天使の愚痴




「こんばんは。お疲れですか?レディ」
「あんた誰?」
「俺は癒しの天使サンジ。お疲れのレディを癒すのが俺の仕事ですよ」



癒しの天使であるサンジが舞い降りた先には少し口の悪いレディが待っていた。



金髪の黙っていたなら非の打ち所がないであろう美人といえるレディはリビングの床に座りサンジを見つめていた。
テーブルの上には飲みかけのワインボトルとワイングラスがある。


「天使?何、ホントに天使?あれ、夢見てんのか?羽根生えてんじゃんすげえな」
「えっと、だいぶ飲んでいらっしゃるのかな?」
「まあいいや疲れてないけど折角だから付き合えよ」



突然現れた背中に羽根のあるサンジを見てもそれ程驚く事もなく、レディはニカっと笑うと目の前の席をすすめてきた。


口も柄も悪いレディは普段お会いするレディと違いこちらの調子が狂う。
ただ何故か、どこかでお会いしたことがあるような親近感を覚えた。


「えーっと、じゃあ何かお酒に合うものお作りするね」


そう言ってキッチンに入るとそこには温め直すだけとなっている料理が用意されていた。

ーーしかもこれちょっとお祝い的な気が…


リビングを見ると胡座をかいてワインを飲むレディの姿がある。


ーーこれ、レディが作ったんだよな?


少しの間料理とレディを見比べると簡単にカナッペと野菜スティックを用意してリビングに戻った。
レディはタバコをふかしつつワインをグラスに注いでいる。




「はい、これお前の」
そう言って渡されたグラスには並々とワインが注がれている。
「あ、ありがとう。あの…レディ。何かあったのかな?…えっと、キッチンに美味しそうなお料理が用意してあったんだけど…」
「いつものことだよ。今日俺の誕生日なんだ。で、あいつ来るっていうから待ってたんだけど…」

レディはフーッとタバコの煙を吐き出すとふっと自嘲気味に笑った。



「えっと…来ないの…かな?」
デリケートな問題そうで聞いてよいのか少し躊躇する。
でも知らなければレディを癒す事も出来ないと、恐る恐る聞いてみると…


「迷子だよ!ま い ご!」
「へっ?」
「あいつさ、バイト先から真っ直ぐうちに来れたことねえの。電車1本で30分の距離だぜ」


聞いた途端、頭に緑色のファンタジスタが浮かんだ。
何の迷いも持たないような真っ直ぐな目をした愛おしい迷子天使。
今日はどこで仕事だっただろうか…


だがすぐに仕事中だったと思い直しレディに向き合う。


「えっと、どの位待ってらっしゃるのかな〜?」
一度頭に浮かんでしまった天才迷子に笑いを堪えながら聞くと「4時間だよ!」とレディが吐き捨てるように答えた。



「ぶはぁ、あっゴメン。笑うつもりじゃ…。ぶぁはははは…」


「笑えるだろ。どうやったらそこまで迷えるか教えて欲しいぜ」
レディはタバコの煙と共に溜め息を吐き出すとそっぽを向いてしまった。


「ゴメンゴメン。違うんだ。俺の知り合いソックリで…。壊滅的な迷子がいるんだよ」

サンジは必死で笑いを堪えながら自分の目の前に座るレディに向き合う。

「マジかよ!あんな奴がもう1人とか信じらんねえ」
「ホントだぜ。俺も驚いた」
「なんか仲良く飲めそうだな」
「俺もレディ相手だと親近感湧いて地が出ちまったぜ」

転げ回りたくなる程の笑いを堪えつつ2人は顔を見合わせニッと笑うとワイングラスを手に取った。
「まあいいや。とりあえず乾杯」
「じゃ、遠慮なく。乾〜杯」






一緒に飲み始めて1時間。
気がつくと杯を重ね、カラになったボトルが3本。
サンジとレディはすっかり意気投合していた。


「だからさ、毎日風呂くらい入れってのな〜」
「ホントそうだぜ。言やぁじゃあ一緒に入れかとか言いやがって」
「全くだぜ。てめぇなんかと危なくって入れるかっての」


2人はゲラゲラと笑い合いながらまた杯を重ねていく。
サンジにとってもレディにとっても、かなり早いペースで飲み進めたワインに2人はすっかり出来上がっていた。
お互いの恋人があまりにも似たところがあり過ぎたのだ。
ここぞとばかりに愚痴を言いまくった。


「それによ、自分は迷子になってちっとも帰って来ねえくせに人の事は遅い遅いって言いやがって」
「何だよお前も帰るの遅くなんのかよ」
「違うって!俺こうやって仕事してんだぜ。レディに幸せになって貰うのが俺の役目だ!」

カラになったレディのグラスにワインを追加しつつ力説するサンジにレディは少しトーンを落とし溜め息をつきつつ言った。

「そっか。俺はコックやってんだけどさ、たまにラストの客が遅くなったりすると何してやがったとか言いやがって…。結構束縛だよな〜」
しかしその溜め息も決して本気で嫌がっているものではないのだろう。

「でもレディそれイヤじゃねぇんだろ?」
「ん?んー…まあ…な…」
「顔が幸せそうだよ」
「…お前もだろ」
「ん、まあ…」


そして2人揃って溜め息をつくと…




「「はあ、早く来ねえかな〜」」





すると急に部屋の空気が変わったと思った瞬間、2人の目の前に黒いオーラを纏った悪魔のような男が現れた。



「遅え。何やってる」

緑髪の魔獣のような男は低い唸るような声をあげ腕を組みサンジ達を睨みつけてきた。
しかしよく見ると黒いオーラの陰に背中の白い羽根が見える。


「うるせぇ。遅えのはお前だろ、いっつも迷子になりやがって。なぁ」

サンジは隣のレディに視線を移すと同意を求めた。
するとサンジ曰く迷子天使はおおよそ天使とは思えぬような魔獣そのものといった顔でニヤリと笑うと

「ほぉそうか。あぁ悪かったな。てめえがそんなに俺を心待ちにしてるとは思わなかったぜ」

そう言うが早いかリビングの床に座り込むサンジを抱き上げるとそのまま強引に口付けた。


「ん、う…ふっ…」

ワインでフワフワしていた頭がボーッとする程の長く深い口付けにサンジの身体から力が抜けていく。



「じゃあ迎えに来てやったから帰るぞ」


魔獣天使は力の抜けたサンジにもう一度ニヤリと笑いかけるとしっかり腰を抱き直した。
そしてレディを振り返り「しっかし、お前らそっくりだな…」とフッと鼻で笑った。



フニャフニャになってゾロに抱きつきながらも1人残されるレディを気にして
「でも、レディが…」と言うサンジに
「ああ大丈夫だ」と耳元で囁いて、ゾロはレディを見下ろすとさっきとは違う優しい笑みをたたえて言った。





「で…お前も飯あっため直しとけよ。お前の相手ももうすぐ来るぜ」







飲み過ぎて飛べないサンジはゾロの腕の中で
「てめえは遅えんだボケー!」
と怒鳴るレディの声を聞いた。


end


    *****


レディ・サンジきたー!(笑)
え?え?どういうこと、え?と読み進みめちゃったじゃないですか。
そうかそうか、人間界ではレディサンジが、やっぱりとっても幸せなんですね。
うわー嬉しいビックリでニマニマが止まりません。
しかし、ゆずかちゃんちのサンジェルの元には必ず極悪天使が舞い降りるからはた迷惑かつあてられちゃいますね。
ご馳走様です(^人^)
二組の仲良しカップルに幸多かれv



back