サンジはエントランスのガラスに映る己の姿に足を止めて、入念に身だしなみをチェックした。
髪の毛オッケー、身だしなみオッケー、大丈夫。
鼻の下が伸びてないのをチェックしてから、改めて目的の部屋の階を確認する。

今日はサンジ最愛の女神、ナミさんがレンタルマンションの一室を借り切って主催するバレンタイン
駆け込み教室だ。
独身の女性ばかりが集まって一緒にプレゼント用のお菓子を作ると言うことで、その指導者として
サンジに白羽の矢がたった。
まさに恐悦至極、内心狂喜乱舞。

―――ナミさんのお友達と言うことは、美女の友達は美女方式で美女だらけ。
まさにパラダイス!!おらと一緒にパライソさ行くだーっ!!
サンジはときめく胸を押さえながら、震える指でインターフォンを押した。


ピン・ポ〜ン

「はーい」
間髪入れずドアが開き、明るいオレンジの髪が現れる。
「いらっしゃいサンジ先生。待ってたのよ」
扉が開くと同時に、ふわんと漂った甘い香り。
この気配はまさしく、若い女性のオーラ。
「そんなあナミさん。先生だなんて…」
照れるサンジの前に、部屋の奥から次々と人が現れた。

「サンジ先生?」
「はじめまして〜」
「きゃは!素敵な先生ね」
「よろしくね」

出てくるは出てくるは。
揃いも揃って、そのいずれもが想像以上の美女また美女。
想定していたとは言え、それ以上の光景に、サンジの目の前は霞み、みるみるうちに頭の中が真っ白になった。
激しい動悸に目眩、貧血で昏倒寸前。

「ちょっとサンジ君、しっかりしなさいよ」
せり上がる熱い血潮に鼻を押さえながらよろめくサンジは、ナミに背中をどやしつけられどうにか己を取り戻した。







「いらっしゃい先生。さあどうぞ」
黄色い声に招かれて、サンジは鼻先を押さえたままよろよろと荷物を玄関に置いた。
心の準備をしてから今一度迎える美女たちをざっと見渡す。
その中に、サンジも顔馴染みで唯一の既婚者ビビもいた。
「独身女性ばかりと言ってたのに、私が混じっててごめんなさい」
「なに言ってるの、ビビちゃんもいてくれてすごく心強くて嬉しいようv」
見知らぬ美女ばかりでは腰が引けるから、見知った人がいてくれてとても嬉しい。
集まった美女の中にはもう一人、サンジも顔馴染みのロビンがいたが、それ以外はまったく初対面の美女ばかりだ。

凛とした雰囲気を持ちながら実はそそっかしくて、そのギャップが可愛いたしぎちゃん。
魅惑的に腰をくねらせる歩き方がたまらないポーラさんに知的美人のカリファさん、元気なバレンタインちゃん。
清楚なカヤちゃんとキュートなケイミーちゃんに、優しいコニスちゃん、たおやかなラキさん。

「みんななんて、なんって素敵な美女ばかりなんだ〜〜〜」
心中で叫んだつもりが、考えていることが全部口から出てしまったらしい。
ナミが失笑しながら美女達を振り返った。
「ごめんね、ちょっとこんな感じだけど無害だから」
あんまりな紹介だよ、ナミさん。







「それじゃあ気を取り直して、今日はブラウニーとトリュフとパレットを作ります」
サンジは努めて平静を装いながら、指導に専念することにした。
一応、材料代だけとはいえナミさんから謝金を貰うのだ。
ちゃんと仕事はしなければ。

「最初に生クリームでチョコを溶かしてトリュフ用のチョコを冷蔵庫で冷やす用意をしておきましょう」
「はーい」
広めのキッチンにエプロン姿の美女があちこち行き交う様は、まさしく花園で戯れる蝶に似ている。
サンジはうっかりトリップしそうな己を叱咤しながら、なんとか手順を説明した。
「粗熱が取れたらラム酒を入れます。シャンパンやブランデーも用意したからお好きなものを。
 お酒がダメな人はコーヒーや紅茶もありますよ」
「キャハハ!ポーラったらお酒入れすぎ!」
「ちょっと待って、それテキーラじゃないの?」
「先生、レーズン入れてもいいですかあ」
「紅茶が渋い〜」
賑やかにさんざめく花達に目を細め、サンジはこの世の春を享受する。
色鮮やかな魚たち、もとい美しき人魚達が遊び戯れる青い花園。
これぞまさしく、俺が夢に描いていたオールブルー!

「せんせー、チョコを冷蔵庫に入れ終わりましたー」
「はいはいは〜い、では次に行きま〜す!」
浮かれのぼせたサンジは、まさしく自分自身が花園を飛び回る蝶の如く、軽やかにキッチンの中を駆け巡った。








予定通り、午後のお茶の時間にはすべてを作り終えた美女達は、部屋の中でそれぞれ寛いで一休みしている。
サンジは持参したディータイム用のケーキを切り分けてお茶を煎れた。
「皆さんお疲れさまでした」
「きゃーv待望のケーキタイムね」
「なにから何まで、ありがとうございます」
「まさしく、至れり尽くせりね」
カヤとたしぎがテーブルの用意を始め、コニスとケイミーはお茶を煎れるのを手伝ってくれた。
ナミとロビンが切り分けたケーキを順送りに運んでくれる。
「作るのも楽しいけど、やっぱり食べるのが一番ね」
「ほんと、こんな教室を開いてくれてありがとうナミさん、サンジさん」
改めて御礼を言われて、サンジはへにょんとだらしなく顔を緩めながら、いやいやと手を振った。
「こちらこそナミさんにお礼を言わなきゃ、こんな楽しい時間を過ごせたんだから」
「折角のお休みだったのに、付き合ってくれてありがとう」
ナミはそう言って、今しがたラッピングしたばかりの真っ赤な小箱をそっと両手で持ち上げた。
「買えば手っ取り早くてしかも綺麗なんだけど、ちょっと作ってみたい気持ちになっちゃったのよね」
「デパートの包みじゃないって気付くかしら」
「不恰好だからすぐわかるんじゃないの」
酷いわーと鈴を鳴らすように、美女達は笑いさざめく。

「でもルフィさんにあげるには、ちょっと量が少なくないですか?」
カヤにそう言われ、ナミはちょっと顔を顰めてみせた。
「あくまで気持ちよ、あいつの腹の足しになるほどあげてたら、こっちが破産するっての」
「え?え?」
サンジはカヤとナミの顔を交互に見比べて、ぱちくりと瞬きをした。
「ナミさん、ルフィって・・・」
「サンジ君も知ってるでしょ?カルチャースクールのオーナー、エースの弟。あそこ、兄弟揃って大食らい
 なのよねえ。だからルフィのカードは私が預かってるの、自分の食い扶持くらい自分で払ってくれないと」
「・・・ナミにカードを預けるなんて、なんて大物なの」
カリファが見当違いなところで感心している。
「え?だからつまり・・・ナミさんはルフィにチョコをあげるの?」
「やーねえ、改めてなに聞いてるのよう」
ナミが答える前に、キャハハーと笑い声を立てたバレンタインがサンジの背中をバンと叩いた。
「みんな彼氏にあげるために頑張って作ったんじゃない。ちなみにわたしもv」
「か、彼氏・・・」
呆然としたサンジに構わず、ラキが身を乗り出してくる。
「あの、サングラスが似合うちょっと強面のお兄さん?」
「そうそう、中身はドジだきえどね、キャハハ」
はしゃぐバレンタインの隣で、ポーラは天井を仰ぎながら煙草の煙を吐いた。
「うちのも、チョコって柄じゃないんだけどね」
「私がアイスバーグさんに差し上げるのは、あくまで義理です」
「トリュフにコーラ入れたんだけど、どうかしら?」
「カヤちゃんから貰ったら、ウソップ、泣いて喜ぶわよ」
「ケイミーちゃんは、あのたこ焼き屋さん?」
「たしぎちゃんは、あの怖そうな上司よね」
「ラキさん、ワイパーさんかカマキリさんか本命はどちらなんです?」
「それじゃ今年はカマキリにしておくから、コニスがワイパーにあげなさいよ」
きゃいきゃいとはしゃぐ乙女達に囲まれて、サンジは一人じんわりと涙目になっていた。
――― 一人くらい、実はサンジ先生に〜とか言ってくれないんだろうか

「それで、サンジ先生も本命いるの?」
いきなりケイミーに話を振られて、はっと間の抜けた声を出す。
「逆チョコもありでしょ?お食事に誘ったりとかなさらないんですか?」
カヤが両手を合わせて、少し小首を傾げながら問う。
「そうそう、うちみたいに食事のお返しにチョコあげるとかもありだと思う」
「もう食事に誘われてたりして〜」
ナミがにやんと意味ありげな笑みを浮べた。
「え、いや違うよそれは」
そう言えば、エースとルフィは兄弟だったといきなり思い出して、どこまで話が通じているのか俄かに不安になった。
「サンジ君は古典的だもの、まずはチョコをあげてから・・・よね」
「はあ、まあ」
勢いにつられて、つい素直に頷く。
「何人くらいにあげるんですか?」
コニスが、邪気のない笑顔で問い掛けてくる。
「今のところ・・・二人」
「いいなあ、その二人はサンジ先生のお手製チョコが食べられるんだあ」
たしぎが本気で羨ましそうに言った。
「でも二人とも同じもの?差をつけたりしないの」
バレンタインの問いに、サンジは首を振る。
「え、いや別に。同じものだけど」
「本命はどっちなの?」
「え、本命って・・・」
理知的なカリファに聞かれると、つい真面目に応えなければと身体が勝手に緊張してしまった。
「俺のは勿論、義理だけですよ。お菓子教室のオーナーにはいつもお世話になってるし、もう一人は
 パリの土産にってチョコのタブレットをくれたから、それで何か作って返そうかなあとか思ってですね」
なんだか我ながら、言い訳をしているようだ。
「それで両方同じものなんだ」
「でも、どっちかちょこっと特別仕様とかしないの?」
「え、そんなこと・・・っつうか、なんのために」
いつの間にか美女に囲まれて、サンジはしどろもどろになりながらも律儀に答える。
「えーだってえ、ちょっといいなあとか思ってるんでしょ?じゃなきゃ、義理で手作りチョコなんてあげないよう」
バレンタインが馴れ馴れしくしなだれかかってきた。
心拍数5割り増し!
「ぶっちゃけどっちが好みなんですかあ、オーナーかパリ土産の人か」
ケイミーちゃんの真っ直ぐな瞳が向けられて、自然と頬が赤くなってきた。
「こ、好みも何もないよ。ただ、オーナーは気さくな人でいい加減に見えてすごく人に小まめに気を遣える、
 優しい人だなとは思ってる。それに比べて、土産くれた野郎はなに考えてんだかわからないし無愛想だし
 人のことすぐからかうし、すんげえ嫌な奴なんだけど、割とセンスがよくていい仕事したりするんだよ。
 そういう意味では尊敬・・・してるかも」
「ふーん、素敵ですね」
カヤが夢見る乙女の顔つきになる。
「マジで迷ってるんじゃないの、どっちが本命か決めかねてるとか〜」
ポーラに薄く笑われて、サンジはぶんぶん首を振った。
「とんでもない!そもそも、俺はレディ一筋なんですから、野郎のことなんか構ってらんないんですよ。
 だからバレンタインは義理も義理。友チョコでもないんだから、お返しなんか一切いらない」
「あら、言い切った」
「でもー、相手はそう思ってなかったりして」
「もう食事に誘われてるしねえ」
「だからナミさん、なんでそれ知ってるんですかあ」
ニヤニヤと含み笑いをするナミに、ビビが小声で何かを問いかけている。
ナミが応えると、ビビの眉間に皺が寄った。

「え、なに話してるの二人とも」
形容しがたい不安感が湧いてきて、思わずサンジはナミとビビに顔向けた。
ビビは難しい顔をしながらサンジを見つめ、そのままゆっくりと首を振る。
何故だか知らないが、恐ろしく威厳を湛えた表情だ。

「サンジさん、私はゾロさん派ですから」
「・・・は?」
何を言い出したのか、よくわからない。
「私はエース派よ。だって彼すごくよく気がつくし優しいし、なによりお金持ちじゃなーい」
「えーなんの話?」
わくわくと、他の美女たちが興味を引かれて寄って来る。
その場をしきるように、ナミが身振り手振りを交えて説明を始めた。

「サンジ君がお世話になってるオーナーってのは、私の彼氏ルフィの兄でD財閥の跡取り息子よ。ちょっと
 ひょうきんで人当たりが良くて、でも頭がいいの。なんでもソツなくこなす代わりにちょっと本音の部分が
 見えない食わせ物だけど、それがまた人気の秘密みたい」
「わー、いい。私そういう人好き」
何故かバレンタインとポーラが手を上げた。
授業かこれは。
「そんで、もう一人ゾロってのはただの会社員なんだけど、剣道が得意で、それ以外の趣味にフラワー
 アレンジメントやってるの。こちらはプロ級よ。ビビの結婚式の時にも一人で会場の飾り付けをしたけど
 評判が良かったわ。私が結婚する時にもお願いするつもり」
「へえ、男性でフラワーアレンジメントって、素敵ですね」
くいついたのはカヤとコニスだ。
「いや、でも見た目はごつくて目つきも悪くて、チンピラみてえな奴だよ」
「そのギャップがいいんじゃないですか〜」
屈託ないケイミーが両手を顎の下にあてて小さく跳ねた。
「確かに見た目はぶっきらぼうだけど、ゾロは根がまじめで頼りがいのある男よ」
たしぎが口を挟んだので、サンジはびっくりして振り返った。
「実は私の従弟なの」
「え、そうなの?」
「たしぎさんは、コーザとも従弟になるんですよね。あ、私の夫のコーザとゾロさんってよく似てるんです」
ビビが照れながら携帯を取り出した。
「あらいい男じゃな〜い」
「これならゾロって人もルックスは良さそうね」
「エースさんはどうなんですか?」
美女たちの好奇心は、留まるところを知らない。

「エースはいつもニコニコしてるけど、真面目な顔するとちょっと怖そうに見えるかもしれないわね。でも
 そばかすがあって、それが愛嬌があるの」
今度はナミが携帯を取り出し、エースとルフィが一緒に写った画面を見せる。
「わあ、穏やかそうな人なんですね」
「体格もいいじゃない」
「それでお金持ちなんでしょ、やっぱり男は優しさと財力でしょ」
「誠実さと寡黙さも、魅力のうちよ」
「でも時には、口に出して甘い言葉を囁いて欲しいのが乙女心よね」
「あ〜そういう意味ではゾロはダメですね。言わなくてもわかれよって、ちょっと俺様な部分が・・・」
「でも俺に黙ってついて来いって硬派な部分も、ちょっと惹かれるなあ」
「ゾロが竹刀を持ってる姿はちょっとしたもんよ。追っかけ的ファンも多いもの」
「でもエースさんだってパーティでは女性に取り囲まれてるし」
「セレブと庶民の、それぞれの王子って感じなのかしら」
「なに王子?」
「そばかす王子と強面王子?」
「やだ何それ、キャハハハッ!」

いつの間にか、サンジを挟んでエース派とゾロ派に別れたようだ。
それぞれが好き勝手にああでもないこうでもないと、議論を始めている。
頭の上で白熱した意見が飛び交う中、サンジは所在無さげに紅茶を啜っているしかできない。



「ともかく、またみんなで集まって今度は報告会しましょうよ」
またしてもナミが突拍子もない提案をした。
「えー何それー」
「チョコの成果報告?」
「私は義理ですから!」
「それなら、ホワイトデーが済んでからの方がいいわね」
カリファの抗議も聞き流し、ロビンは徐に手帳を取り出す。
「勿論、サンジ君は特別講師よ。成果報告も義務」
「へ?は、はあ?」
一体何事に自分は巻き込まれてしまったのか。

「そうですね、サンジさんの結果報告を楽しみにまたお邪魔したいと思います」
たしぎが律儀に頷いた。
「今度はお花見パーティみたいにしたいわね。あ、そのゾロって人を呼んでアレンジメント教室とかできないかしら」
いいことを思いついたとばかりに、ラキが手を合わせて軽く跳ねた。
「それいいわねえ、春だから」
カリファも即座に同意する。
「春ねえ」
ポーラがふうっと煙を吐いて。
「いいわ、賛成」
ロビンがにっこりと笑う。
「ってことでサンジ君、ゾロも連れてきて」
いきなりナミに振られて、サンジは目を白黒させた。
「・・・は、はああ?」
話についていけない。

「あ、でもずるいー。ゾロ連れて来たらエースと差がついちゃうじゃないー」
エース派のバレンタインがすかさず抗議する。
「んじゃエースも呼んじゃえばいいじゃない。エースとゾロにサンジ君囲んでもらって、実況見分ってのどう?」
「いいわね賛成」
実況見分?つか、なんの?
「んじゃ今度は3月の第3週に。年度替りで忙しいかもしれないけど、都合がつく人だけいらっしゃい」
「そう言われると、意地でも調整したくなるわね」
皆手帳を出しては確認している。
サンジだけが、取り残されたように呆然と座っていた。
「あの、あのですねナミさん・・・」
「いーいサンジ君。絶対ゾロを連れて来てね。もしあいつが渋ったら、私の借金2倍にするって言って
 くれてもいいわ」
「え、ゾロってナミさんに借金があるの?」
「私のノートに記されてるだけよ。お金に換算するとかなりの額になる貸しがあるの」
きらりと、目の奥に妖しい光を浮かべたナミの理屈は、常識の範疇を超えている。

「そりゃ無理だよ、なんせゾロはエースにフラワーアレンジメントの講師になってくれっていくら誘われても、
 絶対ウンと言わないんだから」
「そこをサンジ君が口説くんじゃない。色仕掛けでもなんでもいいから、引っ張ってくるのよ。いいわね」
どこかで聞いたような台詞だ。
「ダメですよう。ゾロさんに色仕掛けしたら、エースさん可哀想です」
ケイミーは中立の立場のようだ。
「エースは最初からサンジ君にぞっこんだからいいの」
「どういう理屈なの?」
呆れたポーラの横で、サンジはずっと固まったままだ。
ナミ達が言っている言葉の意味が、本気で理解できない。

「ともかく、この日に再集合よ。サンジ君もよろしくね。それでは、今日はお疲れ様でしたー」
「お疲れ様でしたー」
「楽しかったわ、ありがとう」
「ありがとう、サンジ先生」

口々に礼を言われ親愛のハグを受けながら、サンジはソファに座ったまま条件反射でへらへら笑っていた。
確かに今日はバレンタイン駆け込み教室だったけど・・・一体どういう話の流れになったんだろう。
ともかく、来月もう一度同じような集まりがあって。
そこに俺は、ゾロを連れてこなきゃなんないのかなあ。
でもゾロ、俺の言うことなんか聞いてくれないからなあ。

そこまで考えて途方に暮れたサンジの目の前に、ナミが「はい」と白い封筒を差し出した。
「これはお礼よ。先生、どうもありがとうございました」
「あ、どうも」
サンジは立ち上がって受け取り、そのまま深々とお辞儀をする。

「それじゃ皆さん、先生がお帰りです。改めて御礼を言いましょう」
「「「「「ありがとうございましたー」」」」」
綺麗にハモりながら見送られ、そのまま玄関へと誘導される。
「またよろしくお願いします」
「来月が楽しみよ」
「頑張ってねー」
並み居る美女に見送られながら、サンジはふわふわと足元も覚束ない調子でマンションを後にした。












なんだか、狐にでも抓まれたような感じだ。
凄い美女がいっぱいいて、楽しい時間を過ごして。
それで、今度はゾロを連れて来なきゃ、いけないのか?
そもそも、なんでゾロを連れて来る話になったんだっけか。
ナミはエースを連れてくるとか、言ってた気がするし。


サンジは首を振りながら話の流れを思い出そうとしたが、脳裏に浮かぶのはロビンちゃんの胸の谷間や
ポーラさんの腰つき、カリファさんの長い足にバレンタインちゃんの笑い声、ケイミーちゃんの輝く瞳、
ラキさんの色っぽい唇、カヤちゃんのプラチナブロンド、たしぎさんの可愛いドジ、コニスちゃんの白い手、
ビビちゃんの優しい笑顔にナミさんの思わせぶりな口元。
そんなものばかりだ。

「あー・・・夢みたいだった」
自分の置かれた状況には結局気付かず、幸せな余韻に浸りながらサンジは夢うつつの状態で家路についた。









Brownie