夕涼み

遠くで爆竹がぱぱんと鳴っている。
色とりどりの浴衣を来た人々が、楽しそうに行き交い、屋台が軒を連ねている。
グランドラインに四季はないが、11月だと言うのに、まるで真夏のように暑い。
「まるで祭りの島ね。」
「すっげー。」
ルフィの目がもうわくわくで輝いている。

「なんでもこの国の王様だか将軍だかが、今日60歳の誕生日なんだってよ。だから島中もう無礼講のお祭り騒ぎ。」
先に降りて偵察していたウソップが、息を弾ませ帰ってきた。
「まあ、景気のいいはずね。」
「喰いモン、あるか〜。」
「あっちで食い放題やってたぞ。」
言ってる間にも、波止場に2台の神輿が集まり、喧嘩を始めた。
「うはは、やってるやってる!よし、上陸だ〜〜!!」
ルフィの号令とともにクルーはそれぞれ降り始めた。





「残念ね、ゾロ。こんな日に船番なんて。」
「お土産買って来てやるからな。」
「飯は作ってあるから、温めて喰え。」
口々に言い残して去っていく。
「てめえら、浮かれて迷子になるんじゃねえぞ。」
ゾロの言葉に全員振り向いたが、誰も反論しなかった。





遠くから太鼓の音が響いてきた。
1人になると、この甲板もえらく広く見える。
「やれやれ、やっと行ったか。」
ゾロはとりあえず、船の見周りをした。
壊れた個所はないか。
異常はないか。
戸締り?はできてるか。
ひととおり確認して、デッキに寝転がった。
どうせ時間はたっぷりある。
修行は夜に回して、睡眠でもとるか。
賑やかな喧騒をよそに、ゾロは眠りについた。



――足音がする。
聞き慣れた足音。
しかし、いつもと響きが違う。
気配を感じて、ゾロは薄目を開けた。

こちらに背を向けて、何やらしている男の背中。

―――?

サンジだ、が。

「なんだ、その格好」
「うわ!びっくりした。」

振り向いたサンジは、浴衣を着ていた。
ぼりぼり頭を掻いているまだ寝ぼけ眼のゾロに向かって、袂を掴んで手を広げてみせる。
「へへ、いいだろ。無料レンタルやってて皆着てるんだぜ。」
「はー・・・そりゃまた。」
綺麗に着付けしてある。
「上手に着れてるじゃねーか。」
「そだろー。マダムは着せにくいって、かなりぼやいてたけどよ。」
そりゃそうだろ。
「皆、これはゾロが一番似合うだろなーって言ってたんだ。」
言いながら、デッキにテーブルとイスを用意している。
「何やってんだ。」
「てめえぼさっとしてねえで手伝え。」
言われて、テーブルを用意すると、サンジは買い物袋をどさりと置いた。
「焼き鳥と、枝豆・・・お好み焼きだろ、それからイカと―――」
屋台で買い込んで来たであろうつまみがずらりと並ぶ。
「適当に並べとけ。」
言い置いて、キッチンに駆け込んだ。



いつの間にか夕方になっていた。
西の空が燃えているように紅い。
街の喧騒は止むことがなく、賑やかな笛の音と太鼓の響きが心地よい。

サンジが盆にグラスと器を入れて持ってきた。
白地に青を散らした、ひび模様のガラスのカラフェ。
それに同じ模様の盃が2つ。
「――お前、どっから仕入れてくるんだ、こんなもの。」
呆れた口調ながら、嬉しそうなゾロ。
「この間の冷酒、冷えてるぜ。」





向かい合わせで座り、杯を酌み交わす。
屋台の肴をつまみながら、サンジは島の様子を話す。
もう日は沈みかけて、夕凪が心地よい風を届けてくれている。
街の喧騒とは隔絶された、穏かな時間。
身振り手振りで話すサンジ。
煙草の灰が落ちそうになって、あわてて灰皿で消している。
浴衣の袂が危なっかしい。
ゾロは盃を呷りながら、サンジから目が離せなかった。





――こいつが、こんなに浴衣が似合うとは思わなかった。

日もとっぷりと暮れ、あたりは夕闇に包まれている。
海を渡る風が涼しくて心地よい。
サンジの姿は闇にぽかりと浮かんで見えた。

縹色の地に白緑の模様。
けして派手ではないが、金髪にしっくりと似合っている。
悪くねえ。



よく冷えた酒が、喉にすっと沁みる。
サンジはへらりと笑っている。
酔いが回ったか、頬も胸元もほんのり紅い。
「それでなあ――」
サンジは島がいかに面白い状態か語っている。

そんなに面白いところなのなら・・・
「なあ、なんでいきなり帰ってきたんだ?」
ゾロの素朴な疑問に一瞬、サンジが言葉に詰まる。
「そ、それはお前、腹減ってるんじゃないかと・・・」
「飯、作ってあるって言ってたろ。」
またしても、ううっと詰まる。
「それは、なんだ。お前も祭り気分味わいてーだろーと・・・」
語尾が小さくなってきたと思ったら、怒り出した。
「せっかく人が差し入れしてやってんだから、黙って喰ってろ!」
やっぱこいつ、面白れー。



「で、なんで裸足なんだ。」
サンジの足元に目をやると、白い素足が暗闇に浮かび上がっている。
どうりで足音が違うはずだ。

またしてもサンジはううーと恥ずかしげな顔をして、ゾロを軽く睨んだ。
「履き慣れねーモンは、履くもんじゃねえや。」
ひょいとゾロの目の前に足が上がった。
まったく器用に動く足だ。
白い甲の親指と人差し指の間が擦り剥けて、赤くなっている。
「下駄、履いたのかよ。」
ゾロはサンジの足を掴むと、唇を寄せた。
サンジが驚いて身を引こうとするのを片手でがっちりと掴む。
そのまま傷口に舌を這わせた。
「―――!」
声にならない声を上げて、サンジが身を竦める。
舐め上げるとサンジが真っ赤になって怒り始めた。
「こ、このクソ馬鹿!変態ハラマキ、離せ!」
もう片方の足でがしがし蹴るのを両手で掴む。
「なあ、こっち来いよ。」
来るまで足は離さない、とばかりに腕に力をこめる。
サンジは耳まで真っ赤になりながら、わかったよと小さく呟いた。
足を離してやると、ふんっと鼻を鳴らしてそろそろとゾロの前まで近づいてくる。
ゾロはサンジの腰に手を当て、自分の膝に座らせた。
「よく似合うな、浴衣。」
そのまま抱きしめる。
「・・・ったりめーだろ。」
照れているのか、横を向いたままこっちを見ない。
ゾロはカラフェに口をつけて、冷酒を飲んだ。
そのままサンジの顎に手をかけ、口付ける。
キスとともに流れ込む冷たい酒の感触に、サンジが身を震わせた。
冷たいのに、熱い――。
こくりと飲み下すと、ゾロがうめえだろ、と覗き込んだ。
「その笑い方が、むかつくんだよ。」
顔を赤らめたまま睨みつけても、迫力はない。
ゾロがまた、酒を口に含んで口付けてくる。
押し退けようとするサンジの、腕の力が抜けている。
「――もう、酔うって・・・」
吐息が熱い。
はだけた胸元に手を差し入れる。
すべらかな肌の感触が心地いい。
ゆっくりと撫でまわし、突起に触れる。
「・・・こら――」
崩れてくるサンジの身体を抱えなおして、鎖骨に歯を立てる。
直接骨に響く快感に、サンジが息を吐いた。

くなくなになったサンジの身体を抱え込んで、また酒を口に含んだ。
開いた胸元から覗く紅い突起を舌で湿らせる。
ひやりとした刺激と、酒が沁み込む感覚に思わず声を上げる。
「ちょ・・・ゾロ――」
身を起こそうともがいて、肩から着物が落ちた。
肘に浴衣を引っ掛けたまま、乱れるサンジに深く口付けて、ゾロは空いた手で膝に乗せたサンジの
足の間に手を忍ばせた。

――?

唇を離してサンジの耳元でささやく。
「お前、なんでパンツ履いてないんだ。」
「え・・・だって――ナミ・・・さんが、浴衣ン時は下着つけないって――」
ゾロの手に翻弄されながら、サンジが途切れ途切れに答える。
――あんのアマ・・・。
サンジの前を刺激しながら、後ろにも手を忍ばせる。
「・・・ち、違う――のか・・・?」
サンジはゾロにしがみついたまま、不安気な声を上げる。
「いや、正解だ。」
もう半開きになったサンジの口内を犯しながら、前を扱き後ろに指を突き立てた。
サンジの身体が跳ねて、イスから転げ落ちそうになる。
薄い背を抱きかかえて床に横たえた。
ゾロがのしかかると、遠くからひゅるひゅると音が上がっていく。





パー―ン





突然花火が上がった。
空一杯に花が咲く。
「うあ・・・きれー――」
サンジがうつろな目で空を見ている。
髪は乱れて頬が上気したまま、半開きの口元から涎の筋が見える。
――ほんとに阿呆みたいだが・・・
めちゃくちゃソソル。
こういうの白痴美ってんだろか。

剥き出しの下半身に愛撫をくわえながら顔を近づけると、サンジが両手でゾロの頭を抱いた。
自ら舌を出してゾロの口付けを受ける。
夜を彩る大輪の華の下で、二人はお互いを貪り合った。










「で、どんな感じ?ロビン」
すべてを見通す聡明な瞳がゆっくりと開かれる。
目元がほのかに赤い。

「少なくとも、コックさんは完璧にイッちゃってて、自分が何のために帰ったのか忘れてるみたい。」
「やっぱりね。」
ナミが脱力したように、ははんと笑った。

海を見渡せる丘のデッキで、皆浴衣を着てテーブルを囲んでいる。
軒には提灯が並んでどこもかしこも騒がしい。
ルフィたちは花火に目を奪われている。
「せっかく人が、こそこそ帰ろうとしてるのを見逃してやったのに・・・」
隣でウソップがハラハラした様子で二人の会話を聞いている。
詳しく聞きたいけど怖くて聞けない、そんな感じだ。



テーブルに巨大なケーキが運ばれてきて、ルフィとチョッパーが歓声を上げた。
「うほー、ケーキだあ。ゾロの分まで喰うぞお。」
「でもー今日の主役はゾロじゃないのか。」
チョッパーの心配そうな声にナミが微笑みかける。
「いーのよ、どうせゾロは甘いもの食べないんだから。」
それに今は違うご馳走食べてるからね。
ナミの声にウソップが真っ赤にあわあわ言っている。
「どうしてサンジも帰っちゃったんだ。」
「下駄で靴擦れしたんですって。」
「俺が診てやったのに。」
不満そうなチョッパーを宥めてそれぞれグラスを手に持った。
「私達で祝いましょう。」



「偉大なる、未来の大剣豪に。」

「世界一の剣士に。」

「俺たちの守護神に。」






「ゾロ、誕生日おめでとう!」
ジョッキを軽くぶつけ合う。



ひときわ大きな花火が夜空に咲いた。

END

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