宵の口  -China様-


 今日は気分がいい。煙草を吸いながら、サンジは上機嫌で生クリームを泡立てていた。だって今日は…。




『宵の口』




 いつもと同じ穏やかなGM号。ナミやロビンはジュースを飲みながら、のんびりとお喋りをし、ウソップやルフィ、チョッパーは釣りをしている。一方相変わらずなのはゾロで、今日も修行を欠かさない。
 サンジはそんなゾロを背後から見ながら、いつ話しかけようか悩んでいた。ただ闇雲に行けばまた喧嘩になるだろうし、放っておいたら勝手にどこかに行ってしまうだろう。そんな不安を抱えながら、手には差し入れのレモン水。サンジはいつからかゾロに恋をしてしまったのだと、気付いたのはつい最近のことだ。それからの生活は一変してしまった。あんなに喧嘩していたのに、今ではそれも恥ずかしい。でも普通に話した例があまりにも少ないので、どうやって話したらいいのかわからない。そうして、今日も結局ゾロが気付きそうなところにレモン水を置くだけで話しかけなかった。

「そーいやぁゾロもうすぐ誕生日じゃねぇか?」

 ウソップがある日突然言った。そうだそうだと皆忘れていた様子。もちろんサンジ自身も―惚れている男の誕生日さえ忘れていたなんて…と後で風呂に入りながら後悔した―忘れていた。今日は11月10日。もうすぐどころか明日である。

「すっかり忘れてたわね」
「なぁナミ肉食えんのか? 肉!!」
「アンタは黙ってなさい!」

 ゾロの誕生日より肉が目的なルフィはナミに拳骨されて黙る。ゾロはちょうど風呂に入っていて不在だ。その後、皆それぞれにプレゼントやなんかを考えるため、自然と散り散りになった。
 サンジの誕生日プレゼントは決まっている。甘さ控えめのショートケーキ。金と他に芸のない自分にはそれしかない。ナミのみかん畑から少しだけみかんを頂戴して、ゾロの口に合うようにしてやるのだ。それと隠していたちょっと高級な日本酒を出して、それでゾロに告白する。こんな喧嘩ばかりしている男のことなどゾロは嫌いかもしれないが、酒の力があればなんとかなるかもしれない。最近喧嘩も少なくなってきたし、たまに優しかったりするし、もしかしたらゾロも…なんて淡い考えも浮かぶ。

 こうして訪れたゾロの誕生日当日。皆思い思いのプレゼントを渡し、笑顔で言う。

「ゾロ、誕生日おめでとう」

 ゾロは最初は戸惑っていたものの、次第に嬉しそうに皆のプレゼントを受け取る。

「そらクソマリモ、祝いのケーキだ!!」

 サンジが大きなホールケーキを皆の前に出すと、感嘆の声が夜のGM号に響く。サンジがちゃんと人数分切り取って―じゃないとルフィが一口で食べてしまう―皿に取り分けてやると、ゾロは、

「悪ぃな」

 と、いつもとは違う素直な反応を示す。サンジ、心の中で密かなガッツポーズである。こうなったら勇気を出して言ってみようとサンジは決意する。ゾロの耳元に向かい、

「お前の好きな酒も用意してあるから、最後まで寝ないで待ってろよ?」
「へぇ…不思議なこともあるもんだ。明日は台風か?」

 ニヤリ、とゾロは皮肉気味に笑う。その様子が格好良くて、サンジは誘ったくせに顔を真っ赤にさせ、

「ちょっとだけだからな!」

 と叫んだ。

「なぁサンジ。何がちょっとだけなんだ?」
「え…ルフィ…いやちょっと、その…な」
「なんだよー教えろよー」
「おい、ルフィ俺のケーキ食うか?」
「食う!!」

 ゾロが機転を利かせてルフィを餌付けすることによって、その場は収まった。サンジはまだ顔を赤くさせて、ゾロの方を見ている。

「ケーキなんかいつでも食える。そうだろ? クソコック」

 サンジは頷くだけで精一杯だった。



 そうこうしているうちに、夜も大分更けて、皆寝てしまった。残ったのはもちろんゾロとサンジ。サンジはキッチンから日本酒と杯を2つ持ってきて、

「ほれ、これが例の酒だ」

 ゾロの杯に注いでやると、ゾロは満足そうに笑う。実はさっきの皆でのパーティでも若干飲んでいるので、今さらという感じはあるが、その辺は仕方ない。

「おめぇは飲まねぇのか?」
「いや…俺はちょっと…」
「まさかさっきのだけで酔ったとか言うんじゃねぇだろうな」

 キッチンと甲板を頻繁に行き来していたサンジは酒をあまり飲まなかったが、サンジは生来あまり酒を得意としない。一応、杯は2つ持ってきたものの手持無沙汰である。仕方がないので、サンジも自分で酒を入れようとする。すると、

「おい。俺に酒注がせろよ」
「いや、悪いって」
「何言ってやがんだ。いいだろう、滅多にない機会なんだ」

 今の言葉はサンジの聞き間違いなんだろうか? サンジはゾロが自分に気を使うことなんてないと思っていたので、ひどく驚いた。素直に酒を注がせると、ゾロはまた満足そうに笑う。酒は一口飲むと大分サンジにはキツくて、顔を少し顰めた。

「はは、お子様にはまだ早いか」
「お子様じゃねぇ」
「その割には結構効いてんじゃねぇか。お前酒弱いもんな」
「うるせぇ」
「乾杯」
「あ…うん、乾杯」

 いつの間にかゾロのペースに巻き込まれている。しかしサンジには言わなければならないことがある。それを考えると心臓が口から飛び出そうだ。今日はやめとこうか…とそう思ったとき、

「おい、コック」
「あ?」
「俺、おめぇに惚れてるかもしんねぇ」
「…はい?」
「もう一度、なんて言わねぇからな」

 顔を見ると酒のせいか言葉のせいか、ゾロの表情は少し赤い。ここがチャンスだと思ったサンジは杯を震わせながら、

「その…俺も…好きだぜ」

 その言葉を聞くや否やゾロは酒を飲みほし、サンジにキスをした。固まったサンジなどお構いなしに、舌まで入れる本格的なキスである。
 キスが終わると、サンジは真っ赤な顔で言った。

「ゾロ、誕生日おめでとう」

 おう、とゾロは応える。それは恋人になる承諾の合図でもあった。



END


back