「ちょっとだけよ?」−3



 女相手であればもうこの段階で《いつでも来てね♪》と言わんばかりに濡れてぱっくり開いているというのに、コックの蕾はえらく頑なだ。男で、しかも処女であるというのは想像以上にハードルが高いらしい。

 試しに指を一節挿れてやったら、《ひっ!》と悲鳴を上げて背が跳ねた。先に達して朦朧としていたにも関わらず、一瞬で我に返ってしまうくらい痛かったらしい。

「ゾロ…痛ェ…」
「悪ィ。しばらく馴染ませっから、ちと待て」
「ん…」

 コックも滑らかな尻を上げて迎え撃つ姿勢で居るのだが、白濁で濡らした指をぐぷぷ…っと挿入していく動きに、声にならない悲鳴が上がりかける。

「無益なり」
「…っ!?」

 至近距離から呆れかえったような声が響く。聞き間違えようもないミホークの声だ。
 はっとして横を見ると、いつの間にやら椅子まで置いて、冷静にゾロ達の手際の悪いセックスを眺めていたらしい。ただ、周囲の景色は明瞭で、再び結界が張られるようなことはなかった。

「…ナニしに戻ってきた?」
「弟子のあまりに粗忽なセックスを看過できぬでな」

 つまり、立ち去った振りをして一部始終見ていたと。
 こんなに堂々としたデバ亀もそうはいないだろう。《これが七武海クオリティか》…と、ゾロは肩を落とした。

「その儒子は赫脚の養い子ではあるし、処女を血染めにするのは忍びない」

 ゾロの腕の中で、コックの身体が体温を上げたのが分かった。誰かにこんな痴態を見られているだけでも恥ずかしいというのに、それが恩師の知人という立場なのだと思うと居たたまれないのだろう。へにょんと下がったグル眉の下で、蒼い瞳が情けなく潤んでいた。

「じ…ジジィには、言うなよ…?」
「ふむ。涙目の懇願もなかなか良い」

 会話が噛み合ってないが、どうやらミホークが相当にコックのことを気に入ってしまったのだけは確かだった。

「言うなってば…っ!」
「さァて…どうだろうな?拙いセックスの挙げ句に貴様が泣くようなことがあれば、赫脚にも言わぬわけにはいくまい。ああ見えて情の深い男だ。下手くそなセックスで養い子を傷つけた剣士を蹴り殺しにくるかもしれんな」
「勘弁してくれよっ!!」

 コックにとってゼフの名はやはり重いのか、嫌々するように顔を振って抵抗を始めてしまう。拙い、このままではコックとの初セックスが黒歴史になってしまう。

「小さき者よ、俺に教えを請うが良い。最高のセックスとは何であるか、暇つぶしに教えてやろう」

 勿体ぶった言い回しながら、本人は教える気満々だ。懐からローションと思しき玻璃瓶を取りだして、ゆらゆらと揺らしながら《欲しいだろ〜?》という顔をしている。随分と表情豊かになったものである。

 だがゾロは深く溜息をつくと、長衣を脱いでコックの身体を包み込み、他のスーツと一緒くたにして抱き上げた。

「何のつもりだ?」
「あんたには2年の間、本当に世話になった。いつか自分を倒す男を手元で育てるなんて道楽を、嫌々ながらでもやってくれるなんて度量の男はあんたの他にはまずいねェだろう」
「…そうだろうな」

 ミホークの口角に、ほんの少しだけ笑みが灯る。

「だが、セックスまで教えて貰うわけにはいかねェ。どんだけ不器用で手際が悪く見えても、こりゃあこいつと俺で作っていくべきもんだ」
「ゾロ…」

 こんな風に粋がることなく言えるようになったのも、2年という月日が培った耐性なのかも知れない。恥ずかしくとも、身の丈にあった恋愛をしていきたいと思えるのだから、この月日にはやはり意味があったのだろう。

「悪ィな、コック。セックスを極めたなんて豪語するオッサンの技術だが、そいつをてめェにしてやれるのは何年か先になるだろう」
「良いよ…俺だってその方が良い」

 にっこりと微笑んで、珍しくも甘えるみたいに鼻面を肩口に擦り寄せてくる。コックにとっても、二人だけの秘め事を露出するのは嫌だったのだろう。

「ふん。つまらんな」

 そうは言いつつも、ミホークの声はどこかやわらかい。ぽぅんと投げられた玻璃瓶が放物線を描いて、ゾロの手の中に収まった。

「餞別代わりにくれてやろう」
「ありがてェ。恩に着る」

 ニカっと満面の笑みを浮かべて礼を言えば、ミホークは照れ隠しみたいにバサリと派手なマントを閃かせ、瞬く間に姿を消してしまった。

『ありがとうよ。師匠…』

 少々…いや、多分にデバ亀のヶはあっても、あんたはやっぱり義理堅い男だ。



*  *  *  
 


連れ込み宿に入ってローションでとろとろになるまで解され、ゾロのものを受け入れた時には内臓が全部押しのけられそうなくらいに感じたけれど、裂けることなく受け止めた場所は次第に快感を拾い始めた。
 擦過に合わせて肉壁を収斂させ、感じやすい場所を暴かれていくごとに嬌声を上げた。

 どくんと体腔内に迸りを受けた後は息も絶え絶えだったけれど、ずっと夢見ていた下腹の充実感に、涙を零して感動していた。

「てめェと…繋がってる…」
「サンジ…」

 熱い舌でぺろぺろと涙の筋を舐めあげていくゾロは、まるで大きな犬のようだ。感極まったように呟くサンジの声を受けて、突っ込んだままの雄蕊が硬度を取り戻していくのも獣並の体力が為せる技か。

「ちくしょー…うれしいぜ…っ…」
「この…っ!これ以上煽っと、あいつらと合流できねェぞ?」
「拙いな…そりゃ。…ぁんっ!」

 時間がないと口にしながらも激しく突き上げてくるのは、ゾロも一定の満足を得られるところまで達しておかないと収まりがつかないと言うことか。

 抱き合う形からくるんと体勢を変えられ、獣の肢位にされて激しく腰をぶつけられれば、先に放出された白濁が絡んで《ぐちゅっ!…じゅっ!》と淫らな水音が響く。簡素なベッドのスプリングが跳ねて、浮遊感に目眩がするようだ。

「てめェもまた感じて来やがったな?」

 後ろから覆い被さるようにしてのし掛かってきたゾロが、動きに合わせてぷるんと前後に揺れる花茎へと指を絡めてきた。そこは熱く滾って、また欲を吐き出そうとしていた。

「しょうがねェさ…。なんせ、最高のセックスしてんだからな」

 そうだ。ゾロとするセックスなら、誰の教えなど請わなくてもそれだけで最高のセックスになる。

「…っ!」

 きゅっと後宮を締め付けてやれば、ゾロの雄蕊は更に硬度と容積を増してサンジに甘い悲鳴を上げさせる。

「ぁ…デカ……っ…」
「どんだけ煽る気だ、このエロコック…っ!」

 《これからは、夜だけはこういう意味でエロコックとか言われんだろうなァ》…なんてアホなことを考えながら、サンジは体腔内に満ちるゾロの情欲を全身で味わった。

 

*  *  * 



「…というわけでな。貴様のところの養い子は、ロロノア・ゾロの嫁になることにしたようだ」
「ちびなすの奴がどうしようが、俺に関係あるか」

 バラティエを2年ぶりに訪れた珍客は、苦虫を噛みつぶしたようなオーナーの前で延々とサンジの話をした。この男、立ち去った振りをしてまたしても横合いから覗き見していたのである。ゾロはどうやら気付いてはいたようだが、サンジが気付いていないのを良いことに放置していた。ローションの代金とでも認識していたのかも知れない。

 おかげで、かなり良いものが見られた。
 ぼろぼろと涙を零しながらも、サンジは幸せそうに微笑んでいた。言葉は悪いが、内容的には恥ずかしいくらいの睦言を紡いで、あの武骨な剣士を無意識の内に悦ばしてもいた。その痴態はミホークをして隆々と性器を勃たせるに足るものだったので、そのまま花街に立ち寄ったミホークは、久方ぶりに一晩百人斬りを達成したくらいだ。なかなかの満足度である。

「面白い儒子だ」
「…まァな」

 ゼフはミホークの語る養い子の痴態を聞く度に眉間に深々と皺を寄せ、こめかみに太い血管を浮かせていたが、長い間の想いを実らせて泣くほど幸せそうに抱かれていたという部分だけは、仄かに微笑んで受け止めていた。

 ささやかな嫌がらせのつもりで来たのだが、意外と喜ばれてしまったらしい。
 苛烈な性格をしているくせに、この老人は意外なほど子煩悩なのだ。サンジが男に抱かれる身となったのは癪でも、幸せであるのならグランドラインに乗り込んでお仕置きをするなんてことはないようだ。火になって怒ることを楽しみにしていたので、少し期待はずれではある。

「なかなか艶のある男でもある。身体が熟れた頃に、摘み食いをしても楽しいやもしれん」
「この俺に、ミートローフにされたかったらやってみろ」

 《ドウ…っ!》と立ち上る怒気は現役時代を思わせる苛烈なもので、びりびりと肌を震わせるような覇気にニヤリと笑みが湧く。この男はこうでなくてはいけない。好々爺めいた微笑みよりも、怒り筋の方が似合う男だ。

「冗談だ」
「てめェの冗談は笑えねェ」
「ふむ。漫談で世界一になるのは難しそうか」
「目指すんじゃねェ。被害が広がる」

 ツッコミの能力値は高そうなゼフに言われて、ミホークはフォークでチンと食器を鳴らした。

「馳走になった。また来る」
「二度とくんな」
「養い子の話は聞きたくはないか?」
「必要がありゃあ、あっちから連絡してくる」

 どうやらこの老人にはとんと覗き見気質が無いらしい。無理に教えられれば幸せでいることは喜ぶが、積極的に介入するのはタチに合わないようだ。

「面白いな、貴様ら親子は」
「誰が親子だクソ野郎。腹が膨れたんならとっとと帰れっ!」

 これ以上長居をすると跳び蹴りが飛んできそうだ。老人にあまり無茶をさせると腰を痛めるかも知れないので、今日は大人しく帰ろう。この店は客を客とも思わないような態度だが、味は特上だ。その味わいを作り出している男に寝込まれてはかなわない。

『その内、あの養い子の料理も食べに行こう』

 《ふふふ》…と含み笑いをしながら、男体盛りとかいった無理難題を聞かせるためには、次はどのような策を練ろうか思案しているミホーク。この男…今更改めていうのもなんだが、吹っ切れるほど潔い良い覗き見スキーであった。



 頑張れロロノア・ゾロ。
 行け行けロロノア・ゾロ。

 君の能力が高まらないと、サンジが変態に大変なことをされてしまう。 



おしまい


あとがき


 「ストリップ話を書きたい。でも、カ○ちゃんの呪縛に捕まりそう」という不安を抱えていた狸山、やっぱり最初は冒頭に《タランタタンタン♪タンタンタン〜♪ポァ〜…ン♪》と打ち込んじゃいました。ストリップしそうな曲ってそれしか思いつかなかったのですが、何をどうやっても禿げズラ黒縁眼鏡の○トちゃんが思い浮かぶので、思い切ってフレーズは削除したら何とかスキモノっぽい話になりました。

 結果として、ミホークさんの変態ぶりのせいでコメディ風味になりましたが、そもそもこの企画部屋のコンセプトは「エロ」ではなく「スキモノ」なので、これで正しい…?の、かな?
 とりあえず、半笑いで愉しんで頂ければ幸いです。 


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