君のいちばん −2−
そして現在、二人はいわゆる連れ込み宿で、妙な緊張に包まれていた。
サンジはソファに深く腰掛けたままタバコばかり吸っている。
ぼんやり窓の外を眺めていると見せかけて、組んだ足の先はさっきから貧乏揺すりが止まらない。
さっとシャワーを浴び終えたゾロがサンジの横を通り過ぎて冷蔵庫の中から酒を取った。
「宿の酒は高えぞ、飲みすぎんな」
窓に向いたまま声だけで咎めるサンジにゾロは苦笑を返した。
「そう緊張すんな。取って喰おうって訳じゃねえ」
「喰われてたまるか!ってーか、誰が緊張してるってんだボケマリモ!!!」
足先の貧乏揺すりがさらに激しくなった。
ゾロは酒をぐいと呷ってからテーブルに置いた。
「ああすまねえ。待たせたな」
背もたれに手をかけて覗き込むように顔を近づける。
「な、何の真似だ。キスはなしだぞ」
「なんでだ。ルフィとはしなかったのか?」
サンジの青い瞳がくるりと上を向く。
本人はポーカーフェイスを気取っているらしいが、その反応はいちいち素直で実に分かりやすい。
「フェアにいかねえとな」
指先でフィルターを焦がしそうになっていたタバコを取り上げて、灰皿でもみ消した。
何か言おうとする前に唇を浚う。
そのまま後頭部に手を添えて、ゾロは思いっきり貪った。
ふんぐっとサンジの息が止まる。
ゾロの唇ががばりと覆い被さったかと思うととんでもない勢いで吸引された。
下唇が甘噛みされて、閉じた歯を舌が撫でる。
―――い、息が・・・
鼻で息をすればいいのに、頭ごと押し付けられてもう余すところなく吸い尽くされそうだ。
なんとか逃れようとゾロの髪を力の限り引っ張ったのに、びくともしない。
ゾロのでかい手がサンジの両頬を挟んで持ち上げるように密着させる。
あまりの苦しさに食いしばった歯を開いたらすかさず熱い舌が滑り込んできた。
えらく長いらしいそれはくるんとサンジの舌を絡め取ってもげそうな勢いで吸い付きはじめる。
なんじゃこりゃあ!!!
サンジは目を見開いたまま驚愕した。
こんなもん、キスじゃねえ!
無理やり開かされた唇にゾロの尖った犬歯が当たって身が竦む。
口から食われるんじゃねーのか?
がぶがぶべろんべろん口中を嘗め回されて、ようやく解放されたときにはサンジは身を起こす力もないほど
体力を消耗していた。
「どした?キスくれえでなにへたってやがる」
濡れた唇をぺろりと舐めて、ゾロが涼しい声で言う。
何がキスだ。
あんなもんキスじゃねえと言い返したいところだが、舌が痺れてうまく言葉が出ない。
悔しそうに顔を歪めたサンジは、濡れた口元をそのままに半開きさせて、荒く息をついている。
上気した目元がなんともエロい。
「反則だぞてめえ」
ゾロのちょっと掠れた声が届いた。
どっちがだと言う前に、また唇を塞がれる。
サンジは、この勝負をかなり甘く見ていた。
少なくともゾロにそっちのケはなさそうだし、せいぜいコキっこ程度で済むと思ってたんである。
健全な男なら、野郎相手に勃起するどころかキスするのさえ憚れるだろう。
ルフィはどこかすべてを超越したところがあるから、自分相手でもそこそこ反応したんだろうなと、
サンジは勝手に解釈していた。
だがゾロに限って天地が引っくり返ろうとも男を、しかも自分をどうこうしようなんてする筈がないと
頭から信じ込んでいた。
なぜだかは知らないけれど。
だから今、自分の置かれている状況を理解するのに時間がかかる。
売り言葉に買い言葉で連れ込みに入って、ゾロがちょっかいかけてきて、キスされて、と思ったら
喰われかけて、押し倒されて、胸触られて…
え?
胸?
さああっとサンジの顔から血の気が引く。
いつの間にかベッドに押し倒された格好でシャツの胸元は肌蹴られていた。
ゾロの分厚い手があちこち弄って、事もあろうに小さな突起を指で挟んでいる。
ゾロが…
あのゾロが男の、俺の乳首を抓んでる????
「ば、なんてことしやがるっ…」
真っ赤になって膝を蹴り上げたのに、ゾロの硬い腹が衝撃を難なく受け止めた。
「ってえなあ。ルフィには弄らせなかったのかよ」
「う…」
そういや、ルフィもちょっと触ってたな。
「ああ、ここんとこも吸われてるな」
ぼそぼそ呟いて、顎の下の柔らかな皮膚をちゅうと吸い上げた。
「い、いて…てえっ」
「こっちもかよ」
なんだかぶつくさ文句を言いながらゾロがあちこちに吸い付きまわる。
「と…まっ、てえマリモ!いてーだろが!」
吸い上げる力は半端じゃなく強い。
サンジの色素の薄い肌は見る見るうちに痣だらけになった。
「どれがルフィの跡か、わかんなくなったな」
鎖骨をちろりと舐めながら笑うゾロの顔は、心なしか満足そうだ。
そんなことしている間にも右手は休みなく動き続け、くりくりとサンジの乳首を弄り倒す。
なんだかじんじん胸の奥まで何かが響いて、サンジは目を開けていられなくなった。
口を開けば声が漏れる。
鼻だけで大きく息を繰り返し、手繰り寄せた枕の端っこをぎりと噛んだ。
「おい、口塞ぐの反則だぞ」
ゾロが伸び上がって、横を向いたサンジの耳たぶを軽く噛む。
うなじの毛がそそり立ってぶるりと身体が震えた。
「さみーのか感じてんのかどっちだよ」
ゾロの声音には明らかに揶揄が含まれている。
悔しくて何か言い返したいが口を開けば声が漏れそうで動くこともできない。
散々弄んだ指が離れたかと思うと、ぬるりと熱いもので覆われた。
ゾロが…
俺の乳首を舐めやがった。
形容しがたいショックがサンジを襲う。
ゾロが、まさかゾロが…
いつもいつも飽くことなく喧嘩し続ける間柄ではあるが、サンジは結構ゾロに一目置いている。
多分最初に出会ったあの日から、自分の奥で眠っていた何かを根こそぎ引き抜かれてしまったに違いない。
男としても、仲間としても、戦士としてもすげー奴だと知っているから、喧嘩できる自分が嬉しかった。
ときには思う存分蹴り倒して青筋立てて怒るゾロを見るのが楽しかった。
なのに…
ゾロが音を立ててサンジの乳首を嘗め回す。
反対側も執拗なほど指で捏ね繰り回した。
俺の、男の乳首だろーが…
自分の平べったい胸に顔を埋める緑髪が異様で、サンジは泣きたくなってきた。
メンタルはひどいショックを受けているのに、身体の方は直接的な刺激でさっきから痛いほど反応している。
覆い被さったゾロが下腹部を擦り付けてきて、そのあまりに動物的な仕草にますますサンジは追い詰められた。
ルフィとは本当に悪ふざけの延長だった。
軽くキスして触りあって、年上ぶって受け入れてみただけだ。
こんな風に組み敷かれて奪われる恐怖なんてなかったのに…
いってえなんで、こんなことになったっけか?
サンジは失念していたが、ゾロは元来目的のためには手段を選ばないタイプだ。
勝負に勝つためには自らの犠牲も厭わない。
よもや男の自分に具体的に何かしてくる度胸はないだろうと高を括っていたサンジは、思いもかけない
ゾロの積極性に付いていけなくなっている。
舐められて擦られて、なんだかよくわからなくなってきた。
一体何の勝負だったんだろう。
ゾロがバックルを外して手を滑り込ませる。
直接握られてサンジは枕に噛み付いた。
触った!
しかも握ってる…!
もはやパニックである。
「もう勃ってやがんのか。さすがだな」
そのまま強い力で扱かれると痛いやら怖いやらで腰が引けた。
目をつぶったままぶんぶん頭を振る。
「なんだ、痛えのか?」
今度はうんうんと上下させるとゾロは少し手の力を緩めた。
「まったく軟弱野郎だぜ。優しくしてやりゃ、いいのか?」
今度はやわやわと手を動かす。
掌がでかいから全体が包まれるようで、なんとも心地いい。
心地いいって…
なんだ俺ぁ!!
サンジはすっかりやられっぱなしの状態に気が付いて、シーツを握り締めていた手をゾロの
下半身に伸ばした。
腹の下が硬く膨らんでいる。
てめーだって勃ってっじゃねえかよとからかってやろうとして、その大きさにぎょっとした。
…反則なんじゃあ…
青褪めるサンジに見せ付けるようにゾロがズボンを脱ぐ。
目の前に突き出された一物に今度こそサンジは卒倒するかと思った。
ルフィは…ゴムなのだ。
いかようにも伸び縮みし、太くも細くもなれる。
なのにこれは…いかんだろう。
サンジは涎でべとべとになった枕を顔から外して身体を起こした。
圧し掛かろうとするゾロを手で制して大きく息を吸う。
「あのなマリモ、その頭でよく考えろ。俺もお前も男だよな」
何をいまさらと言った顔で、ゾロは答えない。
「お前ホモか?違うよな。俺もホモじゃねえ。今のこの状況を冷静になってよく見てみろ。野郎同士で
下半身晒して、突っ込み棒しかねえじゃねえか。やーらかくてあったけえレディの身体とは全然違う、
硬くてごつい男の身体だろ。お前がソレをどうこうできるってえ…」
いきなり饒舌になったその口を手っ取り早く塞いだ。
下部を揉みしだきながらべろんべろん口中を嘗め回すとサンジはぐうとも言えなくなる。
また悔しそうに顔を歪めて横を向いた隙に、ベッドヘッドに置いてあったクリームに手を伸ばした。
突然塗りつけられたひやりとした感触に身体が跳ねる。
ゾロの指が塗り込めているのだと思うとかあっと全身が熱くなった。
不慣れな場所を攻める圧迫感に鳥肌が立つ。
ぎゅっと目を閉じて、口も閉じて肌を染めたサンジをまじまじと見ながら、ゾロはかなり困惑していた。
ルフィに指導するくらいだからさぞかし経験豊富かと思えば、とんでもなく恥ずかしがっている。
はっきり言ってまるで処女だ。
さっきから何度か指を差し込む箇所は固く閉じていて、本数を増やすこともままならない。
それでもゾロにしてはやけに丁寧に、刺激を繰り返した。
そこを弄るだけでサンジの前はたらたらと蜜を溢れさせて、小刻みに震えている。
気持ちはイイらしいが、認めたくないのか身を硬くしたまま声を殺して枕を抱いていた。
「イきてえか?」
枕をどけると、目尻に涙をためた瞳がそれでもきつく睨み付けていた。
「ルフィに挿れさせたんだろが。こんなんでよく入ったな」
「ル、ルフィはゴムだろが…」
そういえばそんなことを言っていた。
「だから、細く…ちいとばかしっつった!」
なんだ。
「ケツを気持ちいい程度に弄られただけかよ」
それであんなに甘い声で。
「じゃあてめえ、もしかしてまともに男とヤったことねえのか?」
「あ、当たり前だ!俺はレディ専門で、そこは出す専門だ!!!」
呆れてモノが言えない。
それこそじゃれ合いの延長みたいにコキっこして、あんな声出してりゃルフィじゃなくてもその気になるぜ。
ゾロは目の前の阿呆をきちんと躾なければと思ってしまった。
とりあえずイかせるのは後回しにして、突っ込むだけ突っ込んでそれから考えよう。
急に乱暴になった指の動きにサンジが声もなくうめき、見開いた瞳に涙が盛り上がる。
「…ルフィにも、そうやって泣いてみせたか?」
「な…俺が泣くわけないだろが!」
この期に及んでまだそんなことを言う。
ゾロが埋め込んだ指をぐるりと返すと、声に出さないまま口を大きく開けた。
ぎゅっと閉じた瞳から涙が零れ落ちる。
「そんなら、俺が泣かせてやる」
太ももに手を食い込ませて大きく開かせ、ゾロは強引に腰を進めた。
出航の朝はよく晴れて風も穏やかだ。
早朝から買出しを済ませて集合場所に向かうと船長が早くもメリーの頭の上で手を振っている。
「サンジ、買出し済ませたのか」
「ああ、クソ腹巻が手伝ってくれたしな」
ゾロは力があるから買出しには結構便利だとわかった。
これからも利用しようと思う。
「そっか、これ返す」
ルフィはポケットを掻きまわして何枚かの紙幣を取り出した。
「お前…使わなかったのか?」
上陸してすぐ、サンジが貸したお姉さま代。
「俺には代わりも試しもいらねえ。やっぱいちばん好きな奴がいい」
ルフィはそう言って、にかっと笑った。
今日のお日様みたいに眩しくて爽快な笑顔。
「そっか…うん。やっぱいちばん好きな人が、いいよな」
サンジはつられるように笑って、それから乾いた笑いへと変化した。
いちばん好きな人…ねえ。
倉庫に荷物を運び終えたゾロが錨を揚げようとしている。
ナミは見張り台の上から波止場に集まるクルーに手を振り、出航の合図をした。
ざばざば波を掻き分けて進むGM号の甲板で、ナミはデッキチェアに座り海図と睨めっこ。
ロビンは本を広げ、チョッパーはウソップと釣りをし、ルフィは船首の上で前を見ている。
キッチンでおやつを作るサンジの後ろには、それを手伝うゾロがいた。
結局ゾロは勝負に負けた。
サンジをあんあん言わせるはずが、ひいひい泣かせてしまった。
故にこうして扱き使われている。
翌日からはちゃんとあんあん啼かせたのだが、勝負の話は別らしい。
「今夜は格納庫行こうぜ、あそこなら響かねえだろ」
明日のお天気みたいなノリでとんでもないことを言うから、サンジは泡だて器を取り落とした。
シンクに跳ねた勢いでクリームが飛び散る。
「だ…から、勝負は付いたろーが!それを毎晩毎晩仕切り直しやがって…大概しつけーぞ!!」
「ありゃあ勝負じゃねえぞ」
隙を見せずに近づいて、サンジの頬に飛び散ったクリームをぺろりと舐める。
「今までのSEXんなかでてめえが一番よかったんだ。最初のは勝負だが後からは違う」
じゃあ何だよとサンジが問う前に、真っ赤に染まった頬から唇へ移動させた。
さっきナミと目が合ったら、珍しく向こうから逸らされた。
勝手な策略に乗せられたのは癪だが、結果オーライだとゾロは思っている。
ゾロの長くて器用な舌が縦横無尽にサンジの口中を暴れまわるから、サンジは思い切り脛を蹴ったり
髪の毛を引っ張ったり腕に爪を立てたりして抵抗していたが、徐々に動きが緩慢になっていった。
そしてとうとう諦めたのか、広い背中に腕を廻す。
どうやらサンジも、自分の一番を見つけたらしい。
END