推定無罪 -3-



したい時にやれる生活は、なかなか快適だ。
ふともよおして目で誘えば、敵襲や悪天候でそれどころではない時以外は、すんなりと乗ってくる。
挿入するまでに若干の手間を要するが、弄くることが面白いから苦ではない。
どちらかと言えば淡白な性質だったのに、今ではその姿を見ただけでムラムラとその気になることだけが唯一の弊害と言えるだろう。

当初の予測どおり、あちこち弄って焦らしながら中出ししてやればすぐにイくようになった。
最近は声を抑える努力も放棄したのか、控え目ながらいい声で啼いたりもする。

快感を隠さず身を捩らせるサンジの姿は男ながらに扇情的で、ゾロを容易く昂ぶらせた。
ゾロの誘いに最初は渋ってみせるくせに、唇を合わせて宥めるように背を擦れば途端にクナクナと力を抜いて身を委ねるのだ。
仲間達に悟られぬよう密会を重ねるのもスリルがあり、最高の娯楽といえる。







「そろそろ島影が見えてきてもいい頃なんだけどなあ・・・」
ナミは、見張り台で望遠鏡を覗きながらため息をついた。
「ナミさんの予測だからもうすぐだよ。ハズレっこないさ」
恭しく夜食のケーキをサーブしながら、暖かい紅茶を淹れる。
「こないだ海軍を遣り過ごす為にちょっと航路を変えたからね。あっても1日か2日の誤差だと思うの。ごめんね、サンジ君」
「大丈夫、食糧にはまだ余裕があるし、あと1週間ずれたとしても問題ないさ」
ことりとナミの前にカップを置くと、ナミの視線はその手からすっとサンジの顔へと移った。
「なに?ナミさん」
臆せずにじっとサンジの目を見詰めて、何故だか困ったような表情をする。
「なにかしら、よくわからないけれど・・・サンジ君、感じが変わったわね」
「え?」
意外な言葉にきょとんとする。
「感じっていうか、雰囲気って言うか。うーん・・・落ち着いた、じゃないな大人びた?でもない・・・そう―――」
一人で首を捻りながら思案する。
「そうね、しっとりしたと言うか、なんかこう・・・ちょっと色っぽい?」
途端、サンジの目がハート形になり鼻の穴が膨らんだ。
「ええっ、それってセクシー?俺セクシー?んナミっすわ〜んっ」
「ち、がーう!」
反射的にクリマタクトを取り出して脳天を叩きつける。
自分でしておきながら床に沈んだ金髪を気の毒そうに眺め、椅子に腰を下ろした。
「ったくもう、本気で心配して損しちゃったわ」
「ええ、心配してくれたの?感激〜v」
「違うっての!心配とかじゃなくて・・・なんか違うなーって思っただけよ、馬鹿」
ぷんと頬を膨らませて、程よく冷めた紅茶を啜る。
サンジはでへへと照れ笑いしながら見張り台から降りていった。

「あ〜・・・なんか冷や汗掻いた」
「何が冷や汗だって?」
「うおっ」
暗がりからいきなり声を掛けられて、マジビビりながら振り返った。
闇に白目、何度見ても見慣れない。
「何でもねえよ、馬鹿」
ナミに投げ付けられた「馬鹿」をそっくり転送して、動揺を隠すつもりで煙草を取り出す。

「まあいい、付き合え」
「・・・・・」
ちっと申し訳程度に舌打ちを返した。
だが拒否することもなく、さっさと歩き始めたゾロの後ろについていく。

最初のうちはシャワー浴びろとか疲れて眠いとか、何かと文句を付けてきていたが、このところはそれさえも言わなくなった。
ゾロにしたらただやりたいだけなのだから、従順なのはいいことだ。



とりあえず格納庫に引っ張り込んで床に転がした。
ゾロが腹巻から香油を取り出している間に、サンジはさっさと下だけ脱ぐ。
殆ど暗闇に近い空間で手探りでの行為だから、羞恥心は随分と薄れるようだ。

いつものようにひやりと冷たい尻たぶを撫でながら使う箇所をさっさと解しに掛かったら、同じくらい冷えた手がやんわりとゾロの手首を掴んだ。
「お前、風呂入った?」
思いもかけず間近から声が掛かる。
鼻先が触れるくらいの位置に、顔があるのだ。
「ああ」
まだ火照るくらい身体は温まっている。
サンジが身に纏う、冷えた空気が心地いいほどだ。
「・・・なら、サービスしてやるよ」
昼間聞かせるのとは明らかに色の違う、艶を帯びた声。
ゾロが初めての相手だっただろうに、サンジは回を重ねるごとに花開くように変化していく。
元々素質があったのだろうと、ゾロは勝手に納得した。

サンジの手はゾロの手首を離れ、胸をなぞるように降りて下腹部で止まった。
腹巻を引き上げてズボンの中に手を差し込む。
陰毛越しにも冷たい指先が触れて、すでにいきり立ったそこが尚更熱く感じた。

「相変わらず、やる気満々だな」
「誰のせいだ」
ゾロの軽口にまたちっと舌打ちをしたが、闇に慣れた目で見れば、背けた頬が少し赤味を帯びていた。
照れているのだ。

「ったく、無駄にでかくて―――」
やや乱暴に引き出しながらも、包み込むように両手を添える。
何をする気かと腕組みして見ていたら、サンジは横を向いたまま頭を下げてきた。
柔らかなものが触れる。
おずおずと口付けを施しながら、サンジはそれに頬擦りした。
皮膚の表面までひやりと冷たい。
白い面に自分のそれが黒い影となって寄り添うのを目にして、かっと下腹に血が集まった。
これはまた、ビジュアル的に相当クる。

さらに活気付いたそれに、サンジはやや厭そうに顔を顰めながらも唇を尖らせてキスをした。
見せ付けるように、音を立てて何度か口付けを繰り返し、舌を伸ばす。
開いた唇の間に飲み込もうとするのを、ゾロは手を伸ばして遮った。
中断させられたのが不満なのか、サンジは横目で胡乱気に視線を返した。

「何をする気だ?」
ゾロは、口元を笑いの形に歪めたまま厳しい眼差しでサンジを見ている。
「何って、サービス」
その反応が意外すぎて、サンジは少し戸惑っているようだ。
ゾロはしばらく逡巡したようだが、伸ばした手をサンジの頭に移動させてくしゃりと髪を撫でた。
「まあいい、やれ」
「まあいいって、なんて言い種だっ」
ゾロの態度に憤慨しながらも、先端を口に含んで舌で舐める。
ゾロのモノがぐんと質量をましたから、機嫌はすぐに直った。

「なんだってんだ・・・こっちのがよっぽど正直じゃねえか」
「・・・ふん・・・」
ゾロはサンジの髪をメチャクチャに撫で回して、頬や目元に指を這わす。
髪を弄るのが好きなようだ。
サンジも、髪を梳かれるのは気持ちがいいから好きなようにさせている。
「お姉さまのテクには、及ばねえけどな・・・」
温かな口内で嘗め回して、ちゅぷんと唇を離す。
ゾロは目を細め、サンジの前髪を掻き上げて額を曝した。
「こんなこと、させたことねえよ」
「え?」
先ほどまでの妖艶な雰囲気はどこへやら。
素でびっくりしたサンジが、ぽかんとした表情で顔を上げた。
「え、してもらったことねえの?なんで?」
「知りもしねえ奴に、急所預けられるか」
憮然とした顔で応えれば、サンジはゾロのモノを頬にくっ付けたまま得心したように頷いた。
濡れたそれに改めて口付けを落として、いとおしげに頬擦りする。
その仕種が妙にいとけなくて何故だか堪らない気分になって、その小さな頭を鷲掴みして頬張るように促す。
口をいっぱいに開き、苦しげに顔を歪めながらも一生懸命咥える様は、ゾロの胸にまた別の種類の興奮を
呼び起こした。

自分から腰を押し込めるように揺らしながら、腕を伸ばしシャツの裾から白い双丘の奥を探る。
香油を何度も塗りたくり、湿り気を帯びたそこに指を差し込めば、サンジはゾロの股間に顔を埋めたまま腰を揺らめかして身を捩った。
逃げを許さず、やや乱暴に執拗に穿つ。
ゾロのものを咥えたままサンジはくぐもった声を発して、生暖かい息が下腹を濡らした。
「あ・あ・あ―――」
横倒しになり腰を引くのを、尻を掴んで固定して、ぐちゃぐちゃと音を立てながら抜き差しを繰り返す。
いつもよりこなれるのが早いと、気付いて尚も口に出し呷った。
「感じてやがんのか」
「う、や・・・」
口から抜け落ちたペニスに噛み付くようにいやいやをして、サンジは顔を伏せた。
「ぐちょぐちょだぜ。俺の指を根元まで咥え込んでやがる」
覗いた耳朶に、息を吹き込むように囁いた。
「俺が、欲しいか?」
かすかな光を弾いて白く浮かぶ金髪が、わずかにこくりと揺れる。
痩せた腰を横抱きにして、片足だけ上げさせて押し入った。
不自然な体勢だが、濡れたそこは軋みながらもずぶずぶと熱い塊を飲み込んで行く。

「い、あ・あああ・・・」
悲鳴とも嬌声ともつかぬ声を出し、サンジは仰け反って床を掻いた。
乱れたシャツの襟元から汗に濡れた肌が覗く。
ゾロはサンジの中に深々と己を沈めたまま身を屈めて、忙しなく上下する喉仏を舐め、シャツの下から胸をまさぐった。
尖りを捉え、きついほどに摘み上げながら挿迭を激しくする。
「はうっ、い・い、あっ―――」
サンジの身体を引き倒し、上から圧し掛かるようにして腰を落とす。
高く掲げた膝裏に噛み付き、円を描くように揺さ振りながら乳首を指の腹で押し潰した。
「あ、ン・あああ―――」
飛び出た悲鳴を隠すように、反射的に両手で口を覆った。
その手を払い除けるようにして、濡れて開いた唇の間に指を滑り込ませる。
先ほどまでねっとりとペニスに絡み付いていた、薄い舌を。
この舌を―――
指で挟み扱くようにして引き出し捻る。
サンジは焦点の合わぬ眼で見上げ、目尻からほとほとと涙を零した。
「んぐ、ひ・い―――」
小さく痙攣して、ゾロの指を噛み締める。
力で抉じ開けながら律動を繰り返す腹に、ぴしゃりと生暖かい液体が打ち付けられた。

ゾロを飲み込んだ内壁が恐ろしいほどの勢いで収縮し、さらに奥へと誘うように躍動した。
「―――くっ・・・」
口端から涎が滴るのを自覚しながら、ゾロもまた大きく胴震いしてサンジの最奥に欲望を迸らせる。



ずくずくと、馴染ませるように何度も擦りつけ名残を惜しむ。
眩暈すら感じるほどの悦楽に身を任せ、ゾロはサンジの上で深く息をついた。
壊れた人形のように四肢を投げ出し、ゾロの動きに合わせて揺れていたサンジが、ふと両手を伸ばす。
ゆるゆると、彼らしくない緩慢な動きでゾロの肩に触れ、背中へと指を伸ばした。
両手で抱えるように。
大切なものを、いとおしむように。
しっかりと、けれど優しく。
柔らかく。

肌を合わせる温もりと確かな鼓動が直接胸から伝わって、ゾロは柄にもなくその痩躯を抱き締め返した。







1日予測を違えただけで、予定通り島に着くことができた。
久しぶりの上陸に、仲間達は心弾ませて街へと飛び出していく。
ゾロも適当に武具屋を冷やかして回りながら、建物が見える範囲でぶらついた。(ロビンからのアドバイスだ)
いつもならばどこかの酒場に入り浸って、適当に声を掛けて来た女の元でログが溜まるまでの日々を過ごすのが日課だった。
だがこれからは、そんな必要もない。
上陸する度にナミから支給される小遣いはたかが知れている。
宿泊費と食費、それにたまに女を充てれば、酒代までとても捻り出せない額だ。
だがこれからは、サンジにくっ付いていればまともな飯は食えるし宿代も安くつく、何より女に掛ける金が無用。
いいこと尽くめだ。

酒屋に立ち寄って、いい酒をまとめ買いした。
その足で適当に彷徨い歩き、夕暮れには目的だった船着場に到着する。
サニー号のラウンジから漏れる、仄かな灯りに導かれるように近付いた。


船の揺れに気付いて顔を出したサンジは、煙草を口に咥えたまま目を丸くした。
「どうした。迷いすぎてスタートに戻っちまったのか?」
しょうがねえマリモだと悪態をつきながらも、口元は緩んでいる。
「飯はまだか?何、酒だけ抱えてんだよ」
「土産だ」
ぶっきらぼうにそう言ってテーブルに置けば、サンジはなんとも言えない顔をして、しばし酒とゾロの顔を交互に見比べて突っ立っていた。
「あんだ・・・しょうがねえなあ」
口元を尖らせて、ぶすっとした顔で背を向ける。
だが手付きは軽やかで、油断すれば鼻歌の一つも飛び出してしまいそうな浮かれた雰囲気が漂っている。

「せっかくの陸だってのに。たまには綺麗なお姉様と、やーらかくて甘い一夜を過ごせばいいのによ・・・」
独り言のように呟く台詞は、本心と虚栄心が交互に渦巻いて複雑な響きをしていた。
ゾロはそれに、うっすらと笑みを浮べて言葉を返す。

「そんなもん、もう必要ねえだろ」
ゾロの声を拾った耳が、金糸の隙間からでもはっきりとわかるほどに赤く色付く。
あれを舐めてえなあと、口内に湧いた唾液を、音を立てずに飲み下した。





サンジは、ゾロに弄くられるのが好きだ。
乱暴にあしらわれて、優しくない手で暴かれて、形ばかりの抵抗を封じられて犯されるのが好きだ。
侮蔑に満ちた目で見詰めても、嘲りの言葉を浴びせても、例えそこに触れられなくても、奥を突かれるだけで勝手に蜜を滴らせ、呆気なく達してしまうほどにゾロに犯されるのが好きだ。


サンジはゾロが好きだ。

ゾロはそのことを、知っている。






END


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