
今度は噛み付くように唇を貪られた。
荒い鼻息が頬や額に掛かるのを感じながら、サンジも必死で口付けに応えようと背を撓らせる。
こんな風にがむしゃらに、我を忘れて求めてくるゾロが愛しくてならない。
ゾロが望むなら、なんだって応えたいと心底思う。
今までのお礼だとか今日のご褒美だとか、そんな建て前はもうなしだ。
ゾロはサンジの口端から唇をずらして、頬から顎、耳元へとキスの雨を降らせた。
軽く、時に濃厚な唇での愛撫をくすぐったく感じながら、サンジは仰向いてすべてを受け止める。
顎の下から柔らかな首元の皮膚をきつく吸われ、ちくりとした痛みに首を竦めた。
どこか焦った感じでゾロはサンジのシャツを引っ張り、伸びた襟元から覗く鎖骨にも噛み付いた。
痛いと声も上げられず、ただ緩く首を打ち振る。
少しでも拒絶の声を出して、ゾロの動きを止めたくはなかったから。
Tシャツを捲くられ、ゾロの手が裸の背中を撫でた。
脇腹から胸へと、擦るようにずらしていく。
胸元を探られ尖りを指で押されて、サンジは首元に噛み付かれたままピクンと顎を震わせた。
「ゾロ・・・」
不安げな声に、ゾロはすぐ顔を上げて伸び上がり、宥めるようなキスをくれた。
そうしながらも、シャツの下から弄る動きは止まらない。
「ち・・・ちょっ」
サンジとしてはそのような場所を他人に触られるなど当然初めてのことで、羞恥より戸惑いの方が先に立った。
ゾロが触りたいなら好きにさせてやりたいけど、なんだかこっちまで妙な気になってくるのがおかしいとか思う。
「・・・ゾロ」
「ん?」
声だけ答えておきながら、ゾロはシャツの中へ頭を突っ込んでちろりと胸を舐めた。
はわわ〜と頭上からサンジの間抜けた声が降ってくる。
「ぞっ・・・ちょっと」
「うん」
かぷ
「あ、のな・・・」
ちゅう
「―――あ」
ふにふに
「あ、あ」
ぷにゅ
「あ、うんっ」
ちゅぱっ
「・・・ぞろっ」
圧し掛かるゾロの両肩を押して、サンジは真っ赤な顔のまま見下ろした。
「変、じゃね?」
「変じゃねえ」
きっぱりと言い切り、目線をそのままに挑むように見上げながら胸元に食いついている。
まさしくぱっくりと。
食んだ唇の間から白い歯が覗いているし、さらにその下には引っ張られてやや盛り上がった自分の胸(乳首は
咥えられてて見えない)があったりする。
「・・・変だろおおお」
ぎゃーと叫びだしそうなサンジを抑え、ゾロは口を開けて舌を伸ばし、散々吸われて赤くなった乳首を見せ付ける
ようにゆっくりと舐めた。
見上げる瞳が爛々と輝いて、ゾロじゃないみたいだ。
「―――あ」
「たまんね・・・」
そのまま伸び上がって、半開きのままのサンジの唇にちゅっと口付ける。
押されるままに身体が傾いで、畳の上に転がされた。
遠くで祭囃子が聞こえるが、もうそれどころではない。
ゾロはサンジのシャツを顔が隠れるほどに捲り上げ、胸と言わず腹と言わず、至る所を舐めて吸った。
腕の内側や脇腹、臍周りなど、どこもかしこも愛しくてならない。
きつく吸うほどに、サンジは身体を丸めて無意識に逃げようとするが、その度我に返るのかぎこちなく動きを
止めていた。
ゾロの邪魔をしたくないと、彼なりに気を遣っているのが手に取るようにわかって尚のこといじらしい。
「い・・・てぇ」
なんとか仰向いたまま踏ん張ろうと頑張っているのに、とうとう耐え切れないようにサンジが呻いた。
痛いほど吸ってしまったかと、ゾロは慌てて顔を上げる。
色素の薄いサンジの肌は、あちこちに朱印が残って全体に見下ろすと惨憺たる有様だった。
これは調子に乗りすぎたか・・・
「悪い、痛かったか」
「違う・・・」
サンジは首を振って、切なそうに眉を顰めた。
「痛えのは・・・」
こっち・・・と躊躇いがちに俯く。
長い前髪がさらりと流れ、サンジの表情を隠してしまった。
吊られるようにゾロも視線を下げ、前屈みになったサンジの腹の下で止まる。
ああ、と今更気付いた己を叱咤し、浮いた肩甲骨の隙間から腕を差し入れた。
「風呂、行くか」
「え」
サンジが言葉を続ける暇もなく、そのままひょいと横抱きにして立ち上がる。
さっきひと風呂浴びてから、洗濯用に蓋をしたまま置いてあるはずだ。
「ちょっ・・・なんだよ」
身体をくの字に曲げたまま、うまく動かせないのを幸いにさっさと風呂場に連れ込んで衣服を脱がせてしまった。
こういう時のゾロの動きは俊敏で器用だ。
あっという間に身包み剥がされ、湯船に浸けられてしまう。
「ぬるいか?」
「いや、ここ暑いからちょうどいいけど」
そもそも、なぜ風呂だ。
戸惑うサンジを前に、浴槽越しに手を伸ばしたゾロはそのまましゃがんだ。
「てめえ、入らねえの」
「狭えだろ」
「けど、服が・・・」
濡れる、とまで続けられない。
また唇を塞がれて、裸の背中を抱かれた。
ゾロのTシャツはもう汗に濡れていて、今更風呂の湿気とかそういうのは問題じゃないんだろう。
なのになぜ、自分だけ裸なのか。
「・・・つ」
柔らかな湯の中で、ゾロの手が優しく触れてくる。
酷く熱を持って固くなったそこは、行き場のないマグマを抱えているみたいに張り詰めて痛い。
そんななのに、ゾロの掌が何かを促すようにやわやわと擦るから、サンジは浴槽にしがみついて腰を引いた。
「き、汚え」
「風呂、入ってんだろ」
汚くなんかねえよと、囁くゾロの声が酷く掠れていた。
間近で見詰める瞳だってどこか熱に浮かされているかのように潤んで、酷く切羽詰って見える。
「いいから、じっとしてろ」
ゾロにそう願われて、これ以上逃げることなんてできない。
「う―――」
サンジは歯を噛み締めて目を閉じた。
今行われている行為を目の当たりにするのは恥ずかしすぎる。
けれど何も見ないとゾロの手の動きがよりリアルに感じられて、余計心拍数が上がってしまった。
「あ、のな・・・」
「うん」
何か気を紛らわそうとするのに、ゾロの手は容赦なくサンジを追い立てた。
「そ、こな・・・なんかっ」
「うん」
排尿以外に使用することのなかった部分が、些か乱暴な手つきで弄くられる。
最初感じた痛みも、いつの間にか消えてしまった。
今はただ、ビンビンと脊髄に響くみたいな刺激ばかりが中心から湧き出してくる。
「なんかっ、へ・ん」
「大丈夫だ」
全部剥けたと、随分と優しい声音が耳を打つ。
頬に口付けられ、誘われるように首を傾けたら唇を吸われた。
そうしている間にも、ゾロの手の動きが益々激しさを増していく。
「へんっ、やば、俺・・・変になるっ」
「変じゃ、ねえよ」
きゅむ、とゾロの掌で潰されてしまった気がした。
何もかも消え去るような、すべてが霧散してしまったような途轍もない喪失感と合わさって訪れた、いまだかつて
感じたことがないほどの強烈な快感。
喉の奥から搾り出した呻きは、ゾロの口の中に吸い込まれた。
腰がガクガクと震え、腹がきゅうと萎む。
「ふぃ―――」
やや強いゾロの手の力に促され、何度かに分けて小刻みな快楽が脳髄へと駆け上る。
サンジはきつく目を閉じて、身に余るほどの快感の波に耐えた。
こんな感覚は、初めてだ。
気持ちよすぎて怖くて、呑まれそうになる。
この場にゾロがいてくれなかったら、どこかへこのまま消えてしまいそうだ。
「―――あー」
短く呻いて、ガクリと頭を垂れた。
ゾロの肩に顎を乗せ、忘れていた呼吸を思い出したかのように喘いだ。
口端から唾液が垂れて白いシャツを濡らしてしまったが、それ以上にゾロはもう全身ずぶ濡れだ。
「気持ち、よかったか?」
ゾロの手が、果ててしまったそこをあやすようにゆっくりと撫でてから腹を擦った。
なんだか不意に泣きそうになって、サンジはベソを掻いたような顔のままゾロの肩へ目を擦り付ける。
「・・・」
「うん?」
「よか、た」
そうかそうかと、ゾロのもう片方の手が頭を撫でてくれた。
こんなに気持ちのいいことをされたのに、尚且つ褒められるとは何事だろう。
「湯が、汚れちまった」
「シャワーで身体だけ流せばいいだろう」
ゾロはちゅっと音を立ててサンジの目元に口付けると、それじゃあと身体を離した。
「てめえはちゃんと身体を拭いて上がれ。バスタオル、まだそこにあるだろ」
「お前は?」
浴槽から顔だけ出して覗いているサンジは、うっかり人里に迷い込んだ小動物のように可愛らしい。
「俺は濡れちまったから、もっかい風呂入って出る」
「一緒に入ればいいのに」
「狭えだろ」
もう一度そう言うと、ゾロは心持ち身体を屈めてサンジが上がる場所を空けた。
その動きのぎこちなさを不審に思いながらも、サンジは素直に風呂から上がる。
よく見れば額には玉のような汗が浮いて、どこか苦しそうだ。
「ちゃんと拭けよ、エアコン効いてんだから髪が濡れたままだと風邪引くぞ」
「わあってる」
いつも以上に口うるさいゾロに肩を竦めて見せて、サンジは風呂場から出た。
一応言いつけ通りちゃんと水分を拭いて、ついでに放ったらかしだった食卓の上も片付け始める。
いつの間にか、祭囃子は聴こえなくなっていた。
「今年は、行き損ねたな」
ちょっと寂しい気もするが、ゾロにご褒美あげられたからいいかと一人で納得し、つい緩んでくる口元に手を当てた。
ご褒美どころか、すんごい気持ちよかったんですけど。
「あーやべえなあ」
思い出すだけで顔が熱くなるし、心臓がバクバク鳴って口から飛び出そうだ。
なんかすごいことしちゃった気がする。
けどゾロだから、なんだって大丈夫って思える辺り盲目だろうか。
ゾロ・・・
「遅いなあ」
いつもは烏の行水なのに、今夜2回目の風呂は随分と長風呂だ。
後片付けを終えて卓袱台を上げて布団を敷いた頃、ようやくゾロが上がってきた。
「ゆっくりできたか?」
サンジが笑顔でそう問えば、ゾロはまあなとのぼせたような赤い顔をタオルでゴシゴシと拭いた。
先ほどとは打って変わってどこか澄み切った、悟りを開いた坊さんみたいな清らかさが滲み出ている。
風呂で修業でもしてきたんだろうか。
「んじゃ、寝るか」
「おう」
一つ布団にいそいそと入って、まだ風呂上りでホカホカと温かいゾロの身体にひっついた。
ゾロは片手でサンジを抱いて腕を伸ばし、灯りを消す。
「祭り、行き損ねたなあ」
「そうだな。でも疲れてたし」
「ご褒美、あったしな」
「そうそう」
挨拶みたいに軽くちゅっと口付け、サンジは暗闇の中でゾロの端整な横顔の輪郭を眺めた。
「ゾロは、いいのか?」
「ああ?」
なんでもないことのように、軽い口調が返ってくる。
「俺は、ご褒美貰ったぜ」
「なんで、俺なんにもしてねえ」
「そうでもねえよ」
すげえ進歩だと、独り言みたいな小さな呟きで腕枕を差し出す。
「店も順調に始まったし、順風満帆だな」
「ああ、てめえのお陰だ」
「お前の力だよ」
これからだって、すべてが順調に進むとは限らないだろう。
今は追い風が吹いても、いつ横風や向かい風吹くとも限らない。
そんな時でも上手に帆を調節して、前へ前へと進んでいける自信が今のサンジにはあった。
いつだって傍には、ゾロがいてくれるから。
どんな風だって味方につけて、二人なら進んでいける。
「ゾロ、来週はちゃんとご褒美・・・するからな」
「期待してんぜ」
思い出したらまた高鳴り始めた心臓を、サンジはそっと掌で押さえた。
反対側の手の甲にも、大きな鼓動が響いてくる。
これはゾロのものかと気付いて、身体ごとぶつかるように寄り添った。
ゾロの手がしっかりと背中を抱きかかえてくれる。
その力強さが何よりも心地よくて、すべてが夢心地のままサンジは幸せな眠りについた。
END
