ツイッター続きました



稚拙な線で、マグカップに緩い表情の顔を描いた下手ウマ風イラスト。
それが、【ゆるマグ】さんのアイコンだ。
その雰囲気にふさわしく、ほのぼのとして可愛くユルいツイートの主がまさか、ゾロだったなんて。

衝撃の事実に、サンジはしばらく立ち直れないでいた。
実際、ツイートしている場面を目の当たりにしても未だ信じれらない。
だってゾロが、あのゾロが。
「勝ち越したった(*˘˘*)..:*
なんて、呟くなんて。



「そうか、ついに知っちまったか。いや~その現場に立ち会いたかったなあ」
暢気にカラカラと笑うのは、共通の友人ウソップだ。
「マジでびっくりしただろ?やー見たかった」
「知ってたんなら教えろよ!」
「いやいやいや、俺が言ったってお前絶対信じないだろ?つか、いつバレるかな、ずっとバレないかなとか超楽しみに見守ってた訳よ。思ってたより早く判明したなあ」
その場で見ていた訳でもないのに、なぜか思い出し笑いみたいに何度もぐふふと勝手に噴き出している。
「や、想像するだけで笑えるわ」
「完璧に面白がってるな」
とは言え、サンジだってもしゾロとの共通の友人がゆるマグさんの正体を知らなかったら、絶対バレる日を楽しみに待つだろう。
「知ってるも何も、ゆるマグさんのイラスト描いたの俺だぞ」
「え?そうなの?」
改めて、スマホの画面を眺めた。
「そうか、お前ほんとに絵、上手いんだな」
「かなり下手クソに描いたつもりなんだが」
「この下手ウマ感が絶妙なんだよ、ゆるマグさんの雰囲気に合ってるし」
「ゾロのイメージは?」
「カケラもない」
そう答え、また二人で噴き出した。

「じゃあ、このイラストありきでこんな名前付けたのかな。名前のセンスだけでも、ただ者じゃねえよなこのゆるふわ感」
サンジがそう言うと、ウソップはなんとも微妙な顔をした。
「なに?」
「お前、そこはまだ気付いてないのか」
「なにが」
きょとんと見返すと、ウソップはいやいやいやとしたり顔で手を振る。
「それもまた、いつ気付くか俺の楽しみにとっとくよ」
「なんだよ、その思わせぶり」
気にはなったが、いずれ自然に気付くことなのだろうと思って、それ以上追及はしなかった。




「おはよー。起きてるか?」
ゆるマグさんの正体がゾロだと知った日から、ツイでのやり取りがより頻繁になった。
ゾロはうっかり目を離すとすぐに居眠りするから、電車で乗り過ごすこともしょっちゅうだ。
サンジが定期的に話しかけてやってもLineじゃないから着信の振動で起こすことはできないが、きちんと日常生活が送れているかを確認することはできる。
――――おっきした(?OωO?)
「いま電車?乗り過ごすなよ」
――――なんでバレたの?Σ(=゚ω゚=;ノ)ノ
いちいち可愛くて、見る度肩が震えてしまう。
このツイの主が、無口で無愛想な三白眼の強面マリモだなんて、一体だれが想像するだろうか。

――――合宿から帰ったお。飯食お(●・ω・)/
「了解」
ゾロからの誘いに、つい頬が緩むのをなんとか誤魔化しながら返事する。
高校を卒業して以来、すっかり距離ができてしまったと思っていたが、ツイッターで繋がり思いがけない側面を知ってしまったせいか以前よりずっと近しく感じられる。
もしかしたらゾロは、本当はもっとお茶目でほんわかした性格なのかもしれない。
怜悧な見た目と乏しい表情筋のお陰で誤解されているけれど、実はけっこう気が良くて優しいってことくらいサンジだって知っていた。
ただ、予想の範疇より斜め上だっただけで。


今回はがっつり食べ系の居酒屋で、まずは乾杯とビールをかち合わせた。
適当に選んだ料理がテーブルにずらりと並び、その写メをツイに挙げていたら共通のフォロワーからリプが入った。
―――あー、またゆるマグさんとデートしてる(*´σЗ`)σ
デートってなんだよと、返信する前に操作が早いゾロの方が返した。
――― ゚+o。((イイデショ☆))´∀`*b)b。o+゚
おいおいおいおいおい。

「や、デートじゃないから」
―――ちがうの?(´・ω・`)
「誤解招くからww」
―――ショボーン。゚+.(・ω・`。)

一体どんな面してこんなの打ってんだと視線を上げると、どこまで無表情で生真面目な顔だ。
とてもこんなツイを挙げる人間とは思えない。
なのに、その左手は滑らかに動いている。
―――とりま (○≧∇≦)Ψイタダキマス!
「うっし、いただきまっす」

画面がダイレクトメールになった。
二人だけの会話の時は、他から覗かれないようダイレクトメールでやり取りすることが多い。
と言うか、目の前にいるんだから口に出して会話すればいいと思うのに、なぜか生声では会話が続かない。

―――この肉巻き、前にコックが作ってくれた弁当のに似てる(*´∀`*)
「よく覚えてんな。確かうちの高校が試合会場になった時の」
―――あの時の蜂蜜レモン、また食いたい(〃゚σ¬゚〃)
「蜂蜜レモンなんて、誰でも作れるだろ?それこそ可愛い女子マネちゃんとかいるんだろうに」
―――グル眉のが食べたい (^p^*)
「いつでも作ってやるけどさあ…」

そこまで言って、「ん?」と指を止めた。
ゾロは、なぜかサンジの名前を呼ばないでおかしな綽名ばかり付ける。
コック志望だからとコック、からのクソコック、エロコック。
特徴的な眉毛を指してクソ眉毛、エロ眉毛、それからグル眉…
―――ぐるまゆ

「え?!」
―――どしたの? ( ゚∀゚)
唐突に声を出したサンジに、ゾロは怪訝な顔を見せた。
それどころではなく、サンジはスマホ画面を見つめたまましばし固まっている。
―――グル眉、しっかり!! ( 'д'⊂彡☆))Д´)

いや、まさかな。
まさか、まさか…

サンジは真剣な面持ちで、ゾロの顔を見た。
その動きにつられるように、ゾロも顔を上げる。
サンジはこくんと唾を飲み込んでから、しんみりとした雰囲気を作って口を開いた。

「ゾロ、俺こうしてゾロとツイで繋がれてよかった」
―――なに、藪から棒に?( ゚д゚)
「だって、これだと離れていても会話できるじゃね?これ、外国からでも繋がるだろ?」
サンジはそう言って、愛しげに自分のスマホを両手で持った。

「俺、ずっと言ってなかったけど来週からパリ行くんだよ。離れてても、こうしてやり取りできんだよな…あ、でも時差とかあるかな。時差あっても、届くよな?」
ゾロの無表情が、少し陰った。
左手が忙しなく動く。

―――そんな急なこと、なんで早く言わないんだよヽ(`⌒´♯)ノ
「でも、こうして話しできるからいいじゃん。別に顔合わせなくても繋がってるって感じ?」
―――そんなん、全然違うぞヽ(゚Д゚)ノ
「そう?」
サンジはそっと手を伸ばし、ゾロの左手を抑えた。

「どう違う?口で言えよ」
挑むように見つめれば、ゾロは躊躇うように唇を開き、いったん閉じてからまた開いた。
「目の前にいる方が、いい」
「だったら、そうやって直接俺に話せばいいじゃん」
「…表現が難しい」
「お前の場合、表現って言うより表情なんだろうな。でも、別に無理して伝えようってしなくていいぞ。長い付き合いだし、お前が能面みたいに無表情でも、俺には大体わかるし」
サンジの手の下で、ゾロの指がもどかしそうに動いている。
スマホを弄りたいのだろうが、それはがっつり抑えて許さない。
「せっかくこうして顔合わせてんのに、お前とはスマホを通じてじゃないと話せねぇじゃねえか。それなら、ここにいてもパリにいても同じだろ」
「同じじゃねえよ」
「なんで?」
サンジは頬杖を着いて、じっとゾロの目を見つめた。
観念したかのように、ゾロの方から視線を逸らす。
「てめえが俺の目の前にいる…傍にいるってだけで、いい」
なんとか絞り出した声に目を細め、サンジはゾロの手の甲を擦ってから離した。

「大袈裟だなあ、たかが一週間くらいで」
「―――あ?」
ゾロの眉間の皺が、一気に深くなった。
これは怒っているのでなく戸惑っているのだと、サンジにならわかる。
「パリ行くっつっても、専門学校で希望募って一週間の海外研修だよ。土産、なにがいい?」
「てめっ・・・」
くわっとゾロの頬に血が上ったのを見て、サンジはケケケと笑った。
動転するゾロなんて、レア過ぎて写メりたいくらいだ。
けれどこれは画像として残すのではなく、自分だけの記憶の中に留めておきたい。

「やっぱさ、文字だけ饒舌なゾロもいいけど、こうして直接やり取りする方が俺はいいなあ」
サンジの襟元を掴みかけたゾロが、中空でぐっと拳を握りそのままテーブルへと戻す。
「言葉足らずでもさ、語り合うってそういうことじゃん。いいよ別に、不器用でも」
畳み掛けるようにそう言うと、ゾロは観念したように俯く。
そして解放された左手で、素早くスマホを操作した。

――――どうせならコックと、身体で語り合いたい(*´艸`*)
「あっ、てめっ、この…」
ダイレクトメールではなくタイムラインに直接呟かれ、サンジは青くなって立ち上がった。
これではフォロワーに丸見えだ。

「なに勝手に呟いてんだゴルァっ!!」

―――― (。・ ω<)ゞてへぺろ


End





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