バラティエの天使 -3-
ゾロは高校の入学式で振り向きざまサンジを殴ってしまったとき、一瞬《やべェ》と思った。
裏拳を眼窩に当てた感触からいって、かなり腫れるだろう事はすぐ察しがついたし、殴った相手は華奢な骨格で色白の少年だった。言われたことはムカついたが、いきなり殴ることは無かったかと思ったすぐ次の瞬間、もう顔を横から蹴り飛ばされていた。
目の前の細っこい金髪少年がやったとは思えないくらい、鋭く重い蹴りだった。身体の芯に堪える一発を食らったことなどここ数年記憶になかったものだから、最初の怒りの理由など忘れて、そこからはただ雄としての本能で闘っていたような気がする。
だから翌日になってウソップが《あいつの横にいた奴が言ったんだぞ?》と訂正してきたときには、ばつの悪さに口をへの字に枉げてしまった。
不承不承ながら謝りに行くと、サンジは意外にサッパリした男だった。
《だったら別にイイや》と断じると、旨い弁当まで分けてくれた。
これがまた旨くて旨くて…今まで喰った中で最高の食事だった。
それからというもの舌が肥えてしまったのか、コンビニ弁当や学食のパンが不味く感じられるようになったというと、《俺のせいかよっ!》と怒りつつも、《しょうがねェな》と弁当を分けてくれるようになって、夏休みには賄い飯を食わせてくれて、2学期からはゾロの分の弁当を作ってくれるようになった。
このままいったら《はい、アーン》で食べさせてくれる日も近いな…なんて冗談めかして思っていたら、それが現実になる日が来た。
生まれて初めてインフルエンザに罹患し、高熱を出して寝込んでいたら《俺はワクチン打ったから》とサンジが家まで来てくれて、大根のすり下ろし汁だの重湯だのを、《はい、アーン》とからかうようにスプーンで差し出してきた。
病気をしたのも初めてなら、あんな風に甲斐甲斐しく介護されたことも初めてだったから、何だかもうもう…《こいつが欲しいなァ》と思ったのだった。
あのキラキラしてぴかぴかしてクルクル回る不思議な生き物が欲しくて仕方がない。
そんな風に思うようになったゾロは、身体が回復すると下半身まで元気になっていた。
《はい、アーン》と言ってくれたあの唇に濃厚なキスをして、ぬっぷりと自分のモノを銜えて貰いたい。
陽光の下で金髪をきらきらさせながら《病み上がり剣士、大丈夫か〜?》と駆け寄ってくるサンジを見た途端、そんな衝動にかられたゾロは流石に少し悩んだ。友人に対して抱くにはかなり問題のある発想だということは良く分かっていたからだ。
病気などで心細くなっているときには、多少《良いな》と思っている相手でも運命の恋人だと思うことがあるという。思いこみで手に入れておいて《アレ?》なんてことになると、サンジに対しても申し訳ないから、ゾロはひとつ願掛けをすることにした。
最初にサンジの名前を《サンシ》と呼んでしまって、《誰が師匠だっ!》と蹴り飛ばされたときから何となく呼ばずにいた名前を、意地でも呼ばないことにした。サンジが拗ねたようにおねだりして、《なんで呼ばないんだよ…》と切なげに言ってもだ。
甘く《サンジ》と呼んで、良い雰囲気に流されてしまったら取り返しがつかない。
勝手に設定した節目として、高校を卒業するまでを期限として願掛けを続けた。
その間、何度か《この願掛け無意味無いんじゃないのか?》と修正を考えたこともある。特に最大のライバルといえるエースが愛おしげに《サンちゃん》と呼ぶたび、ゾロは亭主面して《おい、サンジ》と呼びたくて堪らなかった。
だが、願掛けとは意味があろうか無かろうが、守ると決めたら頑として貫くのが男だと思ったので、この日まで維持してきたのだ。
『どうやら甲斐はあったらしい』
苦労してずっぷりと根本まで銜え込ませた陰茎で、サンジは気絶しそうになりながらもじっと接合部を見つめている。
恥ずかしいとか痛いとか苦しいとか、色々と思うところはあるはずなのだけど、サンジが選んだ言葉はゾロを幸せな気持ちで包んだ。
「てめェと…せっくすしてる。繋がってんだ…なァ…」
感嘆を滲ませた声には確かに喜びの色があった。
生理的な涙に濡れる瞳がふわりと綻んで、本当に天使と見まごうような微笑みを見せる。多くの人々に愛されるサンジにこんないやらしいことをしているのかと、えらく背徳的な快感も覚えてしまった。
「ぞろォ…えっちな顔してるぜ?」
「当たり前だ。ずっとこうして、てめェにエッチなことたくさんして、俺でいっぱいにしてやりたかったからな」
「ァん…っ!」
痛みはあれども感じてはいるようだ。何とか探し出した前立腺と思しき場所を擦過すれば、随分と甘い声が漏れた。面白がって身を乗り出し、やはり感じやすくてお気に入りの乳首を弄りながら奥を抉ってやると、涙を零して嬌声をあげた。
「ゃあ…っ!ゾロ…っ!そ…こっ…ゃ……っ!」
「嫌ってことがあるか。良いんだろ?すげェやらしい顔になってきてるぞ」
「ぁっ…あっ…ぁっ」
上手く捉えたらしい。《グッグッ》と律動的に突き上げを繰り返すと、丁寧に解しておいた場所からは粘性の淫音が響き、サンジの頬を羞恥と興奮で染め上げていく。
「いくぜ…出すから、受け止めろよ?」
「ぇ…っ…お、俺のナカに…射精すんのっ!?」
「おう。孕むわけじゃねェしな。最初の一回くらいはナカ出しOKだろ?あんまり出すと腹壊すって言うから、次はコンドームするから」
言った途端、サンジはぱちくりと目を見開いたかと思うと、少し不安げな表情になった。
「子ども欲しくないから…俺とスルとかじゃ、ない…よな?」
「アホかてめェ。たっぷり注いだら孕むとかなら、毎日朝から晩までセックス漬けにすんぞ?男のてめェだから好きになったのかも知れねェが、てめェのガキってのもちっと見てみたいしな。ちっこいてめェは天使みてェに可愛かったと、エースだのオッサンだのがクソ自慢しやがるし」
《むぅ》と不機嫌そうな顔をして律動を再開させると、ちょっと荒々しい責めになったのにサンジの表情はやわらかいものになる。気持ちイイだけではなくて、優しい思い出をなぞるように蒼い目が細められた。
「俺が天使に見えたとすりゃあ…それは、エースやジジィ…バラティエのコック達の仕業だろうよ」
「溺愛してやがったんだろ?」
「そうさ。食べ物以上に、愛情に飢えてカラカラに干涸らびていたこの俺に、溢れるような愛情の慈雨を降らせてくれた連中だ。俺を幸せに導いて、こうして好きな奴と結ばれるまで見守ってくれた…っ…」
幸せな表情なのに、サンジの目元からははらはらと透明な雫がこぼれ落ちた。
大きな愛で満たしてくれた男達のうち、エースの愛には応えることができなかったせいだろうか。
「セックスも恋も、てめェにやるのと同じくらいエースにしてやりたかった…っ!」
「親愛を喰わせて貰った代わりに、肉欲を喰わせてやるなんてことをすりゃあ、互いの骨を囓ることになるぞ?」
お仕置きのように歯形が残るまで強く鎖骨を噛んでやると、白くきめ細かな肌は見る間に紅い痕を残した。
「分かってる。でも…それだけのものを、俺はエースに貰ったんだ…っ」
「貰ったんだとしても、金と違って等価価値で返せないもんもあると分かってんだろ?」
「………あァ」
分かっていて、だからこそ切ないのだろうとゾロにも察せられる。
「エースに俺ァ…なんもしてあげらんないのかなァ?」
「バカか」
ガブっと乳輪ごと乳の肉に食らいついて強く吸引してやれば、性感帯のひとつとして開発され始めたそこはサンジにあられもない声をあげさせる。
「ひァあ…っ!」
「そりゃあ、てめェがあいつの傍で笑ってることが一番だろうが、それが為せないってんなら、せめて、てめェが笑ってなくてどうする。自分との関係で悩んで、目が合うたびに申し訳なさそうな顔でもされてみろ。居たたまれねェことこの上ないぜ」
「そ…だよなァ?」
「大体なァ、恋人として選んだ男の前でそんな切なそうな顔してやがんだぞ?そんだけてめェにとってもエースはでかい存在だってことじゃねェか」
「……ゴメン。や、ヤナ気分になるよな?初めての夜にこんな…」
サンジは申し訳なさそうにへにょんと眉を下げるが、ゾロはそれでも構わないと思う。
「おい、サンジ。俺ァ、てめェがガキの頃に体験したしんどいこと、バラティエで注いで貰ったたくさんの愛情、エースへの憧れ、そういったもんを持ったてめェを好きになったんだ。だから、無理矢理切り離すこたァねェ」
「ゾロ…」
「変わらずエースに憧れてんなら、無理すんな。幾らでも懐いて甘えりゃあ良い。あいつが困らない範囲でな。恋人として俺を据えることを忘れないでくれりゃあ、それで良い」
大きな度量を見せたものの、瞳を潤ませてキスをしてきた恋人相手に平静さを保ち続けることは困難だ。
口で言うのとは裏腹に、やはり《自分だけを見つめて欲しい》という気持ちはどうしたってあるから、突き込んだ楔で甘く激しく快楽を教えながら、今は自分だけをこの瞳に映させていたと願う。
「サンジ…っ!」
「ゾロ…ゾロ……だいすき…っ!」
しがみついてきて痛いほど背中に指を立てるサンジを、ゾロの方は傷つけぬよう細心の注意を払いながら抱きしめた。繋がった場所はきっと後から酷く痛むだろうから、せめて他の場所には傷を残さぬようにしてやりたかった。
天使様を愛するのは、ヒトの身としてはなかなかに難儀なことなのだ。
* * *
サンジは約束を反故にする気はないようで、念押しに《行くよな?》と電話を掛けてまで次の定休日に映画デートに誘ってくれた。以前のように奢るという申し出は《俺だって社会人だもん!》と言い張って受け入れなかったが、映画自体は陽気に笑ったりしんみりして涙ぐんだりと相変わらず表情豊かで、ワッフルも二人して種類の違うものを頼むと、自然な仕草で半分個にする。
「ん、美味しい」
ぱくんとワッフルを口に含んだ後、唇についたクリームを舐め取る。
紅い舌がピンクがかった苺クリームと相まって、何とも艶かしく見えた。
エースの天使には、どうやら《色》がついたらしい。
キスの体験さえなく初(うぶ)なまま育った天使だったのだが、ゾロとのセックスを経て、かつては純白であったものが、どこか淡いピンクだのラベンダー色だのを含むようになった気がする。
『悔しいけど、綺麗だよサンちゃん』
他の男と寝たりしたら、《汚れた》と感じて目に入れたくなるんじゃないかなんて思ったけれど、そういうわけにはいかないのか。
愛おしさが失われることは無いのか。
いっそ、嫌いになれたら次の恋ができるのに。
『出来るのか?』
サンジ以上に愛しいものなんて、得られるとは思えない。
少なくとも今は無理だ。
「エース。俺、覚悟決めたから」
ワッフルを食べ終え、飲み干した紅茶のカップをソーサーに戻すと、不意に大真面目な顔をしてサンジが身を乗り出してきた。
「なに?」
「エースが嫌っていうまで、今まで通りエースとデートしたり甘えたりするからな?嫌になったらちゃんと言えよ?《エースが嫌がるかな?》なんて考えないことにしたんだからな?恋人ができたらちゃんと身をひくけど…それまでは、ずっと見たい映画があったり、甘味食べ歩いたりするときにはデートに誘っちゃうからな?」
「ゾロが焼き餅やかない?」
「うん。焼くって言ってた。だけど、お仕置きする楽しみが増えるからデートしても良いって」
「お仕置きされても良いわけ?」
「エースとのデートの為だからな。甘んじて受ける」
それはそれは…さぞかし甘い受けになることだろう。
「なァ…ダメ?」
上目遣いにおねだりされて、拒否できたことなど一度もないエースのこと。
今回もやっぱり絆されてしまった。
「喜んでお供しますよ、お姫様」
「誰が姫だ!」
「じゃあ、俺の天使」
「うぉう…背筋がブルブルっとくるな」
顔に縦線を走らせて肩を震わせているが、サンジはやはり天使以外の何者でもないと思う。
だって、こんなにも理不尽なほどエースの心を鷲掴みにするのだから。
愛おしくて愛おしくて…とても諦めることなんてできない。
「愛してるよ、サンちゃん」
エースがにっこり笑うと、ほっとしたように微笑む。
曙光がさすようなその表情は、正しく天使のようだった。
おしまい
*****
バラティエに天使降臨〜〜〜v
ぽんさんちのサンちゃんは、ほんっと天使なんですよ。んで時に天然小悪魔(笑)
そんな目離しならないサンちゃんをどんと受け止めるゾロの懐の深さが素敵v
若いのに達観してるね。
これからも遠慮なくビシバシおしおきしちゃってね(超推進)
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