ZS+L   その4



パンが嫌いだだの、梅干しが嫌いだだの。
人の船に乗り込んでおきながら我がまま放題に好き嫌いを主張する、胡散臭い俄か同盟相手の存在をゾロが面白く思わないのは無理からぬことだ。
なにせ、今まで自分の専売特許だった朝食おにぎりも彼の前にだけ当たり前のように出されるようになったから、尚のこと。
面白くない。
実に、面白くない。



「今朝のはツナマヨに高菜、しぐれ煮だ」
ぱっと見にはどれも綺麗な三角型のおにぎりを、ローの前に出した。
「ふん」
ローはさして興味なさそうに、それでいてどこか警戒するように瞳の色を濃くして、ローはおにぎりを一つ手に取って齧り付く。
中から覗く色からして、具は高菜だろう。
何度か咀嚼してからこくりと飲み込み、今度はやや大きく口を開けて頬張った。
あとはひたすら無言でモグモグと、味わうように食べていく。
他の仲間達は、山のように積まれたパンケーキに好きな具を乗せて食べている。
ゾロの目の前には、ローと同じようにおにぎりの皿。
ただし、どれを食べても中身は梅干しだった。
ローが嫌いな梅干しをゾロで消費しようとする魂胆が透けて見えるようで、それもまた面白くない。

「ふぉーふぉ、ふぉにふぉにふぉ、ふはふぉー」
ローのおにぎりも美味そう…と、ゾロには通じる言葉で呟き、ルフィがひょいと腕を伸ばしてローの皿からおにぎりを取ろうとして、失敗した。
手ひどく叩かれ、ゴムなのに「いってえ~」と顔を顰めている。
「人の飯を取るな、麦わら屋」
「ふぇー、ひいはあふぉにふぉに」
「わァったよ、明日はおにぎりパーティしてやる」
ルフィの訴えんとすることがわかったのだろう、サンジは口端に煙草を咥えたまま苦笑いしている。
なんのかんの言いつつ、料理をねだられるのは悪い気がしないのだろう。
なにがどうしてこんなにムカつくのか、自分でもよくわからないままゾロは黙々とおにぎりを平らげた。




約束通り、翌日の昼はおにぎりパーティとなった。
いろんな具のおにぎりを次々と作り出すのに、食欲旺盛な仲間達は片っ端から平らげていく。
「ほい、これは天むす、こっちはおかか」
ローの場合は中身を教えてやらないと手を付けないとでも思っているのか、いちいち説明してから皿に置いている。
「んでこれが、海老マヨ」
ゾロの耳が、ぴくりと動いた。
海老マヨだと?
よりによって、ゾロの大好物海老マヨまでもローに食わせる気なのか。

一気に頭に血が上ったのか、血迷ったのか。
自覚する前にゾロの手が動いた。
サンジが背を向けた隙を付いて、自分の皿に乗っていたおにぎりとローの海老マヨを交換したのだ。
目の前で展開された子どもじみた所業にローは目を瞠ったが、なにも言わなかった。
向かいに座るナミはぷっと噴き出し、ウソップが呆れたような顔をしている。

ゾロは素知らぬ顔で、奪い取った海老マヨおにぎりを一口で食べた。
美味い、やはりこれが一番美味い。
頬袋を膨らませてモグモグするゾロの隣で、ローはおそらくは具が梅干しだろうと推測されるゾロからのおにぎりに齧り付いた。
片眉を上げてから、見せつけるように半分齧ったおにぎりをゾロの前に差し出す。

「――――・・・」
白いご飯の中から現れた具は、海老マヨだった。
ゾロは愕然としつつ、眉間に皺を寄せて新たなおにぎりに齧り付く。
こっちはやっぱり梅干しだった。

二人の攻防を笑いを堪えて見守っている仲間達の気配に、サンジが「ん?」と振り返る。
「どうかした?ナミさん」
「ううんなんでも。おにぎりがとっても美味しいわあ」
「おにぎりサイコー!なあ、ロー、ゾロ!」
ゾロとローはお互いに顔を見合わせ、気まずげに視線を逸らした。



少し前にサニー号で迎えたバレンタイン。
チョコ嫌いのゾロにいかにしてチョコを食わせるか、サンジがあれこれ試行錯誤を繰り返し工夫していたことなど、ゾロは知らない。


End



  *  *  *

【お題】
自分の好みを言わせたいサンジが、ローには言われた通りの具のおにぎりを作るのに、ゾロには梅干しばかり。
それが気に入らなくって、でもサンジに素直に言えなくて自分の好物のエビマヨの時、そっとローと自分のをすり替えて…(そしたら2個中1個はエビマヨだったり)なんてのはどうでしょう。


back