錯誤の夜 13

俺をベッドに押し倒して、クソ真面目な面したゾロが顔を近づける。
何度も繰り返した口付けなのに、俺は酷く緊張していた。

昨日までのそれとは違う。
すくなくとも、俺にとっては。

合わせた唇から吐息まで吸い取るように、何度も角度を変えて口付ける。
絡めた舌から甘い痺れが伝わって、俺は背中に回した手でゾロのシャツを握り締めた。
本当は二度目からゾロの与える手は同じモノだったのに、思いが通じているというだけで
こんなにも違って感じる。

うなじに差し入れた熱い指が色づいた耳朶を軽く摘まんだ。
くすぐったさに竦めた首に顔を埋めて、まるで獣のように首筋を舐め上げる。
醒めた酔いの代わりにゾロから与えられた熱で体が火照った。

鎖骨から胸にかけて辿る舌が、突起で絡む。
俺は手の置き所もなくてただゾロの固い髪を掴んでいた。

なんつーか、気恥ずかしくて居たたまれない。
処理だと思い込んで開き直っていた方が、何されても平気だった気がする。
片手で乳首を捏ねながら、もう片方を舌で転がすゾロが、目だけこちらに向けてきた。
視線が合って、思わず手で顔を覆う。
「隠すなよ。」
乱暴に掴まれて手を外されても、目を開けるなんてできない。
恐らく真っ赤になってるだろう俺の顔に息をかけて、耳朶に噛み付きやがった。
俺は目を閉じたまま、無茶苦茶に手でその辺を張り倒した。

多分、ゾロにしたら最初はともかく2回目以降は、かなり気を遣ってくれてたんだろう。
だから奴にしたら今更なんだろうけど、俺には今の状況のが一番こっ恥ずかしい。

あのゾロが。
俺に――――恋だのなんだのほざいて、ちゅうして来やがるから。
もう既に色々やっちゃってる間柄にもかかわらず、俺はもう乙女顔負けなほど恥ずかしいんだ。

「今更照れんな。全部見せろ。」
ちょっと掠れた声がセクシーだな。
などと考えているうちに、ゾロは俺を抱き起こして胸に吸い付くわジッパー下げてあちこち揉みだすわ
精力的に動き始めた。
精神的に不慣れでも身体は既にオッケーだから、こっちも勝手に力が抜けていく。

指で擦られて声が上がりそうになった。
慌てて自分の手を口に当てる。
すかさずその手を払いのけて、ゾロは脅すように低い声で唸った。
「声聞かさねえと、手え縛るぞ。」
目が据わっている。
多分、こいつはマジでやる。
俺より先に目がイっちゃってるから、両思いになった感慨にふける暇もないんだろう。

「ん・・・あっ・・・」
もう勃っちまった俺を、痛いくらいの強さで扱き出した。
声が抑えきれなくて、歯を食いしばっても鼻から甘い音が漏れちまう。
恥ずかしいのと気持ちいいので目尻に浮かんだ涙を、ゾロはそっと舌で舐め取った。
「気持ち、いいか。」

そんな声で聞くな。
ずくんと腰に来て、ますます俺は固くなった。
先走りが垂れてくちゃくちゃ音を立てながら、前を扱かれるのと同時に後孔を攻められる。
俺はもう訳がわからなくなって、ただゾロの首にしがみ付いた。
「だらだら出てきてんぞ。イきたいか。」

真面目な顔で、酷いことを聞く。
イきてえに、決まってっだろが。
歯を食いしばってこくこく頷く俺に、一際強く掴みやがった。
「んあっ・・・」
「ちゃんと口で言えってんだろ。イきてえのか。気持ちいいのか。」
怒ってるように潜められた眉。
多分ゾロだって、辛いんだ。
「イきてえ・・・。気持ちイイ・・・から―――」
「そうか。」
口の端を上げて笑いかけた。
なんだか悪そうな笑みにしか見えねえけど、多分嬉しいんだ。
「イく前に、入れっぞ。」
散々弄られた秘部に、指が深く押し込まれた。
俺は息を詰めて、首を縦に振った。

「お・・・おう・・・」
それでも口に出さなきゃと、必死で搾り出した声にキスで答えて、ゾロが身体を進める。
強烈な異物感に全身が総毛立つが、なんとか息を整えた。

あの日から何度も繰り返す行為なのに、この時ばかりは少しも慣れない。
なるべく力を抜いて、息を吐きながらゾロを受け入れる。
時間をかけて己を埋め込んでから、ゆっくりと動き出した。

「てめえん中、すげえ気持ちイイ。」
どこか清々しい、子供みたいな顔でゾロが笑う。
俺の中で気持ちいいんならそれでいいやと単純に嬉しくなる俺に、身体を屈めてキスを寄越した。
「お前もイイとこあったら、直ぐ言え。」

試すように少しずつ角度を変えて打ち込んでくる。
内壁を抉る動きと、押し入られた入り口の痛みに手一杯だった俺は、唐突に思い出した。
前のおっさんに嬲られた夜。
後ろでイかされたこと。

突然脳裏に甦った羞恥と、今現実に穿たれている状況が重なって余計に内側が熱くなった。
ゾロの動きに連れて、確かに何かやばい個所がある。
俺の身体の反応に素早く気付いてゾロが動きを重ねた。
「・・・ココか?」
「う・・・そこ、やべえっ―――」
やばいんだよ。
そこはヤバイ。
なのにゾロが一点を集中して攻めてくる。
「ゾロっ・・・だめだって・・・」
抗議の声が悲鳴に変わってきた。
もう何がなんだかわからない。
「イイんだろ。」
「―――わかん、ね・・・」
悲鳴はいつしか、自分でも信じられないような喘ぎ声に変わっていた。
「ぞろ・・・イく―――イく・・・」
ゾロと繋がった部分が蕩けるように熱い。
阿呆みたいに開けっぱなしの口をべろりと舐め上げて、ゾロが腰を抱え上げた。
「ゾロ・・・ゾロ・・・ォ―――」
限界まで押し広げられて穿たれながら、俺はただゾロの名を呼び続けていた。


















ホテルの朝食時間は、案外短い。
そのことを知っているから、皆どんなに深酒しても10時までの開店時間に間に合うように起きてくる。

「おはよう、なんとか間に合ったわね。」
寝癖の頭をそのままに、麦藁帽子をしっかり持ったルフィが変な顔で下りて来た。
ナミとロビン、ウソップとチョッパーは既に席に着いている。
「ゾロはまあいいとして、サンジ君遅いわね。」
「夕べ結構回ってたからなあ。二日酔いかも知れねえぞ。」
サンジなら食べ損ねても文句は言わないだろう。
いつもならいただきまーすと速攻食べ始めるルフィが相変わらず変な顔で首を捻っている。
「どしたの、あんた。」
ナミにくるんと顔を向けた。
「今なあサンジの部屋行ったんだ。鍵かかってなかったからドア開いちゃったんだけど、ゾロが一緒に寝てたぞ。」

かちゃんと誰かのフォークが落ちる音がする。
けれど誰も振り向かない。
「二人とも裸だったぞ。」

ウソップとチョッパーは顎が外れそうなほど口を開けている。
ナミも固まったままで、ロビンだけが静かにコーヒーを口に運んだ。
「なあナミ、あれって男同士でもできんのか?」
「あ・た・し・に、聞くな――――!!!」
ナミの鉄拳がルフィの頭上に撃ち落された。







カーテンの隙間から漏れる光に、とっくに日が高いことを知らされた。
慌てて身を起すと、すかさず手が伸びてシーツの中に押し込まれる。
「まだ早ええ。」
寝ぼけ眼の剣士が、怒ったように抱きすくめた。
存外居心地のいい腕に、大して抗わずにすっぽり収まる。

格納庫で過ごした夜も、やたら離そうとしなかったのはゾロの意外な特性らしい。
「こうやって、てめえと朝寝してみたかったんだ。」
まるで寝言みたいに、詠うようにゾロが囁く。
らしくねえとからかいたかったが、サンジの言葉は掠れて声にならなかった。
晴れて思いが繋がった朝だから、ちょっとだけトクベツにしてやってもいい。
ぬくぬくとゾロの腕に納まって口付けを受けると、触れ合った部分からダイレクトに熱が伝わってきた。

「てめ・・・なんだよ。」
これには黙っていられない。
流石にバツの悪そうな顔で、ゾロは頭を掻いている。
「てめーの気持ちがわかって安心したせいかな。もう遠慮することねえしな。」
「遠慮、だと?」
何が遠慮だ。
人が処理だと割り切ったつもりでも、あれは随分頻繁だった筈だが・・・
「これでも遠慮してたんだぜ。でももう、てめえは俺のモンだからな。」

破顔一笑。
普通に見てれば間が抜けたほど微笑ましい表情を見せて、ゾロが無邪気に笑う。

俺のモンってなんだ。
俺はモノじゃねえぞ。
いやそれより、遠慮してたのか。
遠慮して、あの頻度なのか!!!

サンジは慌てて飛び起きた。
身体が悲鳴を上げたが構ってなどいられない。
「なんだ、どうした。」
「うるせーこの色欲魔人!てめえの色ボケにそうそうついて行けるか!!」
「ゆっくり慣らしてやっからよ。これから毎日。」
「離せ、自分の部屋へ帰れ!!クソ変態エロマリモ!!!!」

賑やかにじゃれ合っている二人はまだ知らない。
ルフィからの報告を受けて、ナミが速攻ゾロのシングルをキャンセルしたことを。

「何もしねえからもう少し寝てろ。ログが溜まるまで一週間あるんだからよ。」
あやすように、シーツの上から軽く叩かれてサンジは渋々首まで潜った。

これから否が応でも濃密な時間を過ごす羽目になるのを知らぬまま、黙ってゾロの口付けを受ける。





そして二人は

ようやくはじまりの朝を迎えた―――――――

END

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