困る。
西日が射して眩しいのも可哀想だから、俺が留守のときはサンジさんはいつも衝立の向こうで眠っている。
「サンジさん、ただいま」
俺はもう一度そう言って横たわるサンジさんの頬に手を差し入れて身体を起こした。
床に直接寝そべっていた皮膚が赤くなってしまっている。
あんまり同じ体勢で寝転んでいると鬱血が酷くなるのに、サンジさんはあまり動かなくなった。
最初の頃は散々抵抗して傷つけた手首も、このままでは枷から抜け落ちてしまいそうに痩せ細っている。
排泄への恥ずかしさからか、サンジさんはあまり食事を取ってくれない。
体力が落ちたせいで身体を起こすのも億劫そうだ。
「サンジさん。今日は美味しそうなパン屋を見つけたよ。焼き立てでいい匂いだ。食べておくれ」
俺はサンジさんを壁に凭れさせるとコーヒーの用意をした。
ああ、コーヒーは身体に悪いかな。
思い当たってミルクを温める。
「ねえサンジさん。俺はサンジさんが痩せてしまっても、変わらず好きだよ。だけどこのままでは死んで
しまうだろう」
俺は子供に言い聞かせるみたいに、ゆっくりと話す。
返事はないから、まるで独り言のようだ。
「死んでしまうのは、嫌なんだ。もう少し俺と共にいておくれよ。その為にも食べて欲しい」
死んで欲しくない。
生きていて欲しい。
俺が誰かにそれを望むなんて、俺にそんな日が来るなんて――――
俺の真剣な思いを理解しているのかどうか、サンジさんはやつれた面持ちで、ぼんやりと俺を見上げている。
一糸纏わぬ裸に鎖の枷だけ身に付けて、力なく座るサンジさんは、できそこないの人形のようだ。
「さあサンジさん、ミルクを飲んで」
乱れた金髪を優しく梳いて、頭の後ろを手で支えた。
程よく暖めたミルクを入れたカップを、かさついた唇にそっと押し当てる。
口端からつい、と零れ落ちる白い液体が、いつもの行為を思い起こさせて、身の内が熱くなった。
白い太腿にほたほたと落ちた雫を目で追って、サンジさんも思い至ったのだろう。
うまく飲み込まないままに唇を結んで、瞳だけで俺を見上げた。
艶のある眼差しだ。
身体の自由を奪われていくにつれ、サンジさんは俺を誘うのが上手くなった。
言いなりになっているのは、サンジさんなのか俺なのか、もうよくわからない。
「サンジさん、そんな目で見ないでくれ・・・」
息が苦しくなってたまらなくて、俺はカップを床に取り落としてサンジさんにむしゃぶりついた。
薄い身体が俺の腕の中で力なく跳ねる。
床一面に飛び散ったミルクの海の中で、サンジさんの金の髪が泳ぐ。
まだ暖かい飛沫を上げて、サンジさんは笑いの形に口を歪めて俺に舌を差し出した。
「ああ、サンジさん・・・上手だ、よ・・・」
ぴちゃぴちゃと、ミルクをねだる子犬のように、サンジさんが俺のペニスをしゃぶる。
舌を出して見せ付けるように舐めて、かと思うと喉の奥まで当たるほどに飲み込んで、裏筋から袋まで。
埋め込まれた真珠を穿るように舌先をつかって、先端の割れ目にも添わせては美味そうに唾液を飲み込む。
すべて俺が教えたことだ。
最初の内は気持ち悪さに何度も戻して、なかなか上手く咥えることができなかった。
それでもいつしか慣れて、今では自分からねだるように咥えてくる。
舌を使いながら薄目を開けて見上げる瞳と目が合うと、俺はそれだけで暴発しそうだ。
なんて淫靡でいやらしい、貪欲な獣。
嬉しそうに男根をしゃぶって、自分から腰を揺らしてねだるなんて呆れた淫売だと、そう罵るはずだった。
思い通りに快楽に身を委ねて媚び諂うようになったなら、嘲笑って軽蔑するはずだった。
それなのに、俺のサンジさんへの愛しさはますます募る。
どんなに貶め辱めても、泣かせ苦しめても、サンジさんはどこか清廉でいつまでも美しい。
骨と皮にまで痩せ細り、その金糸が色褪せてぱさついても、サンジさんの高潔な美しさを損なうことはできなかった。
今こうして俺の前で跪いて、妖艶に身をくねらせて俺のペニスを頬張っているときでさえ、サンジさんは何物にも
屈していないように思える。
「サンジさん」
俺は合図の変わりにサンジさんの髪を撫でて、顔を引き剥がした。
唾液で濡れた唇にキスをして、舌で愛撫する。
そうしながら痩せて尖った腰骨を抱え、両足を繋いだ鎖を鳴らしながら足を抱え上げた。
毎日受け入れるサンジさんのアナルは、すでにモノ欲しそうに濡れている。
それでも俺は念を入れて香油でたっぷりとそこを濡らし、静かに己を捻じ込んだ。
何度やっても、最初のそれはサンジさんを怯えさせ、ほんの少し身体が強張る。
けれど次に来る快楽を知ってしまったせいか、内部は収縮を繰り返し誘うように締め付けてよがるのだ。
「ああ、サンジさん・・・」
快感に息をつきながら、俺は一気に猛った自身を埋め込み腰を振る。
サンジさんも待ちきれないかのように、精一杯足を開いて身を仰け反らし悦びの声を上げた。
もう、サンジさんは声を殺さない。
羞恥も憚りもなく嬌声をあげ、俺を煽り高めてくれる。
「ああっ・・・ん、ギンっ・・・いいっ・・・」
「サンジさん、いいかい?もっとかいっ」
俺はサンジさんを持ち上げて、打ち付けるように身体を揺らした。
サンジさんは悲鳴を上げて、鎖を鳴らしながら俺の頭を掻き抱く。
「あああっ、ギン・・・そこ、そこがっ・・・当たるうっ・・・」
「ああ、そんなに締め付けちゃだめだよ。もっと突いてあげる、から・・・」
「いい、いいい・・・」
サンジさんの腕がぶるぶると震える。
体力が衰えだしてから、射精まで長く持たなくなってきた。
俺は腰を打ちつけながらも、起ち上がった根元を押さえて射精を止めた。
「うあああっ、いやっ・・・ギン、イかせっ・・・」
「だめだ、よ。サンジさんっ・・・く、すげえ・・・」
焦れた締め付けは半端じゃない。
ペニスを食いちぎられそうな力に痛みさえ覚えながら、俺はこなれた内壁を思うさま蹂躙した。
サンジさんが、口端から泡を吹きながら悶絶している。
ああ凄い、最高だよサンジさん。
そんなにも浅ましい痴態をさらして、それでいてなんて・・・綺麗なんだろう。
「・・・ギンっ」
空を仰いだままのサンジさんの懇願に、俺はようやく手を離した。
「あああっ・・・」
一際高い声を上げて、サンジさんは俺の腹に白い飛沫を放つ。
熱く狭くとろけるような、愛しい愛しいサンジさんの中で、俺もまた思いのたけを迸らせた。
こんなにも愛しいのに、サンジさんは俺のために生きてくれないのだろうか。
