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相変わらず何も言わないで仁王立ちのゾロに、俺は仕方なく向き直った。
「お前もさ、降りたら?お兄ちゃんのいるところに行くんだろ。」
そう言って街を示すのに、ゾロは俺の顔ばかり見てる。

「それとも、もしかしてこっちも大丈夫になったか?」
そう言って小指を立てて見せたら、ゾロは俺の手首を掴んだ。

「突っ込めれば良かったんだが・・・」
え、いきなり?
いきなりかあ?
反射的に蹴り上げようとした足をかわされて横抱きに抱きしめられた。


「どうも、てめえ見てると突っ込むだけじゃ済みそうにねえ。なんか、触りてえ。」
言いながら唇を舐めてくる。
荒々しく吸われて齧られて、うっかり膝から力が抜けてしまった。

「なんか美味いな。気に入った。」
そう言ってべろんと舌なめずりなんかするから、俺は反論の言葉すら出て来ない。
俺の唇を噛む寸前まで貪り食って、ラウンジに引っ張り込まれる。



奴なりに気を使ってかゆっくりと身体を横たえながら、シャツなんかは乱暴に引き剥いだ。
「いきなりなんだよ!やっぱ、すんのかよっ」
「傷に触るから抵抗すんな。」
「だったら止めろっ、この変態!!」
あっという間に裸に剥かれてあちこち弄くり倒された。
男専門といいながら愛撫する手が慣れてないことに、こいつは本当に突っ込むだけだったんだなと
改めて思い知らされる。
それでも奴なりに気を遣ってか、やわやわと追い立てられて、俺は抵抗するよりその手に縋りついた。

目をぎらつかせて、息を切らしてひたすらに求められることがこんなにも気持ちイイ。
若草色の髪を掴んで、日に焼けた肌に爪を立てて、俺はただゾロの名を呼んでいた。

馬鹿みたいに繰り返し、ゾロの名だけを呼んでいた。













出航の日、約束どおりに早朝GM号に帰ってきたウソップはゾロからメモを手渡された。
買い出し用の食材リストがこと細かく書いてある。
「そのメモのとおりに買ってきてくれとよ。」
何故か上半身裸のゾロからそれを受け取って、「ところでサンジは?」と問い掛ける暇も与えず
男部屋に消えた後ろ姿を見送ったウソップは、その体勢のまま後退りで船を後にした。


何も聞くまい。
何も言うまい。
触らぬ神に祟りなし。
くわばらくわばら・・・


くるりと背を向けて男部屋に消えたゾロの広い背中には、何本もの赤い爪跡がくっきりと刻まれていたから。






























今日も今日とてGM号は順調な航海を続けている。
こないだの島じゃあ、結局上陸は叶わなくて、海賊なりの島での楽しみ方って奴をゾロに教えて
やれなかったが、今度次の島に着いた時にはちゃんと教えてやろう。


知らない街を歩き回るとか、食ったことのない飯を食うとか、市場のおっさんおばちゃん達と
他愛いもないお喋りをするとか・・・
旅の楽しみってもんはそんなとこにあるって教えてやりてえ。


相変わらず俺の作った飯を美味い美味いと食らう奴らを目の前にして、俺はなんだか満ち足りた気分だ。

多少身体にガタが来たが最近はペースも掴めてきたし、海賊共が仕掛けてきても、ゾロは最低限の防戦
ラインまで力を抑えることを覚えたみてえだ。
ちったあ、頭が廻るようになってきた証拠かも知れねえ。

ゾロ以外のクルー達が、特に女性陣を筆頭になーんか俺を生暖かい目で見守ってくれてるような気も
しないでもないが、まあナミさんもロビンちゃんも変わらず美しいからよしとしよう。






箸を動かす手を止めて、ゾロがふと顔を上げた。
「クソコック、後でちょっとケツ貸せ。」
俺はすかさずその脳天にコンカッセをかました。
寸前でルフィが皿を退けてくれたお陰で、テーブルを汚すことなくゾロの顔面が綺麗に減り込んでいる。


「こんの、馬鹿野郎が!何べん教えたらわかるんだ!!」
激昂する俺にゾロは沈んだ身体に首だけ擡げて、赤く擦れた顔を傾げた。


「・・・あー、クソコック、後で愛し合おうぜ?」
俺はシンクに凭れて煙草に火をつけ、一服吸って深く吐き出した。
「・・・ち、しょうがねえなあ。」
明後日の方向を向いたままカシカシと髪を掻くと、ゾロは安心したようにまた食事を再開する。



「この和え物、美味しいわよねえ。」
「デザートはなんだあ?」
今の俺とゾロの会話をまるで聞かなかったかのように和やかに食事を続けてくれる皆は、
よくできた仲間だと思うよ、ほんと。















行為が始まる前も終わった後も、ゾロはやたらと俺の背中を舐める。
すっぱり斜めに斬られた傷跡は消えそうにないけれど、それを舐めるのがキスの次に奴のお気に入りらしい。

最初は傷口に触ってぴりぴり痛んだりしていたが、いつの間にか俺も慣れちまった。




「・・・あ」
「あ?」

俺の背中に張り付いて間の抜けた声を出すから、俺は煙草を咥えたまま首だけ捻じ曲げた。
そのホッペもべろんと舐めて、ゾロが俺の上から身体をどかす。

「・・・思い出した。」
「お、今度はなんだ?」

ゾロは俺と身体を重ねる度に、ほろりほろりと何かを思い出す。
それはきっといい傾向なんだと俺は勝手に思っている。


「今日は11日だったよな。」
「ああ、そうだっけか。」
俺はぼんやりとラウンジの時計を眺めた。後5分で今日が終わる。
「11月11日ってな、俺が生まれた日だ。」
「はあ???」
思わずがばりと身を起こした。
ケツに響いたがそんなことに構ってられない。


「ちょっと待て、そういうことはもっと早く思い出せ!今日が終わっちまうだろうが!!」
俺の剣幕にゾロの方が驚いて、まじまじと見つめている。
「あ〜、そんなことなら今日は和食にすりゃあよかった。アジの干物がもうちょいだったんだ。
 あとケーキ。アントルメにするんだったあ!」
髪を掻き毟ってうめく俺を、ゾロは不思議そうな目で見つめている。


「そんなのがいるのか。」
「当たり前だろうが!誕生日だぞ。お祝いするに決まってっだろ。」
ゾロはパチパチ目を瞬かせている。


「祝うのか?」
「おう、なんせてめえの生まれた日だ。めでてえじゃねえか。おめでとさん。」
照れ臭いけどちゃんとそう言って、まだボケッとしている唇に軽くキスする。
ゾロは裸の俺の腰を抱えて寄せると、僅かに口の端を上げた。



「そういや、今まで思ったことなかったけどよ。」
ゾロの目がすうと眇められる。


「俺あ…生まれてきて、良かったな。」







そう言って、初めて見せた奴の笑顔は、すぐにぼやけて見えなくなった。





「――――おい?」



戸惑いを含んだ声で問いかけながら、ゾロは胸に顔を埋めた俺の髪を柔らかく撫でて梳く。
そんな優しい動きだって、最近やっと覚えたものだ。



そうして少しずつなにかを覚えて、すこしずつ、過去を取り戻していけばいい。



俺がずっと側にいるから。









此処より彼方へ――――


        共に行こう。



                                  END (2004.12.2)





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愛しすぎる雛鳥ゾローv