飼育係 −酒菜あみ様−
4年生からは、学級で係が割り当てられる。
春、また同じクラスになったゾロとサンジはずうっとなかよしで、だからぜったいに同じ係になりたいとおもった。
先生が黒板に書いた係の下に、なりたい人が名前を書いていく。
ゾロとサンジは慎重にみんなが書いていく成り行きを見守り、ちょうど2人枠が余っていた飼育係のところに名前を並べて書いたのだった。
そうして、おもったとおり、2人して飼育係になることができた。
「でさァ、しいくがかりってなんだとおもう?」
いつものように手をつなぐ帰り道、サンジがたずねた。
詳しい仕事内容は来週先生から説明があるのだそうだ。
簡単な説明は、先生が黒板に書きながら説明したのだが、ゾロもサンジも聞いていなかった。
「さァな。しいく…ってんだから、詩とか句とか…ようは国語の係か?」
「ゾロ、むずかしいことば知ってんなァ!」
サンジは感心したが、すぐにおもいだす。
「でも、国語係って別にあったぜ」
「そういえばそうだな」
うーん、と2人で考え込む。
「シーツみたいなもんか?」
「おまえ、教室のどこにシーツがあるんだよ」
サンジがひねりだしたが、ゾロに一蹴された。しかしサンジはめげない。
「ほけんしつにあるぞ」
「じゃあ、ぐあいのわるいヤツがいたらほけんしつにつれていく係か」
「そうじゃねェ?」
「でも、ほけん係ってあったぞ」
「あ、そうか」
やはりシーツではないようだ。
「さいく…とか」
「ぜんぜんちがうじゃねェか」
ゾロの2つ目の案もすぐに却下される。
「いや、なんかこまかいことをしそうじゃねェか?」
「そう言われたらそんなかんじのことばだな」
却下したくせに、サンジはゾロがそう言えばそんな気がしてくるのだった。
「でも、さいくはちがうな。ちがう」
ゾロは結局、自分で言っておいて自分で否定した。
いくつ案を出してみても、しっくりくるものが出てこない。
ゾロはいらっとして、眉と眉の間にきゅっとしわをよせた。
サンジはゾロのその顔がきらいではない。なんだかかっこいいとおもう。でも、顔がきらいでないのとゾロがいらいらするのがイヤなのは別問題だ。
──わらった顔だって、ゾロはかっこいいんだ。
そうおもった途端、サンジはひらめいた。
「わかった!」
「お、なんだ?」
「えーと、ちょっとこっちこっち」
サンジはゾロをそばにあった公園のすみっこ、大きな樹が植えてあるところに引っぱっていった。
公園では、すべり台やブランコであそぶ子どもたちがいる。
「なんだ、こんなところで」
「しいっ!」
あそんでいる子どもたちの死角になるその場所で、サンジはゾロのくちに自分のくちをくっつけた。
すぐに離すと、おもったとおり、ゾロの眉の間のしわはなくなっている。
「……どういうことだ?」
「だから、しい、ってして、くちをくっつけるんだよ」
「なるほど」
ゾロは感心して、それから笑った。
──ほら、わらった顔もかっこいい。
サンジは満足した。
それから次の週に、2人は先生から、学校の入り口にある水槽のカメの世話の仕方を教わった。
2人はだいじにカメの世話をした。
もちろん、2人がほんとうのしいくがかりの意味だとおもっている「しい、ってして、くちをくっつける」のも忘れない。
6年生まで3年間、奇跡的に毎回同じクラスになった2人は、飼育係を続けた。
カメがウサギになって、ニワトリになったし、「飼育係」を漢字で書けるようにもなったけれど、2人の本当のしいくがかりはずうっと続いている。
END
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