シンフォニー・ブルー



サンジの誕生日に赤々と花丸が描いてあるので、ゾロは随分と楽しみにしているのだなと勝手に微笑ましく思っていた。
だからこそ、サンジからの意外な申し出に驚く。

「今度の週末さ、一か月遅れでビビちゃんの誕生祝いしたいんだ」
「は?ビビのか?」
「だって、先月はせっかくの誕生日だってのにサボが熱出したりコーザに急な出張入ったりで、ちゃんとお祝いしてやれなかったじゃん」
すっかり二人の子持ちになったコーザとビビは、ゾロにとって息子夫婦となる。
孫にあたるサボとレベッカは、サンジにとっても可愛い孫だ。
サボは2歳、レベッカはそろそろお食い初めの時期で、どちらも手が掛かる。
とても誕生祝いどころじゃないだろう。

「誕生祝いっつっても、そう派手なことはできんだろうに」
「うん、だからせめてビビちゃんにちょっとゆっくりして貰おうかなって、サボを一日預かろうかと思うんだ。この日、ゾロも休みが取れたらサボと3人で一緒に出掛けね?」
――――ふむ。
ゾロは腕を組んで、片方の手で顎を撫でた。
「やんちゃ坊主を一人引き受けて、ビビちゃんにコーザとレベッカと三人でゆっくりして貰おうってか」
「うん、レベッカちゃんはまだチョコマカしないし、ちょっとはゆっくりできるかなあって」
どうだろ・・・と窺うように首を傾けるサンジに、ゾロは一つ提案した。
「それ、もうビビに言ったか?」
「いんやまだ、まずゾロの了承を得てからと思って」
そう言って、まずかった?とばかりに両手の指を組み合わせる。
晴れて一緒になった仲だが、サンジの中にはまだどうしてもゾロに遠慮がちな部分がいくつか残っていた。
最近ようやく、敬語で話す癖が抜けてきたところだ。
25歳も年の差があるのだから、仕方がない。

「だったら、一日預かるのはレベッカにしたらどうだ」
「え?レベッカちゃん?」
サンジはきょとんとして、ゾロを見やった。
「でも、そうするとサボは・・・」
「ビビの安らぎになるかどうかはわからんが、サボにもたまには“お兄ちゃん”じゃない時間を与えてやってもいいんじゃねえか」
「――――・・・」
サンジはしばらく考えてから、うんと一人頷いた。
「そうか、そうかもしんねえな。サボは、レベッカちゃんが生まれてからずっと頑張って“お兄ちゃん”してきたもんな」
「レベッカならまだ人見知りが始まってねえから、俺らが預かっても大丈夫だろ」
「うん、俺もちゃんとおむつ替えできるようになったし」
サボの時はともかく、女の子であるレベッカのおむつ替えはサンジには非常にハードルが高かった。
ここ最近で、精神修行の末ようやく大人の階段を一段上がったところだ。
「ちょっと早いけど、サボの誕生日祝いも兼ねてそうしよう。一日、パパとママを独り占めできるといい」
サンジはそう言って、パンと両手を合わせた。
「そうと決まれば、早速ビビちゃんに連絡してみよう。もちろん、ビビちゃんが喜ぶ方向が一番いいからちゃんと話聞いてみねえと」
「いいトメさんだな」
ゾロがそういうと、サンジはふへへへと不気味な照れ笑いをした。
「でしょ、俺っていい姑!」
どうも、いまサンジは自分の「姑(舅?)」という立場に嵌っているらしい。
ゾロもごくまれに「ビビさん、こんなところに埃が溜まっていてよ!」「すみませんお義母様!」ごっこをしているのを目撃する。
それで二人が楽しいなら、まあいいだろう。

「楽しみだなあ。レベッカちゃんと一緒にお昼寝したり、天気がよかったら散歩に行こうな」
もうすでに浮き浮きと、3人で過ごす休日に想いを馳せている。
ビビの誕生日から1か月後は自分の誕生日だと、覚えているかどうかすら怪しい。
だが、ゾロはちゃんと覚えているから大丈夫だ。

ゾロとサンジとレベッカと、3人で過ごす穏やかな一日の締めくくりは、ゾロからサンジへの大人のプレゼントが待っている。



End



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