聖夜 -1-



カツカツと、軽快にヒールを鳴らしながら早足で歩くナミの後ろから、複数の革靴がドタドタと着いてくる。
「お疲れさまでしたー」
「はい、お疲れ様〜って、随分急いでるね」
「約束があるんです」
「ああー、やっぱりイブだからなあ」
「でも今日、撮影押しちゃったじゃない。予定狂っちゃったんじゃないの?」
「大丈夫ですよ」
「2時間押しだよ、予約キャンセルされちゃってたりして」
背後から追って来るしつこい男どもに眉一つ動かさず、ナミは完璧な笑顔で振り返った。
「お気遣い、ありがとうございます。では、失礼しまーす」
腰を折ってキレイなお辞儀をする背後に、ハザードランプを点滅させながらタクシーが滑り込んだ。

中から降り立ったのは、金髪の青年。
仕立てのいいコートを羽織り、慣れた仕種でナミを迎える。
「お帰りなさいナミさん、お疲れ様」
「お待たせ、サンジ君」
恭しくドアを開けると、ナミはしなやかに滑り込んだ。
「それでは皆様、いいイブを」
静かにドアを閉めると、青年は優雅とも言える姿勢で一礼し反対側の後部座席に乗り込んだ。
そのスマートな身のこなしに、誰とも言わずほうと溜息が零れる。
「やっぱり彼氏が、いるんじゃねえか」
「つか、あれ外人?モノホン?ホストじゃねえの?」
「ああ〜ナミさん〜」
ガラス越しに手を振るナミを、取り残された男たちは呆然と見送るばかりだ。







「ナイスタイミングだったね」
「って言うか、随分待たせてしまったでしょ、ごめんね」
後部座席に身体を凭れさせながら、ナミはサンジに向かって小さく手を合わせた。
「いいよ、多分遅れるだろうって見越してたから、実は30分ほどしか待ってない」
「サンジ君のが、稼ぎ時だって言うのに」
「仕事は全部済ませてきたから、気兼ねなくゆっくりできるよ」
バラティエはクリスマス期間中は完全予約制だから、却って通常営業の時より時間配分がはっきりしていて楽なのだ。
早番だったサンジは7時には仕事から上がって、ナミを迎える準備を済ませていた。
「レストランの予約も変更してあるから、安心して」
「さすがサンジ君v」
ナミはほっと息をついて、改めて夜の街へと視線を移した。

クリスマス・イブの街はあちこちが眩いイルミネーションで飾られ、まるでお祭り騒ぎのような賑やかさだ。
「どこもかしこも、クリスマスね」
ナミの皮肉めいた呟きに、暗い窓ガラスに映ったサンジの顔が笑い返した。







「いらっしゃいませ」
ホテルの最上階のレストランは満席だった。
確保されていた窓際の席へと案内され、星屑を散りばめたような夜景を見下ろしながら席に着く。
「素敵」
「素敵なのはナミさんの方だ、ペールオレンジのドレスがとてもよく似合っているよ」
ほんの少し華やかな装いのナミに、サンジは目をハートにして身をくねらせている。
「サンジ君、ここでそれはしない」
「ああ、ごめんつい条件反射で」
小声で咎められて、サンジはしゃっきりと背筋を伸ばして席に座り直した。
女性にデレデレする癖さえ出なければ、サンジの見た目は申し分ない。

「ほんとに助かったわ、約束があるって言ってるのにしつこいったら・・・」
「美女は辛いね」
オーダーした飲み物を掲げ、サンジは改めてナミに向き直った。
「ナミさんの美しさに、そして聖なる夜に乾杯・・・かな?」
「私の美貌はともかく、『性なる』夜にはうんざりね」
軽くグラスを掲げ、ナミは悪戯っぽく笑った。

「みんながみんなクリスチャンでもないくせに、なんだってクリスマス・イブにこうも張り切るのかしら」
「元来お祭り好きだしねえ、何か口実があるとそれに乗じて恋を発展させるってのも、ありじゃないかなあ。俺としては、この機会にナミさんを独り占めできたからクリスマス様様なんだけど〜」
サンジの軽口に小さく睨んで見せて、ナミはグラスを置いた。
「まあいいわ、私も久しぶりにゆっくり食事ができるもの」
そう言ってから、一人でふふと笑う。
「こうして二人で話せるのも、シモツキ以来じゃない?」
「そうだね」
サンジもつられるように、一人笑いを洩らした。
「今ごろゾロは、青年会のクリスマスパーティーの真っ最中だよ」
「は?何それ」
先ほどまでの上品な雰囲気はどこへやら、いきなり柄悪く低い声を出すと、ナミは眉を潜めた。
「若手農家の青年…つっても、40代までいるんだけど、独身の若者と都会から来るレディ達とのお見合いパーティーだって」
「うっそ!」
ナミは絶句した。
「もちろん、ゾロは本気で参加するんじゃないらしいけど、頭数合わせと人寄せだって。まあ、確かにあの程度もいた方が、女の子も参加しやすいよね」
「そういうことか、あ〜びっくりした」
ナミは本気で胸を撫で下ろしている。
「いくら無愛想な唐変木でも、そこまで地元に染まっちゃったかと思った」
「染まってるよ、この間農家のおっさん達と一緒に店に来てくれた時も、違和感なく混じってた」
「…この間?」
ナミの目がきらんと光る。
「この間ってなに?店にって?なによ、そんだけ親しくなってたの、いつのまに?」
矢継ぎ早に質問するナミを両手で制してサンジは苦笑いした。
「いや、先月・・・だったかな。ゾロが仕事でこっちに来たんだよ。んで、ついでにうちの店に寄ってくれて―――」
「そもそも、なんでゾロがサンジ君のお店知ってるの?つか、あんた達、連絡取り合ってんの?」
「はあ、まあ・・・」
頭を掻き掻きテレた仕種を見せるサンジの前に、前菜が置かれる。
「何で?メール?」
「・・・うん」
「メル友?」
「そんな感じ、かなあ」
まさか、月イチのペースでシモツキ村に通っているとか、ましてや先月はゾロの誕生日を一緒に過ごしましただなんて、口が裂けても言えない。

モジモジするサンジを前に、ナミはふーんと目を据わらせて前菜をパクついた。
「まあいいわ、多分あんた達はウマが合うんじゃないかなーとなんとなく勘で紹介した甲斐があったってもんよ。私の預かり知らぬ間に、そこまで親しくなってるとは思わなかったけど」
「し、親しいとか、それほどじゃねえよ」
焦って否定する辺りが、実に怪しい。
「でも、田舎の人連れて食べに来てくれるなんて、なんだか嬉しいじゃない。ゾロってあんまり自分から行動するタイプじゃないから、よっぽど親しく思ってなきゃそんなことしないわよ多分」
「・・・そうかな?」
サンジはフォークでレタスをくるくる回しながら、上目遣いでナミを見た。
「うん、元々出無精な横着者だもの。来る者拒まず去る者追わずって感じで、いくら近くまで来たからってわざわざご飯食べに来るなんて・・・しかも、田舎の人を引き連れて、でしょ?すごく親しみを感じてるのね、サンジ君に対して」
「・・・そうかなあ」
今度はプチトマトを突き刺そうと試みながら、あちこち転がしている。
「だって、私には何の連絡もなかったもの。近くまで来てたんなら、私の家だって近いじゃない。なんの音沙汰もなしよ」
「そう、だったんだ」
ナミには、連絡くらいしているのかと思っていた。
「それにしても、お見合いパーティねえ。・・・想像すると、物凄くおもしろいんだけど・・・」
「だろ?でも、一応ゾロは中身が親父でも見た目はまあ普通だから、ひょっともすると本気になっちゃう女の子もいるんじゃないかなあ・・・とか、思うんだけど」
「それならそれでいいじゃない」
あっさりそう言うと、サンジは意味もなく玉葱のスライスを寄せ集め始めた。
「けど、ゾロは俺にはその気がないってはっきり言ってたし。だったら、あんまり中途半端に女の子をその気にさせちゃいけないと思うんだ。いくら人寄せパンダだって本人が思ってても、こればっかりは・・・ねえ」
「その点は大丈夫よ。ゾロには優柔不断って部分がまるでないもの。YesかNoか、そこんとこははっきりしてるわ。もし女の子の方がゾロに好意を寄せたとしても、それがわかった時点でゾロはキッパリ断るわよ。誤解させたまま放置しとくようないい加減さはないわ」
「でも、それはゾロが今はそう思ってるだけで、すごく可愛い子とかゾロのことをちゃんと理解してくれる子とかと
 出会ったら、ゾロだって気が変わるだろ」
「そうね、その時はその時ね」
あっさりと肯定されて、サンジは言葉に詰まったまま無言で前菜を掻き込み始めた。
その様子があまりにおかしくて、ナミは笑いを堪えるのに必死だ。

「まあ、ゾロだって自分の問題をよくわかってるからそこんとこは弁えてるし、情熱だけで突っ走るタイプでもないから電撃結婚はないと思うわよ」
賭けてもいいわよとナミが言うと、サンジはちょっと安堵した顔付きになった。
ナミが「賭けてもいい」と言うなら、十中八九あり得ない事柄だ。
「でも、ゾロの問題点って何?」
スープを口に運びながら、サンジは素朴な疑問を口に出す。
確かに、腹巻フリークな親父野郎だけれど、一応見た目はそこそこだし性格だって悪くない。
というか、結構いい。
おっさん達にも可愛がられてるし、きっと後輩には慕われるタイプだろう。
「あら、決まってるじゃないコレよコレ」
早々にスープを平らげ、皿を下げられたテーブルに肘を着いてナミは指で輪を作った。
「住居を提供してもらって、同志で組合作って仕事請け負ってるだけでしょ。実際にはその日暮らしなんじゃないの?貯金とか・・・ましてや結婚資金なんてないと思うけど」
「ああ―」
サンジの方が、なぜか絶望的な声になった。
「そう言えば、冬場は仕事がないからバイトだって言ってた。ビニールハウスとか欲しいけどまだ目処が立たないって。この正月は、隣町のスーパーでレジ打ちするって言ってた」
「レジ打ち?ゾロが?」
魚料理の皿が運ばれて、ナミはそっと口を閉じ肩を竦めた。
「ゾロが、レジ打ちねえ・・・ぷっ」
「しかも、真っ赤なエプロン付けてだってさ」
「ぷ・・・ぷぷぷ・・・」
耐え切れず、口元を抑えながら肩を震わせる。
「またお越しくださいませーとか、言ってんのかしら・・・」
「案外似合うか、も・・・知れない・・・かな?」
自信なさそうなサンジを前にして、爆笑寸前で堪えた。
「や、でもやっぱり、生活かかってるから」
「そうね、背に腹は代えられないもの」
ポワレを突きながら、サンジは一人嘆息する。
「ゾロが独り身で、自分の食い扶持だけ稼げればそれでいいって考え方には、確かに問題があると思うよ。いくらその日暮らしでも、全然将来設計とか考えてそうにねえもの」
「そう?まあ、大体想像はつくけど」
「考えてみりゃ、もう28だからね。田舎だと、結構見合いの話とかも持ち込まれるみたいだし。うちの婿にって、マジで誘いが多いらしいしさ」
「あら、いいことじゃない。そうやって所帯を持って、いっそシモツキに骨を埋めればいいのよ」
「けど、そこがゾロの固いとこだよ。土地や財産目当てで婿に入ったと思われたくはないだろ。それに・・・ゾロが婿入りって、どうよ」
またしても爆発的に笑いがこみ上げたが、ナミはなんとか堪えた。
「た、確かに・・・」
ひくひくと、腹筋が痙攣する。
「ともかく、組合で働いてる分には経理もちゃんとしてるし採算が取れてるみたいなんだけど、個人で請け負ったり、農地を借りて生産してる方は、米も野菜もすごい丼勘定なんだ。つか、全然利益のこと考えてない。作れることが面白いなんて嘯いてるけど、労力とか手間賃とか度外視してるもの。あれは、ゾロがまだ若くて体力があるから続いてることであって、これから年取ったり、もし怪我なんかして働けなくなったりしたら、もうなんの収入もなくなってしまうんだ」
サンジは以前から懸念していたことを打ち明けた。

「俺はそれが凄く心配で、けど人のやってることに口出しなんかできねえし。うちも店をやってるから、大体収支のバランスとか利益の上げ方とかはわかるしさ。稼ぐ以上は、きちんと採算が取れることをしないと長続きできないってのもわかってんだ。ゾロは、あいつの信念でなるべく農薬を使わない野菜とか頑張って作ってるけど、そんな野菜は大抵虫食いだらけ、とても売り物になんかならねえ。いくら毎日虫を潰していったっておっつかないんだ。勿論、ただ虫を殺すだけじゃなくて、例えば蝶避けの糸とかも売ってるからそういうの張り巡らせばそんな手間はいらないんだけど、そういう道具を買う元手がないから結局人力ばかりでさ。ゾロに体力があって時間があるからできることだ。そんな手間取らずに、手っ取り早くキレイな野菜を収穫するなら、農薬使って適当に肥料も使えばできるんだけど、今度は農薬を買う金がないとか言い出すし・・・なんてーか、いつも行き当たりばったりで、聞いてるこっちがやきもきすんだよ」
サンジが滔々と述べている間に、ナミは口直しのグラニテを食べ終えて口元をナプキンで押さえた。
「確かに、ゾロならありえそうな行き当たりばったり生活」
「だろ?」
肉料理を前に、ナミはワイングラスを開けた。
サンジがすかさず、お代わりを注文する。
「あいつもね、ちょっと自分のこと過信してる部分があるの。体力自慢は昔からだし、手際と要領だけはいいから大抵のことはソツなくこなすのよ。だから、決定的な挫折を味わったことがないし、自分が損してるとか得してるとか、そういう基準でもモノを考えられないの。基本的に恵まれているからこその、傲慢さがあるわ」
それを傲慢ととるのかと、目が覚める思いでサンジはナミを見つめた。
「不自由な思いをしたことがない人って、逆に自分がどれだけ恵まれてるかもわからないものよ。いざ何かコトがあってつまずいたときに、しまったもっと考えとけば良かったなんて思っても、後の祭りってやつ」
辛辣なナミの言葉を、サンジはまるで自分が言われたかのように受け止めた。
「そうか・・・そうだよね、やっぱり」
思い詰めた表情で項垂れるサンジを、ナミはすかさずフォローする。
「って、サンジ君に言ってもダメなのよね。ごめん、なんだか説教口調になっちゃった。まあ、なんだかんだ言ってもゾロは結構しっかりしてるから、サンジ君が心配するほどのことはないわよ。バイタリティがあってしぶといわよあいつ」
「・・・でも、無計画で無鉄砲なとこがあるから、やっぱあいつ一人だと何かと支障があるだろうなあ」
肉を切る手を止めて、サンジはほうと溜め息をついた。
「やっぱり、ちゃんとした彼女とか奥さんとか、側にいた方がいいんだろうなあ」
「・・・なんでサンジ君がそこまで心配するの?」
茶化すつもりはなく、真剣にナミは聞いた。
ゾロとサンジは表面上は水と油みたいに性格が違うけれど、どこか根本的に似た部分があってウマが合うだろうと、勝手に判断して引き合わせたのは自分だが、ここまで親密になっているとは予想もしていなかった。
まとまった休暇が取れたら、またサンジを誘ってシモツキに遊びに行こうかなあと気楽に考えていた自分を置き去りにして、どうやら二人きりで逢瀬を重ねているらしい。

「例えば、サンジ君なら何がしてあげられる?」
試しに水を向けてみる。
「え、俺?」
サンジは目をぱちくりとさせてから、ワインを一口飲んだ。
「そうだな、一番目に付くのがゾロの無計画さなんだよ。米作りは法人でちゃんとやってるからいいとして、農地を借りて野菜作ってるだろ?あれがさ、その時旬のものをただ作ってるだけだから珍しくもなんともないし、虫食いだらけで売り物にもならないし、結局毎日同じものを食べ続けて自分で消化してるみたいで・・・ゾロ本人は作る練習になっていいって言ってるけど、栄養も偏るし何より勿体なくてさ。前に野菜を箱詰めにしてうちに送ってもらったんだけどさ、形が悪かったり虫食ってたりして素材として使うにはちょっと手間がかかるんだけど、味はいいんだ。なんか力強いって言うか、野菜そのものの匂いとか味が濃くて、多分野菜嫌いの子どもには敬遠されるくらい、いかにも野菜って感じのシロモノで。店に来てくれる常連さんとかにはすごく評判がよかった。美味いもの、作るんだよあいつ。なのにそれが生かされてないって言うか、商売に持っていけてないのが物凄く口惜しい。不器用っつうか下手っていうか、ナミさんが言うとおり欲がないから自分で台無しにしてる部分があると思う。俺から見たらあいつのしてることは中途半端だ。シモツキで生きると決めたんなら、そこで所帯持って骨を埋められるくらい、自分の生活基盤を確立させる気概がなきゃいけない。その為にも、自分の仕事が利益を生むように努力しなきゃなんないのに、その辺があいつはてんでわかってなくてさ―――」
サンジの饒舌をふんふんと聞きながら、ナミはメインの皿を平らげてしまった。
それに気付いて、サンジも慌てて食事を再開させる。
「確かに、ゾロが作る味はいいけど見てくれの悪い野菜は、そのまま売るより加工した方が生かせるってことね」
「そうそう、そうなんだ」
サンジは思わず手にしたフォークで指し示しかけて、慌てて手を引っ込めた。
「ただバカみたいに野菜作るだけじゃなくてさ、それを販売に結び付けさせるひと手間があいつには必要だと
 思うんだよ。けど、とてもそんな余裕はないしさ、テクもねえと思う。誰か身近で手助けしてやれれば、一番いいと思うんだ」
ナミはトレイからチーズを選びながら、云々と頷いた。
「そうね、それでその役目をサンジ君がしたい訳ね」
「・・・え?」
フォークに刺した肉がポトンと落ちた。
「だって、サンジ君腕利きのコックだし、食材の加工はお手の物でしょ。ゾロの野菜の特性もよくわかってるし、そういうことに掛かる手間を惜しまないタイプじゃない」
「・・・でも、俺一人でならともかく、うちの店に毎回送ってこられても、他のスタッフが使いあぐねると思うよ」
「だから、サンジ君が一人でやるの」
「ええ?」
ナミはワインを飲んで、チーズを口に運んだ。
「サンジ君がシモツキに行って、ゾロの作る野菜を端から加工してはお惣菜にするのよ。直売所とか、そういうの道端にあったじゃない。あそこで売ったら、結構売れるんじゃないかな。サンジ君が作るモノは田舎でよくある
 お惣菜とかとは一味違うから、物珍しさも手伝うかも。何より美味しいしね」
「・・・俺が・・・」
サンジもチーズをつまみながら、ふと夢見るような目付きになった。

あの、笊一杯に放り込まれて放置され、底の方で潰れてしまっていたトマト達。
あれを調理に使うなら、いくらだって活用法がある。
ピューレにしたけど、味が濃くて美味かったのだ。
トマトは料理にもデザートにも使えるから重宝するのに、サンジがあの時遊びに行かなかったらあのトマト達はただ腐って流れていくだけだっただろう。
採れ過ぎて困るナスビもキュウリも、惣菜にするのだったらバリエーションはいっぱいある。

「や、でも加工するんだったら保健所の許可が下りるような加工施設を使わないと・・・」
一人でぶつぶつ呟き始めたサンジに、ナミは小さく声を立てて笑った。
「やだ、サンジ君マジでドリーム入ってる」
からかいの声に目覚めたように、サンジは目を瞬かせた。
「例えばって話したのに、なんだか随分具体的な計画が頭の中を渦巻いたようね」
「とんでもない、ちょっとぼうっとしただけだよ。マジごめん、折角のクリスマス・ディナーだって言うのに・・・」
「ほんと、ゾロの話ばっかり」
ナミの言葉に恐縮して、サンジは身を縮こませた。
本当に、久しぶりのナミとのデートだと言うのに、一体何の話をしているんだろう。




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