ZS+L   その3



キッチンの外を、緑頭がまっすぐに横切って行った。
と思ったら、なぜか背後からふらりと現れ、水槽をぐるりと回って出ていく。
かと思えば逆の入り口から入ってきて、サンジの後ろをだかだか歩いた。

「なにしてんだ、鬱陶しい」
3度目ともなるといい加減突っ込んでやりたくなって、声だけ荒げて呼びかける。
ゾロは一旦行き過ぎてから、ちっと舌打ちして振り向いた。
「トラ男、見なかったか?」
「――――・・・」
きょとんとしたサンジにイラついたか、ふんと鼻息一つ残してゾロは出て行った。
「…トラ、男」
サンジは横を向いたまま鍋に入れたレードルをグルグル掻き混ぜ、肩を竦めて前に向き直した。
「トラ男・・・ねえ」
ぼそりと呟いたら、また背後に人の気配がする。
まだなにかと眉を顰めて振り向くと、ローが立っていた。
さっきゾロが探してたぞと、口を開く前にローが話しかける。
「黒足屋、ロロノア屋を見なかったか?」
「――――・・・」

今度は「ロロノア屋」か。
そうかそうか、そうですか。

「知らねえ」
「そうか」
ぷいっと顔を背けたサンジに頓着することなく、ローもラウンジを出ていく。
サンジは乱暴にレードルを掻き回した後、鍋の淵にカンと打ちつけて短くなった煙草を指に挟んだ。
なんなんだ。
なんだかちょっと、面白くない。





おやつだぞーと呼ぶまでもなく、匂いを嗅ぎつけてルフィが飛び込んでくる。
条件反射で蹴り出してから、運び役のチョッパーとウソップが入ってくるのが常だ。
「お、すっげえドーナツの山だ」
「うるせえから取りあえず、その一山持って出ろ。ナミっすわん、ロビンっちゅわん!サンジ特製ヘルシーラブリードーナツですようん」
ナミとロビンの分だけは綺麗に盛り付けて、クルクル回転しながら甲板に出る。
一通り配り終えて、定番の迷子+ローの姿がないのに気付いた。
「あいつら、どこ行ってんだ」
「ゾロとローなら見張り台にいたぞ」
サンジの独り言を聞きつけて、チョッパーが口いっぱいにドーナツを頬張りながら喋る。
「刀の手入れの話で盛り上がっていたでござる。拙者、刀も大切だがサンジ殿のおやつの方に重きを置いており・・・」
「なんのかんの言って、あの二人も結構気が合ってるみたいよね」
ナミの一言に、内容がどうあれ大抵は「そうだよね~」っとメロリンするはずのサンジが、ふんと口をへの字に曲げてそっぽを向いてしまった。
「おやつ時に来ねえやつらなんざ、知るもんか」
そのまま蟹股でキッチンに戻るサンジの後ろ姿を仲間達はそれとなく見送り、ふふっと肩を揺らした。

「あーやだ、どうしよう」
ナミが両手で自分の肩を抱き、身をくねらせて悶えている。
「サンジ君可愛いとか思っちゃう。ヤバい、超可愛い」
「え、めんどくさいだろアレ」
「そこがいいのよ、可愛いわね」
「ねーロビン」
「複雑な男心なのですねえ」
「一体なにごとか、あったでござるか?」

甲板での盛り上がりをよそに、サンジはテーブルに残った二人分のおやつを眺めていた。
別に、食べないなら食べないでいいのだ。
この船で食糧があまることなど、まずもってない。
一声ルフィを呼べば、このドーナツの山だって2秒で無くなるだろう。
そんなのすぐだ。
すぐに無くなる。

サンジは椅子に腰かけ、頬杖を着いて下唇をむっと突き出した。
面白くない。
なんでか知らないが、ものすごっく面白くない。
そこに二人分の足音が聞こえてきた。

「こっちか」
現れたのは、ゾロとローだ。
これまた仲よく、足並み揃えてキッチンに入って来る。
立ち上がらないサンジを前に、二人は当たり前みたいな顔でテーブルに着いた。

「呼んでねえぞ」
明らかに不機嫌なサンジに、ローは訝しげに眉を潜めて隣のゾロを見る。
「ロロノア屋が、この時間には下に降りるべきだと言ったからだ」
話を振られても、ゾロはそれがどうしたとばかりに腕を組んでふんぞり返っている。
しばし見つめ合ってから、サンジはふんと鼻息を吐いて立ち上がった。
「紅茶しか、ねえぞ」
「なんでもいい」
ゾロは手を伸ばし、ドーナツを摘まんでぱくりと食い付いた。
ローも粉砂糖をたっぷりまぶしたドーナツを手に取り、齧り付く。

サンジは3人分の紅茶を煎れて再びテーブルに着き、自分もドーナツの山に手を伸ばした。
並んで頬袋を膨らませている2人を目にしたら不機嫌にしているのが馬鹿らしくなって、サンジは苦笑いしながらドーナツを頬張った。



End


  * * *



【お題】
逆にゾロとローが仲良く(サンジ目線)していて、サンジがヤキモキするのも面白いかも(^^)



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