迷子 <千堂様>
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「いねぇなぁ」
おまえのパパ、どこ探してまわってんだよなと さんちゃが不安を思い出さないように軽い口調で話し掛け、ゾロの腕に乗ったままの子供の様子を見た。
きょろきょろと辺りを見回した子供は降りたそうな仕草をする。
双方で動き回っていちゃ会えるもんも会えなくなるからと、"うろうろするなよ、この辺りでじっとしてろ"と言い聞かせながら腕から降ろしてやろうとしていると、背後から大きな声が上がった。
「その子を返せ!」
振り返ってみれば、子供をどこに連れていくつもりだと声を荒げる若い男が路地を曲がって出て来た所だった。
「サンジ!」
俺の子を返せ、この人攫い!と、必死の形相で駆け寄って来た男は、ゾロの手から子供を引き剥がそうとする。
その剣幕に子供の方が驚いてしまい、降りようとしていた子供は腕に逆戻りして、ぎゅっとゾロの首にしがみついた。
「・・・サンちゃんん〜?!」
がぁん、と顔に大きなショックを滲ませた男が情けない声を上げる。
悲鳴のような声で名前を呼ばれ、ゾロにしがみついた"さんちゃ"が顔を上げて、そうっと男の方を見た。
なるほど、"さんちゃ"というのは正式な名前じゃなくて"サンちゃん"だったのか。
「パパが悪かった、次のベポのイベントには絶対連れて行くから家出なんかしないでくれ!サンジまで居なくなったらパパはもう生きていけねぇよ・・・」
「家出だぁ?」
確かに、男がこの子の血縁なのは間違いないだろう。
なにせ顔がそっくりだ。(つまりは自分の事をパパと言うこの男が子持ちの割には童顔なんだが)"さんちゃ"がそのまま大きくなったような顔の男との相違点は眉の形くらいだろうか。
眉尻側がくるんと巻いた子供と違って、男の眉は眉根側が巻いている。どちらも早々見掛けるものじゃないから間違いなく彼等2人には血の繋がりがあると一目で分かる特徴だった。
いや、それよりも。 この男は今、想定外の単語を叫ばなかったか。
「サンちゃんはママそっくりで天使みたいに愛らしいから1人で歩いてたら掠われちまう!今もそうだ。その怖そうな面の兄ちゃんもおまえを連れ去ろうとしてるだろ!?危ないからこっちに来るんだ」
ちょっと待て。誰が"ママに似て可愛い"だ。てめえに瓜二つじゃねぇか、この親馬鹿野郎。
「いいから てめえは落ち着け!」
とにかく子供が戻って来ないと話になりそうにない相手に"サンちゃん"を押しつける。
突然の事に目を丸くした子供も、父親の腕に大人しく収まった。
「パパ?」
「サンジ!」
小首を傾げて顔を覗き込む子供にノックアウトされた父親が感極まった雄叫びを上げてしっかりと抱き締める。
おいおいと泣く父親は見た目が童顔なだけにどちらが子供か分からないくらいだ。
なるほど、どうりでこの子が子供の割には身を弁えているはずだ。
父親がこれでは長じれば子供の方がしっかりした少年になることだろうと観察して、さて、ようやく聞く耳が出来たかとゾロは男に向かって声を掛けた。
「おい。いい加減こっちの話も聞けよ」
「うるさい、感動の親子再会を邪魔すんじゃねぇ。いくらサンジが可愛くてもやれないから諦めんだな!」
勝ち誇ったように言われてゾロはこめかみを押さえた。
息子の方がよっぽど話が分かるぞ、頭いてぇ・・・
「俺は別に誘拐なんざ考えてねぇ。迷子に懐かれて仕方なく保護したんだ。駅前の派出所に届けてるから後で子供は無事見つかったと連絡しとけ」
「駅前の?」
いや、あんた。誘拐を考えねぇなんておかしいぞ、こんなに可愛い子を前にして目が悪いんじゃねぇのかなどと矛盾する内容をぶつぶつ呟きながら男が抱き締めた子供を見る。
「なんで駅前なんだよ」
心配していたらしい父親から問われて、サンちゃんは素直に答えた。
「ぽ!ぽ!さんちゃ、いいこ」
「ベポ?」
「通訳すると、ベポと"いいこにする"と約束したって意味だ」
"ぽ" がベポだと解したのは流石に父親だが、これだけでは彼がエスパーでも無い限り理解不能だろう。
そう考えて 割って入ったゾロの言葉で父親が ガボンと顎を外す。
我が子とゾロを忙しなく見比べて、男の視線は最終的に愛息子の上に落ちついた。
「・・・なに、おまえ。駅前まで行ったのか?」
「うんっ」
笑顔で思い切り肯定されて、そこで漸く父親は人並みの冷静さを取り戻したらしい。
驚きに血の気の引いた顔になった男は ゾロに向かってガバッと頭を下げた。
「すっ、すいませんっ!!うちの子がとんでもないご迷惑をっ!」
まともに頭が働いてみれば男はなかなか回転が良かった。
どこでゾロと会ったのかは分からないまでも、とにかく駅前の特設会場から我が子をここまで連れてきてくれたのだと
判断したらしい。
「駅前の派出所・・・、ほんっとうにすまねぇ!時間がないから連れて行けないと言ったら、1人で向かっちまったみたいで・・・」
買い物の途中でイベントを知って行きたいとごねるのを突っぱねたら 拗ねた子供は繋いだ手を振り払って逃げたらしい。
店を抜け出して駅に向かったと思わずに店内を探し回っていたと言って、父親は申し訳ありませんでしたと深々と頭を下げた。
こうして正気で話していると中々父親然としている。・・・まともな表情をしても童顔ではあるが。
「あ、いや・・・駅前まで連れて行ったのは俺だ。あんたと向かってる途中ではぐれたんだと思ったから、もしかしたらそこに居るかと思ってな」
勝手に1人で出て行くのはもうしないよう言い聞かせた方がいいが、あまり強く叱らないでやってくれ。
自分と会わなければこの辺りを彷徨いていて直ぐに見つけられたと思うからと、つい庇うような事を言ってしまう。
恐縮する父親に、これはおまけだと "ベポといい子にするっつー約束をしてたから、躾には使えるだろう" と、こっそり耳打ちして、家が近くだから上がってお詫びに飯でも食べていってくれという父親の申し出は丁重にお断りして
そこで彼等親子と別れた。
もともと、出掛ける途中だったのだ。
とはいえ これだけ遅刻してはもう待っちゃいねぇだろうなと考えながら、まぁ、珍しい体験をしたからいいかと笑ったゾロの元には、数日後 派出所で連絡先を聞いたと父親から電話があり、すっかりゾロに懐いてしまったサンジにせがまれてこの凸凹親子と交流を持つ事になるのだが、それもまた何某かの縁があったのだろう。
誰にも左右されず、傍若無人なまでのマイペースなゾロが、唯一例外として振り回される側になるのだから、それはある種の運命の出会いであった
運命のひと
運命の相手は 親と子、どっち――?
* * *
サンチャ可愛い!!そしてパパサンジも可愛い!!(笑)
えーと…これはどっちも選べないね。
客観的に見てとってもしっかりしててゾロと合いそうなのはサンチャなんだけど、パパサンジの放っとけない可愛さも捨てがたく。
ゾロ、両方嫁にもらっちゃったらいいんじゃないかなあ(大真面目)
それが運命なんだようんうんv
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