らぶらぶしよう <翼嶺さま>




「終わったのか?」
濡れた手を拭きながら、声がした方へと振り返る。
「ああ」
短く答えると、サンジが1日の仕事を終える間中、ずっとそこに座っていたゾロが手招く。
「今日はしねぇって・・・最初に断った筈だ・・・」
「ああ。聞いた。別にヤらねぇからちよっと来い」
「何を偉そうに」
と言いながらも、サンジはゾロが座る椅子へと近付く。
手を伸ばすと届く位置に来たその瞬間、腕を掴まれ、ぐっと引き寄せられた。
「・・・・・・」
抵抗する間もなく、ぐるんと向きを変えられ、サンジはゾロの膝の上にと乗せられていた。
な、なにごと?な・・・なにが起こってるんだ?
パニくり、言葉も発せないサンジを気に止める事無く、ゾロはサンジの肩に顎を乗せるとその首筋に顔を埋めて、くんくんと匂いを嗅ぎ始めた。
「喰いもんの匂いがするな・・・」
「!!あ、当たり前だ!!さっきまで明日の仕込みしてたんだから・・・って言うか、は、離せ!!馬鹿力つっ!!」
必死にその腕から逃げを打とうとしているのに、がっつりと腹を抱き込んだ両の手は、びくともしない。
「おい、じっとしてろ」
「いや、俺は離せと言っている!!」
「別に構わねェだろう、これくらい・・・」
な、なに・・・なんかの罰ゲームか?
ふたりきりしかいないと判っていても、サンジはきょろきょろとラウンジ内を見回す。
「忙しないなぁ~」
咎めながら、何気なく、サンジの胸にぺたっと掌を付ける。
「・・・どっか悪りぃのか?心臓がすげぇ事になってるぞ」
聞こえた言葉通り、さっきからサンジの心臓はどきどきと早鐘の様になっている。
「べ、べつに、問題ねぇよ・・・って、なんのつもりか知らねぇが、兎に角離せつって・・・」
「・・・今日、誕生日だろう?」
問われてサンジは時計を見る。
日付の変わっている今日、確かに自分の誕生日だ。
「金持ってねぇし・・・持っていても何やりゃあイイか判んないし・・・取りあえず、俺がやってみたい事やってみた」
「なんだそりゃあ・・・」
サンジは漸く体から力を抜くと、苦笑を漏らす。
「って、こんな事俺にやってみたかったのか?」
「んーどうかな?少し違う気もするが・・・」
そう言った切り、ゾロより続く言葉はなかったが、背中から伝わってくるその体温は酷く心地良いとサンジは感じ始めていた。

ゾロとサンジはセックスを重ねている関係だ。
セックスをしていると言えば、そこに『恋』とか『愛』とか甘ったるい感情が伴っている気がするが、男同士のそれにそんな物がある筈もない。
19と言う若い肉体は、性に素直で、互いに利害が一致した、性欲処理の為のセックス。
誠に不本意ではあるが、サンジがゾロを受け挿れる。
男同士のそれを知らなかったワケじゃないが、そこで繫がると言う事は思った以上に難儀だったが、慣れて来ると堪らなく気持ち好いと言う事を知った。
だからと言って、他の男とそれを確かめたいとは微塵にも考えた事ないが・・・。
前戯なんてほとんどない。
ただ挿れる為にそこを丁寧に解すだけだ。
挿れて挿れられて気持ち良くなれれば、それでいい。
繋がった回数より、キスした回数は片手で数えても余るだろう。
それを淋しいと感じるのは、気の迷いだと、サンジは言い聞かせていた。
だから正直、こう言うのは困る。
困るけれど、やはりこの温もりは心地良い。
「ああ。そうだな」
「ん?」
「こう言う事が、足りなかったんだな」
「こういう事?」
ゾロが何かを喋る度に、その息がサンジの耳朶を擽る。
「お前とは、何回もセックスしてるけれど、こう言うのが足りねぇ・・・」
擽られ続け、熱くなった耳朶をその唇がぱくりと食む。
「・・・なっ・・・て、んな事、当たり前だろう?た、ただの処理関係だ。こんなの必要ねぇだろう」
自分でも意外なほど、動揺した心を悟られぬ様に、サンジは答える。
「それは、切っ掛けだろう?俺はもう、処理とは思ってねぇんだが・・・」
「男同士でいちゃいちゃしてぇのか?」
「・・・・・・お前が相手なら、悪くねぇかもな」
『何故?』とは聞けなかった。
ただ、言葉と共にまた、耳朶を食まれ、身体の体温が1℃上昇したのは止められない。
自分が割り切ろうとしていた感情を、ゾロは意とも容易く翻す。
それが負けみたいで、少し癪に障る。

「・・・これって、てめぇがしたい事だよな?」
「あ?そうだな」
「誕生日プレゼント、なんだよな」
「ああ・・・まあな」
「だったらキスして・・・ちゃんと、セックスしよう」
「今日はヤらねぇんじゃなかったのか?」
「・・・処理は、な」
顔だけ傾け、サンジの唇がちゆっとゾロの唇に柔らかく触れ、離れる時にそっと舌先でゾロの下唇を舐め、にやっと笑う。
「『処理』は一昨日ので、終わりだ。今日からはセックスをしよう。誕生日が記念の日だ」

告げた言葉は、ゾロが深くくちづける。

離れて行くゾロの唇が、囁くように紡いだ言葉に、サンジは極上の笑みを浮かべ、その身体に腕を回した。



END

2010.02.08



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