「妖怪エロコック」−2







 サンジがゾロへの感情を自覚したのは、アラバスタの大浴場でそのガタイを見たときだった。
 今までも心の何処かで《名前呼べ》《旨いって言え》《俺に笑いかけろ》と思ってはいたが、この年頃にありがちな、同年代への対抗心と憧憬が入り交じった気持ちなのだと判じていた。
 ところが、ゾロの逞しい裸体…ことに、威風堂々たる佇まいの性器がサンジに言い訳のできない自覚を与えた。

 平常時でさえ大蛇かと思うような様相を呈しているというのに、興奮して怒張したらどんな具合になるのか?あれで抱かれるレディはどんな顔をするのか?というところから始まって、いつの間にやら脳裏に浮かんでいたのはゾロに抱かれる自分だった。

 あり得ない。
 絶対現世でそんな事態になることなんか無い。
 未来世でも怪しい。 

 それは分かっていたから必死に気持ちを押し隠していたのに、サンジは空島で強い誘惑に晒されてしまった。和解したシャンディアとの大宴会の折り、子供用に可愛く仕上げた菓子をあげたら、アイサという娘が《もっと頂戴》とおねだりする代わりに、あの式神を持ってきて使い方を説明してくれたのだ。

 あれは使い方によっては人を憑り殺すことも可能なほど危険な代物らしいが、アイサは《悪戯用に限度設定してるから大丈夫》だと言っていた。相手を物理的に傷つけるような行為に関しては初期設定で禁止条項にしてあるから、こっそり仲間を擽ったり目隠しをしたりする程度の悪戯をしてみなよと誘われたのだ。

 式神にやらせる行為は何にするか散々悩んだ末、フェラチオしてやることにした。自分ではやったことはないが、式神はわりと上手くやっていたのだと思う。ゾロも嫌がってなかったし。

 そうだ。未だに信じられないが、ゾロは式神のサンジを引きずり出して膝の上に乗せた。設定にはない行為だったからどう動くのかと思って気が気ではなかったのだが、式神はサンジの中にあった欲求を自動的になぞったらしい。ゾロの鼻面にキスをして、受け入れられたら顔中にキスの雨を降らして、とうとうゾロの唇が恋人のキスのように触れてきたとき、サンジはあまりのことにへたりこんでしまった。

 散々性器を舐めて精液を呑んできたというのに、漠然とした感覚が咥内をまさぐり、それがゾロの舌なのだと思ったら吃驚してしまった。今までは与えるばかりで、与えられたことなど無かったから、ゾロが何を思ってそんなことをしたのか理解できなかった。

『まさか、ゾロも甘えただったなんてなァ…』

 《好き》とかいった言葉は貰ってないが、意外と丁寧にサンジを抱いたゾロは、初めて名前を呼んでくれた。首筋に鼻面を埋めて、名前を呼びながらすりついてきた動作はまるで良く馴れた犬みたいで、ゾロもこういう接触が好きなのだと思ったら嬉しくて堪らなかった。

 式神はロビンに頼んで設定を変えて貰うことになった。サンジには読めない取扱説明書も、ロビンには簡単に読めるらしいから、取りあえず今の設定を初期化して貰う。
 あと2枚しかないから大事に使おう。



*  *  * 



 深夜のラウンジで、ゾロは大変素敵なひとときを過ごしている。
 コックを全裸に剥いて大きく脚を開けさせ、濃いピンク色をした性器をしゃぶっているのだ。
 さほど刺激しないうちに《イくっ》と切ない声で啼いたから、自分の腹や胸に向けて射精させてやった。ミルク掛けの苺みたいでなかなか可愛らしい。

『あのクソ生意気なコックが、俺にベタ惚れしててナニしても自由なんだ』

 そう思いながら弄るコックは、テーブル下にいた妖怪エロコックの何倍もイイ感じだ。反応がえらく初々しくて、何かちょっとしたことをこちらがしてやるだけで涙目になったり、嬉しそうに笑ったりするのが可愛いなと思う。

 今日の昼間、ロビンが時間帯と場所を指定して《愉しんで頂戴ね。今夜は私が見はりなの》と言ってにっこり笑った。ラウンジの外には何本か腕が生えていて、誰か目を覚ましてくる仲間がいれば知らせてくれるようだ。

『怖ェ女だが、確かに…これは、ちょっと…いや、かなりイイな』

 全身を真っ赤に上気させて、テーブルの上で身悶えするコックは最初恥ずかしがっていたのだが、ロビンに手足を拘束されて《内緒で剣士さんに悪戯していたのは確かにコックさんが悪いわ、最後にお詫びとして、テーブルの上で悪戯されてみなさいな》とくすくす笑いながら言われたら抵抗しなくなった。罪悪感はあるのだろう。ただ、ロビンの方は単に可愛いコックが身悶えする様子を明るいところで見たかっただけだと思うが。

 先日コックを格納庫で抱いたときには何せ暗かったので殆ど様子が分からなかったが、今日は煌々と洋燈をつけているから白く滑らかな肌も淡いピンク色をした乳首や性器も余すところ無く眺め回すことが出来る。

「ゾロ…なァ、キスしろよ…」
「へっ。甘えやがって」
「名前も、呼べ」
「へいへい」

 そっぽを向いたコックの頬を掴んで舌を奪うと、途端にとろんとしたように蒼い目が濡れる。その間にローションを手にとって《じゅぷ…っ》と蕾に指を入れていけば、このところ2日と置かずやっているせいで解れるのが早くなっている。暫く馴染ませるとすぐに指が3本入るようになったから、気が急くのを感じながら少し早い速度で亀頭をめり込ませると、コックの目元が苦しそうに顰められた。完全に入れてしまえば馴染むのだが、入り込むときの抵抗感が苦しいらしい。

「おい、大丈夫か?」
「平…気、…ひっ!?」

 急にビクッとコックの背筋が跳ねた。驚愕したように目を見開いてまじまじと股間を見つめている。

「別に切れたりはしてねェぞ?」
「いや…そうじゃ、なくて……」

 真っ赤になってふるふるしているコックは、今度は自分の胸を見て吃驚している。乳首に白濁が掛かる様がいやらしいが、今そうなったわけではないのにどうしたのだろうか?ゾロを銜えた肉壁がきゅんきゅんと淫らに収縮して大変気持ちが良いが、何か引っかかるものがある。見れば、さっき果てたはずのコックのチンコは見る間に勃起していた。まだ中イキは体験したことのないコックのこと、挿入されながらのこの反応は異常だ。

「おい…もしかして、式神がなんかやってんのか!?」
「わ…分からねェ…っ!ロビンちゃんが設定を変えるとは言ってたけど…て、ぁあんっ!凄…っ!式神、なんかテクニシャン!?しかも何か二人いるしっ!よ…4Pって…っ…ロビンちゃ〜んっ!」
「ちょ…っ!ロビンの式神なのか?」
「違う…ゾロだ。ぅわ…わ…っ!犬歯で乳首囓るなァ…っ!」

 そういえば式神のコックは舌テクが素晴らしかった。実際のコックはかなり下手だったが、恥ずかしがりながらモチモチと舐めるのが可愛くて、それはそれで良かったのだが…どうやら式神ゾロも相当なテクニックを駆使しているらしい。
 
「でもよ、式神の感覚は姿を借りた奴に反映されるんじゃないのか?俺にはてめェを舐めてる感覚なんか来ねェぞ?」
「姿はゾロでも、操ってるのはロビンちゃんなのか…もっ!…ひっ…」

 何てことだ。ロビンはコックの気分が盛り上がるようにゾロの姿を借りたものの、操作は自分でしているらしい。

「ぁん…ゾロ…ゾロ、頼む…っ!ロビンちゃんを止めさせてくれっ!お、おかしくなっちまうっ!全部ゾロで…ゾロが、ゾロだと…ぜ、全部感じちまう…っ!」
「おいコラ闇黒女っ!てめェの大事なコックが泣いてんぞ!?止めねェか!」
「やだ…ゃっ…ぁっっ!!」
「こんの…っ!」

 ロビンは何故か止めることなく、泣きじゃくるコックへの反応もない。焦れたゾロはまだ猛ったままの陰茎を引き抜くと、無理矢理ニッカポッカの中に収めて見張り台のロビンを伺おうとしたのだが、その間にコックが悲痛な悲鳴をあげた。

「ィやっ!やーーーっ!!挿れないでロビンちゃんっ!嫌だっ!それだけは止めてーーーっ!!」
「サンジっ!!」

 テーブルの上で泣きじゃくりながら暴れているコックを子ども抱きにすると、ゾロは三代鬼徹を空中に振るって威嚇をした。もうコックに指一本触れさせるものか。
 こいつはゾロのものだ。ゾロだけが触れて良いのだ。

「式神なんぞにくれてやるかっ!サンジは俺のモンだ…っ!!」

 大音声で呼ばわった途端、フッとコックの強張りが解けた。

「あ…ぁ、い…いなくなった」
「ホントか!?」
「おう。煙みてェに…消えた」
「そうか。良かった!ロビンの奴、設定に失敗しやがったのか?」
「……多分、違う」

 《目的を遂げたからだ》ぎゅっと抱きついてきたコックの背を撫でてやると、すりすりと鼻面を胸に擦りつけてくる。

「俺…てめェのモンか?」
「…っ!」
「なァ、俺のこと好きか?好きだろ?」
「そ…そんなモン、口に出して言うコトじゃねェっ!」
「言われてェよォ〜」

 《キスしろ》と《名前呼べ》は言えても、そういえばこのおねだりは初めてだ。ずっと言いたくて、でも…《別に好きな訳じゃねェ》と否定されるのが怖かったのか。

「しょうがねェな…」

 なるほど、身体は結ばれてもまだどこか不安に怯えていたコックの為に、ロビンがお節介を焼いたという訳か。
 面倒くさい連中だ。

 けれど…やっぱり愛おしい。

「おい、二度と言わねェからよく聞いとけよ?」
「おう」

 よい子の顔をして頷くコックを抱き寄せて、耳朶に囁いてやった。
 こんなことをコックに向かって口にしている自分というのが何とも不思議で、《好きだ》と呟いた瞬間にクラリと目眩がして焦った。

 目眩が収まった瞬間にガクリと頭が傾いで、フッと意識が戻った瞬間に真っ昼間のラウンジに戻るのではないか。
 まるで全てが淫らな白昼夢であったかのように。

 その発想を、ゾロは酷く怖いと思った。

 目が覚めたらゾロに背を向けたコックがいつも通り料理やら皿洗いをしていて、《好きだぞ》なんて呼びかけたら《気でも狂ったのかよ》と冷笑されるのではないか。
 《ど…っ》と、背中に冷たい汗が流れる。

「ゾロ?」

 両肩を掴んでコックの目を覗き込んだら、ちゃんとはにかむような笑顔を浮かべてゾロを見ていたから、泣きたいくらいに嬉しくなった。

「好きだ…」

 今度は、胸の奥から溢れ出すような心地で口にした。
 言わされたのではなく、心の赴くままに言いたくなったのだ。

「一回しか言わないんじゃなかったのか?」
「やっぱり、言いたいときには言う」
「へへ…」

 甘えるように擦りついてくるコックに、今度はゾロが頼む番だった。


「おい、好きって言えよ」
 
  


おしまい


あとがき


 白昼夢…?と半疑問系になっちゃうお話、如何でしたでしょうか。
 タイトルは「妖怪ラブマシーン」とどちらにしようかと思ったのですが、いきなりしゃぶってくるのはラブというよりエロかと思い、こちらにしました。

 ええ、どちらにしても情緒はまるで無いです。

 立場が逆だったら、流石にサンジはおろおろして周囲に気付かれたでしょうね〜。キッチンで料理してる最中に跪いたゾロがおしゃぶりして来るんですから、腰は引けるし真っ赤になるし甘い声は漏らすしで、麦わらの一味大変。

 それ以前に、ゾロはそんなまどろっこしいことしないか。やりたくなったら、「おい、やらせろ」と直球勝負ですね。話早い。サンジは真意が掴めなくても、《別に良いぜ》と馴れた振りして応じて、その後「身体だけかよ」と悩む…って、それはゾロサン界のド鉄板ですね。スキモノに収納するようなマイノリティの話にはならないか。

 白昼夢かどうかはともかくとして、スキモノ的には趣旨が合致していると信じてポーンと投稿します。