けせらんぱせらん <翼嶺様>



なんだ、この生き物は?


ロロノア・ゾロ。17才は、今まさに、未知との遭遇中だった。

2年前に嫁に行った姉が、初出産で実家に戻って来た。
1週間前までは、西瓜2個くらい丸呑みしたのか?と思う様な腹を抱えていた姉が、
1週間後には、その腹をぺったんこにして、腕の中に赤ちゃんを抱え、戻って来た。

なんやかんやと、産院に行く事なかったゾロにとって、甥っ子との初対面。

ベビークーファンの中で、すよすよと寝る赤ん坊を、ゾロは瞬きする事なく、
目を見開き凝視している。

西瓜2個分もねぇじゃねぇか・・・
あの腹のデカさはなんだったんだ?

あの腹のデカさを見た時、どんな子供が生まれて来るかと思っていたが、
目の前のそれは、片手でもあまりそうな、それほどちいさく、華奢な印象だった。

もちろん写真や映像で、『赤ちゃん』は、見た事ある。
生で、それもこんな至近距離で『赤ちゃん』を見るのは初めてで、
実の所、大変戸惑ってはいた。

兎に角目の前の生き物に対する、ゾロの印象は『ほわほわ』なのだ。
触れるとそのまま、壊れて消えてしまいそうで、それでも触れてみたい
その欲求に、伸びる右手を左手で押さえ込むを繰り返しながらも、視線はそのまま、
それを見続けている。

くそ!なんなんだ?この生き物は?

見てると胸の何処かが、きゅーんと痺れて仕方ないのに、目が離せない。
17年間の人生において、彼の中に『可愛い』と言う形容がなく、
その胸キュンの正体が、ゾロにはさっぱり判らない。

明日病院行った方が、イイか?

至極真面目にそんな事を考えるゾロは、背後に近づく気配にまるで気付かなかった。

「あんた、うちの子射殺す気?」

聞こえた姉の声に、ゾロは漸くその生き物から視線を外し、背後の姉を振り返った。

ゾロの姉は、腰を下ろすと眠る我が子を腕にと抱き上げた。
それでも、起きる事無く、それはすよすよと眠っている。

「良く寝てんな」
「あんたに言われたくないわよ」

苦笑しながら、姉は胸に抱えた我が子をゾロにと差し出す。

「な、な、なんだっ?!」
「なんだじゃないわよ。抱いてあげなさいよ。あんたの甥っ子よ。
はーい。ゾロおじちゃんだっこ」
「だ、だっこ・・・って」
「はーやーく」

弟の反応を楽しみながら、せっつく姉に、ゾロは渋々と両手を差し出した。

「落とさないでよ」

姉の手解きで、なんとか腕にと抱いたそれは、『温い』。そして『やわかい』。
ぎこちない筈の腕の中でも、それはすよすよと眠り続けている。
白い頬は、ほんのりとピンクの色が注している。
義兄似のくるんと巻いた眉。そして金色の髪は、生え揃ってはいないが、
ふよふよと、空気にそよいでいる。

「・・・名前、なんだっけ?」
「『サンジ』」

『サンジ。サンジ。サンジ』

何故か声には出さず、それでもその寝顔をみつめながらその名を唱えると、
それが届いた様に、腕の中の『サンジ』が、不意にぱちっと瞼を開けた。

真ん丸な青い瞳が、じっとゾロをみつめる。

『泣くのか?』そう思った瞬間、それはにぱっと笑った。

うおーっっっっっ

思わず漏れそうになった咆哮を、なんとか飲み込み、肩で息を続ける。

澄んだ青い瞳は、そんなゾロをにこにこと見つめ続けながら、ゾロへと向かい
手を伸ばして来た。ちいさな掌が、ゾロの頬にぴたっと触れる。
そしてまた、ゾロに向かいにぱっと笑う。

辛抱堪らんと、ゾロは思わずそれをぎゅっと、それでもしっかり加減して抱き締めると、
甘い匂いが鼻先を擽り、くらくらした。

これか、これが、女子たちが言う『天使』か?『天使』なのか?

サンジは、ゾロの腕の中で、きゃっきゃっと楽しそうな声を上げていてた。



1ヶ月後。

サンジを腕に抱き、迎えに来た義兄の車に乗り込む姉に、

『それは置いて行け』

咽喉ま出掛かった言葉を、ゾロはなんとか飲み込んで、視界から車が
見えなくなるまで、見送った。


その『天使』が、『小悪魔』となって、34歳の独身ゾロを翻弄するまで後17年。




End



  *  *  *



叔父甥萌えキター!!
ああ、これはもう立派な小悪魔に成長して、叔父さんを翻弄すること請負ですね。
天使だ、天使がここにいたよww
将来を覗き見るのが楽しみなような怖いような(笑)
複雑な乙女心を燃え立たせる美味しい年の差、ありがとうございます。
ゾロに幸あれ!!


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