「夢ゆめ/現うつつ」 -2-





「サンジ」
「はい!」―――課長

「外回り、つきあってくれ」
「・・・はい」―――よりによって今日ですか・・・



予定表に<打ち合わせ→直帰>と課長が書き込んでいる。新規かな。接待もあんのかな・・・

行くぞ、と言われエレベーターに乗った。扉が閉まるとすっと課長が振り返った。

「なに呆けた顔してんだ」

―――・・・!!

怒ったような顔。心臓をぎゅっとつかまれたようで動けなかった。
「・・・すみません」
ひと言、絞りだすのがやっとだった。
バレてた。きっと仕事にならないことを見透かされていた。情けねえ。

ビル下に客待ちしていたタクシーに乗り込む。
先に乗った課長がどこか場所を告げていたけど聞こえなかった。

タクシーに乗っている間も、じっと下を向きっぱなしで、喋れなかった。
いつもなら『どこ行くんですか』とか、『飲みもアリですか?』とか軽口言いながら向かうのに。
課長も口を開かなかった。

沈黙が辛かったタクシーをようやく降りる。
瀟洒なマンション。課長が慣れた手でオートロックを開けている。
ここはどこだろう。誰に会いに行くんだろう?
大股で歩いていく課長に遅れないよう小走りで付いて行く。ひとつのドアの前で課長が立ち止まる。

カシンと鍵を開け、扉を開けた。振り向きオレを見る。
―――ここ?

開けられたままのドア。
「入った、ということは合意の上と解釈する」
―――合意?

「無理強いはしない。これはパワハラでも何でもない」
―――何?課長は何を言っている?

しばらく見つめ合っていた。ほんの数秒。数分だったかもしれない。
なんのアクションも起こさず突っ立つオレの腕を取り、課長が静かにドアを閉めた。


玄関に入ってもなお
「お前、判ってるのか?」
「・・・わかって、ません」
そう答えると、肺が圧迫されるくらいに抱きしめられた。
「こういう事だ。帰るなら、今、帰れ。今ならまだ帰せる」
頭が真っ白だ。
「嫌なら抵抗しろ」
「抵抗・・・できません」
「なら」
目を合わせてくる。
「合意か」
強い視線を避けるように瞼を閉じ、小さく唾を飲みこんだ。










カーテンを引いた寝室。


セミダブルのベッドが揺れる。


課長がオレを抱いている。


オレが課長に抱かれてる。






なぜ?






お前今日、
え、
悩ましい顔で席をたったろ
カァっと顔が赤くなる。
もしかして誰かとしけこんでんのかと思ってすぐ追いかけた。したら一人で入っていきやがる
出てきても呆けた顔のまんまだ。一体何だ
・・・オレ、あ、あ、・・・・
あァ?
きょ、きょう、ヘンだったんです・・・
朝からな。心ここにあらずだ。エロ臭い
エ、エロ・・・?あ、あっ!
お前、コピーしてる時だって
え、えぇう
後ろがスキだらけだ。会社じゃなかったら恰好の餌食だぞ。なんだアレぁ
わか、りませ、んっ・・・
危なっかしくて見てられるか。攫うしかねェだろうが
オレ、でもオレ、あの時・・・
どの時
コピィ、取ってる時・・・
・・・
して、もらいたくて・・・されてるトコ、考えて・・・あ、うっ、ンっ
・・・誰に。何を
頚を振った。
言え
・・・・・・ぃヤ
言え。怒らねェから
・・・・・・か、
か?
か・ちょ、に
・・・俺?
は、い
俺が、なんだ
・・・言え、ま、せ・ああうっっ!!
言えねェようなこと、してたのか
ぅ・・・っ
あァ?
・・・途中、で、・・・
そこまで言って、黙り込んだ。
・・・俺が・・・来たのか?
は、い
・・・ハ。そりゃあとんだ邪魔したな。なら最後までヤってやる。どんなシチュだ?
・・・え
どんなヤラしいやつ想像してたんだ
・・・ィ・ゃ
俺をオカズにしてたんだろ。言ってみろ。その通りにやってやる
言いたく、ぅ・・・な、い
男の妄想だろ?頭ン中じゃ大抵の奴が大概のコトやってんぞ。言え
・・・・・・コピー、の前、で・・・
ああ、会社か。んで?
急に、後ろから
突っ込んだか?
ふるふると首を振る。すごい、焦らされて・・・
・・・焦らすのか
・・・あっ
ずるりと引き抜かれベッドサイドに手を付かされた。


俺はどうしてた
・・・触ってきて・・・手が熱くって
へェ、手が熱いのは合ってんな
すげえ、固くて、
おう
おっきくて

入れて、くれなくて・・・擦ってしか、くれなくて
こうか
ぅ・・・ぅ
・・・入りそうになんぞ。ここ
は、い・・・
ヤラしいな 

想像と同じに、ぐちゅぐちゅと音を立てて亀頭が後孔から戸渡りを擦っていく。

ヤラシイ上に、お前のここ、気持ちいい
あ、サンジの眉根が寄る。も、も、ぅ がくかくと脚が震える。
欲しいか
う、っ、ぅ 目じりに涙が浮く。
ゾロが浅く潜った。きゅううと門が締まる。浅いところでゆるゆると交わる。
サンジが耐える。こんなだった。妄想なのか現実なのかわからなくなる。
―――もう、も・・・!や、だ
腰を突き出した。
頬にキスされた。
それを合図に、悠然と侵食が始まった。

怒張が頭の芯まで貫いていく。背骨が絞られるように苦しい。
でも、でも。花芯からはとめどなく蜜が溢れて散っている。
―――欲しかったんだ
今日、ずっと。ずっと欲しいと。いや、その前から。あの日からずっと。

叶わないと思ってた。到底無理だ。
これが夢でも構わない。いっそ砕いて欲しい。粉々にして欲しい。この体ぜんぶ。

熱い肉の道を、焦らすだけ焦らし、あげく一杯に押し入り、道は彼に突き開かれながら締めあげ、狭さを増す。
もうこれ以上ないという程、深く埋められぎちぎちと満たされた。
ああ、という安堵の息とともに、止まっていた時間が動き出す。

密着したまま、ゾロがゆっくりと腰を使う。
奥か、手前か、コイツの良いところはドコか。
探るような動きから、次第に早さが加えられ、突き入れの角度も強くなる。
もう何も考えられない。イかせて。最後まで。奥まで。奥が―――

途切れた声しか出ない。

腰を抱えられ、深く突き入れられたまま、奥底で小刻みに揺り動かされた時――



背中で吐息が洩れた。





お前が



欲しかった





背中に密着してくる体で。やさしく。そう言われた。



ぅ、うっ


前を向きたい。


この人の、顔を見たい。
この人と、抱き合いたい。


体をよじって訴える。


体勢を入れ替え、ベッドに寝かせてくれた。


なんでだか涙が出る。抱きついて顔を隠した。


・・・今日のアレは駄目だ。ぽわぽわしすぎだてめェ。思わず拉致っちまった
・・・オレ、かちょ、に、怒られた、と思って・・・
そりゃ色気だだ漏れしてたら怒んだろ。早く隠さねェとえらいことになっちまう。どんだけ焦ったと思ってる。
お前狙ってる奴けっこういるの、知らないのか
・・・オレ?
・・・やっぱ知らなかったか。危ねェ
・・・課長も?
・・・秘かにな
オレ、オレ、すげ、うれし・・・

ちいさなキスが降ってくる。

サンジ
は、い
今までの分、ぶち込んでやる
はい・・・きて、ください、か、ちょ
ゾロだ
・・・
言ってみろ
・・・ぞ、ろ
よし
ふいに抜かれる。あぅ、いやだ。なんで

課長がゆっくりとあぐらをかく。促され、その上に跨って座った。
ぎゅうっと抱きしめられる。強く抱かれるのは嫌じゃない。好きな人なら尚更だ。
むしろ時々、痛いくらい抱きしめられた方が、うれしい気がする。



ここは資料室だ
・・・え
お前は真っ裸。俺に命じられて乗っかるトコだ
・・・課長
・・・他のシチュがいいか?
ほかにも、あるんですか・・・?
ありまくりだ。頭ン中じゃお前、奴隷だぞ
・・・・・・アハ

両手をゾロの頭へとまわす。胸がゾロの眼の前にくる。
どんな奴隷ですか
手が伸び、指が乳首をつまむ。
すげェ感度がよくて、エロい。耐えてイク時の顔が堪んねェ。想像じゃここが良いはずなんだがな・・・
オレの反応をうかがいながら弄びはじめる。
あ、と・・・緑の髪に唇を押し付ける。
アタリか?
う・ン・・・
両手が乳首を摘み上げ、巧みに官能を押し上げる。

声。出せ


挿入はされていない。そそり立つものにたまらず腰を擦りつける。左の乳首に唇がかぶさった。
舌が左右上下に巧みに動き、尖った部分が転がされる。強い頚を支えに胸を反らした。
ねだる様に淫らな吐息を吐く。
散々転がし、大きく吸ったかと思えば唇で軽くついばんでくる。左の次は右。また左。また右。
短い息を吐き続け、ぱくぱくと喘ぐ唇に指が入ってきた。
舌で、唇で、節のある指を吸い、舐め、今の気持ちを精一杯伝える。

ふと。すべての動きがなくなる。見下ろすとゾロが下からオレを見つめている。
無言のまま、自分のものを押し下げる。オレが軽く腰を浮かすと先端が秘そやかな場所にあてられた。
肩に手を置き、ゆっくり、ゆっくりと、強ばりに身体を落としていく。
かすかに腰を前後にゆすり、入りきるまでの質量に耐える。
じんじんと、えも言えぬ充足の感覚に今度は全身が喜びに震えた。


ぞろ、と呼ぶと課長の体が一気に熱くなった。


時間を忘れ、上になり、下になり、責められた。


うれしかった。
どさくさに紛れて、好き、と呟いた。


半ば気を飛ばしながら課長の言葉を聞いた。


もう帰さねェぞ
これ以上放っておけるか


ぼんやり聞いていたら突き込まれた


ぁあっ・い、ぃアっ!


返事は



かすかに笑ったら、よし、とかなんとか言う声が





遠くに





聞こえた







END