ツイッター始めました



サンジは高校を卒業して初めて、スマホを買った。
今までガラケーすら持っていなかったから、すべて未経験で真っさらのド素人だ。
友人達に比べたら随分と出遅れた感は否めないが、専門学校入学を機に一人暮らしを始め、独り立ちした記念にと思い切って購入した。
これからはバイトしながら、なんとかやりくりしていくつもりだ。

気のいい友人ウソップに、早速扱い方を習う。
便利なアプリをあれこれ入れてもらい、手始めにFacebookかTwitterでも始めるかと誘われた。
Facebookとやらは本名で登録しなきゃならないみたいだし、最初にチャレンジするには敷居が高すぎる気がする。
そもそも日々の生活を送るのに精一杯でさして書きたいことも主張したいこともないから、身構えるだけで気疲れしそうだ。
サンジがそう言うと、ウソップは「ならTwitterだな」と使い方を教えてくれた。
「でも、特に呟くことなんかねえぜ」
「別になんでもいいんだよ。例えばそうだな、サンジなら作った料理とか自分のための記録って意味で写メってUPするのもいいぜ。画像は一覧で見られるし」
「そんな使い方もあんのか」
それなら、自分でもできそうな気がする。

手始めに、ウソップと相互フォローした。
それから共通の友人とわかる程度の知り合いを、ぽちぽちとフォローしてみた。
「“TT”って、これチョッパー?それに“兄貴”って、フランキーかな」
「そうそう、本名もじって登録してるのもあるし渾名もあるし、全然関係ない中二拗らせた名前もあるし」
サンジは“コックの卵”で登録した。
プロフィールは「料理人を目指して修行中」だ。


それから、サンジは休憩時間や寝る前などに、ポチポチとツイッターを覗くのが日課になった。
フォロー数もフォロワー数もさほど多くない。
けれど、それぞれ好き勝手にてんでバラバラなことを呟いていて、それでいて共通の友人同士で会話が成り立っていたりして。
とりとめもないカオスっぷりが、傍から見ても面白かった。
サンジも今日の夕食とか、カフェで一服とか時折写メをUPする。
そうすると「美味そう」とか「いまから食いに行く」とか、反応があるのがまた嬉しい。
Twitterを使うのも少しずつ慣れて行って、調子に乗ってプロフィールに「恋人募集中」と追加した。

知らない人にフォローされることもあるし、全然知らない人だけど面白い呟きをする人はフォローしてみたくなってきた。
“おすすめユーザー”の欄に、しょっちゅう『ゆるマグ』という人が上がってくる。
「そげキングさんとその他〜」と友人達が共通でフォローしているから、もしかしたらリアル友達の一人かもしれない。
鍵付きではないから試しに覗いてみると、かなり頻繁に呟いている人だった。
ただ、呟く時間帯にムラがある。
暇つぶしにがーっと呟くタイプのようで、元々お喋りなのかもしれない。
それこそ、なんてことない独り言ばかりだが妙に文面に味があった。
ためになるような薀蓄なんて欠片もないが、本当にどうでもいいことを可愛い顔文字付きで呟いていて、なんとなくほっとするような雰囲気がある。

――――席に着くなり爆睡してて、目が覚めたら違う講義だった(゚台゚lll
どうやら大学生らしい。
天然なのかお馬鹿を売りにしてるのか、判断はつきかねるが毎回細かいポカを相当やらかしてるっぽいのが和む。
――――そうっと移動したんだけど…[壁]ω・`)入ッテモィィ?
なんか可愛い。
天然系女子だといいなあとニヤニヤしつつ、話しかけてみる勇気はないからぽちっとフォローしてみた。
するとすぐにフォロー返ししてくれた、マメな人らしい。

――――コックの卵さん、(● ̄(エ) ̄●)ノ☆・゚::゚ヨロシコ♪
サンジも慌てて顔文字を探し「ヨロシクオネガイシマス(ツ _ _)ツ))」と返した。




学校とバイトの両立も落ち着いてきた頃、幼馴染のゾロから連絡がきた。
幼稚園からの腐れ縁だったゾロは大学に進学し、相変わらず剣道馬鹿な生活をしているらしい。
夏の合宿を前に買物に行くとかで、サンジの学校の近くまで来ていた。
「俺もバイトまで時間あるし、飯食うか?」
スマホを初めて「電話」として使ったサンジは、いそいそと荷物をまとめ待ち合わせ場所へと急ぐ。
二人でどこかに出かける時、極度の方向音痴なゾロは待ち合わせの場所に時間通りに辿り着いたことがなかった。
けれど今日は、ゾロがいまいる場所に自分が行くのだ。
早く辿り着かないと、勝手にどこかに移動してしまう恐れがある。

駅前の電光掲示板の前に、指定通りゾロが待っていた。
ほんの一、二か月会わなかっただけなのに、服装も雰囲気も随分と大人びて見える。
片手をポケットに突っこんで思案気に立つ姿はちょっとイケて見えて、むかっ腹が立つとともにほんの少しだけドキドキ来た。
「久しぶり」
「おう」
軽く挨拶だけ交わし、とりあえず並んで歩き出す。

ゾロは、極端なくらい口数が少ない。
小さい頃からの付き合いだからサンジには大体何を考えているかわかるが、初対面の相手やそう親しくない友人達には最初の内恐れられた。
ゾロは黙っていても目がきついし、ぶっちゃけ顔付きも怖い。
なまじ顔立ちが整っているだけに、取っ付きにくい印象がある。
そんなゾロの傍に、誰にでもフレンドリーで挙動が軽いサンジがいたから中和されていたようなものだ。
いままでのゾロの交友関係だって、半分以上サンジが取り持ったようなものだ。
そんなゾロだから、単独での大学生活はうまく行ってるんだろうか。
人のことながらつい心配してしまう。

「どうだ?大学」
「おう」
「連れとか、できた?」
「ああ」
何を聞いても「おう」とか「ああ」だ。
全然変わらないなとほっとしつつも、やはり気がかりだ。
取りあえず飯でも食おうと、かねてより気になっていたカフェに向かった。
ゾロ的にはどこかの食堂で大盛り丼でも食べたいとか言うかと思ったが、意外なことに大人しくついてきた。
「ランチタイムだし飲み物とデザートセットになってんだよな、どれにする?」
「一番食いデがあるもん」
「了解」
ゾロと二人で出掛けても、注文するのは自分の役目だったなと懐かしく思い出した。
とにかく、ゾロはすべてにおいて物臭なのだ。
ほっとけなくてつい、あれこれと世話を焼いてしまう。
「んじゃこのセットにこれとこれで・・・」
「甘ぇモン、いらねえぞ」
「俺が食うっての」
いつものようにと言いかけて、ふと寂しさが過る。
こうしてつるんで出かける機会なんて、この先減っていく一方なのだろう。
違う学校、違う道、違う将来。
ゾロとの接点はどんどん薄れていく。

「ちと、一服してくる」
「おう」
注文した料理が届く前にと、喫煙場所に向かった。
いまはどこも禁煙で世知辛いなあと、まだ未成年の分際で世を儚みながら軽く吹かす。
頃合いかとテーブルに戻ったら、予想外にすでに料理はテーブルに届いていた。
「お、もう来たのか」
「おう」
ふと見れば、ゾロは左手でさり気なくスマホを弄っている。
「え、お前スマホ持ってんの?」
「ああ」
「へえ、なんか手馴れてる感じ?」
サンジはまだできないが、フリック入力とかいうやつだ。
意外なゾロの器用さに瞠目し、それからいそいそと自分のスマホを取り出す。

「俺最近ツイッター始めたんだよね。ゾロはそんなん、ガラじゃねえか」
「・・・いや」
「これなんだけど―・・・」
サンジは自分のツイを開いて、それから「ん?」と首を傾げた。
ちょうど昼時で、フォロワーの何人かが料理写真をUPしている。
その中に、今目の前にある料理によく似た画像が―――

「あ、れ?」
そう、このセットはまさにゾロの目の前にある料理だ。
しかもテーブルの木目とかも一緒。
飲み物も、カトラリーの配置も。

サンジはスマホを見、テーブルに視線を落とし、再び画面を見た。
ゆるマグさんが『Ψ(。・∀・。)Ψイタダキマス 』と書いている。
「・・・え?え?」
ホームを押すと、更にツイートが増えた。
『(゜▽、゜)oO(ハラヘッタ) 。゚.o.ハヤクー』
「んなにぃ?!」
ビックリし過ぎて、思わず声を出してしまった。
カフェ内の客の視線が一斉に集中して、慌てて口を噤む。
なぜだか、画面の中でゆるマグさんが『 シーッ! d( ゚ε゚;)』としている。

「ちょっ。マジか?マジお前ゆるマグさん?」
声を潜めて問い詰めれば、ゾロは無表情のまま指だけ動かした。
『そーだよー(*゚ー゚)(*。_。)』
「口で言え口で!もしかして、俺のことわかってた?」
『一目瞭然♪d(´▽`)b♪』
「俺の目を見て喋れ!?つうか、なんで黙ってたんだよ。ってえか、お前こういうキャラ?マジ、俺が知らない内にいったい何があったー?!」

軽くパニックに陥ったサンジをどこか気の毒そうな目で見やって、ゾロはすすっと左手を器用に動かした。

『(m´Φ ω Φ`)m ゴメンニャ?』




End




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