常し方  -3-


「んあ、ああ・・・」
サンジの身体を引き倒して、足を開かせその間の窪みに指を這わせている。
今まで何度も見た、見ることしかできなかった場所だ。
今そこに、ジェルで塗れた指を這わせ少しずつ中へと埋め込む作業へと取り掛かっていた。
「痛え、か?」
「ん、いた・・・く、ね」
とは言え、慣れぬ場所にはやはり痛みが伴うだろうしなにより気持ち悪いだろう。
なのにサンジは肌蹴た浴衣で口元を多い、声を殺してじっとしている。
片足だけ不自然に上げた格好が必死さを物語っていて、余計すまなさといじらしさが増す。
「力抜け、ちと撫でるだけでもいいから」「ダメだ」
すかさず頭を振った。「今日はぜってえ、最後までやる」
どんだけ固い決意なのか、サンジは明後日の方向を見たまま息も絶え絶えに言った。
「絶対、ゾロとひとつになる・・・決めた、んだ」
だから早くと、まだ固い蕾のままで焦れたように腰を揺らした。
その拙さがまた愛しい。
「大丈夫だ」
焦らなくていいと、宥めるように囁いて耳元にキスを施す。
肌を撫で髪を梳きながら、ジェルの力を借りて少しずつ指を埋め込んだ。
少し麻酔の作用もあるのか、比較的すんなりと秘所が解れて行く。
「だいじょう・・・ぶ」
サンジは蒼褪めた表情のまま、うっすらと笑った。
さきほどまで爆発寸前だった可愛いジュニアが、今は縮こまってしまっている。
よほど気持ち悪いのだろうと、サンジの感触を思いやればこれ以上とても進む気にはなれない。
「こんで十分だ」
そう言って指を抜き去り前へと手を伸ばせば、きつく払い除けられた。
「ダメだっつってんだろ、てめえがやんねえと俺が自分でやるからな!」
「そりゃダメだ」
慌ててまた指を戻す。
サンジはこれと決めたら絶対にやりぬく頑固さがあるから、もはや後戻りはできるまい。
ゾロも覚悟を決めてひたすら専念することに決めた。

「ん・・・く・・・」
痛いとか気持ち悪いとか、口に出して言えないせいかサンジは枕に顔を埋め表情まで隠してしまった。
尻だけ高く擡げて、ゾロのするように任せている。
とは言えずいぶんと解れて、指も二本まで入るようになった。
−−−これで充分だろう
入り口に押し当てて、擦り付けてイってしまおう。
そうすればサンジも満足するだろうと、この期に及んでゾロはそんなことを考えた。
だって、どう見ても物理的に無理な話だ。
こんなに慎ましく可愛らしい小さな孔に、自分のこれが全部入るとは到底思えない。
つかもう、絶対に無理。

「入れんぞ」
そのままひたりと押し当てようとしたら、サンジがやおら反転した。
涙と鼻水でぐっしょり濡れた顔を上げ、正面向いて改めて足を開く。
「こっちで」
「後ろからじゃなくていいのか?」
「顔、見た方がいい」
泣きべそをかいているくせに、なんとも幸せそうな表情でふへんと笑う。
ゾロはもう、愛しさが先に立って胸が詰まった。
本当はセックスができようができまいが、関係ない。
こうして目の前にサンジが存在してくれる、それだけで充分だ。
「いくぞ」
ぎゅっと両腕に抱き締めて、足の間に腰を沈めた。
濡れた尻の間に押し当て、前後に擦り付ける。
「・・・あ、あ・・・」
それだけでも刺激が強いのか、サンジは仰け反って喘いだ。
いつの間にか、股間のものは可愛らしく勃ち上がっていた。
ゾロと繋がろうとすることで感じているのだ。
―――たまんねえ・・・
ゾロはそれだけでイけそうだと、すぐにでも解放するつもりで腰を振った。
ぐにっとサンジの内側の肉が押される。
その動きに合わせるように、サンジも己の腰を押し付けてきた。
「ぞ、ろっ」
声に非難の色が混じる。
ゾロが闇雲に腰を振るから、ぬるぬると滑るのだ。
「ダメだ、いれろ」
「入ってる」
「・・・うそ、つけっ」
がしっと手で掴み、自分で押し当てた。
「ここ、だろ」
「無茶すんな」
サンジの狭くて小さな場所に、亀頭が減り込んだ。
これだけでも充分だと、入れた振りをしてイくつもりがついその熱さに飲み込まれる。
「ん、く・・・」
「いい、のか」
「いいっつってんだっ、ばか―――」
ここまで来ると、もう止まれない。
ゾロはサンジの片足を担いで、ぐっと腰を進めた。
ぬるつくそこが、さらに奥へと誘うように開いて行く。
「んひ、ぎ・・・」
潰れたような声を出し、サンジが顔を歪めた。
ああ痛いんだろうと思うのに、このまま止まる方が酷だと判断する。
「・・・堪えろ」
白い肩を抑え、小刻みに腰を揺らしながら少しずつ中へと押し入っていく。

あんなにも小さな孔だったのに。
初めての行為だったのに。
こうして己の欲望のままに開かせてしまうことを申し訳なく思う反面、素直に嬉しいと感じた。
俺だけのものだ。
俺だけを知って俺だけを受け入れた、誰にも渡せない俺だけのもの。
「んあ、ああ・・・」
あまりに狭くて熱い内部は、ゾロの侵入を拒むようにうねりながらも柔らかくまとわりついてきた。
想像以上の気持ちよさに目が眩みそうだ。
「あ、入っ・・・入っ、た?」
ぜえぜえと息を上げながら、サンジは宙に視線を彷徨わせ熱に浮かされたみたいに叫んだ。
「あ、あ入った」
全部入れてはいけないと、あれほど用心したのに。
ほとんど入れてしまった。
早くイかなければ。
「イくぞ」
「ま、まだ・・・」
少しずつ、身体を揺らしていく。
なるべく奥まで突かないようにと加減するつもりなのに、動かすほどに奥深くまで勝手に身体が進んでしまった。
「ひ、あ・・・い、いた―――」
「悪り・・・」
「いい、いい・・・んだ、も―――あ」
「くそっ」
「ああ、い・・・あた、る・・・おく、があああ」
ゾロの腹に、完全に勃ち上がったサンジのモノが擦れた。
苦しいばかりではないのかと、ほんの少し安堵して緩やかな動きへと変化させる。
サンジの中を味わうようにゆっくりと、丁寧に。
「あん、あ・・・ふ―――」
声に明らかな嬌声が混じってきて、顔にも血の気が戻ってきた。
急がなければ、男でも快楽が拾えるのだと思い直して、中を探るように慎重に腰を進める。
「んひ、ひ・・・」
「辛え、か?」
「ひ、い・・・ん、い・・・」
なんとか快楽を拾おうと努力する様がいじらしくて、ゾロは腰を揺らしながらサンジの身体を抱き締めた。
「んあ、そ・・・」
きゅうっとゾロを咥えた部分がきつく締まる。
すべてを身の内に納め、更に貪欲に飲み込もうとするかのようにサンジの内壁が収縮した。
「そ、あ・・・あああ、イ、く―――」
「・・・くっ」
引き抜く暇もなく、ゾロはサンジの奥深くへと溜まりに溜まった熱情をすべて注ぎ込んだ。


「・・・あ―――」
ゾロの腹に熱い飛沫を迸らせて、サンジはがくりと仰向けのまま倒れた。
肌蹴た胸が呼吸に合わせて大きく上下している。
額には汗が滲み、目尻から流れ落ちた涙がこめかみを伝い髪を濡らしていた。
「は・・・」
「大丈夫か?」
ゾロはまだサンジの中に身を納めながら、額を撫でて髪を梳いた。
サンジは浅く喘いだまま薄目を開け、うんと掠れた声で呟く。
「・・・ゾロ、イった?」
「ああ」
その答えに、泣き出す一歩手前みたいな表情で微笑んだ。
「・・・おれも・・・」
笑った口元が慄いている。
ゾロはそんなサンジの頭を抱きかかえ、ぎゅっと力を込めて自分の胸に押し当てた。
「やった、な」
「うん・・・」
うん、できた―――
やっと一つになれた喜びか、一大プロジェクトを成し遂げた達成感か。
なんだかわからないが言いようのない感動に包まれて、二人して声もなく抱き合った。


「はあ…参った――」
サンジは寝転んだままけだるげに伸びをして、座卓の下に置いた煙草を掴む。
ずるりとゾロのモノが抜けて、う…と身体を丸めた。
「痛えか?」
ティッシュを押しあてながら、ゾロが気遣った。
下半身をされるがままにして、サンジは仰向いて煙を吐く。
「いや…痛みはねえよ。ただなんか、まだ挟まってるみたいで…」
「ああ」
ゾロもサンジの煙草から一本拝借して火を点けた。
珍しい姿に、サンジは黙って目を丸くしている。
吸えなくもないが、美味いもんじゃない。
「入ったんだもんなあ…」
これが…と言葉を続ける必要もなく、二人して頷いた。
「すげえな」
「ああ、すげえ…」
サンジは吸い殻を灰皿に押しつぶすと、猫が伸びをするように四つんばいで身体を起こした。
浴衣ははだけまくりで、腰紐と一緒に巻き付いている程度だ。
「もっかい、風呂行こう」
「連れてってやる」
慌てて火を消すゾロに笑顔を向ける。
「自分で行けるよ」
でも、一緒に入ろう。
そう誘われて、ゾロに二言はなかった。

「ひゃ〜寒いくらいだなあ」
夜風に曝され、火照った肌はすぐに冷えた。
熱めの湯にゆっくりと身を沈め、しばらくは熱いだの寒いだのを繰り返す。
「ぷはー」
肩まで沈めてようやくひと心地ついて、二人して深い息を吐いた。
「あ〜気持ちいい〜」
「空見てみろ」
ゾロに促されて見上げれば、輝く月の影に隠れ、いくつもの星が瞬いていた。
じっと見上げている内に目が慣れて、徐々にその数を増して行く。
「きれーだなあ」
「絶景だ」
深い闇で昼間見た艶やかな紅葉は見えないが、しんと静まり返った夜の中、さらさらと耳に心地よい渓流の音だけが響いている。
「変わるかと、思ったんだ」
「ん?」
檜の縁に両腕を組んで顎を乗せながら、サンジはぽつりと呟いた。

「お前と一つになれたら、何か変わるかと思ったんだけど…」
「うん」
黙って見つめあう二人の間を、川のせせらぎだけが包み込む。
「なんも、変わらねえな」
サンジはぱかりと、あどけなく笑った。
確かに尻には違和感あるけど。
思い出すだけで、内臓が全部ひっくり返そうなくらいの痛みと衝撃があったけど。
「なんも、変わんねえ」
夜は静かで星は綺麗だ。
月は黙ってただそこにある。

サンジは静かに湯を掬って、片手で顔を洗った。
ぱしゃりと、水音だけが響く。
濡れた顔に新たに雫が浮かぶのを隠すように、また顔を洗った。
ゾロは狭い風呂の中で身体を寄せて、腕を回す。
「お前で、よかった…」
すんと鼻を鳴らし、顎から雫を垂らしながらその胸にもたれかかる。
「なんにも変わらねえで、よかった」
幸せでよかった。
お前がいて、よかった。
ゾロは何も言わないで、膝の上にサンジを載せてその身体を抱き込んだ。
夜風に吹かれて冷えた肩に頬を寄せる。
「あったまったら、もっかいしよ?」
サンジの誘いに、ゾロはもう「いいのか?」と問い返しはしなかった。





最高の温泉宿を満喫したついでに、朝になってからフロントに連泊を申し出た。
平日だったせいかすんなりと要望が通り、もう一泊できることをサンジは飛び上がらんばかりに喜んだ。

「言ってみるもんだなあ」
「急いで帰ることもないしな」
和々には電話で断りを入れた。
ゾロも組合に詫びを入れ、この埋め合わせは必ず!と受話器片手に誰もいない空間に片手を切っている。
「たしぎちゃんが、ゆっくりして来いって」
「ヘルメッポは土産の催促だ」
お互いに携帯を切ってから、顔を見合わせる。
昼間は旅館から出て、どこか散策に出掛けなければならない。
近くの紅葉の名所に行くか、寺めぐりでもするか。
「お土産見てな、薬局探そう」
「薬局?」
素で問い返したゾロに、サンジは足を止め真面目な顔で振り返った。
「初めての時は致し方ありませんが、二度目からはきちんとゴムを使うように」
―――――誰?
いきなり誰が乗り移った?

呆気に取られたゾロを後にして、サンジは足取りも軽く落ち葉舞う秋の道を歩きだした。



旅館のフロントで薬局の場所を聞き、ぶらりぶらりと散歩がてら温泉街を歩く。
道に沿って流れる小川からは湯気が立ち昇り、コンクリートの土手は茶色く変色し、あるいは白く石化していた。温泉地らしいなと、燃えるような紅葉を愛でつつ二人寄り添って歩く。
高山らしく風は冷たく、気温だって随分寒い。行き交う僅かな人々もそれぞれに寒そうに首を竦めて早歩きしているから、男同士で引っ付いていてもそう不自然ではないだろう。ゾロはそう理由付けて、コートの前を広げサンジの身体を包み込んだ。お前、そりゃないだろうとすげなく身をかわされて空っ風だけが懐に入る。
「あ、あそこだ」
サンジが指差す先に、個人経営らしき小さな薬局があった。よく考えたらコンビニでも買えるじゃねえかと思い当たったが、あそこは種類が限られているし・・・と思い直した。種類というか、サイズというか。
「どこにあんだろうな」
自動ドアを抜けて店内を見渡し、気軽に話しかけるサンジを注意する暇もなく店員が歩み寄ってきた。
「何かお探しですか?」
ピンク色の医療着?みたいなものを着た女性だ。年は結構いってるだろうが、小奇麗にしていて品もある。
「えっと・・・」
答えかけるサンジの口を慌てて塞ぎそうになった。いかん、それはそれで挙動不審だ。
「自分で探しますんで」
冷や汗を掻きながら素っ気無く答えた。店員もそれ以上は立ち入らない方がいいと判断したのか、「どうぞごゆっくり」とあっさり引き下がる。が、そこで許してくれないのはサンジの方だった。
「なんで?聞いた方が早いんじゃね。避妊具どこですか?」
あちゃ――――
思わず頭を抱えそうになったゾロの前で、店員はそれでしたらと笑みを絶やさないまま片手を挙げた。
「こちらでございます」
「へえ、これ全部?」
店の奥まった場所、目立たない辺りにそれらはあった。
店員はサンジと直接話した方がいいと判断したのか、親切かつ事務的に応対し始めた。
「こちらは無臭タイプです、こちらはほのかな香りつき。味がついているものもございます。薄さで言うとこちらでしょうか」
「やっぱ薄い方がいいのかな」
「そうですね、あとサイズも色々ありますよ」
「え?そんなのあるの?」
もはやサンジは興味津々だった。ゾロはと言えば今更他人のふりもできず、天井辺りに視線を彷徨わせている。
「なあ、お前のってこんくらいかなあ。ゾロ」
――――勘弁してください。

無事?避妊具も買い終えて、サンジはホクホク顔で前を歩いた。途中、温泉煎餅を見付けすばやく二枚買っている。
「俺、こうして何か食べながら歩くのって好きだ。ガキん時ジジイに行儀悪いって叱られてできなかったから」
「そうだな」
ほとんど上の空で返事をしたら、肘で脇腹を小突かれた。
「なんだよ、シケた面して」
「・・・湯中りでもしたかな」
惚けて空を見上げた。昨日と同じく天候に恵まれ、すかんと晴れた空の青が目に沁みる。
「これで、これからのご褒美≠焉Aより充実したもんになるだろ」
パリンと煎餅を齧りながら先を行くサンジに遅れ、ゾロは立ち止まった。
「ん?」
気付いて振り返る、サンジの口元に煎餅のクズが付いている。
「もうご褒美≠ヘナシにしようぜ」
その目が、大きく見開かれた。
なんで?と戸惑いが顔に出て、煎餅クズが付いているのに一気に悲壮感が現れた。
「もう、ナシって・・・」
「ご褒美じゃなくて、セックスしよう」
たまたま通りかかった観光客がぎょっとして振り返ったが、ゾロはまっすぐサンジだけを見詰めて言った。
「理由なんてもう、付ける必要はねえだろ」
好きだから触れたい、愛してるから抱き合いたい。感じたいから繋がるんだ。
「店が終わってからとか、がんばったからとかそういうのはもうナシだ」
「・・・うん」
花が綻ぶような笑顔を見せ、力強く頷き返す。ゾロは大股で追い付くと、手を伸ばしてその頬に触れた。
風に晒されて冷えた肌を軽く払い、クズを落としてやる。
「俺もやりたい時に誘うから、お前もそうしろ」
「わかった」
なら、今すぐやりたい・・・顔を寄せてそう囁かれ、危うくそのまま口付けそうになった。
ここはまだ温泉街。つか商店街のど真ん中。脇をチリンチリン言わせながら自転車が通り過ぎていく。
「宿、帰るか」
「おう」
うっかり引っ付きそうになるのをお互いに抑え、適度な距離を取って旅館までの道のりを早足で歩いた。

どんなに冷たい風が吹こうとも、シモツキより気温が二度低かろうともまったく寒くない。むしろ熱いほどに身体が火照り心が燃えた。
そんな二人を祝福するみたいに、色とりどりの枯れ葉が風に舞いながら降り注いでいる。





END


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