桜宵



海風に乗って、ハラハラと花びらが舞い落ちてきた。
甲板で宴をしてた仲間達は一斉に空を見上げ、壮大な桜吹雪に歓声を上げる。
「素敵!」
「きれーだなー」
「上陸しなくても、十分花見できんじゃねえか」
「まるで心洗われるような風景ですね。ワタシ、骨だけでもハートはありますヨホホ〜・・・多分」
沖合いから薄紅色に煙る島を眺め、桜酒で改めて乾杯する。



通りかかった海域では、観光船や定期便、それに海賊・海軍も入り乱れて船の往来が激しかった。
なんでも桜の開花時期に合わせて桜祭りが開催されるらしく、毎年大変な賑わいになるのだという。
期せずしてそのタイミングに居合わせてしまったサニー号から、早速祭り会場となる島へと偵察隊が降りていったが、ほどなく帰ってきた。
「とんでもないぼったくりだわ、宿泊どころか買い出しだって言語道断!」
偵察に行ったナミは一頻り憤慨した。
なにせ祭りにやって来る観光客相手の商売ばかりだから、とにかく一様に値段が高い。
ホテルもすべて予約済みで、空いているボロ宿だって1泊1人3万ベリーからだった。
「祭りに行きてえ〜」
「行きたければ各自、自腹で行ってね。雰囲気を楽しむだけならタダだから、私も後で散歩してくるわ」
せめて祭り気分だけでも味わおうと、沖合いに停泊し甲板で宴を開いた。
散り始めた桜が風に乗って流れ、遠く離れたサニー号の頭上からも舞い降りてくる。
これだけで花見酒だと、仲間達は喜んで杯を重ねた。



料理を運び終えてようやく腰を落ち着けたサンジの周りにも、ハラハラと花びらが舞い落ちてくる。
こりゃあいいと上機嫌でグラスを傾けると、薄いピンクの花びらに混じって水色の花びらが一片、目の前を過ぎった。
そのままサンジのグラスの中に落ちると、すっと酒の中に溶ける。
「あれ?」
一瞬見間違いかと目をしばたかせて、サンジは酒の匂いを嗅いだ。
特になにも変わらない、安いワインの匂い。
一口飲んでみて、味に変化がないのも確認する。
「どうした?」
隣で箸を鳴らしていたウソップが、サンジの様子に気付いて首を伸ばした。
「いや、今なんか違う色の花びらが・・・」
「お、青い花あるぞ」
向いに座っていたルフィが酒を零さんばかり勢いで腕を伸ばし宙を掻いた。
すぐに腕を縮めて、手元のグラスを覗き込む。
「あれ?ねえ、見間違ったのかな?」
首を傾けながら、その酒を飲み干した。
ルフィの隣でゾロは空ばかり見上げ、米の酒が欲しいなと呟いている。
「ウキキ?」
「ああ、米の酒の方が・・・」
言い掛けて、あ?と振り向いた。
「ウィッキーキキッ?」
「え!」
「え?ええ?!」
仲間達がその場で固まる。
ルフィが、なんか変だ。
なにがどう変なのかと言うと、顔が赤くなってやたらと耳がでかくなって仕種がやけに動物染みていて・・・
不意に後ろに手をやって尻をポリポリと掻いた。
ずらしたズボンの隙間から、長い尻尾がぴょんと飛び出す。
「シッポ?!」
ウソップがブッと酒を噴いて噎せた。
「ちょっとやだ、なにごと?」
ナミも腰を浮かせ、身体を引きつつも興味深そうに顔を近付けた。
ゾロはすっかり変化してしまったルフィの顔を身近で見据えながら、ごくりと喉を鳴らして酒を飲み干す。
「猿か」
「猿だな」
「猿、ですね」
見間違えるような目もないんですけどホホ〜と、ブルックはぽっかり開いた眼窩を擦っている。
「一体なにごとだこりゃ」
「うにゃ」
「ニャ?」
「にゃ」
「ニャ?」
妙な鳴き声に恐る恐る顔を向けた仲間達は、二度ビックリした。
ルフィの向かいで胡坐を掻いて座っているサンジの頭には、ピンと立ったネコ耳が・・・

「サンジ?!」
「サンジ君?」
「ふにゃ?」
サンジはパチパチと瞬きして、自分を凝視する仲間達をきょろきょろと見渡す。
「なうん?」
「サンジー!?」
「医者ー!!!」
和やかな宴の場所は、一気にパニック状態になった。





「ふんふん、それで」
「ウキッ、ウキキー、キャキャ」
「ふなううん、なう、うにゃー」
動物の言葉がわかるチョッパーが間に入り、人語を話せない二人の通訳をする。
「なんて言ってるの?」
「なんでも、桜の花びらに混じって水色の花びらが落ちてきて、それが溶けた酒を飲んだってことらしい」
「水色の・・・」
「これかしら」
ロビンがマストに手を生やし、一片キャッチする。
「あら、ほんとに水色」
仲間達は顔を寄せて、ロビンの掌を覗き込んだ。
空いたグラスに花びらを落とすと、酒の中にすうっと溶けて見えなくなる。
「これを飲めば、お猿さんや猫ちゃんになるのかしら」
意味ありげに視線を移され、フランキーはよせやいと逞しく機械化した両腕を挙げた。
「このスーパーな俺様が黒豹にでもなったら、みんな食われるぜ」
「むしろゴリラだな」
「スーパーなゴリラだ」
「スーパーロボット変態ゴリラ」
「よせやい、照れるだろ」
それは大変と、甲板から手を伸ばして酒を海に捨てる。
頭上を旋回していたカモメが、1枚のチラシをナミの手元に置いていった。
「それは?」
「なになに、無礼講アニマル?」
さくら諸島に1本だけある水色の花が咲く樹には、花びらを酒に溶かして飲むと一時的に動物に擬態する作用があるらしい。
「効能は6時間ほどですって」
「気楽なお遊びですね」
「身体に害がないんなら、安心だな」
「でもまともに喋れないみたいよ」
仲間たちの言葉は理解できるらしく、ルフィはウッキウッキと頷いている。
とはいえ、どうにもその仕種が猿っぽい。
「なおんにゃう」
ロビンに顎の下を擽られて、サンジはゴロゴロと喉を鳴らしながらひっくり返った。
両手を中途半端に顔の辺りまで上げて、宙を掻くような仕種を見せる。
「あらーいい子ね」
「ふにゃうん」
ナミの指がサンジの髪を掻き上げる。
本来耳があるべき場所になく、金色の毛に覆われた猫耳がピクピクと嬉しそうに動いた。
尻の下でもぞもぞしているのはシッポなのだろうが、場を憚ってかズボンをずらすような真似はしない。
「ほんとに猫ちゃんね」
「可愛いわ」
女性陣二人に触られまくって、サンジは恍惚とした表情で仰向けに身体をくねらせていた。
人懐こい巨大猫に、見えなくもない。
「肉球は・・・残念、ないわね」
掌を見てもぺったりとした、普通の肌だ。
けれど、いつもは短く切り揃えられている爪がにょきっと伸びた。
「きゃあ、爪が伸びるわ」
「まあ、可愛い」
「ふにゃおうん」
ナミとロビンに言いように弄くられ、サンジは仰向けて膝枕で甘えている。
「おい、酒」
そこに唐突にゾロが空き瓶を突き出すと、途端フーッと毛を逆立てて寝転びながらねめつけた。
「ふななん、うにゃうん」
なにやらブツブツと猫語で抗議しながら起き上がり、慣れた手つきで空の皿を積み上げてキッチンへと戻る。
頭に耳さえ生えていなければ、いつもと同じ後ろ姿だ。
「問題は言語だけ、みたいね」
「ウキッキ、キキー」
ルフィが白い歯を剥き出して笑った。



腹も膨れたし食後の散策・夜桜見物とばかりに、ミニメリー号に乗って仲間たちは夜更け上陸した。
すっかり猿化したルフィは、ナミに首輪で繋がれての下船だ。
けれど多分、こうした半アニマルが今の島には多いのだろう。
これも祭りの娯楽の一つと割り切って、楽しむつもりだ。
この姿と声ではナンパもできないとサンジは船に残り、宴の後片付けに専念している。
食後の昼?寝と甲板に転がっていたゾロは、仲間達が船から離れるのを見計らってむっくりと起き上がった。

「ふふんふにゃ〜ん、ンななななぁ〜」
足音を忍ばせてキッチンに向かえば、鼻歌まで猫声で細い腰をしなやかに振りながら洗い物をするサンジの背中が見えた。
悪戯するつもりで伸ばした手が、すいっと避けられる。
タバコを咥えたままジロリと振り向き、なにやら抗議の声を上げた。
「にゃにゃんな、フギーッ」
「何言ってっか、さっぱりわからねえな」
ゾロは珍しいものでも見るように、触れるか触れないかギリギリのところまで顔を近付けて目を細めた。
頬にかすかに鼻息が掛かって、サンジは居辛そうに首を竦め横を向く。
「ふなうん」
「ちゃんと喋れよ」
背けた頬を舌先で舐められ、ふぎっと歯を剥いて見せる。
「なんだ、嬉しいのか」
「フギギっ、んにゃうー」
妙な声を出す口を塞いで、僅かに尖った犬歯を舐めた。
「ふぐん、ふぬ・・・」
暫くはゾロの口の中でフガフガ言っていたが、その内、手にしていた布巾を置いて代わりに腹巻を握り締める。
「なうん」
「モソモソしてやがんな」
唇をずらしてそう囁き、サンジの尻を強い力で撫で上げる。
「これ、尻尾なんだろ?」
「んにゃ、なん」
「狭い場所に仕舞いっ放しにしてねえで出しちまえ、誰も見てねえだろ」
言いながら手早くベルトをはずし、ズボンを擦り下げる。
ぴょこんと飛び出た長い尻尾は、耳と同じ金色の毛並みだ。
「おもしれえな、本当に猫だ」
金髪を掻き分けて耳の根元に口付けると、くすぐったそうにピクピク動かす。
毛並みに沿って尻尾を撫でながらシャツを肌蹴た。
白い胸元に変化はない。
「乳首、増えてねえな」
「ふにゃっ!」
怒ったところで迫力などない。
むしろ猫語はじゃれて甘えているとしか思えない響きだ。
ゾロは宥めるように二つしかない乳首に交互に口付け、尻尾を強い力で扱いた。
「これが生えてる根元、じっくり見せろよ」
「ふなあん」
嫌そうに眉を顰めて首を振っても、やはり抗う声には聞こえなかった。



「なう、あうん・・・ふにゃぁ」
切ない喘ぎ声は時に赤子が泣く声にも似ていて、ゾロが手を動かす度に背を撓らせる仕種は猫そのものだ。
胡座を掻いたゾロの股間に顔を埋めながら、剥き出しの尻だけを高く掲げていやらしく揺らめかしている。
尻尾を引き上げて小さな窄まりとの間を撫でると、一際いい声で鳴いた。
「ここが感じるんだな」
乱暴に尻尾を引っ張られ皮膚を引き伸ばされながら、ぐちゅぐちゅと指を突き入れられる。
サンジはいやいやをするように首を振るのに、その喉の奥まで突き入れるように腰を押し当てられてうめいた。
「ちゃんと舐めろ」
サンジの舌はザラついていて、少し痛いくらいだ。
いつもと違う感触がゾロを悦ばせた。
「ふぬ、んなぁ」
「ケツを向けろ、舐めてやる」
その言葉だけで、指を迎え入れている場所がきゅっと締まる。
片足を不自然な形で上げさせられ、指と舌で高められて、サンジはゾロの腹に顔を擦り付けるようにして喘いだ。
「にゃ、にゃぁ〜ンなぁ〜」
尻尾がふるふると揺れ、ゾロの額を擽った。
それを催促と受け取って、撓る身体を反転させて四つん這いの姿勢を取らせる。
「ケツ振って誘ってみろ」
「ふぎっ、んなう〜」
唸る声さえ抗議にもならず、濡れた秘所を見せつけるように高々と上げて身をくねらせた。
真っ白な足の付け根に歯形を付けて、ゾロも膝立ちになり重なるように覆い被さる。
熱く蠢く内部へと腰を進めながら、ピクピク震える猫耳の根元もきつく噛んだ。
「んにゃ、にゃああ」
挿入される刺激と耳元の痛みだけで達してしまい、キッチンの床に白い液が吐き出された。
それを恥じるかのように身体を竦めるのを許さず、ゾロは足の間に割り込ませた膝でさらに大きく股を開かせ、一度達して萎えた股間を掴んだ。
そのまま強引に割り入りながら、サンジの身体が持ち上がるほど強く突き上げる。
「にゃ、ひにゃっにゃっあっ」
白いうなじに歯を立てて、耳があった筈の地肌を舐め上げる。
再び萌して硬さを取り戻したサンジ自身を乱暴に扱きながら、抜き差しを繰り返した。
「んなあ、なぁっなあおぅんっ」
激しく揺さぶられ、サンジは背を弓なりに逸らしていつもより大きな声を上げる。
奥までゾロを銜え込んだまま、身体を捻って両腕を伸ばした。
抜いたタイミングで体位を変え、しっかりとゾロの身体を抱き締める。
「にゃ・・・」
「ん」
深く唇を重ねながら、再び繋がり合う。
今度はゆっくりと身を沈めながら、ゾロはサンジの中を満たした。



「ただいまー!」
一晩中島で過ごして一銭も使うことなく、明け方に仲間達が帰ってきた。
夜桜はかなり目の保養になったらしい。
「すっごく綺麗だったわ。ねー」
「おうよ、あそこまで花が咲き乱れてると壮観だな」
「桜の下で、一晩中どんちゃん騒ぎよ」
「人の弁当、くすねてたの誰でしたっけ」
ワイワイとお土産話を語る仲間たちに朝食を用意する頃には、サンジも元に戻っていた。
「サンジ君も来ればよかったのに」
ルフィの首輪を外しながら(人間に戻っていても念のため繋がれていた)ナミはやれやれとソファに腰を下ろす。
「ここでゆっくり花見はできたよ。こんだけ花びらが流れてくればね」
相変わらず、途切れることのない花吹雪は海上にも渦巻いている。
サンジが用意した朝食が食卓に並べられれば、仲間達の視線は一斉ににそちらに集まった。
「やっぱり花より団子だよな」
「うまほー!いただきまっす!」
「猿だか人だか、区別がつかねえ」
相変わらずいい食べっぷりに目を細めつつ、サンジはゾロに散々噛まれて赤くなった首元を隠すためネクタイをきっちりと締め直した。

いくら無礼講とは言え、やや乱れすぎた感は否めない猫化だった。
お互い、やばすぎんじゃね?と思うくらい感じてしまった。
たまにはいいけど、癖になったらそれはそれで困る。
一時の春の夢と割り切って、記憶の奥底に封印してしまおう。
俺さえ身体を見られないようちゃんと気を付けていれば、なんの証拠も残らないのだし―――
なんてことを暢気に思っていたサンジは、思わぬ形で仲間たちにバレたことなど知る由もない。


ひとっ風呂浴びてゆっくり寝ようぜと賑やかに男風呂に入ったウソップ達が、ゾロの背中に残る壮絶とも言える生々しい爪痕に気付いて、いきなり無言になったとか・・・



END



ぴょんた様に捧げますv

【リクエスト】
ネコ耳のサンたんがゾロにあれこれされる…がリクエストでした。
クリア〜した・・・よね(笑)
語呂合わせ「にゃん耳春の夜」に合わせて、春にUPさせていただきました。
久しぶりのエロが楽しかったです、ありがとうございますv


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