「指で見るひと」の指で全身を隈なく辿られたら、どんな心地がするだろう。
粟立ち、竦み、弛緩する肌の様子は細部に渡り、それこそ手に取るようにわかるのだろうか。
視覚ではない感覚で、自分でも見知らぬ場所を暴かれ開かれる。
そうと想像するだけで、怖気を伴った慄きが背筋を駆け上り、それとは裏腹に背徳感に満ちた快感が胸を熱くした。

「―――あ」
常とは違うトーンに気付いたか、ゾロが布の下を弄る手を止める。
岩のように硬い二の腕を掌で押さえ、手首の方へとすっと撫でながらずらす。
軽く腕を引けば、今までサンジの温かい場所にあった手が難なく抜き出された。
「爪・・・」
咎めるように少し睨み付けて、目の前に翳すようにゾロの腕を持ち上げる。
剣ダコだらけで逆剥けてささくれて、ゾロの指先は分厚くて硬い。
それでなお、少し伸びた爪が横にひび割れて欠けていた。
「いつの間にか、伸びたな」
サンジはソファの上に寝そべったまま体勢を変えると、腕を伸ばしてローチェストの中から爪やすりを取り出した。
足の間にゾロの手を挟むようにして、両足をだらしなく向かい合わせのゾロの肩に乗せる。
そうして、ゾロの指が妙な方向に捻じ曲がるもの気にしないで、自分の好き勝手な方向に持ち替えては5本の指の全部にやすりを掛けはじめた。
指先の、普段弄りもしない場所を繊細な手付きで静かに擦られて、ゾロはくすぐったいようなもどかしいような妙な心持ちで、それでも大人しくされるがままになっている。
サンジがゾロに触れる指は、料理をする時のそれと似通って慎重で丁寧だ。
大切なものを大事に扱い仕上げていく、指の動きは魔法に似た特別感がある。
自分の爪にやすりを掛けられている感覚より、サンジの指が動く視覚に意識が行く。

爪の表面までつるつるに仕上げると、細かな削り粉を指で撫で落とし、ふっと軽く息を吹き掛けた。
何度も自分の指の腹で爪の削り部分を擦って確かめ、指だけを引っ張って自分の口へと運ぶ。
小さく伸ばした舌の先が、爪に触れた。
ちろちろと擽るような動きから、爪だけでなく指全体を食むように口の中に入れ軽く歯を立て甘噛みする。
その辺りでゾロも限界を超え、口の中に入れられた指をサンジの下唇の内側に当てて軽く引っ張り、空いた隙間に口を付けて舌を滑り込ませた。
「ふく、ん・・・」
下唇を引っ張られたままのディープキスは、あまりに間抜けでみっともない。
サンジはすぐに抗議の声を上げ、指を外して唇と舌だけでお互いを弄り合う。
お払い箱となった指は仕方なく下ろされ、再びサンジの奥深く、湿った場所へと潜り込んでいった。


END



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