ぷるるる…と懐が震えた。
その振動に目を覚まし、そういや電伝虫を持ってたっけかと思い出す。
寝ぼけ眼で胸元を探り、電伝虫を取り出した。
『やいマリモ、また寝てやがっただろうっ』
テンション高く怒鳴る顔は、片方の瞳を瞑りもう片方の目の上にくるりと渦巻きが施されたサンジのものだ。
「寝てて悪いか」
『寝てどうする、お前は待機だ』
ゾロはやれやれと起き上がり、枕を背中に当てがって凭れかかる。
「んで、お前は何してんだ。随分ご機嫌のようだが」
そう言ってやれば、サン電はひくっと一瞬首を竦めた。
暗がりの中で見ても、目元がほのかに赤く瞼が下がってきている。
これはサンジが酔っぱらった時の表情だ。
「人を缶詰状態にさせといて、酒を飲むたあいい身分だな」
『違うって、これは潜入作戦の一環だって』
弁解じみた口調になるのがサン電越しでも可愛らしかったが、ゾロは悠長に構えていられない。
元々そう酒に強くない上に、ほろ酔い加減になると途端に緩さが5割増しになるのだ。
自分の傍でそうなるのは大歓迎だが、目の届かないところで勝手に緩くなってもらっては正直困る。
「ちゃんとわかってんだろうな、お前が先に城ん中潜入して、騒ぎを起こす役目だと」
『わかってるって、だからちゃんといい酒用意して門番誑しこんで、ついでに料理場に紛れ込んで傭兵たちに夜食食わせたんだから』
「誑し込んだあ?」
『…えっと、それは言葉のあや。なんつーの、懐柔した?手懐けた?餌付けした?つか、色仕掛け?』
言い直した意味がない。
「お前…ふざけた真似してんじゃねえだろうな」
『なんもしてねえって、普通に酒振る舞って飯も食わせただけだって。んで、今はまだ宴で盛り上がってるからちょっと抜けて空いてる客間でお前に連絡付けたんだって』
確かに、耳を澄ませてみてもサンジの声以外雑音は入ってこない。
確かに一人でいると言うことか。
「本当に一人か?」
『しつけえなあ、なに疑ってんだよ』
サン電が下唇を突き出した。
酔っぱらって拗ねたサンジの顔そっくりで、笑えてくるよりムラムラと悪戯心が沸いてくる。
「一人だってんなら、自分の首擦ってみろ」
『へ?は?』
サン電が、片方しかない目をぱちくりと瞬かせた。
『首?首がどうした』
「擦ったか?」
『あ…ああ、うん』
「シャツ着てんだろ。ボタンは上まできっちり嵌めてんのか」
『いや、第二ボタンまで外してる。ここなんか暑くって』
「じゃあもう一個ボタン外せ」
『ふへ?』
「ボタン外して、鎖骨から胸まで撫でてみろ」
サン電が妙な顔をした。
への字に曲げた口端を少し引き攣らせ、迷うように瞳を彷徨わせてから皿に頬を赤くする。
「撫でたか」
『ん…』
「どんな手触りだ?」
『…ばっかか!手触りもクソも、いつもの俺の肌と一緒だよ』
「じゃあ、すべすべしてんだな」
『…う、ん…』
サン電が恥ずかしそうに伏し目がちになった。
「そのまま手を下にずらしてみろよ、乳首、勃ってんだろ?」
『―――ざけんなよ』
「触ってみろ」
『――― …ってるよ』
「ん?」
『硬くなって、しこってる』
「そうか」
サン電に顔を寄せ、息を吹きかけるようにして囁いてやった。
サン電は身を捩るようにして、切なそうに瞳を閉じる。
「指の腹でゆっくり、捏ねるように押し潰してやれ」
『…え、だって』
「いつも、俺がしているように」
『――― …』
サン電は目を閉じて、うっとりとした顔つきになった。
自分で弄っても気持ちいいものらしい。
「どうだ、大きくなったか?」
『ん…わかん、ね』
「指で抓んで、軽く引っ張ってみろ」
『こ、ぉ?』
「ちょっと捻って、抓ってやろうか」
『あ、や…痛くすんのは…』
サン電が薄く目を開けて、口を半開きにした。
「乳首だけでイくんじゃねえぞ」
『んな訳、ねえだろっ』
「片方だけか?もう片方はどうしてる」
『…ん、もう弄ってる』
「堪え性のねえ奴だ」
『うっせ、誰のせいだと…』
サンジが、誰もいない部屋でシャツを肌蹴け自分で自分の乳首を愛撫しているかと想像すると、それだけでゾロの脳は沸騰しそうになった。
早く、早くその果実を舐めて吸って噛んで揉み潰してやりたい。
『あ…ゾロ、ちょっとやべ…』
「ズボンの中、手ぇ入れたか」
『さすがにそれは、ちょっとまず…』
ガタタンっと音がした。
慌てて飛び起きると、サン電が冷や汗を掻いてきょろきょろしてる。
『わ、悪い、電伝虫落とした』
「なにやってる」
『あ、今ので人来たみてえ。つか、宴会がお開きになったか?』
サンジの背後で、ざわざわと賑やかな話し声が近づいてくるのが聞こえた。
「そこでじっとして、やりすごせ」
『おう、みんな行きすぎたらでっかい花火を上げてやらあ』

先ほどまでの蕩けそうな表情とは違い、サン電の横顔は狙いを定めた捕食者のように生き生きと輝いている。
「続きは後だ」
『ああ、待ってろクソダーリン』
ちゅっと音がして、電伝虫が唐突に眠りに就く。

ほどなくして、城の方角から大きな花火が打ちあがった。
さあ、ゾロの出番だ。



End



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