やさしい手を持ってる おまけ

暗く鉄臭い格納庫で、男が二人手を合わせて目を閉じている。
うっかり目撃にしたら石になりそうなほど寒い光景だが、今は深夜、戸口には鍵も取り付けたから誰かに見られる心配はない。

「どうだ?」
ゾロはいつになく神妙な顔で、向かい合ったサンジを覗き込んだ。
サンジはまだじっと目を閉じたまま、
ゾロの手を握る指に力を込める。
かくんと首を傾けて、開いた瞳をすうと眇めた。
ゾロの手を包んだまま胸に抱えるようにして、厚い胸板に寄りかかる。
布越しにも、ドクンドクンと派手に伝わるゾロの鼓動に耳を傾けるようにして、それから顔を上げてにやっと笑った。

「いいぞ、もう全然わかんねえ。」
「そうか!」
ぱあっとゾロが破顔した。
合わせていた手を弾くように開いたかと思うと、がしっと痩躯を抱きしめた。
喜びのあまり手加減を忘れて、サンジの関節がみしりと嫌な音を立てる。
「いて!この馬鹿力っ」
「ああ悪りい。」
慌てて力を緩めて、背中をさすさす撫でた。

「あー長かった、辛かった〜」
とてもゾロの口から出たとは思えないような弱音を吐いて、顔を摺り寄せてきた。
あまりの豹変ぶりにサンジは苦笑するしかない。







幽霊騒動の後遺症で接触テレパス(?)になってしまったサンジは、極力人との接触を断っていたが
ゾロだけは例外で、どちらかというとサンジから身を摺り寄せてはゾロの気持ちを堪能する毎日を送っていた。
しかし擦り寄られるゾロにしたらたまったものではない。
早速頂きますとサンジにキスをしただけで、卒倒された。
なんでもゾロの分まで快感と興奮が一気に流れ込んで、快感中枢がスパークしたんだそうだ。
以来、サンジに触れられてもゾロから触れてはいけなくなった。
こうして無防備に擦り寄ってくるサンジに手を出すこともままならず、まさに蛇の生殺し状態でゾロの我慢は限界に達していた。
長いお預けをくらって、それでも懲りずに何度でも立ち上がる愚息は、もう今にも腐って落ちそうだ。

「ってこたあ、もういいな?」
極力声を抑えているつもりだが、鼻息がふがふが鳴ってしまうのは致し方ない。
サンジも、これまで鉄の如く固かったゾロの自制心を文字通り目の当たりにしていたので、突然襲われても
異論はないと覚悟を決めている。
「おう、いいぜ。思う存分食え。」
少し頬を赤らめてきっぱり言い切ったサンジに、ゾロの理性はぷちんと切れた。






とりあえず、一回イって、我に返った。
床に押し付けられてぐったりしているサンジは、長い前髪が顔全体にかかって表情が読めない。
そう言えばちょっと待てだのもっとゆっくりだの言っていたような気もする。
・・・ヤリ殺してねえだろな。
まさか思いつつも肝が冷えて、顔にかかる髪を払いのけようと手を伸ばした。
掴んでいた肩に圧迫した後がくっきりと残っている。
・・・手形まで残しちまったよ。
よくよく見れば、白い肌のあちこちに痣やら歯形やらが残っていて、すぐさま鑑識にでもまわされそうな惨状だ。
まるで獣の仕業だな。
やったのは紛れもなく、自分なのだが。

そうっと金糸を払いのければ、血走った三白眼が睨んでいた。
「・・・て、めーは・・、俺を、殺す気か?」
地の底から響くような低い声。
額にも青筋が浮いている。
「悪りい・・・」
ゾロは苦笑いをしてその額に口付ける。
頬に唇に、触れるだけのキスを繰り返し落として、痕をなぞった。
投げ出された手も恭しく持ち上げて、その甲に口付ける。
途端に、サンジの顔がカーっと赤くなった。
「ば・・・似合わねえこと、すんじゃね!」
まだ繋がったまま身体を起して、うえっと呻いた。
崩れそうな腰を支えて、ゾロは丁寧にサンジの手に舌を這わせる。
掌や指の又の間を捏ねるように舌を絡めて節を齧った。
「よせ・・・て、」
慣れない愛撫に居たたまれなくて、サンジは口だけで抗議した。
ゾロのモノを納めた下腹に響くから、身を捩ることもできない。
ゾロはとどめにべろりとでかい舌で舐め上げて、自分の背中にその手を廻させた。
向かい合わせに胡座をかいて、ゆっくりと腰を動かす。
既に質量を増したそれに突き上げられて、サンジは喘ぎながらゾロの首にかじりついた。

「だめだ、ゾロ・・・奥に・・」
「ああ、入ってんな。」
耳朶を噛んで舌を差し入れて、うなじを舐める。
リズミカルに腰を動かすと再び元気になったサンジのモノが腹で擦れた。

「なあ、クソコック・・・」
「んあ…な・・・」
「てめーが、アホみてに優しいのも、女にだらしねえのも、病気みてえなもんだ。」
「・・・な、何言っ・・・」
「だからもうしょうがねえ。好きなだけやるといい。惜しみなく、見返りもなく与えりゃいい、けどな・・・」
ずんと深く突き上げられて小さな悲鳴が漏れる。
「俺はいつだっててめえを奪うぞ。横取りしてでも離しゃしねえぞ。覚悟しとけよ。」
「言ってろ、クソ野郎・・・」
切なげに眉を顰めながら、サンジはゾロに口付けた。
「いくらでも奪うがいいさ。てめえに食いつくされるようなやわじゃねえんだ、俺は」
「上等―――」

サンジは笑って、揺れるピアスに歯を立てた。


END

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