囚われ人 7

重なり、繋がったまま二人で荒い息をつく。
汗の浮いた首筋を舐められてサンジはゆるゆると顔を擡げた。

「…もう、いいだろうが。手、外せ。」
手の内は全部見せた筈だ。
どう抗ったって自分はゾロを欲している。
穿たれて悦んでいる。
正直に話さなくても身体が全部白状しただろう。

なのにゾロは動こうとしない。
サンジの乱れた前髪をかき上げて、小さく舌打ちした。
「この、アホ眉毛め。ちゃんと最後まで責任を取れ。」
「あ?俺がなんだって…」
「てめえ見てっと勃つっつたろが!なのにピヨピヨ黄色い頭さらして人の前通り過ぎやがって。
 鍛錬しててもちっとも身が入らねえ。気が散ってしょうがねえんだよ。」

サンジはぽかんと口を開けたまま間抜けな顔でゾロを見た。
いきなり何言い出すんだ、こいつ。
「確かに、てめえの言うようにそれは堕落だろうよ。強さだけを追い求めてた俺に必要のねえもんだ。
 その生っ白い身体に跡つけてえとか、全部見てえとか奥まで突っ込みてえとか…煩悩まみれだ。
 けど手を伸ばしゃあてめえは応える。」
サンジの頬に両手を添えて、ゾロは真摯な表情で真正面から見据えた。
「応えるくせにそっぽ向いてやがる。そんなに嫌なら手短に済ませた方がいいんだろうって最近じゃ
 突っ込むだけだったが、そんなんなら、なんで最初に身を任せたんだ。」
ゾロの眼差しから目を逸らせない。
「挙句にもうやめにするだと、ふざけんな。てめえが始めたことなら最後まで責任取りやがれ。こっちは
 いつだって弄繰り回して舐め回してえのを限界まで我慢してんのに、人の努力を無にしやがって…」

呆けた顔でゾロを見つめるサンジの脳内は、すでにパニック状態だ。
だがさっきから髪を梳くゾロの手の動きはあまりに優しげで、乱暴な言葉と共に深く心に染みてしまった。



「まあ、こんだけ溜まってんのに他所の野郎について行かなかっただけ誉めてやる。」
その台詞で我に返る。
「そうだ、てめえ…もしあいつの誘いに俺が乗ったら…どうするつもり、だったんだ?」
すう、とゾロの目が眇められた。
「そん時ぁ、てめえがそれなりの男だったって思うだけさ。俺の中で斬り捨てるだけだ。こうして触れること
 なんざ、二度となくなったろうよ。」
その言葉に改めて背筋が寒くなった。
そして、動揺した自分に愕然とする。

不自由な両手を握り合わせて、サンジは祈るように目を閉じた。
「てめえは、どうしてあの男について行かなかった?白状しろ。」
ゾロの吐息が頬にかかる。
間近で見据えられて、その視線に囚われるヨロコビに身体が震えた。

「…てめえじゃ、なかったからだ。」

目を開ければ、愛しげに見つめるゾロがいる。
その目に背中を押されるように、サンジは素直に言葉を続けた。

「俺は、てめえの全部が欲しい。」



「よく言った。」
破顔して、ゾロはその痩躯を力いっぱい抱きしめた。









戒めを解いてお互いに腕を廻し抱き合う。
繋がった箇所は再び熱を持って摩擦を繰り返し、曝け出す快感に酔いしれていた。
「…あ、ああ…」
悦楽を隠すこともなく声を上げるサンジに満足して、ゾロはまたその最奥に精を放つ。
柔らかくそれを受け止め、全身を痙攣させながらサンジもまた何度目かの射精をした。



まだ少し痺れの残る両手をゾロの背中に廻し、傷のない肌を撫でた。
ゾロがサンジに触れたいと思っていたように、サンジだってずっとゾロに触れたかった。
こうして撫でて擦って確かめたかった。
サンジの手の動きを楽しむように、ゾロは目を閉じてじっとしている。
その顔を見ていて、はたと思い出した。

「…そう言えば、俺が始めたっつったよな。」
ぽつんと呟いたその台詞に、ゾロがぎょろりと目を開ける。
「あれか?リトルガーデンでてめえが足をぶった斬ろうとした時…」
サンジは目だけで空を見上げて記憶を辿った。
「やっぱ、俺からなんかしたのか?」

白状ついでに素直に問いかけて、ゾロの表情にぎくりとする。
さっきまで暢気に寝そべっていた大型の肉食獣は、なにやら目付きが獰猛になっていた。
額に青筋まで浮いている。

「…まさかと思うが、てめえ…忘れやがったのか?」
声が低い。
それに、忘れるというより良く覚えていないだけなのだが…
「いや俺、あん時酔っ払ってたし…」
「つまり、覚えてねえと…?」
ぴきぴきっと音が立ちそうなほど血管が浮いた。
針で突付けば水芸みたいな血飛沫が飛びそうだ。

「…お、俺がなんか…言ったのか?」
恐る恐る尋ねているのに、ゾロはサンジを見据えたまま黙っている。
その口元が引き歪んで笑いを形作った。
「確かに、てめえは酔っ払ってたな。人のこと散々アホだのボケだの罵倒して、足蹴にして、それから
 首根っことっ捕まえてこう言ったな。」

―――――俺の大事なてめえを、迂闊に傷付けんじゃねえ!

「は?」
サンジは怪訝な顔をしてゾロを見た。
ゾロは怒っている。
とってもとっても怒ってるんだぞ、って顔をしている。
「てめえは、はっきり言ったんだよ。俺が大事だって。最期まで見届けてやるって。そう言って自分から
 口付けて来たんじゃねえか。」

俺ですか―――――!!
サンジは声に出さずに絶叫した。

「あれを聞いた時から、俺は戦いの最中でもちらっとてめえの顔が頭ん中に浮かぶようになっちまったんだ。
 命なんざ惜しくねえが俺が死んだらてめえは泣く。せめて、鷹の目との対決を迎える日まで、それなりに
 考えて戦おうって気になっちまってた。」
ふい…と視線を逸らして、ゾロは大きく溜め息をついた。
「保身を考えてる訳じゃねえ、けど誰かのためにてめえを守るって気持ちも大事じゃねえかと気が付いた。
 闇雲に命賭けるだけが強くなる手段じゃねえからな。それに気付かされただけでも、よしとするか。」

最後は諦めみたいな口調だったから、余計にサンジの胸が痛んだ。
―――なんか、悪いことをした気がする。

素直になりついでに、考えるより先に言葉が出た。
「ごめん…」

ぽつりと呟いたサンジの顔を驚いたように見て、それから少々意地の悪い顔つきになる。
「ほんとに悪いとか、思ってんのか?」
「おう」
「なら身体にも聞いてみねえとな。」
とか何とか言いながら、またごそごそと弄り出した。
「ち、っちょっと待て!充分しただろうが!!」
「俺は全然足りてねえ。それにまだまだ夜は長いぜ。一晩抵抗するなっつったんだ。お日さんが昇るまでは
 まだ時間があるだろ。」
言いながら足首を持ってぱかんと股を開かされた。



サンジが盛大に悲鳴を上げる。

「この変態!くそマリモ!ホモ!絶倫腹巻!緑ケダモノ〜!!!」





サンジの足蹴りと罵詈雑言などものともせず、ゾロは尊大に笑った。

END

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