誘惑


暗がりの中、気配を感じて身じろぎをすれば目元に熱い息が掛かった。
月のない夜。
薄いカーテン越しに届く街灯の光も弱い。
吐息は酒の匂いがして、慣れた体臭も重なった。

「・・・なに?」
寝ぼけたまま薄く目を開ければ、驚くほど近くに顔がある。
暗がりの中で、双眸だけが浮かんで見えた。
普段は明るい鳶色の瞳が、今は光を吸い込んだような闇色に染まっている。
白目だけがぎらついて、獲物を狙う獣のように眇められた。
「なんの、真似だ」
相手を間違えて潜り込んで来たにしては、視線が定まりすぎている。
黙ってじっと見つめられ続け、決まりが悪くなってシーツ越しに覆い被さる胸を押した。
「重い、退けよ」
ゾロはサンジの傍らに手を着いて、退くどころか膝を曲げてさらに上に圧し掛かってきた。
わかっていて、やっている。

「なんの真似だ」
もう一度聞いた。
返答次第じゃ、ただじゃおかない。
蹴り飛ばそうと片足を曲げたが、シーツごと押さえ付けられていて上手く動かせなかった。
もう片方の太股には、ゾロの片膝が乗っている。
「重えって」

久しぶりの陸なのだ。
やっと羽を伸ばせると言うのに、こんなところで仲間内で揉める気力も体力もない。
ついでに、部屋を壊して弁償するような財力もない。

ゾロは躊躇いなく顔を近付けて、サンジの頬に自分のそれを押し付けた。
頬は思ったより熱くはなかった。
もしかしたら自分の頬も、同じくらい熱くなっているのかもしれない。
そんなことを思いながら、サンジは肩を竦めいやいやをするように首を振る。
「退けって気色悪い、なんのつもりだ」
ゾロは答えない。
なにも言わないで、頬擦りし唇を付け肌を撫でた。
首元に掌を当て、髪の中に指を差し込む。
触れる肌がしっとりと吸い付くようで、思いの外優しい仕種にサンジの方が戸惑ってしまう。
「なんの、つもりだって」
ガバリと跳ね起きて、闇雲に手足を振り回して吹き飛ばすことは恐らく、可能だろう。
けれど、サンジは芋虫みたいに手足を縮込ませたまま、口だけで嫌がった。

悪い冗談だと、仕掛けたゾロから止めて欲しい。
こんなことでムキになって抵抗するなんて、まるでか弱いレディのようじゃないか。
こんなのなんてことない。
男の自分が、過度に反応することの方がおかしい。
だから、鷹揚に悪ふざけだと応じてやろうとしているのに―――

ゾロの手が、シーツの下からシャツの隙間へと滑り込んだ。
直接素肌を撫でられ、さすがにぎょっとして目を瞠る。
視界が暗くなった。
唇が柔らかいもので塞がれ、ついできつく吸われる。
「ふ・・・ぐ―――」
喘ぐように口を開いたら舌が滑り込んできた。
軟体動物のように滑りながら、サンジの口内を無遠慮に貪っていく。
息もつけぬほど吸われ舐められて、舌を付け根まで引き出され甘噛みされた。
「・・・ふぁ」
情けない声が、自分の口から漏れたとは信じたくなかった。
嫌がるつもりで仰け反っても背中に回された腕で引き上げられて、ゾロの腹の辺りに自分の腰が押し付けられた。
熱い、ゾロの中心が酷く硬くて熱い。

「う、そだ―――」
もうなりふり構っていられなくて、身体を捻って逃げを打とうとした。
だが許されない。
唇を離すことも叶わず、首を振ればまるでキスに答えるみたいに口付けが深まった。

ゾロの手が背中からシャツをたくし上げ、肩甲骨や肩を撫でた。
凹んだ腹から胸へと辿り、心臓の辺りで止まる。
とくとくと、過剰なほどに脈打っているそれに気付かれたくなくて、忍び込む舌を噛んで気を逸らせる。
お返しのように乳首を摘まれた。
指の腹で押され、押し上げられ、ゆっくりと円を描くように捏ね上げる。
「ひや・・・」
目をぎゅっと瞑って激しく首を振れば、ゾロはようやく唇を離してくれた。
だがそのまま頭を下げて、シャツを被るようにして胸元に顔を突っ込む。
指で挟んだ乳首を舌でつつき、唇で吸って歯を立てた。
「・・・は―――」
片方を丹念に口で愛撫しながら、もう片方は指で優しく捏ねられる。
そうしている間にも、ゾロの片手はサンジの全身を隈なく撫でて、それと気付かぬ内に衣類を取り去っていく。

気付けば、サンジは素っ裸で寝そべっていた。
特に拘束されている訳でもないのに、抵抗すらできなくて気だるげに手足を投げ出している。
ゾロはサンジの腕を取り、手の甲から手首の内側、肘と二の腕にキスを落とした。
指を一本一本口に含み、丁寧に舐める。
まるで奉仕するような献身ぶりに、サンジは驚きを持って硬直していた。
ゾロの舌が、サンジの肌を舐める。
刀を咥える強靭な口が、今はサンジの命とも言える指を含み舌で転がし唾液で濡らしている。
あの、ゾロの口に・・・

指先から伝わる熱いぬめりが、サンジの内部にまで届いたかのようだ。
無意識に膝を擦り合わせ、裸の尻をシーツに擦り付けて身を捩る。
「それ、やめろ・・・」
口だけの拒絶に頓着せず、ゾロは殊更丁寧に愛撫を続ける。
肩からうなじ、耳からこめかみへとキスが辿り、顎の下を擽られた。
もう一度唇に口付けられ、今度はサンジも舌で答える。
なにもかもが麻痺していて、自分の行為すら夢のようにおぼろげで虚ろだ。

ゾロの唇は首筋から胸へと移動し、挨拶のように両乳首を噛むと腹から臍へと動いた。
臍の中を舌で穿られ、羞恥に顔を歪めながら身体を捻る。
突き出た腰骨から丸みを帯びた尻、太股を辿って尖った膝に歯を立てられる。
片足を引き上げられ、脛から足首へと舌が滑った。
足の甲にキスを落とし、指を口で含まれた時はさすがに焦って足を引く。
「ダメだっ汚え」
構わず、親指を噛まれた。
痛みより気恥ずかしさと申し訳なさが勝って、俯いた緑頭を足蹴にする。
「ダメだって」
もう一度踏もうとして振り上げた足の膝裏を押され、膝が胸に付くほど折り曲げられる。
太股の内側に唇が押し付けられ、伸ばした舌でそのまま下方へと舐められた。

「ひゃっ・・・」
ゾロの鼻先が、繁みに触れている。
必死の思いで両手でその動きを阻み、ゾロの口が中心へと到達するのは避けられた。
だがそれ以上、どうにも動かせない。
「や、やだ・・・」
足を広げてその間に男の頭を挟みながら、サンジはどうしていいかわからず動きを止めている。
ゾロの息が、敏感な部分に掛かった。
認めたくはないが、恐らくは頭を擡げ先端を濡らし、恐れと快感に震えているだろう。
それを間近で見られ、息が掛かるほどに近い部分に唇を受けて匂いを嗅ぎ取られている。
それが堪らなく嫌で恥ずかしい。
なのに、抵抗する術すら思いつかず組み伏せられたままだ。

震える先端を、ゾロの指がなぞった。
その流れの滑らかさに、やはり濡れていることを肌で思い知る。
ゾロの指は脈打つ肌を辿り、繁みを抜けて奥まった部分へと躊躇いなく進んだ。
くっと、軽く押されてサンジの身体が跳ねる。
「やめっ、そこは・・・」
そこはなんだと、自分で突っ込みたくなった。
こんな部分を惜しげもなく晒して、いいように弄られるなど考えたこともなかったのに。
いざこうなると、抗うこともできずされるがままになってしまうとは。
悔しく腹立たしく忌々しいのに、その反面、全てを委ねて溺れそうになってしまっている。

ゾロの指に引き戻された。
耐え難いほどの異物感と圧迫感を伴って押し入ってくるのに、喉の奥を震わせながら息を吐きなんとか凌ぐ。
「よせ、よせ・・・」
拒絶の言葉すら喘ぎに変わりそうで、口を噤み唾を飲み込んでもそれすら淫靡な響きを残した。
これほどまでに嫌悪し恐れているのに、そう理解されていないと強く感じる。
寧ろ期待し、受け入れるために弛緩していると解釈されていそうで、そうではないと強く否定すればするほど誤解を招きそうで。
突っぱねればいいのに。
急所に当てられなくとも、己の手足が傷付こうとも。
無茶苦茶に抗って叫んで怒鳴りつけて、全身で拒否すればいいとわかっているのに。

ゾロの手が、次はどこに触れるのか。
どんな風に舐めて、どうやって歯を立てて、どこまで暴き立てるのか。
身構えて待ち受ける自分がいる。
肌をなぞる息の熱さにさえ身を焦がして、視線だけで焼き尽くされそうな淫らな身体がある。

「ふ―――」
ゾロの指が中まで入った。
内側から少しずつ広げながら、何度も行き来を繰り返す。
そうしている間にも、もう片方の手は特別な熱さを持ってそこここに触れてくる。
不自然に身体を捻じ曲げて顔を背けても、感じる場所の全てを暴かれそうで恐ろしい。
「・・・あ」
奥を探る指から湿った音が立つ。
それは次第に大きく粘着質な響きを伴って、夜明け前の静寂を破った。
いやらしい。
自分が一番いやらしい。

ゾロは衣類一つ乱さずに、澄ました顔で冷たい眼差しでサンジを見下ろしている。
その指が、その掌が、その唇が時折肌に触れるだけで。
それだけで、サンジはまるで蛇のようにシーツの海に身をくねらせた。
もっと触れて、もっと暴いて、全部晒して、すべてを飲み込みたい。

「くっ・・・」
耐え切れず、上げた足の裏をゾロの肩に当てた。
そのまま下方へとずらし、腹の下、一番固くて熱い部分を足裏で握る。
ああ、こんなにもでかいのに。
ゾロは眉を顰める代わりに、口端を上げた。
白い犬歯が覗き、濡れた唾液でチラリと光る。
ああ―――それほどまでに欲しているのに。

サンジの中でゾロは指を開き、促すように視線を下げた。
「入れて欲しいか?」
「だ、誰がっ」
「なら、いいじゃねえか」
言いながらまた、中指を潜らせる。
屈んで首元を舐め上げ、赤く尖った乳首を舌で転がした。
もっともっととねだるように、サンジは背を撓らせて腰を上げる。

さっさと入れて出してしまえば、終わりが来るのに。
わかっているのに、ゾロは動かない。
サンジも欲しない。
言いたくても、言えない。
言わなければ終わらないのに。

ただ一人、一糸も纏わず、手を掻いて足を広げ腰を揺らしながら、サンジは快楽の海を泳ぎ続けた。
空が白み始め、カーテンの向こうから朝の光が少しずつ部屋の中を満たしていく。

抑えきれない嬌声とはしたない水音をどこか遠くに聞きながら。
サンジは目を閉じて、終わりのない甘美な地獄の闇に沈んだ。



END





えーっとですね。
昨日のお昼休み、多分机に座ったままウトウトしたんですよ。
んではっと目が覚めて、やべっと思わず口元に手をやっちゃった。
や、涎は出てなかったんですが(笑)
とんでもねー夢を見た気がするのです。
上記のような夢を。
でも、時間にしたら僅か数秒・・・だったと思う。そんなに時間経ってなかったもの。
でも見た。私は確かに見た。上記のような夢を(笑)
というわけで、忘れない内にメモっときました(メモかよ!)
とにかく、ゾロは最後まで入れないで終わったんです。
いや、違うな。終わらなかったんですよ。
ええ、入れないから終わらない。
でもサンジが入れろと言わないと入れないし。
サンジは絶対入れろと言わないし。
まさに無間地獄ww
白昼夢って凄いね(もしかしたらただの妄想かもしれません)



back