Love holic
−1−




ずっとずっと好きだった。


吐息と一緒に秘めた言葉が漏れそうで、俺はシーツを噛み締めて顔を深く埋めた。
久しぶりの柔らかなベッド。
窓の外からは降りしきる雨の音が響いて、静寂の中で蠢く俺達の息遣いを掻き消してくれている。





死闘の末にクロコダイルを倒した俺たちは、アラバスタの宮殿に迎え入れられ、泥のような眠りに落ちた。
身体中傷付いてくたくたになっている筈なのになぜか目が冴えて寝付けなかった俺は、雨を眺めに中庭へと
降りて石造りの階段に腰掛けていたゾロと目が合ってしまった。
まるで獣みたいに白目をぎらつかせて闇から見上げる瞳に、ぎょっとして立ち竦む。

「…なんだ、てめえも眠れねえのか?」
それとも苔の水分補給か?そう続けようとして、ゾロの視線がまるで挑むみたいにきつい光を帯びていることに、
改めてたじろぐ。
こいつだって満身創痍の筈なのに、まるで闘いが終わってないかのような目つきじゃねえか。
「まだ、暴れ足りねえのかよ。」
呆れた奴だとタバコを取り出そうとして、手を止める。
裾の長いローブをまとったきりだ。
ポケットもタバコもありやしない。
俺は小さく舌打ちして、踵を返した。

不意に、熱い手で腕を掴まれる。
「おい?」
振り返ればいつの間に近付いていたのか、すぐ傍にゾロがいた。
俺の手首を掴んだ手が、もの凄く熱い。
「お前、熱出てんじゃねえのか?」
常になく接近した状態だったのに、俺はその体温の高さの方が気になった。
あれだけ暴れまわって怪我もしまくってるんだ、熱くらい出てるだろうに。
なんだってこいつは寝てないんだろう。

自分のことを棚に上げて、俺はゾロの手首に手を添えた。
やはり熱い。
「もう真夜中だから光合成はできねえぞ、さっさと部屋に…」
戻れと続けた唇を、熱いモノで塞がれた。
咄嗟には、わからなかった。
掴まれた腕はそのままに引き寄せられ、もう片方の腕は背中に回されている。

重ねた唇を軽く食まれ、舌先で舐められた。
驚いて「あ」の字に開いた隙間から忍び込み、乾いた口内を蹂躙する。
驚くほど強い力で擦られ吸い付かれて身を仰け反らせて逃げるのに、がっちりと抱きとめた腕に力を込めて、
尚引き寄せられた。

熱い―――
絡めた舌から熱を注がれたみたいに熱い。
ゾロが俺にキスしてるだなんて…
俺の中に舌を絡めて吸ってくるだなんて…

思いもかけない状態に頭が付いていけなくて息をすることすら忘れていた。
掴まれた腕が痛い。
そこから発火して火傷しそうに熱い。
俺は逃げたりしないのに―――

痺れた指先を何とか動かし、ゾロの髪に触れる。
撫でる仕種で頭を抱えたら、ゾロは探るみたいに首を傾けた。
湿った音を立てて唇を離し、至近距離から俺の目を真っ直ぐに見据える。
その視線から目を逸らさず、応える代わりに自分から舌を差し出した。
手首を握ったゾロの手から力が抜け、指が外される。
おずおずと伸ばされたそれは俺の頬を撫でて唇を辿り、舌を挟んだ。
ぬるりと舌の上で指が滑る。
俺がそれ以上逃げないのを確認して、また唇を重ねてきた。

両手を背中に回して折れるほどに強く抱き竦められる。
ああ、やっぱり…
俺はゾロにキスされている。
こんなに、痛いほど強く抱き締められて、激しくキスされて…
あまりの展開に目眩がしそうだった。

つい昨日まで激しい戦いの中にいたのに。
その前から、随分以前から、ただの仲間だったのに。
相性最悪の喧嘩仲間でしかなかったのに。

どれだけ焦がれても、触れられることはないと諦めていた手が、今俺に触れている。
強く抱き締めて口付けて求めてくる。
こんなことって―――



いつからかと問われれば、多分初めて会った時から、俺はゾロに惹かれていた。
愚かなまでの自分の生き様を認めた上で、その先を見据える目に惹かれた。
真っ直ぐな戦いぶりに胸が高鳴った。
そんな自分の気持ちは認め難くて何度も否定を繰り返したけど、それでもゾロから目が離せなかった。
ずっとずっと、焦がれていたのだ。
自覚する以上に、胸の奥底から求め続けていたのに―――

今、そのゾロが俺を抱いている。
キスして、舌を絡めて、俺を味わっている。
ゾロが、俺を―――

ずん、と下腹部が重く響いた。
膝が抜けて立っていられなくなる。
崩れ落ちそうに力の抜けた俺の背を抱え直して、ゾロは石段を登った。

広い廊下を通り抜けて、一番近くの扉を開けた。
誰かいたらと肝を冷やす俺に構わず、静かに中に入る。
恐らくは客用の小さな部屋には、据置きの机とイス、それにベッドが一つあるだけだ。
お誂え向きのシチュエーションに、俺たちはどちらともなく笑った。
笑いながらベッドに倒れこんで、また深く抱き合った。

包帯を巻いた腕や背中の傷が痛む。
けれどその痛み以上に圧し掛かり密着したゾロの身体が熱くて堪らない。
さっきから暴走しっぱなしの心臓は爆発寸前で、耳鳴りまで伴って俺の頭の中をガンガン鳴らし続けていた。
ゾロがまたキスしてきて、俺の頬や目元まで舐める。
あのゾロが、俺を舐めるなんて…
信じられなくて、笑い出しそうで、けど逃がしたくなくて必死でゾロのローブを掴んだ。

ゾロのキスが首筋へと降りて、耳朶も咬まれる。
ああまるで、愛撫みたいだ。
ゾロが俺を、愛撫している。
鼓動が高鳴り過ぎて口から飛び出そうだ。
信じられない。
けれど熱い。
ゾロが俺に触れてる。
俺を求めてる。

押し付けられた下半身には、ひどく熱くて固いものが押し付けられている。
信じられない。
けれど気持ちイイ。
たまらない。

ゾロの手が、性急に俺の胸元を肌蹴た。
緩く身に纏っていただけのローブが外されて、包帯だらけの胸が曝される。
所々に血が滲んでいるせいか、ゾロの動きは慎重で丁寧だ。
でかい掌でじっくりとなぞって、包帯の合わせ目から覗いた乳首を探り当てた。
指の腹で擦られて、思わず声を漏らす。
恐る恐る目を開ければ、驚くほど至近距離で覗き込むゾロと目が合った。
鳶色の瞳が、窓の外から差し込む街灯の光を反射して、怪しく揺らめいている。

「…見んな…」
恥ずかしくてたまらなくて、俺は目を閉じた。
反応を探るようにまた強く弄られて、歯を噛み締めながら横を向いた。
首筋を舐められる、ひやりとした感触に肌が粟立つ。
俺は目を閉じたまま身体を捩って、シーツに顔を埋めて声を堪えた。
気付かれる。
気付かれてしまう。
俺が感じていることを。

ゾロの手が、腹を撫でて下へと降りた。
隠しようもないほど猛ったそこに触れて、満足そうに微笑んだのが目を閉じていてもわかってしまった。
恥ずかしくていてもたってもいられない…
けれどゾロを跳ね除けることもできなくて、ただシーツを握り締めてじっと目を閉じていた。
ゾロの手が内股に触れる。
やはり熱い。
その熱に誘われるように足を開いた。
もう片方の手が俺に触れて、緩く動いただけで危うくイきそうになってしまった。

ゾロが、ゾロが俺の…
心臓が早鐘のように鳴っている。
喉元から熱い塊が込み上げて来て、飲み込もうと口を閉じると目元がじんわりと熱くなった。
俺の身体はどうかしてしまったのかもしれない。
ゾロに触れられて、中心から融けて崩れてしまいそうだ。

ゾロの掌がぬるぬると滑っている。
俺のせいだ。
とめどなく溢れ出すカウパーがゾロの手を濡らしている。
薄目を開けて窺えば、窓から差し込む光に照らされてぬめるそこが光って見えて、たまらなくなった。
恥ずかしい。
死にたくなるほど恥ずかしい。
けれど気持ちイイ。
もう―――



ゾロの指が奥を探る。
無意識に片足を上げて、触れやすく開いてしまった。
そんな自分に後から気付いて、また赤面する。
きっとゾロも気付いているだろう。
慌てて閉じかけた俺の足を力を込めて押さえて、ゾロは濡れた指を滑り込ました。
ゾロの、指が剣ダコだらけで節くれ立ってて皮膚の固い、あの荒れた指が俺の中を探っている。
一番柔らかで無防備で弱い部分をゾロの指が突き入れられている。
そう考えただけで、また達してしまいそうになった。
腹に力を込めると、ゾロの指を締め付けてしまってよりリアルに感じてしまう。
快感で目が眩み、あられもない声を出してしまいそうだ。

「力を、抜け。」
ぞっとするほど冷静な声で、ゾロが囁く。
それがまたたまらなくて、無意識に力が入ってしまった。
苛立ったように乱暴に掻き混ぜられて、痛いのと気持ちいいのとで息が荒れてしまう。
そんな俺に構わず、ゾロは突き入れる指を容赦なく増やした。
粘着質な音を立てて、そこが強引に広げられていく。
吐き気を伴う異物感に堪えながら、ゾロの指をより深く感じて快楽に似た波が背筋を駆け上った。
痛くて苦しい。
苦しくて辛いのに、たまらない。
たまらなく気持ちイイ

「ゾロ…」
目を開ければ視界がぼやけていた。
俺の上でゾロが動き、無遠慮に突き入れられていた指が唐突に引き抜かれる。
ぐちゃりと音が鳴って、それがあんまり恥ずかしくて、またぎゅっと目を瞑った。
拍子にほろりと目尻から涙が零れる。
ゾロの両手が太股にかかって、ベッドから持ち上げられた。
開かれたままの足の間に熱い塊が押し当てられる。
それがなんだかわかっていて、それでも俺は抵抗せずにシーツを強く握り締めて待った。
2、3度円を描くように擦り付けられ、押し込まれる。

ずぶりと減り込む感触に、鳥肌が立った。
無意識に詰めていた息を吐いて、握り締めた指の力を抜く。
更に腰を進めるゾロの動きに伴って、明らかな痛みが俺を襲った。
痛い痛い・・・
苦しい、気持ち悪い。

広げられて更に押し込まれる。
痛い、痛いのに、入ってくる・・・
ゾロのが・・・
ゾロの―――
熱いモノが

熱くて、熱くてたまらない―――


ぽつりと、頬に雫が垂れた。
再び目を閉じて涙を振り払い、目を開けた。
俺の真上で、ゾロが顔を顰めて睨み付けている。
そのこめかみから流れる汗が顎を伝い、俺の上に滴り落ちていた。
ゾロが汗を・・・
そんな、必死になって。

急におかしくなってきた。
ゾロが汗かいて俺を犯してる。
そんな一生懸命に、俺ん中に・・・
おかしくなって、口元を歪めた。
ゾロは眉を吊り上げて、俺の表情に見入っている。
痛い
熱い
どうしようもなく苦しいのに、俺はシーツを掴んでいた手を無理に広げて、持ち上げた。
震える指でゾロの肩を撫でる。
背中へと腕を回し、汗で滑る肌に触れた。
ぐい、とゾロの腰が揺れた。
耐え切れず漏らした悲鳴とともに俺の手は縋るようにゾロの背中を掴んだ。

ず、ずとゾロが腰を揺らす。
容赦なく始まった抽迭に喘ぎながら、俺はゾロの背を掻き抱いた。



促されるように俺の上に覆い被さり、胸と胸が密着する。
どちらのものともわからない鼓動が強く響いて、まるで一つになったような錯覚を覚えた。
俺の中でゾロが蠢く。
凶悪なまでに突き入れ引き抜きながら、より深く穿ち犯す。
ああ、たまらない。
たまらなく気持ちイイ
ゾロだから
ゾロが、好きだから―――

漏れそうな声を殺して、俺は首元にまとわり付いたローブの裾を噛んだ。
決して言わない、伝えないこの想いが溢れ出してしまわないように。