Silent noise
-8-




苦しげに顰められた眉が凪いで、ふとサンジが薄く目を開けた。
金の睫毛に縁取られた案外大きな瞳は、薄く膜が張ったように濡れて滲んでいる。
半開きの唇は赤く染まり、開いた隙間からピンク色の舌が覗いた。

サンジの急激な変化に、ゾロはたじろいで身を起こす。
床に投げ出された両手は、戒めるものがないのに手首を重ねるようにしてぴくりとも動かない。
息をする度に大きく上下する白い胸はアバラも肋骨も浮いて見えるのに、色づき立ち上がった乳首だけが
鮮やかにその存在を主張している。
まるで誘われたかのようにゾロはそこに顔を寄せ、舌を伸ばして舐め上げた。

「・・・ん」
鼻にかかるような甘ったるい音。
俄かに信じ難く驚いて顔を上げたゾロの下で、サンジがうっとりと微笑んでいる。
その瞳は、どこか空を見つめていて目の前のゾロの顔にも焦点が合っていなかった。
「てめえ・・・」
動きを止めたゾロの手を、催促するようにサンジが腰を振った。
ぬちゃりと、粘着質な音が立つ。
ゾロはつられたように動きを再開させ、サンジの乳首にむしゃぶりついた。

「・・・ああ・・・」
ため息のように何度も息をつきながら、サンジが快感に身体をくねらせる。
上気した頬はバラ色に染まり、半開きの口元からは唾液が零れ落ちて、濡れた舌が物欲しそうに突き出される。
その度にゾロは、乳首に名残を残しつつ唇を食み、また首筋を舐め鎖骨を齧りと、忙しなく愛撫を施した。
すぐに立ち上がり露を滴らせたそれをそのままに、指で後孔を探る。
そっと入り口をなぞれば、息づくように蠢いて垂れた精液がその内壁へとゾロの指を誘った。
ためらいがちに指を刺し込み奥へとなぞる。
絡みつき締め付ける粘膜の動きが余りに淫らで、ゾロは改めて、サンジが拘束され慣らされた時間の長さを
思い知らされた。

「もっと、突けよ・・・」
あり得ないほど優しい声音でサンジが囁く。
相変わらず熱に浮かされたように見上げる瞳は、ゾロを見ていない。
「指を増やして、もっと抉って・・・」
ついと、口端から涎が零れた。
サンジの瞳が爛々と光っている。
「もっと酷く、めちゃくちゃに、早く―――」
ゾロは促されるままに指を増やし、乱暴に掻き混ぜる。
サンジの口からはひっきりなしに嬌声が漏れ、自ずと足が開き腰が浮き上がった。
とめどなく溢れ出る精液が床を汚すほどに垂れ、ゾロの指の動きをより容易くさせている。
ぐちゃぐちゃと激しく立つ水音が欲情を煽り、ゾロは指の股が当たるほどに何度も突き入れ抜き差しを繰り返した。

「ああ、イくっ、イくうっ・・・」
感極まった声を上げ、サンジの身体が大きく震える。
前に触れてもいないのに、ピンと立ったペニスから白濁の液が噴き出し、ゾロの腹を打った。

「んあ・・・っああ・・・」
がくがくと痙攣しながら果てるサンジの表情の、半端でないいやらしさに鳥肌が立つ。
サンジの中に埋め込んだままの指が食いちぎられそうなほどに締め付けられ、内壁の温かさに
取り込まれそうになった。

こんなにもいやらしい身体に、された・・・
こいつを―――

怒りのあまり息が詰まりそうになって、まだ咥えられたままの指を強引に引き抜く。
短く悲鳴を上げて、サンジのペニスからまた小さく液が飛んだ。
こんなにも感じやすく浅ましい、淫らな身体に。

大きく息をつきながら見上げるサンジの瞳は涙で濡れている。
はっきりとゾロの顔に焦点が合っていて、今は正気に戻っている事が知れた。
だが、ゾロはそれでも許せない。

「なんだ、これは・・・」
ゾロは先ほどまでサンジを犯していた指を、白い鼻先に突きつける。
「てめえ、ケツ弄くられただけであんなに乱れて、イきやがったじゃねえか、なんだこれはっ!」
雷に打たれたように、サンジは身体を強張らせ身じろぎもできない。
「なにが変わってねえだ、てめえなんざ自分からへこへこ腰振るド淫乱になっちまってるじゃねえか。
 今だって・・・」
ゾロはもう一度後孔に指を突っ込んだ。
いきなりの動きに声を上げながらも、そこは正直に収縮して受け入れる。
「こんなにも物欲しそうに、締め付けやがって・・・」
サンジはゾロの肩に手をかけて首を振った。
「だから、よせって・・・」
まだ火照った身体を抱きこむように膝を抱える。
「犯られ慣れ、やがって・・・」
「ああ」
「気持ちよかったか?」
「ああ」
「もっと、欲しいか?」
容赦なく問うゾロを、本気で憎いと思った。
応えずに、ただ睨みつける。
「そんな目で見たって、欲しいんだろう」
問い詰めるゾロは、目を逸らさない。
二の腕を抱いた細い手首を手にとって片手で戒めた。
「こうして繋がれて、いいようにされて、感じたか」
サンジは耐え切れず目を閉じる。
「気持ちよくて声を上げてよがったか?腰振って見せるのか」
「畜生っ!」
ゾロの手を振り払い、足で蹴った。

「俺だって、やだっつったんだ」
「なにがっ」
「嫌だっつった、何度も・・・止めろって、もう嫌だって・・・」
両手で顔を覆い、嗚咽を堪える。
それでも込み上げる涙は抑えきれず、指を伝い肘を濡らした。
「許してくれって、泣いて頼んだ。外してくれって、自由にしてくれって、俺に・・・」
ひくっとしゃくり上げる声が抑え切れない。
「触るなって、何度も・・・何度、も・・・」

泣いても喚いても、許しを乞うても逃れられなかった。
絶え間なく施される、気が狂うほどに執拗な愛撫。
物理的な快楽。
昼と夜の境い目もわからなくなる閉鎖された空間。
このまま朽ち果てる恐怖。
二度と帰れない絶望。

「今がいつで、俺が誰で・・・」
震えながら伸ばされた手を、ゾロがしっかりと握り締めた。
「なんのために生きてるかさえ、わからなくなる時があった」
体温が失せた、冷えた身体を抱き寄せる。
「一歩も部屋から出られねえんだ。カーテンの向こうから街の音は聞こえるのに、俺の声は届かねえ。
 光が射してるのに、そこに行けねえ。話し相手はギンだけで、ギンがどっか出かけちまうと、俺は一人だ。
 一人で部屋の隅に蹲ってずっと待ってるんだ。ガキの頃、ずっと海を眺めて待っていた・・・あん時とは違う、
 眠ってたって夢も見ねえ・・・だって待ってて来るのはギンだけだ。俺が待ち焦がれてたのはギンだけだ。
 あの手が俺の身体を撫で回す。あの口が俺を舐めて、あの・・・」
ゾロは、サンジの言葉を遮るようにぎゅっと抱き締めた。

「嫌だった、な・・・」
ゾロの肩口に鼻先をくっつけて、サンジが顔を歪める。
「嫌だった・・・」
きゅうと目を閉じてゾロの背中に腕を回した。
「助けて、欲しかったか?」
ゆるく頭を振った。
「・・・ぜってー・・・逃げるって・・・思ってたから・・・」

どんなに壊れそうになっても、踏み止まれたのは己の力だけではない強さ。
「絶対自力で、船に帰るって思ってた。時間かかっても、お前らがもう行っちまってても・・・」
「ルフィも、そう言ってた」
急にルフィの名が出て、サンジの肩がびくんと跳ねる。
「お前は絶対帰ってくるって、そう信じて待ってたんだ。このままいなくなるなんて、露ほどにも思ってなかった。」
ふと、ゾロが笑った。
「そう言い切られちゃ、待つしかねえよな」

本当は島中駆けずり回って探し出したかったのだ。
どうにもじっとしておれなくて、無駄足掻きをしたかったのは自分だ。
「街中に火点けて炙り出してえとさえ、思った」
物騒なゾロの物言いに、サンジは曖昧に笑った。
「なんで・・・そんな・・・」
何度も繰り返される問いだ。
何故ゾロが、と。

「大事だったからだ」
ぼそりと、ゾロが言葉を紡ぐ。
「前の島でてめえと朝まで飲んだだろうが。案外楽しかった。また飲みてえと思ってた。もうちょっと色々
 話してよ。お前のこともっと知りてえって・・・思い始めたとこだった」
ゾロに抱かれたまま、サンジがきょときょとと目玉だけ忙しなく泳がせる。
「なんかてめえが気になってよ、どっかで行き会わないか探してた。てめえが窓から見てたって聞いて・・・」
それまで穏やかだったゾロの気配がざわりと揺らめく。
「俺がどんな気持ちになったか、てめえわかるか?」



抱き締めたまま告げられる鈍い怒りに、サンジはたじろぐ。
ゾロの気持ち、そんなもの考えたこともなかった。
「せっかく自分で、こいつ結構大事だなと思い始めたてめえを、いきなり横から掻っ攫われて好きなように
 扱われた俺の気持ちだよ、てめえにわかるか馬鹿野郎」
発作的な怒りに駆られて、ゾロは痩躯を引き倒した。
片足を肩に抱えて己を捩じ込めば、熱く蕩けた秘部は難なくゾロの怒張したペニスを飲み込んでいく。
絡みつく粘膜の感触に呑まれそうになりながらも、ゾロは慎重に腰を進めた。

サンジの手が背中に回され、抵抗ではなく首筋に手を添えられる。
包み込むようにゾロを受け入れ蠢く内部は圧迫するほどの狭さと熱を感じさせて、あまりの快感に我を
忘れそうになりながらもゾロは必死でサンジの背を抱いた。
力を込め過ぎないように、傷付けてしまわないように。
今更だけれども、どうしたって求めて止まないのはこの淫ら過ぎる身体ではなく心。
サンジの、疵付き貶められてなお、ひたむきに強くあり続ける無垢な魂。

サンジが、薄く目を開き空を見た。
その瞳に己を映したくて、ゾロは頤を掴んで無理やり引き剥かせる。
「イっちまうな阿呆。俺を見てろ」
深々と埋め込んだ部分がきゅうと熱く撓る。
うっかりはち切れそうになって、ゾロは唇を噛んで快感をやり過ごした。
何かに必死になっていないと、すぐに持っていかれそうな具合のいい身体だ。
「ちゃんと見ろ、てめえを犯してんのは俺だ」
「・・・ん、ああっ・・・」
「俺だろ、畜生」
きゅうきゅうと、収縮して取り込もうと蠢く。
ゾロはサンジの両端に手を置いて、一心不乱に腰を振った。
ただ咥え込まれただけで搾り取られそうなのだ。
攻撃的に突いてサンジと快楽を分け合いたい。

「ああっ、は・・・はあっ・・・」
ゾロの勢いに揺さぶられるように、サンジの身体ががくがくと揺れる。
一瞬光を強めた目線がゾロと合い、サンジの口元に笑みが零れた。
うっかりそれに魅入られる。
「ゾロッ・・・イイ・・・」
―――!!
危なかった・・・
イくところだった。

ゾロはぎりぎりと歯噛みして、汗を滴らせた。
この阿呆は、やばすぎる。
痩せた腰骨を掴んで、角度を変えては抉るように挿迭を繰り返す。
サンジは口端から唾液を滴らせながら、ゾロに向かって手を伸ばし、広い背中を抱き込んだ。
「・・・ゾロ、よすぎて・・・もう――・・・」
きゅうと締まって、ゾロの腹にまた白濁の液が飛び散る。
その収縮に耐え切れず、ゾロもまた奥まで打ち込んだ砲身から精をぶちまけた。

こいつ・・・やば過ぎ・・・
ぜいぜいと息を切らし、ゾロは射精した後もサンジの内部を何度も擦った。
ぐじゅりと濡れた水音が立って、イって尚萎える気配のない己を蕩かすように包み込んでいる。
「・・・クソっ」
名を呼ぶことに躊躇って、代わりに痩躯を抱き締めた。
汗に濡れた首筋に歯を立て舌を滑らせる。
襟足がぶるりと震えて、サンジは首を傾けゾロを見た。

「間違えたり、しねえ・・・」
なんのことがわからず、放心した目で見返すゾロに笑いかける。
「ギンに抱かれている間も、考えてたのはずっと・・・てめえのことだ」
すう、とサンジの目尻から透明な雫が零れた。
それを目で追って、信じられない思いでゾロは改めてサンジを見た。

「気持ち悪くて悔しくて、怖くて・・・けど何度もやられてる内に、これがギンじゃなかったらって・・・
 てめえだったらって・・・そう思ったら―――」
サンジの口元が自嘲めいて歪む。
「楽に、なった」


ゾロは、呆けたみたいに口を開けて、上気した頬を凝視した。
サンジの言葉を何度も脳内で反芻すれば、頭で理解するより先にまだ埋め込んだままの己がむくむくと復活する。
「な・・・っ」
サンジは耳まで真っ赤に染めて、戸惑いながらゾロを見た。
ゾロは、緩みきった表情で破顔している。

「なんだ、てめえ・・・」
「うっせえ、ここまで煽った責任を取りやがれ」
寝そべった身体を腰から抱え上げて膝の上に乗せた。
そのまま勢いで上下に揺さぶりすっかり回復したペニスで内壁を擦り上げる。
「んあっ、いや、あああ・・・」
いきなり与えられた強すぎる刺激に、サンジは白い喉を仰け反らせて喘ぐ。
その喉笛に噛み付いて、ゾロはくぐもった笑い声を立てた。
「てめえは絶対俺が抱き潰す。粉々にしてやる、覚悟しろよ」
「はっ・・・」
荒い息の下でサンジも声を上げた。
「やって、みろよ・・・こんなんで壊れる、俺じゃねーって・・・の・・・」
好きでもねえ野郎の下で、ずっと耐え続けてこれたのだから―――
「てめえになら・・・本望だ・・・」
ホロホロと涙を流し呟く口元をキスで塞いで、ゾロは膝立ちになってサンジを抱えた。

「汚れても淫乱でも弱くても、なあ―――」
ちゅっと唇を離し、鼻先をくっつける。
「泣いてるてめえもひっくるめて、全部好きだ」
はは、と照れたように笑って、また深く唇を合わせる。
サンジは何も応えずただゾロの背中に爪を立てて、ぴゅっと小さく射精した。




















少々大人気なかったかしら。
ナミはなんとなく後味の悪い気分でGM号に向かって歩いていた。
まるでサンジ君に対して拗ねてるだけみたいだわ。

海賊稼業なんてやってるんだから、それぞれに危ない橋を渡ってきている。
いくら水臭いと怒ったところで、そんなことにいちいち目くじら立ててる自分が余りに子どもっぽくて、
気まずい思いのままでいるのが嫌だった。
だからこうして一人でこっそり謝りになんか戻ってきている。

―――ゾロも、いるのよね。
なんとなくむかつきはするが、ゾロなら立ち会って貰ってもいいかもしれない。
どうしようもないぐうたらで阿呆な男だが、物事を客観的に見る術は長けているようだから。
それでも重い足取りで縄梯子を上った。

甲板を覗けば、定位置に昼寝する緑頭が見える。
が、しかし・・・
あり得ない光景を前に、ナミは目を丸くした。




船縁に凭れて眠るゾロの膝の上で、サンジが丸くなっている。
天気のいい昼下がり、心地よい風が吹いていて昼寝には絶好の日和だけど、ゾロはともかくサンジ君が
昼寝するなんて。
しかも、ゾロの膝の上で???

船縁に手をかけて覗く格好で固まったナミに、ゾロは片目だけ上げて目配せした。
起こすなと、言いたいのね。
つまり自分はお邪魔な訳だ。



聞きたいことや知りたいことはいっぱいあったけど、この光景を一目見てわかってしまった。
あり得ないサンジ君とあり得ないゾロ。
二人以外誰もいないこの船で、非日常的な空間を持たなければならないほど、大変なことがあったんだ。

けれど、今は穏やかな顔でサンジ君は眠っている。
ゾロも、静かに微笑んでそれを見てる。
多分、これでいいんだ。

終わったんだ、全部。






ナミはゾロに片手を上げて合図すると、また音を立てないように縄梯子を降りた。
港からの活気に溢れた声もここまでは届かない。
もう少し、しばらくは二人きりで過ごさせてあげよう。
ログが溜まってこの島を出る頃には、きっと元通りになっている。
それまではまだもう少し・・・

そっと静かに、波の音でさえも二人を邪魔しないように。





来たときとは打って変わって鼻歌でも歌いそうな軽い足取りで、ナミは街へと向かって歩いた。






END







back